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≪GOE≫東の果ては蒼茫として・後編

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≪GOE≫東の果ては蒼茫として・後編
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 ヴィクトリア連合王国から東の果てにある瑞穂皇国
 東都から西都へ向かう途中に阿由知(あゆち)はある。元は御母衣家の要所の一つであり、現在、県令として治めているのは前将軍の弟・御母衣 金嗣(みほろ・かねつぐ)だ。
 その阿由知まであと少し、手前の小さな村に、御母衣 伽耶(みほろ・かや)の一行はいた。
 小屋の主である男は、伽耶たちが泥だらけ、護衛の星導士たちに至っては傷だらけなのを見て大層驚いたが、盗賊に襲われたという色 九十九(しき・つくも)の言い訳を信じたようだった。彼の星導士ライセンスも効いたろう。
 男の妻は怪我人の手当てを手伝い、伽耶には白湯を入れてくれた。九十九は金を渡し、一晩だけ小屋を借りることにした。夫婦は謝礼に頭を下げ、自分たちは馬小屋で眠ると言った。
「まずは一つ、確認したい」
 蒼心院 響佑は、伽耶の顔を真っ直ぐ見つめた。
「あくまで俺の仮説なんだが……、将軍の妹の輿入れの時期と重なる西都への移動、そしてこの襲撃だ。もしかして、御乗列車は囮で本物の御母衣伽耶様は貴女なのでは?」
 伽耶もまた、真っ直ぐに響佑を見つめ返した。黒い瞳には一点の曇りもなく、ただ悲しみを帯びているように思えるのは、皇 蒼(すめらぎ・あお)が攫われたからだろうか。
「その通りです」
 その答えに、響佑も他の者も安堵の息をついた。謎が一つ解けた。この先を進むには、真実が必要だ。騙されたと怒る者はなかった。
 やはり、と響佑は頷いた。
「であれば、速度の出る列車での移動をお勧めします。俺たちが襲われていることを踏まえると、動きが漏れている可能性が高いですしね。どうせ襲われるのなら、速くて警護の行き届いた列車で、ということです」
「それはちと、問題があるぞ」
 九十九が口を挟む。
「と言うと?」
「第一に御乗列車が走るために、それ以外の列車はまともに使えん」
 皇国の列車は、一般人も使えるが、公共交通というほど浸透していない。この婚姻が最優先されるのは、当然だった。
「となると御乗列車だな。速くて警護の行き届いたと言うが、その警護は俺たちか? それとも、軍の連中か?」
「それはもちろん、軍だ。我々も入るが」
「あっちの影武者はどうなる?」
「もちろん、入れ替わって……」
「入れ替わるのは端からそのつもりだが、軍の連中は、ほとんど影武者のことは知らんはずだぞ」
「そうウサか?」
と変わった語尾で尋ねたのは、ラヴィ・パンキッシュだ。
「ああ。ごく一部の者だけが知っていると蒼が言っていた。そうでないと、どこから情報が漏れるか分からんからな」
「結局、漏れたわけだが」
「どうやって合流するつもりだったウサか?」
「それが、な」
 九十九は跋が悪そうな表情をする。「詳しいことは、分からんのだ。蒼にもだ。何せ、計画を知っていたのは、あいつのお頭様だけだったらしいからな」
 ラヴィも響佑も呆れた。
「姫様は何か、元の計画についてご存知ないのですか?」
と、ブラックロータス・エクスマーキナーが尋ねた。
「わたくしが聞かされていたのは、御乗列車が甲府駿東(すんとう)阿由知淡海(おうみ)に一時停車するということだけですわ」
「それなら、そのどこかで入れ替わるつもりだったウサね。甲府と駿東は何もなかったウサから、阿由知か淡海の予定ウサね」
「阿由知の可能性もあるか」
 西都までの距離を考えれば、妥当だろうと響佑は考えた。
「伽耶様。阿由知の県令、御母衣金嗣様は伽耶様の叔父上と聞いております。列車は警護が影武者の存在を知らないとするなら、列車へ合流するため、御母衣金嗣様に助力を求めてみては如何でしょう?」
「それは良い考えですわ」
 にこりと伽耶は答えた。「叔父様なら、きっと引き受けてくださいます」
「その金嗣様ですが、どのようなお方なのですか?」
と、ブラックロータス。
「とても優しい方ですわ。なぜですの?」
「いえ、この入れ替わりの計画を誰が知っていたのか、と思いまして」
「確かにな。前将軍の弟なら、今の閣下が相談していてもおかしくはない」
 九十九が頷いた。
「それは分かりませんが、わたくしが知る限り、この計画を知っていたのは、兄上、御堂様、御庭番の方々ですわ」
「御堂?」
 レベッカ・ベーレンドルフが眉を寄せた。
「姫様が名乗られた御堂 カナ(みどう・かな)というのは……」
「御堂様の妹君ですわ。わたくしの身代わりとして、御乗列車に乗っています」
 レベッカたちは思わず九十九を見た。九十九は知ってたよ、とでも言いたげな顔だ。
「架空の名より、実在する人物の方が何かと説得力があるだろう? 御堂 朝陽(みどう・あさひ)は閣下の副官だし、その妹ともなれば、調べられたとしても、何かと無理を通しやすいと思ってな」
「カナ様の方が一歳上ですが、仲良しですのよ、わたくしたち」
 しばらく考え込んでいたレベッカが口を開いた。
「状況から察するに、黒幕はそれなりの権力者だろうと思う。この計画を知っていたのだから、それを知る立場にあった者、ということだ」
「まあっ。兄上も御堂様もそんなこと、なさいませんわ」
「分かっています。ですが、横から漏れた可能性はあります。本人にその気はなくとも。そしてその人物は、少なくともそこに出入り出来る人間です。誰が敵で誰が味方か、はっきりさせるため、正体を把握したいところですが」
「どうする気だ?」
と九十九。
「蒼を」
「蒼を、どうするつもりなのです?」
 初めて、伽耶の顔色が変わった。
「落ち着いてください、姫様。蒼のことは必ず救います。――だろう?」
 同意を求められ、響佑、ラヴィ、ブラックロータスは頷いた。
「ただ、不幸中の幸いとでも言うべきか、彼を攫ったということは、目的は蒼自身――であれば、命に関わるようなことはないでしょう。ここは一つ、何とか蒼の居場所を見つけた上で犯人を尾行し、黒幕を突き止めるべきです」
「さっきの連中か?」
「もしくはアルカイル・イル
 つい何時間か前に襲ってきたのは、特異者である。アルカイル・イルがこの件で動いているらしい、との噂は既にあった。手を組んだ可能性もあるが、別で動いていたと見る方がいいだろう。
「もし、敵の敵が現れたら味方と見なし、蒼の奪還のみに専念し」
「いや、それはちと待て」
 九十九がかぶりを振った。
「仮にアルカイルが犯人だったとしよう。奴と黒幕、そして別の者が襲ってきたとして、その連中の目的が蒼でないとなぜ言える? 我らの敵ではないという確信は?」
 レベッカは黙った。特異者であるから、という答えを言うわけにはいかない。
「――ならば、敵の可能性も考慮し、警戒しつつ蒼を奪還する、というのは?」
「ま、妥当だな。本来なら、黒幕をとっ捕まえたいところだが、それは依頼内容にはないわけだし」
「それまでに自動車を手に入れ、脱出後は西都まで真っ直ぐに移動する」
「どうやって手に入れるつもりだ? と訊くのは野暮か。お前ら、俺より金を持っているようだしなあ」
 特異者なので、とは答えられず、表情を変えないレベッカに代わり、響佑が愛想笑いで誤魔化した。
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