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お砂糖
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ボクのオペラを聴いてくれ - お砂糖の小説 - pixiv
ボクのオペラを聴いてくれ - お砂糖の小説 - pixiv
4,723文字
ボクのオペラを聴いてくれ
「やめときたまえ!やめときたまえ!彼は付き合いが悪いんだ!
「我が生涯の伴侶になりたまえ」って誘っても嬉しいんだか嬉しくないんだか…
『テイエムオペラオーのトレーナー』 年齢不詳 独身
仕事はまじめでそつなくこなすが今ひとつ情熱のあり過ぎる男……
なんかエリートっぽい気品ただよう顔と物腰をしているため ボクにはもてるが トレセン学園からはボクのトレーニングの指導とかすごいことばかりさせられているんだ
悪い人ではないんだがいまいち自分本位というか相手の気持ちを分かっていないというかせっかくボクがあんなにも準備を整えて彼を待ち構えていたというのにたった一言で全部ぶち壊しにしてくれてしまったのにはほとほと参るよこの前も一緒に温泉旅行に行ったら無闇矢鱈とボクのことを褒めてくるしいやそれは当然ボクは褒められて然るべき存在だからいいんだけど素面でだよ素面で美しいだのなんだの歯の浮くような台詞ばかり並び立てるものだから流石のボクも呆れてしまいおめおめと温泉に逃げ込む始末というわけさ全くひどい男だと思わないか本当に彼はボクの心というものをまるで理解していないんだ勿論褒めるべきときは大仰に大胆に遠慮なく褒めちぎって欲しいのだがそれはあくまで歌劇的にという意味であってそうまでまっすぐ見つめられて飾らない言葉で褒められてしまうとこの世界で一番輝かしく美しい存在はボクであるという確信が不甲斐なく揺らいでしまい彼のことばかり脳裏に思い浮かぶようになってしまうのは一体どういうわけだと考えるのだが一向に答えは出ないのだよまさにこの世の七不思議という話だねまあそんなわけでこれといって特徴のない……影のうすい男さ」
「ヒョェ」
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2021年10月15日 10:58

テイエムオペラオーの作戦は完璧だった。 世紀末覇王としてトゥインクル・シリーズの三年間を輝かしく、(きら)びやかに駆け抜けた彼女であったが、まだまだその手に掴めていない栄光は星の数ほど溢れている。 その果てしなき前人未到の旅路の一歩を着実に歩み出さんがため、綿密な計画立案のもと、今宵の作戦決行へと踏みきったのだ。 即ち、共に三年間を駆け抜けた我が担当トレーナーを生涯の伴侶と定めて、永久(とこしえ)の誓いを(ちぎ)り、人類の王へと押し上げる。 これを以てテイエムオペラ王朝を打ち立て、人類の王たる彼と世紀末覇王たる自分とでこの世界を(ねんご)ろに支配し、未来永劫終わることなき理想郷を完成させる。それが彼女、テイエムオペラオーの目論見なのだ。 この神聖不可侵な目的を確実に達成すべく、オペラオーは思い付く限りの入念かつ周到な準備を尽くした。 特注の衣装である。お揃いの指輪である。 赤薔薇を百本集めたとびっきりの花束も注文したし、最高の景色が一望できる素晴らしいスポットも徹底的に調べ上げた。 そして何と言っても力を入れたのは、彼への想いを告げる豪華絢爛(けんらん)な一大オペラだ。 脚本ボク演出ボク作曲ボク主演ボクによって構成されたこのオペラは上映時間にして四時間を数える大傑作であり、オペラオーは読み上げる台詞の一言一句を完全暗唱することは勿論、一挙手一投足一呼吸に至るまでを研ぎ澄ましに研ぎ澄ませ、これ以上ない程の盤石の出来栄えを実現させてみせた。 それもこれも全ては彼のため、ひいては彼と共に歩むであろう輝かしい未来のためなのだ。

(ふふふふふ、我ながら文句のつけようがない仕上がりだ。自分の才能が恐ろしくなってしまうくらいだよ。これなら彼も首を縦に振らざるを得まい!まあ、どうせ彼が相手なのだから、わざわざここまで贅沢にしてやらずともいいのかもしれない。ボクが一言彼に告げてやるだけで、彼は喜んでボクとの人生を歩んでくれるに違いないとも。だけどこれは……そう、これは我らのめでたい門出を飾る旅立ちのファンファーレ。どうせなら派手にいくとしようじゃないか。ああ、結果の分かりきった戦いにまで一切手を抜かないとは、なんて罪深い存在なんだボク……!)

要するに、テイエムオペラオーの作戦は完璧だった。 意気揚々たるテイエムオペラオーは、早速我がトレーナーに宛ててオペラへの招待状を書き、尊大にも彼を呼びつけた。 彼女の人生にとってトレーナーがどれだけなくてはならぬ存在であるのか、その想いを過不足なく表現してくれるような納得いく文面の招待状を書き上げるためには、決して少なくない枚数の便箋、そして睡眠時間が費やされたようだが、その辺りはこの際脇へ置いておき、とにかくトレーナーは覇王の召喚要請に応じてのこのこやってきたわけだ。 指定の場所は街を流れる川のほとり、指定の時間は夕暮れどき。 空には(べに)を塗り込めたような赤い夕焼けが眩しく広がり、川の水面は陽光を受けてきらきら光り、オペラオーとトレーナーの全身を美しく照らしてくれている。 この時点で彼女の魅力は普段の五割増しに相違なく、トレーナーもこれにはメロメロ、勝利は約束されたも同然の(ニジュウマル)なシチュエーションだ。 ポケットの中には指輪のケース、後ろ手に隠した薔薇の花束。 最早疑う余地はない。テイエムオペラオーの作戦は、完璧だった。

(はーっはっはっは!それでは開演しようじゃないか!ボクとトレーナーくんが手を取り合って歩き出す未来、そのための栄えある序曲を……!)

上機嫌のオペラオーは息を大きく吸い込み、この日のために幾度となく練習した想いのオペラ、その第一幕第一章の台詞を朗々と読み上げるべく口を開いた。 が、彼女の口が言葉を紡ごうとしたその刹那、呼び出された当のトレーナーが懐からがさごそと何かを取り出し、トレーニングに向かうときのような気軽さでオペラオーにひょいと話しかけてきた。

「やあ、ラブレターありがとう。俺もオペラオーと同じ気持ちだよ。トレセン学園卒業したら結婚しよっか?」

オペラオーは崩れ落ちた。 不意打ちで必殺の一撃を急所に喰らえばさしもの覇王とてこうもなろう。 手から離れた薔薇の花束がばさりと大きな音を立てた。

「い、いや……ラブレターとかじゃ、なくてだね……その手紙はその、招待状で……今日は、ボクのオペラをだね……」 「いやでも、どう読んでもラブレターだよこれ。便箋も可愛らしいし、なんかハートマークで封されてたし。そのつもりで出してきたんじゃないの?」 「だ、だってドトウがどうしてもって……と、というか、結婚って、何の話だい……」 「だからそういう話でしょ、この手紙。生涯の伴侶がどうとか、共に人生を歩もうだとか。いいよ、結婚しよう。婚約でもいいけどね。とりあえず今度一緒に暮らす家でも探しにいこうか」 「そ、そんな簡単な……だってキミ、キミは、それでいいのかい。け、け、結婚なんてそんな、大切なことをそんな風に軽々と……」 「………? 好きな人と結婚しようと思うのが何かおかしいかな?」 「ああああああああっ……⁉︎やめろ、やめてくれっ、素で言うのは……!違うんだ、ボクとキミはそういうのではないんだ!そんな風にはっきりと言葉にしてはいけないんだ!ボクはただ、キミを世紀末覇王たるボクに相応しい男にしようと、そう思ってっ……‼︎」

心臓を強かに射抜かれて地面に両手両膝をついてしまったオペラオーには、既にトレーナーの顔を直視することは不可能だった。 全身に血潮が巡り、首元がほんのり朱に染まって、両耳はぴこぴこと忙しなさげに動いている。 息も絶え絶えに懸命の抵抗を試みるオペラオーだが、トレーナーはどこまでもあっけらかんとしたものだ。

「安心してよ、これでも結構給料貰ってるからさ。一家の大黒柱として君を養うことくらいはできる。といっても、オペラオーがレースで貰ってきた賞金の方が多いだろうけど。何しろ世紀末覇王だもんなあ」 「だ、だからそういう話ではないんだぁっ……!ううううう、大罪だ、これは大罪だよトレーナーくん……!キミのその無邪気な発言が、今のボクには恐ろしい……‼︎」

覇王危うし。歌劇ならばお手の物だが、生身の言葉のやり取りはどうにも気恥ずかしいオペラオーである。 それにしても覇王たる自分をいとも簡単に打ち砕くこの破壊力はどうだ。まさかこのトレーナーはかつて魔を統べる者を打ち倒した伝説の勇者の生まれ変わりだとでもいうのか。 これはまずい。このままでは呆気なく滅ぼされて、光の彼方に溶け去ってしまう。 完全に腰砕けになったオペラオーが必死に打開策を練っていると、意外にもその天啓は他ならぬかの勇者の方からもたらされた。

「はーっはっはっは!哀れなりテイエムオペラオー!これしきのことで滅びかけようとしているとは全くもって笑止千万!それでは我が妻になるばかりか、テイエムオペラ王朝の成立も夢のまた夢というものよ!」 「む、むっ……⁉︎」

突然沸き起こった演説にはっと顔を上げてみれば、先ほどとは打って変わって誇らしげな顔つきとなったトレーナーが、何やら勇ましげな口上を堂々述べているではないか。

「ああ、我が愛しのオペラオー!君は覇王なれど我が身を愛し、我が身はヒトの子なれど覇王たる君を愛している!例え君の威光が地に堕ちたとして、我らの愛を引き裂けるものがこの世のどこに存在しよう!」

胸を張って劇的に歌い上げるトレーナーの声を耳にしたオペラオーの瞳に、活き活きとしたものが蘇った。 素早く地を蹴って立ち上がり、落ちた花束を拾い上げ、本領発揮と言わんばかりに彼の想いへ全霊を以って応え始める。

「お……おおっ!愛しき人よ!天空に輝く星よ!キミが空の彼方に在る限り、ボクはいくら地を這い回ろうと辛くはない!いつかキミをこの両手に掻き抱き、その温もりを胸に感じる日のことを想えば、どうしてこれしきの屈辱に耐え抜けないということがあろうか!」 「ああ、神よ!我が罪を赦したまえ!星の身でありながら貴方に背を向け、暗黒の覇王の隣に寄り添い輝こうとするこの私を!覇王こそはテイエムオペラオー、我が終生の愛なれば!」 「全能の神、何するものぞ!今こそ光と闇の交わるとき、永劫の(ちぎ)りを交わすとき!受け取りたまえ、この真紅の花束を!共に数多の栄冠を掴んだキミに、覇王たるこの身の愛を捧げよう!」 「何たる光栄、何たる至福!或いはこれは夢や否や?如何にしてこのひと時を現のものと言わしめるのか、我が身は寡聞にして知らず!」 「ならばいいだろう、重ねて受け取るがいい、この誓いの指輪を!我らがこの指輪を身につけたとき、我らが愛は永久のものとして世界に刻まれるであろう!」 「おっ、婚約指輪じゃん。嬉しいなあ、ホントに結婚してくれるつもりだったんだ。これ指に嵌めてもいいやつ?」 「うわあ!いきなり落ち着くな‼︎ああああああ滅びてしまううううううう‼︎」

オペラオーは崩れ落ちた。 再び地を這った覇王の心は激しい寒暖差に晒されて爆発寸前、恥ずかしいのか居た堪れないのか既に分からなくなっている。 一方のトレーナー、ペアリングの片割れを己の指に嵌めてみてはご満悦の表情でこれを眺め、

「わあ、サイズもぴったりだ。ありがとう、嬉しいよ。せっかくだしこれからずっと付けていようかな。眺める度にオペラオーと結婚したんだって思えて、なんか嬉しい気持ちになるし」 「た、頼む……頼むからそんな台詞を言わないでくれ……ボクのオペラを聴いてくれ……ボクは恐るべき覇王であって、キミからそんな風に想われるような存在じゃ……」 「それは違うよ。確かに君は世紀末覇王だし、俺はそのトレーナーだけどさ。それ以前に君は一人の可愛らしい女の子じゃないか。俺は一人の男として君を愛していきたいと思ってるし、二人一緒の人生を歩いていきたいんだ」 「んぎゅぅっ」 「正直言うと、結婚指輪くらいは自分で用意してあげたかったんだけどね。一応俺にも男の意地ってものがあるから。でもまあ、いいんだ。オペラオーのことだから、プロポーズのために色々考えてくれてたんだろう?指輪も花束もラブレターも嬉しいけど、俺のために時間をかけて準備してくれたオペラオーの気持ちが俺には一番嬉しいんだよ」

トレーナーはその場へ跪き、地面に崩れ落ちたままのオペラオーを助け起こしてやると、彼女の左手を手に取った。 そしてその細く、しなやかな薬指へ、彼女の分の指輪をそっと優しく嵌めてやり、

「結婚しよう、オペラオー。これからも一緒に、どこまでも走り続けよう。君が隣にいてくれたら、俺にはもう、何もいらないよ」

彼女の手を握り込んだまま、沁み入るように囁いたものである。 オペラオーは、無言であった。顔をあげることさえできなかった。指輪の光る彼女の手が、わなわなと震えている。 そこにいたのは覇王ではなかった。 一人の乙女が羞恥に塗れ、途方に暮れていただけだった。

「……うん。よろしく、おねがいします」

たっぷりの時間を掛け、それだけの返事をかろうじて言って寄越したのが、彼女の精一杯であった。 沈みゆく夕陽が鮮やかに燃え盛り、俯いたテイエムオペラオーの横顔を赤々と染め上げている。 彼女の耳が、へにゃんと萎れた。

ボクのオペラを聴いてくれ
「やめときたまえ!やめときたまえ!彼は付き合いが悪いんだ!
「我が生涯の伴侶になりたまえ」って誘っても嬉しいんだか嬉しくないんだか…
『テイエムオペラオーのトレーナー』 年齢不詳 独身
仕事はまじめでそつなくこなすが今ひとつ情熱のあり過ぎる男……
なんかエリートっぽい気品ただよう顔と物腰をしているため ボクにはもてるが トレセン学園からはボクのトレーニングの指導とかすごいことばかりさせられているんだ
悪い人ではないんだがいまいち自分本位というか相手の気持ちを分かっていないというかせっかくボクがあんなにも準備を整えて彼を待ち構えていたというのにたった一言で全部ぶち壊しにしてくれてしまったのにはほとほと参るよこの前も一緒に温泉旅行に行ったら無闇矢鱈とボクのことを褒めてくるしいやそれは当然ボクは褒められて然るべき存在だからいいんだけど素面でだよ素面で美しいだのなんだの歯の浮くような台詞ばかり並び立てるものだから流石のボクも呆れてしまいおめおめと温泉に逃げ込む始末というわけさ全くひどい男だと思わないか本当に彼はボクの心というものをまるで理解していないんだ勿論褒めるべきときは大仰に大胆に遠慮なく褒めちぎって欲しいのだがそれはあくまで歌劇的にという意味であってそうまでまっすぐ見つめられて飾らない言葉で褒められてしまうとこの世界で一番輝かしく美しい存在はボクであるという確信が不甲斐なく揺らいでしまい彼のことばかり脳裏に思い浮かぶようになってしまうのは一体どういうわけだと考えるのだが一向に答えは出ないのだよまさにこの世の七不思議という話だねまあそんなわけでこれといって特徴のない……影のうすい男さ」
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