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この作品「明日のデートは、どこに行きましょう」は「ウマ娘プリティーダービー」「ウマ娘」等のタグがつけられた作品です。
明日のデートは、どこに行きましょう/マカロニサラダの小説

明日のデートは、どこに行きましょう

9,188 文字(読了目安: 18分)

15話です。

思ってたより少ない話数で終わりそうです。
具体的にはあと2-3話ぐらいですかね。

2021年8月26日 15:00
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翌日の朝。

私はエアグルーヴに連絡を取った。

【相談か、全く構わない。生徒会は今、時間を余しているからな】

予想通りの返事をもらい、トレーナーさんには休むよう連絡をして、生徒会室に向かう。

「失礼します」

「どうぞ」

中からシンボリルドルフの声が聞こえ、ドアを開けて生徒会室に入る。

そこには、以前に提案を受けた時と同じメンバーが揃っていた。

「いらっしゃい、スズカ! それでそれで? 相談事ってなにかな!」

「えっと、その……」

「テイオー、せっかくのお客さんだ。そう急かすものではないよ」

「あっ、ごめんねカイチョー、スズカ」

「ううん、いいの」

私はひと息つく。

3人が私の言葉を待つようにこちらを見ていて、居心地の悪さを少し感じた。

相談に来たのに、なぜか叱られに来てしまったような、そんな感じだ。

私がここに来た理由は、どうしたら忘れられない思い出を作れるか。

相談してみれば、良いアイディアをもらえるかもしれないと、そう考えたのだ。

「あの……みなさんに相談したいのは、わ、忘れられない思い出を作るにはどうしたらいいのか、と……」

「ほう」

……。

…………。

「何? なんだって、スズカ?」

「え? えーと……忘れられない思い出を……」

不意にエアグルーヴに肩を掴まれた。

顔を見れば、嬉しいような、怒っているような、何とも言えない表情をしている。

「あの……エアグルーヴ?」

「この……バ鹿が! 言い出すのが遅いのだ、このバ鹿が!」

「に、2回も言わないで」

「スズカのトレーナーはもう明日でいなくなってしまう……今から準備しても遅いだろう!」

「なにをするつもりなの?」

「確かに、言い出すのが遅いというのは私もエアグルーヴに賛成かな」

「カイチョーがそういうならボクも!」

そうか……生徒会の人たちにとっては時間がないと思われても仕方がない。

「あ! でもでも、トレーナー辞めた後でも会うことはできるんだよね?」

「ああ、双方の同意があって成立するが……なるほど、それなら期日は無いに等しいな」

「なにをしているんです、会長、テイオー、スズカ。今すぐデートプランを練りましょう」

さっきまで私の前にいたエアグルーヴが、そんなことを言いながら、ものすごく大きな大百科のような書籍を机に広げていた。

……結構恋愛ごとに詳しいのね、エアグルーヴって。

まあ、その後も色々あって……。

エアグルーヴの提案通り、オーソドックスにデートをするのが一番いいという結論に落ち着いて。

白熱した会議の末、ここにトレセン学園生徒会の総決算とも言うべき、デートマニュアルが完成した。

その名も【トレセン学園生徒会によるデート必勝法】。

議事録を見つめ、私はひとりうなずいた。

頑張ろう。





その日、私はトレーナーさんと連絡を取って、坂道で待ち合わせをすることにした。

トレーナーさんを待っている間、先ほど作成した【トレセン学園生徒会によるデート必勝法】を記したノートを熟読する。

私がトレーナーさんに【忘れられない思い出】をあげられるかどうかは、この必勝法にかかっているのだ。

「えーと……【恋】それはある日突然に」

【恋……それはある日突然に。されども準備は万端に】

少しずつ外堀を埋めるように、ターゲットと良好な関係を築く。

間違ってもここで無理に恋愛関係に持っていこうとすると、【テイオー状態】になるので気を付けること。

ちなみにテイオー状態とは、完全に空振りしている状態……あがけばあがくほど、目標が遠のいていくという恋のネガティブスパイラルを指す造語である。

話を戻す。

テイオー状態回避のために、何をすべきか。

明確な目標として、ここでは押しと引きの共存を挙げておく。

引きに欠け、押しのみが先行する場合は、テイオーの例を分析すれば明らかなように、テイオー状態に陥ることになる。

これを【軽=テイオー状態】と定義づける。

しかしながら引きすぎても、テイオー状態になりがちである。

愛が重すぎて、相手が驚いてしまう場合がそれにあたる。

引きすぎて時間をかけすぎてしまい、新たなライバル(ウマ娘ではチーム結成による担当の増加)が出てきてしまい、嫉妬にかられる。

あるいは相手が気味悪がったり、最悪関係性の悪化に繋がりかねない。

これは【重=テイオー状態】である。

どちらに傾いてもテイオー状態を免れない。

これをトレセン学園生徒会では【テイオーのジレンマ】と定義づける。

押しと引きの程よい駆け引き、及びよい部分を有効に活用し、テイオーのジレンマを回避するには具体的に、以下の手順にのっとり行動することが望ましい。

1.まず相手に深く踏み込まず、ギラギラせず、ひらすら良好な友人関係を築く。

この時、相手を特別視していないという姿勢を見せるのが重要。

あくまで、多くの好ましい人間のひとりであることをさりげなく主張すること。

ちなみに、テイオーはこの時点で失敗しつつある。

2.いよいよ実践に移る。

敵を知り己を知れば百戦危うからず。

いずれは、チャペルの鐘の音も聞こえてくることだろう。

まずは意味ありげな連絡(基本的には文面が有効的。電話などでは演技力も必要になるため)で、相手を待ち合わせ場所に誘い出す。

相手はすでに友好的な関係を持っているので、疑いもせずにやってくる。

この時、少しミステリアスな雰囲気を漂わせておくと、相手の興味を強く自分に惹きつけることができるので、高等テクニックながら、試す価値はあるだろう。

3.相手をデートに誘う手順だが、ここは婉曲な表現に頼らず、ストレートかつミステリアスな物言いが、功を奏すであろう。

重ねて注意となるが、ここでもあまりガツガツしないこと。

あくまで友人としての適切な距離を置きつつ、誠実さを醸し出すような返答を。

自分の恋愛力を信じて、一歩踏み込む勇気こそが必要である。

…………。

恋愛力を……信じて……か……。

どうしよう、全く自信が無い。

「ストレートかつミステリアスって……つまり、具体的にどういうことなんだろう」

「俺に聞かれても困る」

独り言に返答する声があった。

驚きすぎて心臓が止まるんじゃないかと思った。

振り返ると、そこにはトレーナーさんの姿が。

「と、トレーナーさん……!? なんでここに……?」

「……スズカが呼んだからだと思うが」

「あ、そ、そうですよね。それもそうですね……あはは……」

「それよりこのメッセージの内容、なんだ? 【今日の夕方、学園前の坂道にて待っています。用件は自分の胸に聞いてください】とか……」

「……ミステリアスさを表現してみたんですけど……」

「喧嘩を売られているかと思ったぞ」

「そ、そんなことしませんよ!」

「……じゃあ、何の用事だって言うんだ?」

……ゴクリと唾を呑む。

ここがどうやら正念場みたい。

が、がんばれ、サイレンススズカ。

ときめいて、私の恋愛力!

今こそトレーナーさんに、忘れられない思い出を!

「……なんで俺は睨まれてるんだ?」

ミステリアスに……。

「どうしてだと思いますか、トレーナーさん?」

「喧嘩を売られているからか?」

ストレートに。

「トレーナーさんにどうしても伝えたいことがあったんです」

「……相当、怒ってるんだな」

ガツガツせずに!

「あ……でも本当は大したことじゃないんです。本当にどうでもいい話というか、わざわざ呼び出すまでもないというか……」

どうですか、私の恋愛力!

「帰っていいか?」

「あ、ちょ、ちょっと待ってくださいトレーナーさん!」

帰ろうとするトレーナーさんを慌てて引き留めた。

「なんなんだよ、一体」

トレーナーさんのいらつき具合が、堪忍袋の緒を切らんばかりだ……。

必勝法通りにやっているのに、どうして?

「違うんです、嘘なんです。本当はすごく大事な用事なんです」

混乱して、泣きそうになりながらそう言った。

「……だから、一体何の用事なんだって聞いてるじゃないか」

トレーナーさんがじっとこちらを見つめてくる。

突然の沈黙に、恥ずかしさがこみ上げてくる。

今まで考えもしなかったけれど――。

もしこの申し出が断られたらと想像すると、ものすごい大ダメージを受けることになる。

トレーナーさんにスズカとはここまでだ、といった線を明確に引かれてしまったら……。

そう思うとなんだか怖くて、なかなかその一言を口にできない。

「あの……なんていうか、その……」

トレーナーさんは何も言わずに、ひたすら私の言葉を待っている。

何も言わずに済ませられる雰囲気ではなかった。

全部冗談ということにして逃げたくもなるけれど、そもそもどんな冗談にすればいいのかも、よく分からない。

手が震えて、むやみに胸の鼓動が大きくなった。

トレーナーさんにも聞こえてしまっているのではないかと、心配するくらい。

「……あの、デートとか……したいなと……思って……その……」

トレーナーさんの目が丸くなる。

「デート? 俺とスズカが?」

「は……はい……」

……。

…………。

とてつもなく重たい沈黙に、私は失敗を悟った。

ダメだったんだ。

私程度ではトレーナーさんには釣り合わないのだ。

失敗の2文字は予想以上の重さで、私の心にのしかかってきた。

「だ……ダメですよね。そ、それはそうですよね……ごめんなさい、急に変なことを言ってしまって」

早くこの場から消え去りたいという思いを抱きつつ、そう言う。

「いいよ、別に」

「え……」

意外な一言に耳を疑った。

「い、いいんですか?」

「……誘ったのはそっちだろ」

「あ……い、いえ。その通りです。では、ですね――」

私はどこか複雑な気持ちになりながらも、トレーナーさんをデートに誘いだすことに成功したのだった。





翌朝。

私は朝起きると共に、メモ帳に再度書き起こした【トレセン学園生徒会によるデート必勝法】を手に待ち合わせ場所へ――トレーナーさんとのデートへと向かった。

デートだ。

小説や映画、漫画の出来事で、まさか自分がその当事者になるなんて思っていなかった。

気合いは入ってると思う。

今日は全力でトレーナーさんに思い出を作る覚悟だ。

背伸びをして、唇にリップを塗ってみた。

透明マスカラだって使っている。

デートでは相手が魅力的であればあるほど印象に残るもの、という必勝法の教えに従ってみたのだ。

朝、起きると共に購買に走って、オシャレ雑誌を参考に鏡の前で格闘した。

普段より、少しは可愛く見られるはずだ。

服装まで手が回らず、普段のお気に入りになってしまったけれど、これくらいは許されるだろう。

……多分、きっと、おそらく……。

「スズカ……なんで沈んでるんだ?」

段々自信が無くなってきたところに、背後から声をかけられる。

「……!」

驚きつつも振り返ると、トレーナーさんが立っている。

「……ひ、人を驚かせるのは、よくないです」

胸を押さえつつそう言うと、トレーナーさんは呆れたように口を開く。

「それは俺に原因があるんじゃなくて、スズカがいつもぼんやりしてるのが悪いんじゃないか?」

「う……それは確かに……そうかもしれないですけど……」

言い返せない自分が情けない。

「スズカ、今日はいつもと雰囲気が違うな」

その言葉に、再び身体に緊張が走る。

気が付いた。

気が付かれてしまった。

空回りしていると思われるだろうか。

変な化粧だと思われたりしたら、嫌だな。

瞬時に様々なことが頭の中を駆け巡り、いてもたってもいられないような気持ちになる。

手のひらなどは汗でべとべとだ。

「あの……どうかしましたか?」

内心の混乱を極力抑えて尋ねてみる。

「いや、とても似合っているなと思っただけだ」

「……!!」

その一言で全身が急に熱くなるのを感じた。

ほっとした気持ち、嬉しい気持ち、恥ずかしいような気持ち。

なにをどうしていいのか分からなくて、意味もなくうろたえる。

「今日はどこに行こうか」

「あ……少し待ってください」

我に返って歩き出そうとするトレーナーさんを慌てて引き止める。

「今日は私に任せてほしいんです」

へえ……とトレーナーさんが片眉を上げて見せた。

「珍しいな。スズカがこの手のことで積極的になるなんて」

「……はい」

今日はトレーナーさんはお客さんで、私がエスコート役だ。

小さく息を吸い込む。

空は青く、遠くに白い雲が輝いている。

夏の午前中。

太陽はそろそろその本領を発揮しようとばかりに、アスファルトを焦がしていた。

今日は1日、いいことが起きる予感がする。





【デート時のアプローチ その1 ~ショッピングは魔物編~】

ショッピングを無礼なめてはいけない。

物欲という名の下に男女のエゴが垣間見える、魔のイベントと言えるだろう。

気配りを忘れず、2人が興味が持てるものを選び、品評を楽しむように臨むといい。

私はメモ帳を閉じ、事前に立てたデートプランが完璧であることを悟った。

「ショッピングに行きましょう、トレーナーさん」

「ふむ、行き先は?」

「書店などどうでしょうか?」

トレーナーさんは無表情にこっくりとうなずいた。

そして……。

…………。

………………。

「……この本は微妙だな……SFも嫌いじゃないが……」

「あの……トレーナーさん?」

……。

…………。

「トレーナーさーん……」

…………。

反応なし……トレーナーさんは本を睨みつけている……。

楽しそうだからいいけれど、これをデートと言ってもいいのだろうか。

何か違う気もするけれど……まあ、いいわよね。

本人が楽しいならそれはそれで。

私も諦めて本棚を物色し始める。

……このファンタジーは、少しお話が難しいからなあ。

世界観を構築するために専門用語を導入するのは構わないけれど、そのためにお話全体のテンポが悪くなって――。

……。

…………。

………………。

「スズカ?」

でももう3巻まで読んじゃったし、ここまで来たら最後まで付き合った方が良い気もするけれど……ホラー要素が少しきつくて……。

「スズカ」

「……!!」

驚いて振り向けば、そこには無表情なトレーナーさんの姿がある。

「……ど、どうしたんですか? トレーナーさん」

「いや……ふと我に返って考えてみたんだが、一般的に言って、これはデートじゃないよなって思ってさ」

「あ……そ、そういえばそうですね。そろそろ次の場所に行きましょうか。次は海ですよ」

「海か?」

「あ、あの、泳いだりするわけじゃなくて……水着は恥ずかしいので……海岸とかを一緒に歩いたらいかがでしょうか、と提案を……」

「海……かぁ」

「はい。海岸通りを歩くんです。きっと気持ちいいですよ」

「なるほど……今ならもれなく雨でずぶ濡れになれるな」

「……え? 今、何時ですか?」

「昼を回ったくらいだな」

「……さ、3時間も書店にいたってことですか?」

「そういうことだな」

なんということでしょう。

本を物色している間に、デート午前の部が終了してしまいました。

続く、デート午後の部もなんだかちっともうまくいかず。

レストランでは、少食な女の子として振る舞う予定だったのに、ちゃんと食べろとトレーナーさんに言われて逆に恥ずかしい思いをしてしまったし。

映画館では、トレーナーさんの趣味に合わせ、社会派サスペンスを見に行ったはずなのに。

あまりにも話が難しすぎて途中で寝てしまって、あとでトレーナーさんに笑われてしまった。

必勝法の通りにやろうとしても、やることなすこと裏目に出る。

やはり私にデートのエスコートなんて10年早かった。

――そういうことなのだろう。

そしてある、カフェラテにて……。

「あ、あの……これはなんのマネでしょうか、トレーナーさん」

私の前には、パフェが差し出されている。

トレーナーさんの持つスプーンによって。

いわゆる、夢にまで見た、あーんをされている。

「なにって、デートだからな。これくらいのことはやるんじゃないか? スズカの持っているメモ帳にも書いてあったし」

「め、メモ帳ってなんのこと……あ、あら?」

私の持っていたメモ帳が、なぜかトレーナーさんの手元にある。

「な、なんで……一体、どうして……?」

「スズカがさっき落としたんだよ」

「……見たんですか。ひどいです、トレーナーさん」

「人聞きが悪いぞ。拾い上げた時にたまたま中が見えただけだ。それによれば、デート中はこういう風にするのがいいって……」

「え、ええと……でもあのその……それは恥ずかしいので、やめておこうと思ってました……」

「ほほう」

あ、今、トレーナーさんの目がきらりと光った気がした。

「スズカ、これくらいで恥ずかしがってちゃダメだろう? もう高校生なんだから」

「で、でもこれはさすがにちょっと……」

「こうしている時間の方が恥ずかしいぞ」

それは確かに。

「や、やめましょうよ」

「スズカが食べたらやめるよ」

……。

…………どうやら逃げ道は無いらしい。

「では……はい……食べさせていただきます……」

抗議の印に、せいぜい口を尖らせてそう言って。

「はむ……」

優しい甘さが口中に広がっていく。

恥ずかしいけど、おいしい……。

どんな表情を作っていいのか分からなかった。

「よくできました。褒めてしんぜよう」

トレーナーさんはこれまでに見せたことがないような笑顔。

私は恥ずかしくなって、視線を少し下げた。

「トレーナーさん、この状況を楽しんでいませんか?」

「デートは楽しむべきものじゃないか」

「そ、それはそうですけど、そういう意味じゃなくてですね――」

なんというか、デートが進むに従って――。

私が空回り、それをトレーナーさんがツッコむというスタイルが確立されていくような気がする。





そしてデートは終わり、その帰り道。

足取りは重く、ため息をつかないように必死だった。

今回は失敗続きだった。

かっこよくリードして、トレーナーさんにいい思い出を作ってあげたかったのに。

全体的に緊張しっぱなしだった。

笑われるか、呆れられるかしか、されていない気がする。

少なくとも私は楽しんだというフリをしよう。

せっかくトレーナーさんに付き合ってもらったんだし、振り回した当人がつまらない顔をしても、しょうがない話だ。

「……今日は楽しかったですね、トレーナーさん」

「そうか? 今日のスズカは一段と挙動不審だったような気がするが」

「きょ……挙動不審って」

落ち込みそうになる心を奮い立たせ、私は笑顔を作る。

「明日も一緒にどこかに行きましょうね」

トレーナーさんは眉根をよせ、しばらくの沈黙の後に立ち止まった。

「……トレーナーさん?」

「なにか、不自然な気がするんだよ」

「え……?」

「少し不可解だ、引っかかるところがあるっていうか……」

「な、なんのことでしょう」

「今日のスズカは空回りはしていても、一生懸命な感じがした」

「あ……やっぱり空回りはしていたんですね……」

「普段のスズカなら、あんなに必死に場を盛り上げようとしたりはしないはずだ。一体何を企んでるんだ?」

「え……えーとあの、その……」

……もうトレーナーさんには、正直に言ってしまおう。

「……実は、今回のデートは、私が進んで企画したんです」

ちらちらとトレーナーさんの表情をうかがいながら、そう言ってみる。

「エアグルーヴたちに頼んで、プランを組んで……」

「……まあ、あいつらから言ってくることはないよな……でも、どうしてだ? 今まで通りでも、別によかっただろ」

「トレーナーさんと……忘れられない思い出を作りたいって、思ったからです」

トレーナーさんの顔には驚きの表情が浮かんでいた。

「この前……トレーナーさんの話を聞いてから、自分にできることはないかなって、考えたんです」

トレーナーさんの顔を見るのは怖いので、下を向いて話す。

「色々考えたんですけど、私にできることはあまりなくて……でも、ずっと覚えていられる思い出もあるなら……」

余計なお世話だと思われそうな気がした。

「今、たくさんの楽しい思い出を作ったらどうだろうって思ったんです。一生分の幸せな思い出を作ればいいなって……そう考えついたんです」

他人が勝手に同情するなと言われそうな気がして、できれば秘密にしておきたかった。

……沈黙。

今、トレーナーさんは怒っているだろうか。

やはりお節介なことで、彼を傷つけてしまったのだろうか。

そう、申し訳ない気持ちで考えていた時――。

「ははっ……」

「え……」

聞こえてきた声に顔を上げる。

「ははっ、あははははっ!」

「ど、どうしたんですか?」

「い、いやな……なんだか、昼間のスズカを思い出して、あまりの滑稽さに……あははは!」

「笑わなくてもいいじゃないですか。私だって結構頑張って――」

「わ、悪い悪い……分かってはいるんだが……でも……ははっ!」

トレーナーさんは顔を背けて、しばらくの間笑い続け――。

やがて、静かになる。

「スズカ……」

「なんですか?」

すっかり不機嫌な気分で答える。

「ありがとな」

……。

…………。

苛立ちは消えていた。

穏やかな気持ちになれる。

優しくて、温かい気持ち。

それから悲しい気持ちにもなる。

ひょっとしたら今の出来事も、トレーナーさんの記憶には留まらないかもしれないから。

「あの、トレーナーさん」

だから私は、もう一度同じ言葉を口にする。

今度はずっと自然な気持ちで。

「――明日のデートは、どこに行きましょう」

コメント

  • NAN

    設定をうまく活かせていて大変すばらしい +1736154836451385139点

    8月27日
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