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LATEST:211107

「批評家の浅田彰です。 普段は、京都芸術大学というところで、アートスクールの学生さんたちを教えているわけなんですけども。、坂本龍一さんが2ヶ月に1度お届けしている、J-WAVEレディオ・サカモト。今回の放送も、あの坂本さんは、残念ながら療養中であるためにお休みとなりまして、ま、ある意味で言うと、このパンデミックをやり過ごすというふうなことでもあるかもしれない。で、幸いパンデミックそろそろ……こう出口が見えてきた、下火になりつつあるような感じですし、みんなが動き出すような事態ですので、坂本さんもぜひ……まぁもちろんちゃんと完治してからですね、お元気な姿で、またお目にかかりたいと思っています。お体を大切にお過ごしください。」

「で、とてもその代役が務まるとは思えないんですけれども、わたくし浅田彰が、ナビゲーターを担当させて頂きます。それで、どうも恒例のようなんですけれども、坂本教授からメッセージが届いているということで、代読させていただきます。」

長い付き合いになりましたね。最初にお会いしたのは、
浅田さんが華々しくデビューされて割とすぐでしたから、ほぼ40年!
ところで浅田さんがこれほどBTSに詳しいとは!衝撃でした。
今日のBTS講義、非常に楽しみにしています。
厚かましく番組のホストもお願いしてしまって、、。
よろしくお願いします。

「と、まぁこういうことなんですけれども。えー(笑)、確かにですね、坂本龍一さんとは1980年代の半ばくらいからですね、ファンの方は『音楽図鑑』というのがあったのはご存知と思いますが、まぁYMO……Yellow Magic Orchestraが散開した後、ご自分の音楽を模索しつつあるというような時期でした。で、その頃からですね、折に触れて、いろいろ、こうディスカッションするとか、あるいは、「LIFE」(※LIFE a ryuichi sakamoto opera 1999)というですね、1999年にまぁ20世紀を総括するようなオペラを作ろうということになった時なんかは、まぁコンセプトはこういう風にしたらいいんじゃないか、とか。あるいは、優秀な映像の作り手はいないか、という御下問があったので、まぁ京都のダムタイプというですね、マルチメディアパフォーマンスグループの高谷史郎さんというのをご紹介し、で、そうするとそれがすごくいいコンビになってずっと今まで続いていまして、現に今年2021年もですね、まぁ北京とか台北とかで、彼らの昔の作品がまたバージョンアップされて展示されている……喋ってて思い出しましたが、山口情報芸術センターというところで、ほぼ10年前ぐらいに作った、お二人の展覧会があったときの旧作のアップデートバージョンが、山口市内3ヶ所ぐらいで、今展示されているようですので、行ってみたいなあと思いますし、ぜひ皆さんも何か時間があれば足を向けて見られればどうでしょうか。」

「というわけで、大変長いお付き合いなので、時々やりとりもしておりまして、まぁ私はたまたまそういうアートスクールで教えていて、現に中国とか台湾、あるいは韓国なんかの留学生も多いものですから、たまたま音楽の話になったときに、今もう世界的な、世界のトップスターということになったBTSですね。まぁ、話をして、それこそこんな感じでしたよっていうのをそのメールで坂本さんにご報告しましたら、今のようなですね、私は専門家としてBTSについて講義せよという、無理難題が舞い込んできたと。で、本当のところ(笑)、私は早い話コリアンもわかりませんし、ハングル読めないっていうことで、とてもそういうような講義をする資格があるとは思えないんですけれども、ま、坂本教授からの御下命とあれば、これはちょっと断れないというですね、そういう事情もありまして(笑)、蛮勇を振るってですね、一応代行させていただく。教授の代行させていただくということで、主に前半、あの私がBTSに関してで、それを世界の中でどういうふうに見ていくかというような、やや堅い話をさせていただくと。後半はいつものオーディションコーナーがありまして、レギュラー出演者のU-zhaanさん、長嶋りかこさん、蓮沼執太さんが担当されます。で、もちろん坂本教授のプレイリストのコーナーもございます。それでは、レディオ・サカモト、最後までお付き合いください。」


<浅田彰さんによる、BTS講義>

「先ほどもちょっと申しましたけれども、K-POPということで、我々はいろんなスターかつてでいうと、その東方神起とか、あるいはBoAとか少女時代とかですね、ずっとここ20年ぐらいいろんなスターを見てきたわけですが、現時点でのそのピークというかクライマックスというか、それは明らかにBTSというグループだろうと思うんですね。それで、これは単にK-POPという枠をもうはるかに超えて、明らかに世界の単なるポップスター……アメリカンポップでもなければ、コリアンポップでもない……単なるポップスターになった。で、これはアジアからこういう人が出てきたということは、革命的なこと……とすら言っていいような気がします。で、皆さんも多分、必ずやどっかで音楽聴いたとか、ミュージックビデオを見たとかいうことがあると思いますので、これを改めてご紹介するというよりは、一応こう……講義をせよという坂本教授からの御下命ですので、ちょっとこう堅い話も交えながら、歴史の中でまた社会の中でこれをどういうふうに見ていくかと。皆さんが、その単純に音楽を楽しむ、あるいはビデオ楽しむときの補助線みたいな感じでですね、参考にしていただければいいのではないか、というふうに思っています。」

「それで、このBTSというグループは、2013年に結成されたので、まだ10年経ってないんですけども、あれよあれよという間に、世界的なスターになったと。で、ちょっとその前段みたいな話、特に日本との関係のお話を少ししておきたいと思うんですね。ここで、急に社会科といいますか、歴史の復習みたいなことになるんですが、特に日本との関係で言いますと、やっぱり1910年に日韓併合ということがありまして、その大日本帝国が朝鮮半島全体ですね、今、南北にわかれてますけど、朝鮮半島全体を併合する、あれが大日本帝国の一部になるというふうなことがありました。で、それに対抗して、1919年ぐらいにですね……中華民国、中国に亡命した、イ・スンマン=李承晩という人が、大韓民国臨時政府というような、一種の亡命政権を作ったりはしたんですが、実際は、まあとにかく45年、第二次世界大戦が終わって日本が負けて帰ってくるというところまで、ずっと日本の朝鮮支配というのが続いたということになります。で、45年に戦争は終わりまして、で、いわゆる連合軍ですね、が朝鮮半島を軍事占領するということになるんですが、既にこっからずっと……つまりアメリカとソビエト連邦を中心とする、いわば資本主義圏と社会主義圏というのが、呉越同舟で組んで、それがファシズムというか、全体主義というか、つまりイタリアとかドイツとか日本と戦ってたわけですが、ファシズムがこれで敗北した後、で、今度は一緒だったはずのアメリカ中心の資本主義圏とソ連中心の社会主義圏というのが別れた。その余波で、北緯38度から北側はもうソ連が占領する。で、38度線から南はアメリカが占領する。それぞれの中で、次の政権をどうするかというので、しかしなかなかこれが形を成さないというようなことが3年ぐらい続く。で、48年になってようやくですね、南の方では大韓民国っていうのが作られるわけですね。これさっき言った19年の亡命臨時政府を一応継承するというな形で、その李承晩=イ・スンマンという人が、まぁ大韓民国というのを建てるんですね。で、1ヶ月ぐらい先に今度は北側で、今度は金日成(キム・イルソン)という、今の金正恩(キム・ジョンウン)のおじいさんですけれども、これがソビエトなんかの後ろ盾を得てですね、朝鮮民主主義人民共和国というのを作ると。つまり、南朝鮮と北朝鮮というのがアメリカとソビエトのバックで、朝鮮半島を南北に2分するというですね、非常に不幸な歴史があります。まぁ、とにかくそうやって2分された中で、際どい状況が続いてるんですが、1950年から53年まで、これは有名な、朝鮮戦争というですね、南北の戦いがあります。で、まぁこれには、南側にはもちろんアメリカが味方しているわけですが、それでずっと北へ攻め上っていくと、今度は中国ですね……つまりソビエトと中国というのが社会主義圏にいて、その中国がまぁ一応その義勇軍という形で北を応援して入ってくるとか。で今度またずっと南に押し返してくるとかいうですね。非常に悲惨な、つまり米ソの局地的な代理戦争みたいな形で、世界全体は冷たい戦争に向かってってるんですが、朝鮮半島で熱い戦争が戦われ、非常に多くの犠牲を出した、ってなことがあったわけです。で、実を言いますと、この戦争は今も休戦状態なんですね。つまり本当は休戦の後、いろいろ交渉して平和条約を結ぶというのが一応普通なんですけれども、特にこれ南の側はですね、実は休戦協定にすらサインしてないんですよ。あれはつまり、アメリカ軍とそれから中国軍が主にサインして、北側はそれに復唱というかな、北側もサインしてるんですが、その南側のさっき言ったイ・スンマン=李承晩という人は、すごい反日、反共の人でしたから、そんなところで妥協をできるかっていうので、俺はサインしないぞというので、事実上その主に戦ってたアメリカと中国がサインして休戦になってるんですが、休戦状態が続いている。でよく、形式的に見ると、韓国はそれに実はサインさえしてないという。だからいつ、また熱い戦争がぶり返してもおかしくないという状況が、今も続いているというね。もうほぼ、60〜70年続いているということは、まぁ驚くべきことであると思いますね。それでちょっとその背景が長くなりましたが、言いたかったことは、日本はもう1945年で戦争終わって、それ以後だいたい一続きで来たわけですよね。経済の成長から政治の民主化ということで、ほぼ今に至ってるわけですが。韓国はその45年以降も、朝鮮戦争もあったし、軍事独裁政権も長く続いたし、まさにその98年の金大中政権ぐらいから後に、やっとですね、日本なんかと似たような感じになってきたということだと思います。それで、その金大中という人がですね、まぁその98年に大統領になったときに韓国は本当にまた別の危機のうちにあった……というのは、前の年ですね、97年にいわゆるアジア通貨危機というのがありまして、特に韓国で金融システムが完全に破綻すると。で、IMFですね国際通貨基金というのが、いわば上から管理に入りまして、ものすごい財政緊縮、もうこれ以上はもう使っては駄目だ、というふうなことになります。それでもう中小企業がバタバタ倒れるとか、失業者が街に溢れるとかいうふうなことがあった。だから97年に、一応その漢江の奇跡で経済成長を遂げているんですが、通貨危機が起こった。それで国際競争力をつけなきゃいけないっていうふうに、その金大中(キム・デジュン)は思うわけですね。一つは、今風に言うと、サイバーコリアですね。つまり、IT産業を全面的に振興すると。で、例えばこれ日本からも例えば、孫正義さんなんかがアドバイザーとして呼ばれて、どうしたらいいかと。いやもうこれIT、ICTは、一にも二にも三にもブロードバンドですよ、と。あぁ、そうかというので、もうそこからあっという間に韓国は、日本なんかをはるかに上回る、今でも世界有数のブロードバンド大国になる……で、そのIT振興は完全に成功して、日本の企業なんかと違ってですね、そのサムソンとかなんとかが、もう世界中で使われるようになるというような状況になります。と、それと並んで、じゃ今度はコンテンツはどうなのかと。これは日本風にいうと、クールコリアですけど。まぁ映画とかテレビジョン、あるいは音楽のようなですね、そういうソフトウェアの方で、その文化コンテンツの振興ということも始まるわけですね。で、これがまた、いわゆる国家による文化の振興というのはいいことかどうか、またうまくいくかどうか分からないんですけども、珍しく本当にうまく当たったわけですね。で、本当に20年ぐらいの間で、東方神起とか、あるいはそのBoAとか少女時代とかいうとっからブワッとですね、そのBTSまでいったということで。まぁある意味で言うとですね、韓国という国が、長い戦争の後も本当に長く苦しみ、20世紀の末にやっとですね、本格的な民主国家として、世界に開かれていくというときに、その危機を乗り越えるためのIT振興、あるいはその文化コンテンツ振興みたいなものの両輪に乗ってですね、K-POPとか、あるいはK-CINEMAですね、韓国の映画とかが、それこそ、そのBTSがアメリカのヒットチャートもう7週間にわたってベスト1をずっとこう占めるとか。あるいは、その韓国のポン・ジュノ監督の『パラサイト』っていう映画が、アメリカのアカデミー賞でグランプリを取るとかですね。全然それおかしくない……というのは、あっという間に、その日本はその間、90年は代体 "失われた10年" と言ってまして、それが失われた20年30年ともうずっと続いてて、韓国よりも人口2倍ぐらいあり、豊かな国なんですけども、そういう世界に雄飛するみたいなところでは、完全にその韓国に置いていかれた。で、例えばK-POPに対してJ-POPはどうかっていうなことは、ちょっと考えてみる必要があると思います。」

「というわけで、まぁとにかく一方ではですね、その韓国の歴史を振り返り、で韓国が20世紀末から特に21世紀にですね、そういうITで、あるいは文化で世界に雄飛する……で、それが全体的に成功してて、その波の一番こう最後のピークみたいなところに現れたのが、BTSだと。だいたい2017年ぐらいから、もう世界中で知らない人のいない、トップアイドルになったということだと思うんですが。他方でね、しかし彼らが最初っからそうなるべくして、ずっとエリートコースを進んできたと思うと、それは大間違いなんですね。で、一つには、今さっきから言っておりますように、韓国という国は急速に高度成長し、そして今やグローバル資本主義の中で、日本を尻目にですね、本当に世界に羽ばたいているわけですけれども、その中でもやっぱり財閥支配というのは残ってるし、それから、ソウルに家があって、ソウル大学を出て……というふうなのがもうお決まりのエリートコースとしてあるわけですね。で、地方に住んでる人と、それからソウルに家がある人、マンションがある人とかだと、もう本当に乗り越えられないぐらいの格差が開いてしまったという状況があります。で、その中で、このBTSのメンバーになった人たち、これ一番上が92年生まれで、一番下が97年生まれだと思いますけども、この人たちは、端的に言って一人もソウル出身じゃないんですね。全員田舎なんです。で、釜山とか大邱とかですね、そういうところからソウルに出てくるわけですね。それから、まぁ初期のK-POPのときには3つ、そのSMとかなんとかいう3つ大きな事務所があって、それが大きなマスメディアと組んで、アーティストを売り出していたわけなんですけども、この7人のBTSの若者たちっていうのは、その「Big Hit」ていうですね、今「HYBE」っていう名前になっていますが、その「Big Hit」というちっちゃな独立プロダクションみたいなものに拾われて、で、先どうなるかわかんないんだけど、とにかくソウルに出ていく。で、2段ベッドの並ぶですね、安パートに押し込まれて、事務所の地下か何かのスタジオで、1日極端に言うと15時間と言われるような、無茶苦茶な猛練習を重ねて、ものすごい努力の果てにここまで来た……というようなことがあると思います。喋ってて思い出しましたが、例えばその7人いるんですけど、下から2番目と3番目ですね、つまり95年生まれでJIMIN=パク・ジミンというのと、それからVっていうキム・テヒョンですね、まぁ "テテ" という愛称もありますが……そのパク・ジミンとキム・テヒョンというのが、95年生まれなんですね。ジミンが釜山の生まれで、テヒョンが大邱の生まれだったと思います。それで、1年早く、テヒョンというのはソウルに出てきてて高校に行ってるんですが、まぁ1年遅れで今度ジミンというのが入ってくる。で、テヒョンが……というかVが、このジミンというのは俺の友達だと、仲良くしてやってくれと言って、みんなに紹介して、ちょっとしばらく経ってから帰ってきてみると、なんかジミンがポツンと1人で、ひとりぼっちで黙ってると。なんだこれは、と。俺の友達をシカトするんだったら、お前らと絶交だ!っていうような感じになるんですけども。あとでよく話を聞いてみると、そのジミンが釜山生まれで、釜山方言を笑われると嫌だっていうね。つまり地方出身者で、方言を笑われるのが怖い、で黙ってたみたいな感じなんです。まぁそれは彼のキャラクター……とても優しいんだと思いますが、キャラクターにもよると思いますけど、それぐらいな感じ。つまり首都のですね、いわば標準語を話すエリートたちのところに、まぁいわば地方から殴り込みをかけてきて、小さなところでずっと共同生活をし、地下のスタジオでみんなでこう……励まし合いながら猛練習に耐え、で今まで来たってなことだと思います。プラス最初ですね、そのBTSという名前がつくんですけども、これは日本語で言うとBDSなんですよ、つまり防弾少年団なんですね。で、コリアンだと、これはバンタンソニョンダンというふうに発音するようで、B "T" Sなんですね。つまり、防弾仕様の少年団なんです。で、防弾って何かっていうと、まぁ彼らの言葉によると、その今、それこそ韓国ももちろん豊かにはなっていってるんだけど、すっごい狭小社会で、大人の世界から10代20代の若者たちにですね、遊んでばっかり言っちゃいかんと。ソウル大学に行って、弁護士になって活躍せよとかですね。あるいはまたそのアイドルになるんだったら、みんなに愛されるアイドルになれ、とかですね。何でもいい……にかくいろんなプレッシャーが降ってくる。これ、弾丸のように降ってくる。で、これを防弾するわけですね。10代20代のしなやかな感性を守り、で自分たちのやりたい音楽を貫くというふうなことで、防弾なんですよ。だからこれ要するに、大人の社会から飛んでくる、若者たちへのプレッシャーに対して防弾して、で、若者たちが自分の内面を守る。そして自分のやりたい音楽なり、何なりをやれるようにする、という主張なんですね。で、ちなみに、ファンダムができまして、これは "ARMY" というので、アーミーと呼ばれるようになりました。だから防弾少年団と、それを支えるARMYなんですよね。これだから、ある意味で言うと、階級闘争というと大げさですが、ある種、世代間闘争も含めた闘争なんですよね。で、それを反映して、初期のそのBTSというのは、ヒップホップグループとして出発するわけですね。最初、とにかくかなり過激な感じで、衣装といい、メーキャップといい、やってることといい、とにかく戦うぞ!という感じのものでした。で、これ今、一つサンプルを聴いていただくとすれば、一番最初のですね、デビュー曲っていうのは「No More Dream」って言うんですけど、もう夢なんかないっていう。で、もう夢なんかないという絶望的な状況の中で、しかし戦うぞ、と。大人のプレッシャーには負けないぞ、というような曲なんですね。ちょっと聴いてみましょうか。」

「まぁ、だから彼らとしては、その自分のやりたいことは、そういう戦いの音楽だということだったんだと思いますが、ちょっと戦闘的過ぎたのか、あんまり、いわゆるポップシーンでヒットしなかったんですね。だからその……デビューですぐ爆発して大きな波に乗ったというわけではなくて、最初のそのヒップホップ路線では、なかなか人気が出来ない。苦闘するわけですね。で、その中で、やっぱりちょっとアイドル路線に振らなきゃいけないな、てなことで、まぁあの高校恋愛物語みたいなのに対応するような音楽を作るとか、でそれをもうちょっとロマンティックに深めていくとかですね、そっちの方にずっと振れていくわけです。で、そのアイドル路線が当たって、で、長いある意味でいうと、雌伏の期間をまぁ踏まえてですね、そのアイドルとしてどんどん波に乗る。で、一旦波に乗ると、それこそ世界的なトップアイドルのところまでいくと、いうことになったわけです。で、ちょっと今、あの長く喋り過ぎましたので、えー1回ここで、そのアイドルになって、今や世界で、さっき言いましたように、今年アメリカのヒットチャートで7週間ぐらい1位を独占したというですね、まぁ皆さんどっか必ず聴いていると思うんですけれども、今年の曲。「Butter」というのを少し聴いてみたいと思います。」

「とまぁ、そのバターのようにスムーズに滑らかに君の中に入り込んで、君を熱くし、踊らせるよっていうような、他愛ないポップソングなんですけども。歌詞は全部英語ですね。このちょっと前の「Dynamite」ぐらいから、全部英語で歌うということを始めて、これが本当にK-POPだということはわかっていても、もう別にその韓国のものじゃない、世界の音楽だ、ということにして広まったと。ある意味で言うと、ここである種ピークまで到達したという状況だと思うんですね。ただね、これ見ててもしかし、ミュージックビデオもありまして、今のようにラジオで音だけ聴いていただくと、非常にちゃんと作られてるし、録音とかミキシングとかも、すごく上手いということはわかると思うんですが、それを踏まえて今度、お暇なときにミュージックビデオとかも見ていただくと、これ最初はもう本当にキンキラキンにキメて始まるんですね。まぁもう金色のシャツとか、ものすごい肩パットの入ったかっこいいスーツとかでやってるんですけども、途中で何か記者会見やってるようなとこで、後ろのカーテンがわって開きますと、全く一転して、学校の体育館みたいなとこで、全員が色とりどりのジャージを着て踊っているというね。だからまぁ、世界のトップスターとか言われてるけども、実際はその田舎の高校で踊ってきたときと、全然わかんないんだよ、というような感じ。しかもそれが格好いいわけですよ。体育館でジャージで踊ってかっこよければ、それはもう怖いもんなしですね。で、そういうところがやっぱり良かったんだと。で、ソウルのいわばお金持ちの子弟が、しかるべき教育を受けて、そのままスターダムに上がっていくとかいうのではない。田舎で、それこそその体育館で踊ってたような人たちが、ソウルに出てきて長い下積みの苦労の後でですね、ばっとこう爆発的な人気を獲得した。だけど、昔のことは全然忘れてない。で、君たちだって自粛生活でジャージでしょ……っていうような感じで。それはとてもうまいと思いましたね。」

「そういうわけで、だいたいこうヒップホップ路線からアイドル路線になって、今、世界的スターへ、ということでずっと来たわけですが、今日はちょっとですね、その少し前……つまりパンデミックになる直前のところに、1回遡って、「ON」っていうですね、オー・エヌの「ON」っていう曲。これあの『MAP OF THE SOUL : 7』……魂の地図:7 っていうのの一番中心的な曲だと思うんですが、それをちょっと取り上げてみたいと思うんですね。なぜかというと、それまで一応このヒップホップ路線からアイドル路線へということで、ビジュアル的にもすごくかっこいいというよりは、かっこかわいいというので売れてたのが、もう1回その世界的な人気を獲得したボーイズバンドが、もう1回初発のね気分に帰って、改めて闘争宣言をやるみたいなところがある、というのがこの「ON」っていうのは面白いと思いますね。結構重い曲ですので、そんなにこう再々聴くということはないと思うんですけども、ちょっとこういう場所でいろいろご紹介しながら聴くにふさわしい曲だと思いますので、ちょっとお話したいと思います。」

「この「ON」っていう曲はですね、ある意味で言うと、さっきの「Butter」みたいな、明るい誰でも楽しめるポップソングとは違いまして、相当激しい話なんですね。それで一番中心のとこが、全くこれサンプルだけで言いますが─── (キーボードを使って、コードとメロディを弾く) ……こういうマイナーの、短調のですね、かなり勇壮なテーマなんですけども、そこのところで歌われる歌詞は、"Bring the pain" なんですよ…… "苦痛を持ってこい" っていう歌詞なんですね。要するに、なんかちやほやされて、いま今世界のスターだと言われてるけれども、もう自分がどこにいるのか何していいのかさえわからない、不安に満ちている。しかし、我々は戦うぞ、と。苦痛を持ってこいと。苦痛を血肉として戦うぞ、という曲なんですよ。ちょっと聴いていただく前に、大体こんなことをやっています、というのをご紹介しておきますと、まぁ最初ね、これ一種、鼓笛隊みたいなものをバックにしてずっと始まりまして、で、一番最初にさっき言ったジミンとテヒョンかな、が出てくるんですね。最初こういう──(キーボードを弾きながら解説) ──という、こういう、あの、ほとんど音階みたいなメロディーで、とにかく君たちが何を言ってるのか、みんなが何を言ってるのかわかんない、と。ああしろ、こうしろ、と言われるけれども、どうしていいのかわかんない……っていうふうな、当惑を歌います。それで今度テヒョンが、まぁ起きると、ここはソウルなのか、パリなのか、ニューヨークなのか、と目眩がしてクラクラする、というふうになります。で、その後にリーダーであるRMというやつですね、ラップモンスターというのが──(弾きながら解説)──という、ここはまぁ、あのとにかく足元を見つめると、影が揺れてる、いや俺が揺れてるのか、と。不安は尽きない。だけど、俺はあの不格好でもいいから、黒い風に乗って流れていくんだ、というふうに歌います。そういう意味でですね、何というかまず自分たちがトップアイドルになって、世界でちやほやされてるけども、それがものすごくある種、不安な……この後どうなるんだろうかというふうな世界でもあるというね、そういうアンビバレントの気持ちを割と素直に出してると、いうふうに思いますね。その後、今の序奏の序奏みたいな感じですが、その後で、"Hey na na na" っていうね、これジミンというのが、すごい高い透明な声で、まぁちょっとエンジェリックな感じで歌うんですけども、"Hey na na na"っていうふうに呼びかけるんですよね。で、これね普通 "Hey na na na ,Oh na na na"っていうのは、今日は休みで天気もいいし楽しいなぁ、で "Hey na na na" っていう、のんきな鼻歌のフィルインですよ。だけどその "Hey na na na" の後は──(弾きながら)この、メロディーのところではですね、正気でいるには狂わなくては。で、僕はその両極端の世界に引き裂かれながら飛び込んでいくんだ、っていうふうな歌詞になります。で、のんきな "Hey na na na" って……これずっとそのジミンが歌ってますから、曲を通してずっとリフレインなんですけども、それに対して、何か正気を保つには狂気に走らなければというね、かなり過激な歌詞がショートするんですね。このアイロニーはとっても上手いと思います。で、その後でですね、まぁもうちょっとそれが展開されていった後に、さっきの───(弾きながら) というのになります。で、これは要するに "Bring the pain" なんですよっていう。これはちょっと、QUEENのコール&レスポンスを連想させるような呼びかけですが、Bring the pain、"苦痛を持ってこい" と。で、その後が───(弾きながら) って、こういうとこですね。で、ここはちょっと高校の英語の復習みたいなことを言いますと、これですね。"Rain be pourin'" という、まぁ要するにあの、Rain be pourin'なんですね。これは It is Raining とか Rain is pourin'」 とかではなくて、"Rain be pourin'" なんです。でこれは、仮定法というか、まぁ例えば、God blesse is youというと、「神があなたを祝福している。」です。だけど、God bless you、God Bless America とかいうと、これMay を付けてもいいんですが、May god bless you、May god bless America というと、"神があなたを祝福されるように"、"アメリカを祝福されるように" というふうになりますよね。そういう感じの仮定法なんですね。で、今のこの “Rain be pourin', Sky keep fallin'" っていうふうになるんですね。だから、土砂降りの雨が降るなら降れ、と。で毎日空が落ち続けるなら、落ち続けろ、と。で "Oh na na na" とこうなるんですよ。 ですからまぁとにかく、苦痛を持ってこいと、土砂降りの雨が降るなら降れと。知ったことかっていうふうになる、と。で、これが主要な部分です。で、まぁちょっと長くなりますが、一応言っておくとその後で、ラップラインの人たちですね、さっきのそのRMもそうなんですが、J-HOPEというのがその、 "Bring the pain" というのを少し分析して、ラップではなくて一応歌ってるんですけども、まぁとにかく、苦痛をむしろ血肉にして自分は生きるんだ、というふうな、とってもいい歌をやります。で今度、SUGAっていうのがそれを引き継いで、で、それはたまに膝をつくことがあるかもしれないけど、だからどうだって言うんだ。また起きればいいんだ、と。"Win no matter what"……何があっても勝つと。誰が何と言おうが、知ったことかっていうね。とても思慮深い感じの、一番穏やかな感じの彼がそういうことを言うので、ちょっと逆にすごくスリリングなんですけれども、そういう戦闘宣言みたいなのを、その2人のラッパーがそこで言って、それでさっきのこれに───(弾きながら) に戻ります。で、だいたいそれで、主なとこが終わるんですが、でその後にもう1回盛り上げた後に、まぁ歌としては一番聴かせどころなんでしょうね。 そのJK=JUNG KOOK(チョン・ジョングク)っていうのが、ものすごく伸びのある声で、一番、何というか絶唱に当たるようなとこを歌うわけですね。で、とにかく、僕の苦痛のあるところで、僕を気づかせてほしいと。で、僕の全て、僕の血と涙はもう、恐怖を捨てたと。で、僕は歌っているっていう後に、"I’m takin’ over" ていうんですけど。takin’ over っていうのは、まぁ乗っ取るということですよね。で、僕はそのつまり恐怖や苦痛みたいなものを、むしろ乗っ取って、自分のものにして、その上で歌ってるんだ、っていうな感じです。それで "You should know" ……君はそのことを知るべきだ、っていうふうになります。ですから、まぁそこまでで、その自分たちの不安な状況、それに対する戦いの決意で、なんていうか苦痛・恐怖や苦痛を血肉にして生きている。で、それが歌うことだっていうふうな、マニフェストがあるわけですね。」

「というわけで、聴いていただく前に、だいたいこんなこと歌ってますよっていうのをご紹介したわけですけれども、最後にちょっと付け加えます。最初のね───(弾きながら) で、それの次の──これですね、なんとなく東洋的な感じしますよね、お聴きになると。で、これは、あの──(弾きながら) こういう東洋的な、五音音階。ペンタトニックなんですね。つまり普通は七音音階。八音目でオクターブで元に戻るという、まぁいわゆるマイナースケールですね。短音階という、まぁこれ、あのだから、A minorの曲。イ短調の曲なんですけども、しかしその中で、かなりの部分この──つまりあの、五音階。七音ではなくて、五音だけでできた音階を使っていて、だからその一応歌詞は、これ韓国語と英語、混合なんですけれども、音楽としてはですね、まぁ一応、その西洋音楽で言えば、A minor=イ短調の曲でありながら、ある種その東洋的なペンタトニック=五音音階というのを、非常に強く意識させるような曲になっていて、その部分もとても面白いと思います。で、まぁこれ、ミュージックビデオだと、もうどうしても圧倒的なダンスなので、ダンスを見ちゃうんですが、ちょっとそういうことも含めて、音楽として1回ゆっくりラジオで聴いていただければいいかと思いますので、BTSの2000年の頭ですね。つまりパンデミックが始まる直前、その「ON」っていうのを聴いてみます。」

「いかがでしょうか。まぁ、これ日本で言うといわばそれこそジャニーズ事務所のボーイズバンドなんですけど、それがですね、つまり「俺に苦痛を持ってこい」というテーマで、これだけの……いわばちょっと交響曲のような広がりのあるようなね、音楽をやってると、これはやっぱりちょっとすごい、と。しかもそれがアメリカを中心に世界中で受け入れられると。韓国語の歌詞は分かんなくても、すぐにミュージックビデオなんかにARMYと呼ばれるファンダムで、字幕がついたりしてですね、世界中でその意味も含めて楽しまれるっていう、これはやっぱりすごく新しいことだったと思います。で、今の「ON」っていうのは、いろいろミュージックビデオご覧になっていると、ある種、映画仕立てというんでしょうか、その近未来の、あるいは中世かもしれないんですけども、一種幻想小説的な感じのビデオがありまして、これは一番最後ですね、なんかすっごい切り立った岩みたいなところ上っていって、 "NO MORE DREAM" と出るんですね。これ要するに、デビュー曲の「NO MORE DREAM」……もう夢なんかない、なんですよ。で、NO MORE がスーッと消えてって "DREAM" が残るんですね。で、素直に見ると、「もう夢なんかない」っていうのから出発して、「いま夢を語れるところまで来た」と言ってもいいです。しかし、もうちょっと過激に読むとね、「もう夢なんかない。だから夢見るんだ」と言ってるようにも見えますね。そういう意味で、ある種、最初のときに戻って、それからずっとこう長い雌伏のときの後、かなりアイドル路線で、まぁスイートなみんなに愛される路線を行ってるんだけども、見ようによってはですよ、そういうアイドルだからみんなに愛されるようにとかいう球も避けたいんだ、と。自分たちの本当にやりたい音楽は、こういう音楽なんだというのをこういう形で出している。で、それが彼らの「DREAM」だというふうにも見えます。それからもう一つ、キネティックマニフェストフィルムっていうのがありまして、これはあの、カリフォルニアあるものすごい巨大なダムのところで撮ってまして、ミュージックビデオとしても、ものすごいかっこいい。で、ダンスは素晴らしいですけれども。それとかですね、まぁもちろん舞台でのパフォーマンスとかで注目すべきことは、一番最後は7人で観客に背を向けて、肩組むんですよね。これは実はその「NO MORE DREAM」の直後ぐらい、1曲間あるかもしれませんが、「N.O」っていう曲があるんですね。エヌ・ピリオド・オーなんですけど、「N.O」という曲がありまして、これは要するに、大人たちにノーと言え!っていう曲なんですね。で、あの管理社会で、学校でロボットのように情報を詰め込まれてる、と。そんなんじゃないんだ、と。で、それに対してノーと言え、というある種のアジテーションみたいな曲で、これが最後、全員背中向けて終わるんですよ。まぁだから長いファンにとっては、あ、最初の「NO MORE DREAM」……それから3つ目ぐらいですかね、ごく初期の「N.O」というのが、今こういう形で、つまり「ON」というふうに、NOがONに反転されて戻ってきてるんだと。で、1回アイドル路線になってもちろんトップアイドルなんけど、アイドルがもう1回そういうヒップホップグループの頃の精神で戦い続けるぞ、というね、戦闘宣言として、すごく面白いと思います。」

「もう1個だけ付け加えておくと、アメリカのですね、いわゆるお笑いトークショーホストの番組にもよく出てるんですね。それで、ジミー・ファロンの「ザ・トゥナイト・ショー・スターリング・ジミー・ファロン」というのに出たときの、このパフォーマンスはすごく面白くて、それはここ数年、やっと改修工事が終わったニューヨークのグランドセントラルステーションというですね、巨大な駅で、多分あれ朝の3時ぐらいに撮ってるんですよね。床もツルツルでしょうし、あれは大変だったと思いますけれども、見事なかっこいいパフォーマンスなんですけど。で最後、その鼓笛隊の人たちが、あたかもそのラップとかでMCがマイクを落とす……Mic Dropっていうね、まぁ「MIC Drop」という曲もBTSにありますけども……えーそのように、その鼓笛隊の人たちがスティックを落とすんですね、スティックドロップすると。そうすると、カランカランという音が、巨大な駅のホールに響くという……これはなかなかいいよね〜と思いました。まぁこのように、これ今ラジオの番組なんですが、ミュージックビデオとかも本当によく考えられていて、なんていうか毎回おっと言わせるようなことがあるというね。まぁ全体として言うと、ですから、あのBTSはそのヒップホップグループとしての限界を超えるために、アイドル路線に大きく切り替わって、で、それが今のそれこそ、「Butter」とか「Permission to Dance'」とかに繋がるわけですけども、しかし、最初のヒップホップグループだったときの闘争心というか、Angry young menってやつですよね。怒れる若者たちの、ある種の……炎のように燃えるものっていうのは、ずっと持ってるんだということをね、2000年の段階でこ、ういう非常にバージョンアップされた、ほとんどシンフォニックな広がりのある形で示したというので、僕、実はここで、あ、これはすごいと思ったんですね。アイドル路線で売れるっていうのは、もちろんそれは簡単なことじゃないですし、世界的なアイドルになるのは大変なことですからすごいですけど、しかしそうなりながら、その自分たちが今その世界的なアイドルとして抱えているような、ある種アンビバレンスですよね。で、その中で引き裂かれてあることを受け入れる。で、その苦痛を、いわば血肉化して、それで生きる、で歌う。それが今の私達の闘争の音楽だっていうですね。これはまぁ、さすがBTSと、防弾少年団という感じはしました。で、不幸にして、その後突然パンデミックが世界を覆いましたので、もう1回急速にギアを切り替えて、凍りついたように見える出口のない世界で、お家のみんなが楽しめる元気になるような音楽をというので、またぐっと……癒し、で元気づけるような方向、まぁポップソングの方向に舵を切って、それが結果的にさっきのその「Butter」とか「Permission to Dance'」とかにいくわけで、この後どうなるか分かりませんよ……分かりませんし、その「ON」みたいなすごい激しいのは、一応あそこでピリオドで、しばらくないかもしれませんけども、ちょっとここ振り返って、この曲を取り上げようと思いましたのは、そういうわけで、そのBTSというグループ……非常に戦闘的に始まり、で途中である意味ではその音楽マーケットの需要もあってアイドル路線になってるんだけども、しかし、その世界的アイドルになった段階でもう1回ね、その戦いのマニフェストみたいな「ON」っていう曲をやっている。今後どうなっていくか分からないけれども、やっぱりその二面性があるところが、まぁ目が離せないところかなというふうに思ったりします。で、そのことは、このバンドの人気ともすごく関係してると思いますね。つまり、まぁヒップホップってのもちろんアメリカで……特にアフリカン・アメリカンですね、その影響を受けて韓国語のラップ、あるいはヒップホップみたいなものが、ずっと展開されていって、BTSもその延長上にあるわけなんですけれども、そのヒップホップグループの、例えばそのいわゆるギャングスタ・ラップ、あのギャングスタという、まぁ要するにこう、不良少年団みたいなものの音楽……あるいはカルチャーみたいなものと、どうしてもこれも結びついてるとこがあるわけですよね。で、まぁ例えばアメリカで言えば、二、三年前ですかね。“テイラー・スウィフト、カニエ・ウェスト事件” っていうのがありまして、でテイラー・スウィフトが、ミュージックテレビジョンですね、MTVの賞を受けて喜んでスピーチしてたら、カニエ・ウェストが乱入しまして、で、「いやあんたは、何か白人のお嬢ちゃんが舞い上がってるけども、言っとくが最高のMTVは、やっぱりビヨンセだぜ」みたいなことを、マイクを奪い取って言うというね。で、それはもちろん黒人が白人に対して、プロテストしていると言っちゃいえますけども、しかしそのでっかい男がですね、まぁ若い女性を脅迫しているとも言えるわけですよね。で、そういうね、なんていうか、不良の文化だからこそ持ってる面白さというのはあるんですけど、そのいわゆるギャングスタ・ラップ的なものを中心とするヒップホップグループというのは、なんとなく男性中心主義的なところに行きがちであるわけですよね。で、かっこいいけど危ない、という。それで非常にこう肉食系というか、そういう感じになります。で今度、逆にアイドル系の方になりますと、これは特にその日本のジャニーズとかもそうですし、最近はもうそれこそタイとか台湾とか、もう世界中でそういうふうになってるんですが、もうほとんどですね、BoysLoveの好きな女性ファンのために、可愛らしく振舞うと。で、やたらにスキンシップが多いみたいなね。で、それ僕は悪いことと思いませんよ。戦争ができない国になって、みんなが可愛い男の子としてチャラチャラしてるというのは、非常に結構なことだと思いますけども、まぁあまりにも何と言うかな……かっこかわいいと言え、もう単にかわいいの方に傾斜しがちであるみたいなことがありますよね。で、その中でそのBTSというのは、一応もちろんアイドル路線になりましたので、それこそジミンとかさっきのテヒョンとか、ジョングクとかいうのは、もうすごい可愛いですから、みんなに愛されてますよ、明らかに。なんですけど、しかし同時に、やっぱりその最初はそのヒップホップで戦闘的だった、その精神は今も残っているというこの両方があるんですね。だから、かっこいい、戦闘的であるけれどもかわいい。で、かわいいけども、しかしあの戦いの炎は消えていない、みたいな非常に深い意味でかっこ可愛いんですよ。で、どうもアメリカとか、あるいは西側世界では、やっぱどうしてもですね、そういうマッチョ的な男性が支配的で、かつてそれこそショーン・コネリーとか、最近007を引退するようになったそのダニエル・クレイグとかですね……ああいう男の中の男みたいなのがあって、それからこんど逆に、ジェイ・Zとかカニエ・ウェストとか、そのでっかいアフリカ系のかっこいい黒人っていうのがあって、そういう感じが、だいたいトップスターだったわけですね。で、そうじゃないある種の男性像ね……で、一昔前、アジア人っていうのは、もうみんなこう目がつり上がっててツルツルの顔したやつらだと、いうような偏見があったぐらいなんだけど、逆にね、そういうあんまりギラギラした男臭さがない。髭生やしたりとか、そういうこともなくて、とても美しい……で、美しいけれども強いっていうね。それが崩して言うと、かっこ可愛いになるんでしょうけれども、そういうようなアジア人っていうのが、本当の意味で、アメリカとか、あるいはそのヨーロッパとかでも受け入れられてきたという感じがする。で、あのスポーツとかでも、大谷翔平選手というのは圧倒的なスターですけど、あれ、アメリカの野球選手とかが並んでて、みんなすごいおっさんの中にいると、本当にかわいい男の子なんですよ。かわいい男の子なんだけど、圧倒的に強い。ベーブ・ルースの再来か、と言われるようなもんでしょ。で、そういうですね、強いけど、いわゆるギラギラした男臭さがない。で、美しいんだけれども強いっていうね。そういうある種の東洋的男性像みたいなのがあって、それがまぁ音楽でも、こういうそのかっこ可愛いBTSみたいなものによって、体現されてるっていうような感じはします。」

「で、ちょっと日本のことを付け加えて言いますと、あの、さっき言いましたように僕はその日本のジャニーズを中心とする、あるいはそのAKBファミリーを中心とするアイドルシーンみたいなの、全然悪いと思いませんよ、それはそれでいいものですよね。で、秋元康さんの言ってたのは、「いつでも会いに行ける身近なアイドル」ということだったんですよね。で、それは一つの選択ですよ。いわば地産地消で、みんなで握手会とかに行ける範囲でみんなで盛り上がるというね。しかし悪く言うと、やっぱり非常に内輪受けというか、内側に籠もっていく感じはします。韓国はそうではなかったわけですね。で、元々、例えば一つの曲がだいたいプロモーションとかが終わると、1回引っ込むわけです。次の曲を全力で作り全力で練習するんです。それをカムバックして……っていう言葉があるわけですが、日本だとそう長く引退した人がカムバックするんですが、韓国だと次の曲を作るために集中してた人たちがカムバックして、ちょっと誰にも真似できないようなことをやるというね。で、それをさらにこうワールドシーン……世界グローバルなシーンでやってるのが、BTSという感じがします。そういう意味で、身近なアイドルたちで内輪で和みましょうっていう日本カルチャーが、なんとなくこう……世界をリードするというよりは、かなり守りに走っているその日本の社会、で経済とかとある種対応しているとすればね。まぁ、韓国はその市場が小さいということもあって、世界で勝負しないと、どうしようもない。さっき言ったようにそのIT振興から文化コンテンツ振興というのは、完全に当たって今もう世界的になってるわけですね。その先頭を、BTSのグループが走ってるというのは、この二つの国の間の、今の違いみたいなものをすごく象徴している。内側で楽しんでてももちろんいいと思いますけれども、他方で、しかしこんなに覇気がなくなっていいのかなぁということは、ちょっと思ったりするというのが正直なところと、いうことになります。で、まぁあの、そういうわけで、今日はBTSというのをですね、あんまり普段聴きならないかもしれない、この「ON」ですね……まぁパンデミック直前、改めての戦闘宣言みたいな曲を聴いていただいて、これが単なる、その可愛らしいいアイドルバンドというのではない。本っ当にかっこ可愛い。で、世界で戦うというですね、アジアを代表するボーイズバンドになったというね。で、日本人としてはもちろん応援したいと思いますし、半ばちょっと羨ましいなあと思ったりもするということで、BTSの改めての紹介というふうなことにさせていただきました。」

「それで、このJ-WAVE レディオ・サカモト。まぁ前半、こういうやや堅苦しいレクチャーということで、やってきたわけですけれども、まぁ後半は恒例のですね、オーディションコーナーなどもありまして、まぁ他の人たちにそろそろバトンタッチする時間かと思いますので、私、浅田彰の話は、ここまでということにさせていただきます。坂本教授の無茶振りに応えられたのかどうか非常に心もとない……ある種、アマチュアですね、の話になったかもしれませんが、アマチュア=amateurというのは、愛する人……っていう意味なんですよね。音楽を愛し、ミュージシャンを愛し、そういう立場として、BTSというものに対する今の僕のいろんな考えていることを話させていただいたということになります。長くお付き合いいただきまして、ありがとうございました。ダンスをするのに許可は要らない。この曲でお別れしたいと思います。」


<デモテープオーディション – U-zhaan, 長嶋りかこ, 蓮沼執太>

U-zhaan「J-WAVE レディオ・サカモト。ここからは、療養中の坂本龍一さんに代わって、 僕、U-zhaan と…。」
長嶋「長嶋りかこと…。」
蓮沼「蓮沼執太の3人でお届けしていきます。」
U-zhaan「いつもどおり、えー全員リモートでの審査となっております。番組前半は、浅田彰さんによるBTSの講義だったんですけど、執太や長嶋さんは、BTSは詳しいですか?」
長嶋「私、これで、初めてBTSを知ったっていう(笑)」
U-zhaan「え、名前は知ってました?」
長嶋「いや、全然知らなかった私。」
U-zhaan「名前も知らない?」
長嶋「はい、すいません。」
U-zhaan「かなり、あれですね。かなり全く違う情報源の中で生活してるんだっていう感じが、清々しいですね、ははっ。」
長嶋「はい。すぐ検索して、あ、こういう人たちがいるんだって(笑)、初めて知りました。」
U-zhaan「え、蓮沼さんは?」
蓮沼「僕はもちろん。」
U-zhaan「よく知っていますか?」
蓮沼「いや、名前は存じてまして。で、僕の友達がほんと好きで。で、飯を食いながら歌ってたりするし、なのでそういった感じでBTSには触れてました。」
U-zhaan「好きな人が勧めてくれますよね。非常に。」
蓮沼「そうですね。多分、歌いやすいから、すごいいつも歌ってくれる友達がいます。楽しいよ。」
長嶋「ふーん。U-zhaanはどうですか?」
U-zhaan「僕もやっぱり周りにすごく好きな人がいるんですけど、そのBTSを全く名前も今回初めて聞いた長嶋さんって普段はどういう生活をしてるんですか。テレビとかは全く見ない?」
長嶋「見ない。あの今見てるの、ほんと子供番組、それ録画したやつを見るくらいしか、見てない。」
U-zhaan「あとは、音楽はどういうのを聴いてたりするんですか?」
長嶋「(笑)全っ然聴いてないです。」
蓮沼「あはは(笑)」
U-zhaan「全然聴いてない。この2ヶ月に一度のオーディションコーナーで、全て満足してしまう。これをあれですよね、繰り返しくりかえし聴いてるのかもしれないですね。」
長嶋「はっはっはっはっは(笑)。そんな人が審査してるなんていう、恐ろしいです、ほんとに。」
U-zhaan「いやいやいや。フレッシュな感覚で聴けるんじゃないかと思います。」
蓮沼「うん。」
長嶋「恐ろしいです(笑)。」
U-zhaan「えー、さてデモテープ・オーディションの優秀作の発表。今回は、ここ2ヶ月の間に応募頂いた150作品の中から。今回も面白い作品がいっぱいでしたね。最初に蓮沼さんが2曲選んだことによって、ちょっと順番がぐちゃぐちゃになりましたけど。」
蓮沼「欲張っちゃって、ごめんなさい。気をつけていきたいですね、はい。」
U-zhaan「僕も気をつけていきます。ありがとうございました。」
長嶋「(笑) ありがとうございまーす。」
蓮沼「ありがとうございます。」


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<坂本龍一:プレイリスト「RadiSaka2021-11」>

今回も、番組のために教授が選曲したプレイリストを約25分間ノンストップでオンエアしました。
Spotifyに、プレイリスト「RadiSaka2021-11」としてもアップしています。