default
pixivは2021年5月31日付けでプライバシーポリシーを改定しました。詳細
この作品「本当はいい人なんですよ」は「ウマ娘プリティーダービー」「ウマ娘」等のタグがつけられた作品です。
本当はいい人なんですよ/マカロニサラダの小説

本当はいい人なんですよ

3,679 文字(読了目安: 7分)

13話です。

あと7話は必要なのに一週間ぐらいしか期日がないということに愕然としています。
毎日更新……? できらぁ!(フラグ)

2021年8月22日 15:02
1
white
horizontal

「…………」

なにかがおかしいと思い始めていた。

トレーナーさんから詩の話を聞いた、翌日のお昼――。

私はいつものように、雨の中をトレーナー室に向かった。

トレーナー室にはトレーナーさんがいて、ひとりで本を読んでいた。

そこまでは、まだいい。

でも……読んでいる本の題名に問題がある。

【Souvenirs quotidiens perdus】

昨日は、あと少しで読み終わっていたはずだ。

それなのに、今は前回のループより、ずっと前の方のページを読んでいる。

どうして前のページを読む必要があるのだろう。

よほど気に入って読み返しているのだろうか。

「あ、あの……その本……」

「ああ、これか?」

トレーナーさんは顔を上げ、本の表紙を見る。

「結構気に入ってるんだ。ミステリーなのに、人間ドラマとして見てもすごく面白いんだ」

気のせいじゃない。

確実にトレーナーさんは昨日と全く同じことを話している。

既視感があった。

私たち以外の、ループに気づいていない人たちとの反応とよく似ている。

「トレーナーさん……昨日も同じこと、話してましたよ」

「え……」

トレーナーさんはそう言ったきり、しばらく呆然としている。

「トレーナーさん?」

「あ、ああ……なんでもないぞ。それだけこの作品を気に入ってるっていうことだよ」

トレーナーさんはそう言って、小さく息をついた。

「そう言えば……今日の調査についてなんだが」

いつもの調子を取り戻して、彼は視線を合わせずに言う。

「図書館に行かないか? この間、スズカが俺たちみたいにループの経験がある人がいるかもしれないって言ってたやつ――」

「図書館には……昨日も、一昨日も行きましたよ」

トレーナーさんの顔に苦い表情が広がった。

顔色が少し、悪いように思えた。

明らかに、何かがおかしい……。

「あ、あのトレーナーさん。ひょっとして調子が悪かったりしませんか?」

「……いや、なんでもない。少し物忘れをしたみたいだな」

トレーナーさんはそんな風に言って、立ち上がる。

「どうしたんですか?」

「用事を思い出したんだ。今日はこれで解散だ」

その言葉に呆気にとられていると、彼は足早に部屋から出ていった。

「トレーナーさん――」

一体どうしたのだろう。

明らかに、態度がおかしかった。

ここ数日のことを考えてみる。

図書館での出来事。

ループの度に同じことを繰り返すトレーナーさん。

その裏には共通した、何かがあるような気がする。

考えれば考えるほど、漠然とした不安が胸の中に広がっていく。





翌日――。

いつものように私たちはトレーナー室に留まっていた。

トレーナーさんは何を考えているのか、ぼんやりと窓の外を見つめていた。

私はと言えば本を読むふりをしながらも、ずっとトレーナーさんの存在を意識していた。

トレーナーさんの身の上に、なにか重大な問題が起きているような気がする。

けれど……それを追及することもできない。

私の思い過ごしということだってあるだろうし、尋ねてもきっと、誤魔化されてしまうだろう。

そもそも、そこまで踏み込んでいいものかどうかも分からないし……。

「そろそろ時間だ」

「え……」

トレーナーさんは窓の外から差す夕日を眺めながら言う。

私とは全く、視線を合わせない。

「今日は気乗りがしないから、帰るって言ったんだ」

「あ、あの……じゃあ、私も……」

「悪いが、今日は一緒には帰らない」

「……やっぱり、体調が悪いんですか?」

トレーナーさんは何か困ったように笑ってみせる。

「ああ、まあ多分、そんなところだ」

何気ない仕草に距離を感じた。

仲が良いとか悪いとかではなく、単純に距離を置いているような気がする。

目に見えない一線のようなものがあって、そこから先には入ってこないでくれと言われているような、そんな……。

「じゃあな」

トレーナーさんが出ていった。

トレーナー室が広くなったように感じた。

夕暮れの光が入り込み、部屋の雑多なものたちに影を付けている。

ざわつく気持ちを落ち着けようと、コーヒーを作りに立ち上がった時だ。

足元に何かが当たった。

下を見ればそこには、一冊の手帳が落ちている。

拾い上げて机に置く。

その際、中のページが見えた。

日付が入っている。

恐らく日記帳だろう。

茶色の革張りで、大きさは新書ほどだろうか。

大分使っているのか、革張りの部分はいい具合にくたびれていた。

これは多分――。

「トレーナーさんの……」

そわそわした気持ちで、一度メモ帳を見つめ、それから視線を外してコーヒーを入れた。

コーヒーを手に、机に戻りもう一度本を広げるのだけど、ともすれば視線は再びメモ帳に戻る。

いけないと思いつつも、視線はどうしてもメモ帳に――。

……やっぱり……人のプライベートを勝手に覗くなんてよくない。

私は鋼の意志を持って手帳から視線を外し、読書を始めた……。

が……気になることは気になる。

……どうしても……気になる。

でもこれを見てしまったら、トレーナーさんに対して、申し訳ない気持ちになってしまうのも確かだ。

やめた方がいい……と思っているのに、手は手帳の方へと伸びていき――。

「……!!」

突然、トレーナー室のドアが開いた。

私は大慌てで手を引っ込め、出入り口を振り返る。

そこには、息を切らしたスペちゃん――スペシャルウィークの姿があった。

「スペちゃん……」

「よかった~! まだいたんですね、スズカさん!」

「スペちゃん……どうしたの、急に」

スペちゃんは合宿の荷物を手に、ちょっと困ったような顔をして、私を見た。

「その、一言フォローしておこうと思いまして……」

「フォロー?」

「トレーナーさんのことで悩んでるんじゃないかな、って思ったんです……お節介、ですかね?」

私は無言で首を横に振った。

「気を遣ってくれてありがとう、スペちゃん」

スペちゃんはほっとしたように笑った。

「スズカさんのトレーナーさんは捻くれてますけど、本当はいい人なんですよ」

うん、知ってる。

私は自然と心の中でそう呟いている。

「トレーナーさん、結構ひどいことをスズカさんに言うじゃないですか」

「……そうかしら」

「そうですよ!」

そう言えば以前、スペちゃんがトレーナーさんの態度に猛抗議をしたことが確かにあった。

私としては最初からそこまで気にしていなかったけれど、その事件があって以来、態度が軟化した気がする。

「まあそれはいいとして……ここだけの話、なんですけど……」

そう言うと、スペちゃんは私の耳に顔を近づける。

「実はですね。なにか思うことがあると【言い過ぎたかな……】とか言って、ひとりで沈んでるんですよ」

普段のトレーナーさんからは想像もつかない話に、私は目を丸くする。

「本当? それ……」

「私が言ったって言わないでくださいよ? スズカさんのトレーナーさん、私とはスズカさんのことばかり話すんですから。なんであんなに危なっかしいんだとか、どうして言いつけを守らずに勝手に走るんだとか……」

「全然嬉しくない……」

「でも、スズカさんの事を話すときは小言みたいなこと言いながら、必ずちょっと笑ってますよ」

「そ、そうなのね……」

……それは、少しうれしい。

スペちゃんは私を見て微笑んで見せた。

普段の彼女からは考えられないくらい、大人びた笑みのように見えた。

「ですから本当に、辞めちゃった後もトレーナーさんのことを離しちゃだめですよ? そっちの方が私も、みなさんも嬉しいでしょうし」

「うん……わかったわ」

ですから、スズカさんのご友人の一番をください……なんて冗談を言うスペちゃんに、私は微笑んだ。

それからは、スペちゃんとひとしきり話をした後、一緒に寮に帰った。

どうやら彼女は、沈んだ様子で帰るトレーナーさんを見かけて、私の元を訪れたらしい。

ガラガラと音を立ててキャリーケースを運ぶスペちゃんと帰るときには、すでに夕暮れの光は弱くなっていて。

空は少しずつ、深い紺色に染まっていく。

先ほどのスペちゃんの話を思い出しては、そわそわと落ち着かない気持ちになった。

一昨日の夜のトレーナーさんを思い出してはため息をつく。

彼のことを考えると胸の奥の方が、温かくなるような気持ちになった。

けれどなぜだろう。

夜の闇がその色を濃くしていくに連れ……図書館で聞いた、トレーナーさんの知人の声が不吉に思えた。

去っていく知人の背中を見つめるトレーナーさんの表情、誤魔化すような笑み、一瞬見せた悲しそうな瞳……。

心の片隅に居座って、どうにも消えてくれなかった。

コメント

コメントはまだありません
センシティブな内容が含まれている可能性のある作品は一覧に表示されません
人気のイラストタグ
人気の小説タグ