神奈川県中部の2都市に、近年改修、新設開館した2つの図書館を訪ねました。

海老名市立図書館については、CCC傘下のTSUTAYA(蔦屋書店)とTRC(図書館情報センター)が共同受託して運営に当たっています。首都圏初のいわゆる「TSUTAYA 図書館」で、代官山の蔦屋書店(チェーン珈琲店とも)と公共図書館が混在したタイプになっています。

佐賀県の武雄市、山口県新南陽市、宮城県多賀城市と全国に4館オープンしていますが、愛知県小牧市では、この方式への異論から住民投票が実施され、白紙に戻ったうえ、改めて図書館構想が策定されています。
(注)小牧市「現在の新図書館建設計画に関する住民投票」の結果は反対多数に(カレントアウェアネス・ポータル)

小牧市教育委員会が諮問した「新図書館の建設方針」について、2017年2月8日付で、図書館建設審議会答申が出されました。

2015年10月の開館後、海老名市の図書館訪問記やこの図書館をめぐる問題点は、ジャーナリズムや図書館友の会からも指摘されていて、改めて紹介はしません。当方の印象、ここは公共図書館というより、書店とブックカフェ、滞在型の商業施設の色彩が強い、と感じました。
(注)例えば図書館問題研究会、の声明

図書館のスタッフは揃いのユニフォームを着ています。メインエントランス1階入口に、図書館のカウンターと蔦屋書店の販売カウンターが並んでいて、その前がカフェコーナー。雑誌販売スペースが最も目立つ位置にあり、奥にビジネス関係の本が販売用、貸出閲覧用が境目もわかりにくい並べ方になっています。壁に張り付いた検索機(OPACや利用案内が閲覧でき、貸出用のipadでも提供)は、図書館と書店の2つから選択する画面になっています。公共と商業の目的区別がつきません。
(注)この図書館の最も詳細なレポート、の一つを紹介しておきます。

イベント企画もありますが、場所が狭いので原則として10名単位の募集です。

そこから円形の吹き抜けが2階の閲覧席と鍵付き書庫の書棚の一部を見せています。地下には古くからの文学書が、打ちっぱなしの壁に囲まれていて、この並びに書庫がある、とのことでした。この書架の特徴はとにかく高い位置まで書架がそびえ立ち、手に取れない本は、カウンターのスタッフに脚立を持ってきてもらわないと閲覧もできないのです。

見栄えを確保するためでしょうか、埋まらない書棚にはダミーの背表紙が押し込んであります。海老名市の図書館は中央館と有馬の2館のほか小規模の市民図書室があります(中央館が31万冊、有馬が91千冊、市立図書館1千冊)。全館の図書購入費(資料費)は開館年度(2015年)に50百万円近くに増加しますが、基本的には20百万円です。一般書の新館コーナー(3か月を常置)は中央館でこれだけか、という印象でした。視聴覚資料はこの3年間ゼロのままです。

閲覧席、学習卓やテラスがたくさんあって、利用者の時間消費には向いていますが、そのスペース分だけ書架が並ばないので、やはり図書資料の利用者本位とはいいがたい状況です。2階の小さな2か月ごとの展示スペースに、コミュニティペーパーやテーマ展示があったのは、TSUTAYA 図書館連携の企画なのかもしれません。

一番困ったのは調べ物がしにくい点です。TSUTAYA 図書館方式と呼ばれる独自分類で書架配置(配架)しているので、NDC分類になれた利用者は戸惑うばかりです。そういえば、他の公共図書館にあるような配架図の掲示もないので、カウンターに置いてある紙の大まかなフロアマップしか手がかりがないことにも不満が残りました。
地域資料は雑然とならび、一部は鍵のかかったキャビネに入っていて、すぐに手に取ることができません。後述する大和市の図書館にある市史などの海老名市資料の方がよほど利用しやすく感じました。
ちなみに、図書館年報はカウンター内にあるほか、その他の開設経緯がわかる資料について、レファレンス照会しましたが、スタッフ二人がかりで探してもらっても、結局わかりませんでした。また地域資料によっては床に座らないと探せないので、本当に不便です。最新の図書館年報(2015年版)で、レファレンス数が大幅に減っているのも気になるところです。

こうした一方で、その他の図書館経費が膨らんでいます。当面の間、図書館本来のサービス充実を図るには経費面の圧力が続きそうです。
何を指標とするかは難しいところですが、
「海老名市立中央図書館では、従来の図書貸出はもちろんのこと、蔦屋書店の併設 により、本や物販商品の購入が可能です。また、館内にはスターバックス コーヒーも併設され、コーヒーを飲みながら本を読むこともできます。」(海老名市立図書館HPより)が市民ニーズにあったものであり続けるかどうか、今後の動向が注目されます。ちなみにこの図書館は日本国内の在住者であれば、だれでも利用カードを作れるそうです。TSUTAYAのカードと一緒に、でしょうか。

海老名市も大和市、も最寄り駅から図書館までの散策は楽しい、とは言えませんが、これはまだ周辺地区が共通して再開発の途上にあるためでしょう。

大和市は面積27平方km、人口23万人。前述の海老名市が面積26.6平方km、人口13万人で増加傾向ですから、大和の方が相対的に規模の大きい都市です。海老名市も図書館の周囲に文化会館が別に2棟ありましたが、大和市は大和駅の東側市街地再開発事業の一環として、芸術文化ホール、図書館、生涯学習センター、屋内こども広場など、複合機能を有する公共施設として整備しました。
開館は2016年11月で、2017年3月に複合施設への入館者は100万人を超えたそうです

当初(2007年)の構想では、芸術文化ホールが主軸でしたが、その後生涯学習や図書館の機能も取り込み、最終的には、かなりのスペースを図書館が占めることになりました。訪問した当日は翌日にNHK横浜放送局開局90年記念の「のど自慢」公開放送を控えた予選の開催日で、大変な賑わいでした。

ホール入口がメインエントランスになりますが、ここから図書館の展示が始まります。のど自慢の参加者、傍聴者は本の中をすり抜けていきます。脇には海老名市と同じ系列珈琲店が開店していますし、周囲を回ると郵便局、コンビニなどもビルに敷設しています。

大和市の図書館は市立図書館のみで、4つの学習センター図書館があります。以前の蔵書能力は23万冊(開架は95千冊)と必ずしも規模は大きくありませんでしたが、新館の所蔵規模は40万冊弱、最大50万冊余が収蔵可能、のようです。フロア構成は6階のうち、4,5階が図書館の占有、1~3階は、他の機能との同居(2階は吹き抜けのためスペースが限定)、になっています。3階が子ども図書館ですが、子ども広場(有料の遊戯スペース)と併設しているので、およそ図書館の雰囲気ではありません。4階には健康テラスがあり、市や子ども広場トレーナー等による企画イベント、健康機器を置いた「健康度見える化」コーナーなど、大和市が進める健康都市施策に沿った支援機能を担っています。このフロアに図書館事務室があり、自動返却機や予約本コーナーも設置されています。
5階は調べ物ができる書架などが並んだ重厚なスペースです。地域資料のコーナーでは遺跡の出土品を用いた「先人たちの足跡」が、「地域資料」の脇に展示されていました。行政資料、郷土史や米軍厚木基地などの資料も並び、普通の公共図書館のイメージです。
図書館のフロアガイドをご覧下さい

重厚な色の、手が届く書架が落ち着いた雰囲気を醸し出す中、中心部にロ(ろ)の字型に配架された参考図書、や情報検索コーナーがあり、文学全集なども含め、その周囲に見慣れたNDC分類で配架がなされています。80席程度の読書室が脇にあるので、調べ物をしたい場合は、こちらにこもることも可能です。点字図書や対面朗読室もこの並びに配置されていました。複合施設なので、図書館が企画するイベント(例えばLIBRARY CINEMA)も生涯学習施設などを使って開催することが可能です。
(注)複合施設も含めた館内の雰囲気はTRCのサイトに紹介があります。TRCは図書館部分の運営を受託しています。

大和市周辺との相互利用協定に加え、交流が深い横浜市とも2017年3月から協定を結ぶなど、利便性も高めています。気になる運営経費などはまだ、実績が確認できませんでしたが、当初からの文化芸術センターの機能と並んで、複合施設の中核のひとつに図書館機能を置いたことの意義は大きいと思います。

10年がかりで検討してきた文化創造拠点がようやく実現した、という経緯からか、同拠点の愛称はシリウス(SiRiUS)、で地球から見える最も明るい恒星に、「未来にわたり、市民に愛されるように」との思いを込めたとのことでした。

今回は図書館運営者の説明を受けない自己流見学でしたけど、人口規模は異なる神奈川中部2市の公共図書館のリニューアルが、異なったアプローチで図書館サービスを展開していることが確認できた訪問でした。

2017年3月26日記

シリウス
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