default
pixivは2021年5月31日付けでプライバシーポリシーを改定しました。詳細
この作品「カフェとトレーナー 〜デート編〜」は「二次創作」「ウマ娘プリティーダービー」等のタグがつけられた作品です。
カフェとトレーナー 〜デート編〜/えるとエルの小説

カフェとトレーナー 〜デート編〜

10,517 文字(読了目安: 21分)

初めて(?)のデートです。
いや、デート自体はいつもしとるやんって感じですけど、ちゃんとしたデートはこれが初めてですね。
これからどんな展開になるか、楽しみにして待っててくださいね。

お知らせ
最近、投稿頻度が落ちています。ごめんなさい。
次が出るのはいつになるか分かりませんが、来月の中旬までには絶対出します。
それまで、気長に待ってくださると嬉しいです。
後、カフェとトレーナーの1話が100いいねを超えていました!ありがとうございます!
これからも頑張って書きますので、応援よろしくお願いします!

2021年9月26日 04:08
1
white
horizontal

「やらかしたやらかしたやらかした!」
ベッドの上で足をバタバタとしながら悶える。
「カフェに、キスして……」
あれだけ抑えていたのに、我慢していたのに。カフェの言葉で全て溢れてしまった。
俺の誓いはあまりに脆く、弱いものだったんだ。
「……俺は、どうしたらいいんだ」
カフェの言葉を信じると決めたのは俺だ。そして、キスも俺からした。
担当ウマ娘に手を出したことには変わりない。
担当ウマ娘に手を出したと知れば、学園側はどうするだろうか。
それだけじゃない。学園内のウマ娘やトレーナーはもちろん、世間の目も気にしなくてはいけなくなる。
ウマ娘とトレーナーがそういう関係になるということは、それ相応の覚悟が必要となる。
「とはいえ、明日は憂鬱だな……あんなことがあった後だし……」
話は数時間前に遡る。
俺は、カフェにキスをした。カフェもそれを受け入れるかのように、俺の首に腕を回した。
「……トレーナーさん。もっと、してくれますか?」
「……分かった」
もう一度、キスをする。
今度はさっきよりも長く、熱いキスをした。
「んっ……ふふ、上手ですね。本当に、初めてですか?」
「恥ずかしいこと聞かないでくれ……嫌じゃないか?」
「嫌なら、もっとしたいなんて言いませんよ」
「……そうか」
カフェも初めてらしいが、正直キスが上手いなんて言われてもよく分からない。
二度目のキスを終え、カフェと見つめ合う。
「……大好きです」
「……俺も、大好きだ」
「……トレーナーさんなら、いいですよ?」
「……何をだ?」
意図が分からず首を傾げると、カフェが俺の右腕を掴んできた。
そして、少しずつ俺の手を自分の胸に近づけている。
「お、おい……それは、早いだろ……」
何をしようとしているか察し、カフェがしようとしていたことを止める。
「本当に、いいんですよ……?」
「俺がダメなんだよ……心の準備が、できてないんだ」
自分でもヘタレだとは思う。ここまできておいて逃げようとしてるのだから。
「……じゃあ、今日はこれで勘弁してあげます」
そういうと、カフェは俺に思い切り抱きつき、もう一度だけキスをした。
「……そろそろ、帰りますね」
「あ、ああ。気をつけろよ」
「……明日、楽しみにしてますよ」
意味深な言葉を残し、トレーナー室を出ていった。
そんなカフェを見送って、俺も家に帰った。
そして現在。帰ってきた俺は即ベッドに飛び込み、悶えまくっていたのだ。
「結局、カフェとそういう関係になれて嬉しい自分もいるんだよな……」
俺はカフェのことが大好きだった。カフェが俺のことを好きになる前からずっとだ。
だから、カフェが俺のことを好きだって言ってくれた時は本当に嬉しかったし、すぐにでも付き合いたかった。
でも、できなかった。トレーナーとしての責任が、俺の我儘を許さなかった。
カフェの気持ちに何度も応えられなかった。何度も何度も逃げてきた。
でも、今日からそんなことしなくていいと。そんなことも考えてしまう。
今まで逃げてきた分、カフェの期待に応えられるよう頑張るつもりではいる。
だが、何をしたらいいかが分からない。いつも、カフェにリードされっぱなしな気がする。
「……風呂にでも入るか」
色々と考えすぎたせいか、疲れてしまった。
一度全部リセットして、今日は寝よう。
だが、結局カフェのことばかり考えてしまい、中々寝付けなかったのだった。

「あっ」
「……トレーナーさん。おはようございます」
トレーナー室に向かっていると、今あまり会いたくない人物に出会ってしまった。
「お、おはよう」
「今日は、トレーニングできそうですね」
「そ、そうだな。また後でな」
「……はい」
特に昨日のことについて話すことはなく、そのまま別れた。
いつも通りトレーナー室に入ると、謎に緊張してしまった。
昨日のことを思い出し、色々考えてしまう。
「……ここで、したんだもんなぁ」
昨日したばかりなのだから、忘れられるはずもなく、顔が熱くなる。
いつもと同じ部屋のはずなのに、どこか違う雰囲気が漂っている。
もし、またここでカフェと二人きりになれば、絶対に意識してしまう。恐らく、またしてしまうだろう。
「……いや、久々にまともなトレーニングできる日がきたんだ。俺がちゃんとしないと」
ふしだらなことばかり考えていては、本当にトレーナーとしてダメになる。
カフェとそういう関係になるからといって、トレーナーとしての責任を果たさなければいけないことには変わりない。
「よし、頑張るか」
頭の中を一度リセットし、今日のトレーニングメニューを見直すことにした。
久々のトレーニングなので、少し調整を加えておかなければならない。
「感覚を取り戻すために、最初は軽く走るだけにするか。その後、何回かタイム測って……」
一度集中してしまうと、しばらく自分の世界に入ってしまって、周りの音が聞こえなくなる。
そのせいで、半日以上レースやトレーニングのことで時間を使ってしまうことがある。
カフェがレースで負けた時や、トレーニング調整がおかしかった時は丸一日部屋にこもってしまうこともある。
「そのせいで、カフェには結構迷惑かけてるんだよな……」
悪い癖なのは分かっているが、集中するとどうも時間感覚が狂ってしまう。早く治さなくては。
「……まだ、トレーニングまで時間あるな」
トレーニングが始まるまでやることもない。明日のトレーニングメニューは変わるだろうから、今のうちに考えておこう。

「トレーナーさん。トレーニングの時間……」
トレーニングする時間になっても姿を見せなかったので、トレーナー室まで呼びにきたのだが。
「………………」
「あの、トレーナーさん……?」
何かに集中しているようで、私の声が届いていないらしい。
「……なんで、無視するんですか?」
隣に立っても、トレーナーさんは気付いてくれない。
ずっとパソコンと何かの資料を交互に見ながらブツブツと独り言を喋っている。
「……ふぅ」
「ッ!?な、なんだ!?」
「……やっと気付きましたか」
トレーナーさんの耳元に息を吹きかけると、やっと私に気付いてくれた。
「もうトレーニングの時間ですよ……」
「ま、マジか。すまん、すぐ行くから待っててくれ」
トレーナーさんは机の物を片付け、必要な物を持つ。
「……心臓止まるかと思った」
「……?」
「よし、んじゃ行くか。待たせて悪かったな」
「……いえ、大丈夫です」
何か呟いた気がしたけど、私には聞こえなかった。
やっとトレーニングができる。そう思っていた私は、トレーニングメニューを見て少し違和感を覚えた。
「……これだけですか?」
「ああ、今日はウォーミングアップみたいな感じで軽めにしといた」
「……私は、もっとできますよ?」
「最近走ってなかったし、今も雨で走りにくいと思う。それで無理して脚壊したら大変だからな。明日からまたいつも通りにするよ」
「……分かりました」
トレーナーさんが考えてくれたメニューを、私がどうこう言う資格はない。
確かに、今日は地面がぐちゃぐちゃになってて走りにくそうだし、私もちゃんと走るのは久々なので、それでも充分足りるだろう。
「じゃあ、早速走ろうか」
「……トレーナーさん。トレーニングの後、少しお話ししたいんですけど、大丈夫ですか?」
「え?ああ、別にいいぞ」
「ありがとうございます。行ってきます」
私は頭の中を切り替えて、トレーニングを始めた。
「トレーナーさん。今度の休日にデート、行きませんか?」
「……デート?」
トレーニングが終わった後、トレーナーさんをデートに誘った。
「トレーナーさんの好きなところに行っていいので、デート、してくれませんか……?」
「……それはいいんだけどさ。何で急に?」
「休日も、トレーナーさんと、一緒に過ごしたいんです……」
それに、私から誘わないとトレーナーさんはデートなんてしてくれないだろうから。
トレーナーさんは、まだ悩んでいると思う。
キスはしてくれた。だけど、その先にいくのを恐れている。
だから、証明しなければならない。私は、どんなことでも受け入れると。トレーナーさんがしてくれたように、全部受け止めてあげられると。
「……分かった、行こうか」
「ありがとうございます。楽しみです……」
デートができるというだけで、頬が緩む。大好きな人と一緒にいられるだけで、幸せなのだから。
「それじゃあ、今日は帰りますね」
用も済んだので、帰ろうと背を向ける。
「あ、ちょっと待ってくれ」
「……なんですか?」
トレーナーさんに呼び止められ、足を止める。
「……昨日はごめん。俺、ヘタレだからさ。慎重になっちゃって、カフェの期待に応えてやれなかった」
「……そんなの、気にしてないですよ?」
「いや、俺が気にするんだ。だからさ、約束しようと思うんだ」
トレーナーさんは両手で私の手を握り、いつも以上に真剣な目をして言った。
「近いうちに、ちゃんと責任は取る。カフェがしたいこと、全部してやる。だから、もう少しだけ待ってくれ。気持ちの整理がついたら、好きなことしよう」
「……分かりました。なら、それまで待ってま……ッ!?」
トレーナーさんの決意にちゃんと返事をしようとした時、突然頬にキスをされた。
「……今は、これで我慢してくれ。じゃあ、またな!」
自分でしておいて恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしながら、逃げるように帰っていった。
「………………」
まさか、トレーナーさんが今キスをしてくるとは思わなかった。
完全に不意打ちだったこともあり、私はしばらくその場で立ち尽くした。
「ビックリした……」
そして、顔を手で覆い隠して座り込んだ。
自分の顔がものすごく熱くなっているのが分かる。
今鏡を見たら、真っ赤な顔でニヤついている自分が映るだろう。
当たり前だ。キスをされたのがとても嬉しく、恥ずかしかったのだから。
「私が不意打ちに弱いの知ってるんですかね……?」
いや、トレーナーさんに限ってそれはないだろう。
それに、トレーナーさんからしてくれて嬉しかったのは事実なので、何も文句はない。
「熱い……」
まだ熱が引かない。顔だけでなく、身体中が熱くなっている。
ドキドキと鳴る心臓を抑えて、帰路に着いた。

デート当日。
私は待ち合わせの時間よりも一時間ほど早く来ていた。
理由は特になく、ただ楽しみだったので早く寮を出てしまったのだ。
「流石に、まだいませんね」
もしかしたらいるかもしれないという期待もあったが、こんな早くに来ているわけがない。
とりあえず、待っている間飲み物でも飲もうと、自販機の前まで来ると、何かが足元へ寄って来た。
「……?」
気になって下を向くと、野良猫がいた。
自分から近寄って来ているあたり、人懐っこいのかもしれない。
「どうしましたか?」
猫は逃げようとせず、その場に座り込んだ。
少し待っても離れる気配がなかったので、少し話をしてみる。
「……実は、今日デートをするんです。私の大好きな人と」
猫の頭を撫でながら話す。
気持ちいいのか、嫌がる素振りを見せずにリラックスしている。
「私、すごく楽しみで、一時間も早く来ちゃったんですよ?あの人に早く会いたかっただけなんですけどね」
もちろん、私が早く来たところでトレーナーさんに早く会えるわけがない。
でも、寮でじっとしているよりはマシだった。
「……早く、会いたいです」
早く会って、あの人の顔を見たい。
手を繋いで、楽しく話をして、コーヒーを飲んで、もっと、恋人らしいことがしたい。
「カフェ……?」
「え……?」
聞き慣れた声が聞こえて振り向くと、私が一番会いたかった人がいた。
「なんでこんなとこにいるんだ?」
「トレーナーさんこそ、どうしてここに?」
まだ待ち合わせまで時間はあるはずだ。しかも、ここは待ち合わせ場所じゃない。ここで会うのは不自然なのだが。
「いや、ちょっと早く来すぎちゃってさ。飲み物でも買って待ってようかと……」
「……私と同じですね」
トレーナーさんも早く来てしまったらしい。それほどデートを楽しみにしてくれていたのかと思うと、嬉しくなる。
「まさか、カフェの方が早く来てるとは思わなかった」
「私も、トレーナーさんがこんなに早く来るなんて思いませんでした」
「……はは」
「……ふふ」
お互いが同じ行動をしていたと分かって、思わず笑ってしまう。
「じゃあ、ちょっと早いけど行くか」
「……待ってください」
「ん?どうした?」
「服、何も言ってくれないんですか……?」
せっかく、今日のためにオシャレをしてきたのだ。少しくらい何か言って欲しい。
「……いつも可愛いからわざわざ言う必要ないかと」
「それ、嬉しいですけど今は嬉しくないです」
「ごめんって。似合ってるよ。いつも以上に可愛い」
「……トレーナーさんも、かっこいいですよ」
「……カフェに言われると照れるな」
「もっと照れさせてあげますよ?」
「俺の身が持ちそうにないからやめてくれ……」
「ふふ、じゃあそろそろ行きましょうか」
トレーナーさんを少しだけからかい、歩き出す。
トレーナーさんの隣にを歩き、そっと手を握る。
「今日は、たくさん楽しませてくださいね?」
「期待に応えられるように頑張るよ」
トレーナーさんと私の、少し早めのデートが始まった。
「どこに行きますか?私は、どこでもいいですよ?」
「んー、俺も別に行きたいとこはないかな」
「どうしましょうか?」
「まぁ、とりあえず歩いて色々見てみようか」
行くところが特に決まっていないので、歩きながら探すことにする。
「あ、そういえば、カフェは服とか見ないのか?」
「……そんなに気にしないですね。トレーナーさんは、どんな服が好みですか?」
「え?なんで俺?」
「次のデートはトレーナーさんの好きな服装で来ようかなと」
「俺はあんまり服とか気にしないからな……」
「なら、色々着てみましょうか」
トレーナーさんがどんな服装が好きかを知るチャンスだ。トレーナーさんが好きなそうなのを何着か着てみることにする。
まず、ワンピースを着てみる。
「めっちゃ可愛い」
次に、セーターを着てみる。
「なんか大人っぽく見える。めっちゃ可愛い」
最後に、パーカーを着てみる。
「カフェのパーカーはかっこいいな。めっちゃ可愛いし」
「……可愛いしか言ってないじゃないですか。後、かっこいいか可愛いかどっちかにしてください」
トレーナーさんの感想はどれも同じようなもので、結局可愛いしか言っていない。
これでは何が好みなのか分からない。
「……トレーナーさんのために、好きな服装選んでるんですから、ちゃんと感想ください」
「でも、カフェって何着ても似合ってるからさ。どんな服装が好きかって言うか、カフェが着たやつなら全部好きって言うか……」
「なんですか、それ……」
「つまり、どんな服装のカフェも好きってことだ」
「……なら、さっきの中だったらどれが一番ですか?」
何を着ても似合うと言われるのは嬉しいし、どれだけ私のことが好きかも分かるのでいいのだが、このままでは次のデートの服が決まらない。
自分で決めてもいいが、やはりトレーナーさんの好きなやつを着ていきたい。
「うーん、迷うけど、さっきの中だったらパーカーかな?」
「意外ですね……?」
「さっきも言ったけど、全部好きなんだよ。でも、個人的にはパーカーが一番好きだったかな」
「じゃあ、この服買いますね」
迷わずレジに向かう。
「ほんとにそんな決め方でいいのか?自分の買いたいやつあるんじゃないか?」
「トレーナーさんが好きな服が私の欲しい服なので」
「そ、そうか。ならいいけど……」
トレーナーさんは納得していない表情をしていたが、本当にこれでよかったので満足している。
「次はどこにいきますか?」
「んー、ちょっと早いけど、昼食にしようか。実は朝何も食べてなくてさ」
「ちゃんと朝食は取らないとダメですよ?」
「気をつけるよ……」
まだ11時過ぎくらいだが、トレーナーさんがお腹を空かせているので、ファミレスに寄ることにした。
中に入ると、ほとんど人はいなかった。
好きなところに座っていいらしいので、適当な場所に座る。
「何食べますか?」
「んー、ハンバーグでも食うか。俺、ハンバーグ作るの苦手でさ。こういうところ来ないと美味しいの食べられん」
「え、でも、この前のお弁当にハンバーグ入ってましたよね?」
あのハンバーグはかなり美味しかったので、作るのが苦手と聞いてもピンとこない。
「なんかさ、俺の理想の味と全然違ったんだよ。他のやつは理想に近いものが作れるんだけど、ハンバーグだけは無理なんだ」
トレーナーさんの理想が高いだけだと思うが、あれ以上に美味しいハンバーグを作れるとなると、やっぱり料理の腕はすごいみたいだ。
「じゃあ、私も同じやつにしますね」
ハンバーグの話をしていたら食べたくなってしまったので、トレーナーさんと同じものを注文する。
「そうだ。次のレースの話なんだけどさ」
「はい。長距離のレースでしたよね?」
「ああ。そのレースの相手なんだけど、かなり強力みたいで」
注文を待っている間、次のレースについて話す。
トレーニングやレースのことを話すトレーナーさんは、いつも真剣な目をしていてかっこいい。
それだけ私のことを考えてくれているということなので、このトレーナーさんを見るたびにこの人がトレーナーさんでよかったと心から思う。
「だから、トレーニングメニューをいつもよりも……って聞いてるか?」
「はい。ちゃんと聞いてますよ」
「俺の顔ばっか見てたからさ。ちゃんと聞いてたならいいよ」
「トレーナーさんがかっこいいなと思ってただけですよ」
「……ほんとに話聞いてたか?」
「聞いてましたよ?」
「……ならいいけど」
照れてるトレーナーさんは、ちょっとだけ可愛く見える。
「お待たせしました〜」
話をしている間に、注文したものが運ばれてきた。
一度話を中断して、ハンバーグを味わって食べた。
昼食を終え、いくつか店を回った後、トレーナーさんがスマホを眺めながら、こんなことを言った。
「ゲーセンに行きたいんだけど、大丈夫か?」
「はい。トレーナーさんが行きたいなら、行きますよ」
「ありがとな。それじゃあ行くか」
トレーナーさんがゲームセンターに行きたいと言うのは珍しい。
私の知らないところで行っているのかもしれないが、あまりそういうところに行く印象がない。
「実は、今から行くゲーセンに、カフェのぬいぐるみがあるみたいなんだ。UFOキャッチャーのやつらしいんだけど、どうしても欲しくてさ」
「私の、ですか?」
「ああ、前から欲しかったんだよ」
スマホでなにを見ていたのかと思ったが、ぬいぐるみのことを調べていたらしい。
ゲームセンターに行く理由が自分のぬいぐるみを取るためだと知って、少し恥ずかしくなる。
「でも、トレーナーさんってUFOキャッチャーできるんですか?」
「……金はあるからな。死ぬ気で取るよ」
「不安ですね……」
やはり、UFOキャッチャーの経験はないようで、お金で勝負するようだ。
「あんまりやり過ぎもいけませんよ?」
「分かってる。いくら使うかは決めてるから、それ超えそうになったらやめるよ」
「……いくら使うつもりなんですか?」
「カフェのためならいくらでも」
「ダメじゃないですか……」
「最悪俺を止めてくれ……」
「言われなくても止めますよ……」
トレーナーさんのお金がなくならないよう、ちゃんと止めなくてはいけない。
「よし、行くぞ!」
気合が入ったトレーナーさんを追って、ゲームセンターに入る。
「わぁ、色々ありますね」
中に入ると、UFOキャッチャーだけでなく、たくさんのゲームが置かれていた。
あまりこう言う場所には来ないので、周りの音が少しうるさく感じる。
「カフェのぬいぐるみは、あれか」
トレーナーさんが指差す先に、私のぬいぐるみが置いてあった。
「可愛いな……早く欲しい」
「自分のぬいぐるみ見るのって変な感じですね」
私のぬいぐるみだけでなく、今活躍しているウマ娘のぬいぐるみがたくさん置いてある。
幸い、私のぬいぐるみは取れやすそうな位置に置いてあるが、経験のないトレーナーさんがそう簡単に取れるはずないだろう。
「よし、頑張るか」
「程々にしてくださいね?」
「分かってるって。それじゃあ、やるぞ!」
UFOキャッチャーに挑戦するトレーナーさんを見て、嫌な予感しかしなかった。
数十分後。
「……や、やっと取れたぞ」
「……結局、取るまでやっちゃいましたね」
取れそうで取れない状況が続き、私も止めるに止められなかったので、かなり時間がかかってしまった。
「お金、大丈夫ですか……?」
「あ、ああ。その辺は問題ない。いやー、取れてよかった。今日からこのカフェ抱いて寝る」
私のぬいぐるみが手に入ったのが余程嬉しかったのか、抱きしめたり撫でたりしている。
(すごく、幸せそうな顔……)
はしゃぐトレーナーさんを見ていると、なんだか胸のあたりがモヤモヤする。
「……ぬいぐるみの方が、いいんですか?」
気が付けば、そんな言葉が漏れていた。
「あ、な、なんでもないです……」
自分のぬいぐるみなんかに嫉妬するなんて馬鹿らしい。
せっかく喜んでるトレーナーさんの気分を害するようなこと、言っちゃダメなのに。
「……あー、なるほど」
「……?」
トレーナーさんは何を理解したのか、私とぬいぐるみを交互に見てから私の前に立った。
「な、なんですか?」
「今日はカフェとのデートだもんな。俺ばっかり楽しんで悪かった」
トレーナーさんは私の頭を撫でてくれた。
「ぬいぐるみの方がいいかって言ったよな?もちろん、本物が一番好きだぞ?俺の中でカフェを超えるものなんてないんだから」
なんだか、いつものトレーナーじゃないみたいだった。
いつもは逃げ腰で、私からなにかしないとダメだった。
でも、今のトレーナーさんは積極的になっているように思えた。
「……頭撫でるだけじゃ、足りません」
少しわがままを言って、トレーナーさんがどうするか試してみる。
「……そうか。なら、移動しようか。ここじゃ人が多すぎるしな」
私の手を取ってゲームセンターを出る。
一体なにをしようとしているのだろうか。
「……どこに行くんですか?」
「行けば分かるから」
「……?」
どこに行こうとしているかは教えてくれなかったが、なぜかトレーナーさんが緊張しているように見えた。
トレーナーさんに手を引かれて連れてこられた場所は人気のない公園だった。
「この公園、この時間はあんまり人いないんだよな」
「そうなんですか?」
「ああ。昔、たまに一人でくつろいでたんだ」
トレーナーさんは、昔を懐かしむように公園を見渡す。
「それで、ここで何をするんですか?」
わざわざ人気のない公園まで来て、遊具で遊ぶなんてことはないだろう。
「それは、だな……」
「……?」
トレーナーさんは、一瞬なにかを躊躇ってから、私の方に体を向けた。
そして、抱きしめてくれた。
「……これでいいか?」
「……もう少し、足りません」
ただ抱きしめられただけでは足らない。
もっと、あのぬいぐるみにしていたこと以上のことをしてほしい。
「……分かったよ」
「……んっ」
そう言って、私の唇を奪った。
体は熱くなり、口の中がどんどん甘くなる。
「トレーナーさん……もっと、してください……」
今度は私の方からキスをする。
人気のない公園とはいえ、いつ誰が来てもおかしくない状況。
でも、止められなかった。一度キスをされたら、もっと求めたくなってしまうから。
「んっ……ちゅっ……」
キスをする音が静かな公園に響く。
それでも、何度もキスをした。
「トレーナーさん……大好き……」
「俺もだよ……カフェ……」
トレーナーさんの温もりを感じながら、一番長いキスをした。

公園のベンチに座り、休憩する。
すると、トレーナーさんがこんな提案をしてきた。
「カフェ。今度さ、またうちに泊まりに来ないか?」
「え……?それって……」
「……まぁ、次のレースが終わった後にさ。お疲れ様ってことで……」
トレーナーさんは照れながら、でも、私の目を見て話してくれた。
だが、次のレースは12月。今から1ヶ月ほどある。
「そんなに、待たなきゃいけないんですか……?」
「流石に、レース前はダメだと思うんだ。トレーニングに支障が出ない保証はないからな」
トレーナーさんが言いたいことは分かる。私のことを想って言ってくれているのだ。
でも……。
「大丈夫だ。レースが終わったら、ちゃんと約束は守る。絶対に」
物言いたげにしている私を見て、頭を撫でながらそう言ってくれた。
「……分かりました。それまでは、キスで我慢します……」
「そ、そんなに頻繁にされても困るんだが……」
「嫌、なんですか?」
「い、嫌じゃないけどさ。俺の身が持たないんだよ……」
私ばかりがわがままを言っても、トレーナーさんを困らせるだけだ。
私も少しは我慢しなければいけない。
「……なら、次のレースは絶対勝たなきゃいけませんね」
「そうだな。カフェには頑張ってもらわないと」
「トレーナーさんのためなら、どんなレースでも勝ってきますよ」
「期待してるよ」
二人で笑い合って、そっと手を重ねる。
「……トレーナーさん。もう一度だけ、いいですか?」
「……ああ、いいよ」
最後にそっとキスをした。
私たちの初めてのデートは、最高のものになり終わった。

コメント

  • 銀翼

    死ぬる!これは尊死するっ!!

    9月29日
  • れおドラ

    あら?コーヒーに砂糖入れすぎたかな....?甘すぎて昇天しそうなんだが....

    9月26日
センシティブな内容が含まれている可能性のある作品は一覧に表示されません
人気のイラストタグ
人気の小説タグ