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菊花賞から三日が経過。体内にエラーを確認。 ……訂正、異常箇所は体内ではなく精神、つまり心にあると推測。
「君はここで終わりなんかじゃない! もう君は一人じゃない、僕がいる。……ここから改めて二人で頑張っていこう」
ログから菊花賞敗北後のワンシーンの自動再生を確認。 なぜでしょう。この時のマスターの声を再生するたびに体の奥からエネルギーが湧いてきます。 ライスさんの背中を見てゴール板を踏んだ後、心臓を縛り付けられたかのように苦しくて目の前すら見えなくなって戻ってきた時かけてくださったマスターの言葉。 あの言葉のおかげで私は悔しさとライバルを得ることができました。 あぁ、マスター。私を導いてくれる光、あなたがいるのなら私は――――
「マスター、『恋』というのは一体どのような感情なのでしょう?」 ミーテイングを終え、一息ついたところでの急な質問にトレーナーはコーヒーを吹き出しかけた。
「ぶふっ⁉ ど、どうしたんだ?」 「いえ、マスターならばご存知かと思いまして」
トレーナーは何かを察したようにニヤリと笑った。
「へぇ、ブルボンにも好きな奴がねぇ。それで? 何所の高校の子なんだ?」 「……それはどういった意味でしょう?」 「なんだよもう、隠さなくてもいいって。その辺の同い年でいい男でも見つけたんだろ?」 ぴくりとブルボンの耳が反応して後ろの方に倒れる。
「返答を拒否します。いいからマスターの考えを教えてください」 「あ、あれ? ブルボンもしかして怒ってる?」 「回答は否、別に私は怒ってなどいません」 わずかながらに頬を膨らませるブルボン。
「どうせマスターには女性の一人や二人いると推測」 「いやいないって。……いや確かに女友達ならいるけどさ」
それを聞いた途端ブルボンはがたっと立ち上がった。
「あ、あのブルボンさん?」 恐る恐る声をかけるトレーナー。 「……申し訳ありません。今日はこれで失礼いたします」 トレーナーの掛け声を無視して部屋を出ていくブルボン。
――――わかりません。私はどうしてマスターの話を聞かずに飛び出してきてしまったのでしょう。
廊下を無心で歩くブルボンの脳裏に先日フラワーから借りた恋愛漫画がよぎる。
――――可能性を否定。確かにあの本を読んで恋というものに興味を抱きましたが、私がマスターに抱いているのは尊敬であって恋慕では……。そもそも男女間の友情の話に科学的根拠はないと主張。いずれにせよ私には無関係な事象です。
足を止めて窓の外を見やる。 外では次のレースをまじかに備えたウマ娘たちが走っているのが見えた。
「……今が休養期間で助かりました」 ブルボンは包帯の巻かれた右太ももにふれる。
「しかしミーティングが終わっていたとはいえ出てくる際に取ってしまったあの態度……」
しゅんと耳が萎れる。
「明日はオフ……私は一体どうしたらいいのでしょう」
「ありがとうございました~」
次の日、ブルボンはショッピングモールに来ていた。
「ミッションを達成。……しかし本当にこれでよかったのでしょうか?」
その手にはたった今出てきた店のロゴが入った小さな紙袋。
「フラワーさんの言葉を信じましょう。二冠を取らせていただいたことへの感謝と昨日の謝罪、それから――――」 改めて中身を確認しているとどこからか聞きなれた声が耳へと届いた。 「200m先にマスターを確認。緊急ミッション『マスターとの買い物』を実行」
わずかに顔をほころばせてトレーナーのもとへと足を踏み出そうとしたところで体の動きが止まる。 トレーナーの横には見たことない人間の女性が立っていた。
「……憶測による決めつけは不毛です。まだマスターの親族である可能性が高いと判断」
そのブルボンの祈りに等しい言葉は直後の女性の行動によってあえなく砕け散った。 するりと伸ばした腕をがっちりとトレーナに絡ませる。 トレーナーの方は少し迷惑そうな顔をしているがこれといって拒否しているようにも見えなかった。
「……ログにはマスターに恋人はいないと書かれています。なのに、なぜ?」
その場から動くこともできずにトレーナーとその女性の動向を眺めるブルボン。 二人は腕を組んだまま服屋のマフラーのコーナーに入っていった。
「胸の奥がきりきりと縛り付けられるような感覚、これは一体?」
経験したことのない胸のざわめきに不安を覚えてうつむく。
「……今はそんな場合ではありません。対象の観察をさいゆ――――」
視線を切ったのが幸いというべきか不幸というべきか、彼女が次に顔を上げた時、そこに映っていたのは店内の死角になりそうな場所で女性とキスしているトレーナーの姿だった。
「――――――――っ」
「はぁ、はぁ、はぁ」
思わず駆けだしたブルボンは途中で降ってきた雨をしのぐため公園の滑り台の下に避難していた。
「エラー音が、警告が鳴りやみません。こんな事態は初めてです」
びしょびしょになったまま体育座りで座り込む。
「……涙が止まりません、胸も張り裂けそうなほど痛いです。どうしてそれなのにマスターの事ばかり考えてしまうのでしょう」
頬を伝う涙をぬぐう気力もなく膝を抱え込んでうつむく。
「これが『恋』なのですか? こんなにも『つらい』気持ちをするくらいなら、私は『恋』など知らなければよかった。あなたの笑顔に、優しさに触れなければ、私に笑い方なんてあなたが教えなけれこんな深刻なエラーを起こさずに済んだのに」
涙は勢いを増した雨と溶け合いブルボンの下に水たまりを形成していく。 ズボンや靴にはすっかり水が染み込んで変色しているが、今の彼女にそれを気にする余裕はなかった。 ――――もう、潮時なのかもしれません。……マスターの隣にいられるのは私ではなかったのですね。 「――――ン」
――――けれど、最後に一度だけ。マスターに会ってこれを渡したかった。 「――――ブルボン!」
待ち焦がれていた、来ないはずの声が耳に届き、思わず顔をあげる。
「ほっ、良かった。でもなんでそんなとこで座ってたんだ」 「ま、ます、たー?」 そこには傘をさしてブルボンの方を覗き込むトレーナーの姿があった。
「どう、して? あの女性とお付き合いしているのでは?」 震えた声を懸命に出してトレーナーに尋ねる。 「……やっぱり見られてたのか。あれは誤解だ。あいつはただの友達なんだ」 「その回答では納得がいきません。なぜマスターは腕組みをしていたのですか?」 「……それがあいつに頼る条件だったんだよ。さすがにキスされるとは思ってなかったよ」
へにゃりとした笑顔を向けるトレーナー。
「条件?」 「あぁそうだよ。ほら、昨日ブルボンのこと怒らせちゃっただろ? それのお詫びとあとは三冠は届かなかったけれど二冠を達成した記念に何かを渡したくって……。でもなにを送ればいいのかわからなくってさ」 「――――っ! それならば私も」
照れくさそうに笑うトレーナーにブルボンはびしょ濡れになった紙袋から小さな箱を取り出す。
「これはネクタイ?」 「はい。昨日の謝罪とこれまでの感謝を込めて。フラワーさんにアドバイスを頂きました」 「そうだったのか。ありがとう、大切に使うよ」
トレーナーに差し伸べられた手を取り、滑り台の下から出てくるブルボン。 雨はいつの間にかやんでいた。
「僕もマフラーを渡したかったんだけど結局買えてないからなぁ」 「いえ、お気持ちだけで十分です。私はすでに『満たされ』ましたから」 「いや、そういうわけにもいかない。……そうだ、ブルボン、少し目を閉じててもらえないかな?」 「了解しました」
トレーナーに言われるがままに目を閉じる。
「昨日言ってたよね、恋ってどんな感じですかって。僕にとっての答えはこれだよ」
甘く暖かくほんのりとした湿り気。心は快晴の青空のように澄み渡り、あなたのことで頭がいっぱいになる。 ……なるほど、これが『恋』なのですね。
……ミホノブルボン難しい。いまいち自分の中でキャラをつかみ切れてない感じがします。
あんまり納得が行ってないので後で新たにブルボンは書き直すかもしれません。
PS,明日は愛バシリーズ番外編。明後日はフクキタル純愛の予定です