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この作品「スズカさんは後悔すると思います」は「ウマ娘プリティーダービー」「ウマ娘」等のタグがつけられた作品です。
スズカさんは後悔すると思います/マカロニサラダの小説

スズカさんは後悔すると思います

4,046 文字(読了目安: 8分)

第11話です。

前の話でタイトル設定し忘れて『無題』で投稿されてました。申し訳ありません。

2021年8月17日 15:00
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ある8月30日のお昼頃。

今日も空は青い。

さっきの強い通り雨で濡れていた景色も、強烈な夏日に早くも乾き始めている。

バス停に吹く風は涼しく、とても快適だ。

「バス、遅いですね。トレーナーさん」

そわそわした気持ちで言うと、隣で一緒にバスを待っていたトレーナーさんは、いつものようにため息をつく。

「……図書館に行くだけで、なんでそんなにはしゃげるんだよ」

「そこに図書館があるから……でしょうか」

「いやいや、回答になってないから。なんで決めてやったぜ的な顔をしてるんだ。うっとうしい」

トレーナーさんの言葉に10秒ほど落ち込んだ後、私は顔を上げる。

「でも、図書館は私たち読書家の心のオアシスですよ。いつ行ったって楽しみに代わりはないと思います。トレーナーさんは利用されないんですか?」

「俺の場合、本は買う派だからな。学園の図書室ならまだしも、図書館はよほどのことがないと使わないな」

「……そうですか」

そんなことを言い合っている間にバスが来て――。

バスに乗り込み、ガラガラの席に座る。

動き出したバスの窓の向こうに見える空を、上機嫌に眺めた。





目的のバス停で降りて、歩いて2、3分もすれば図書館が見えてくる。

見知った場所、歩き慣れた道。

行く手にはたくさんの本。

隣にはトレーナーさんがいる。

機嫌がいいのは当たり前だ。

「早く行きましょう、トレーナーさん」

「急がなくても、図書館は逃げたりしないぞ」

そんなやりとりをしながら図書館へと入っていく。

ループや時間に関係する資料を手当たり次第に持ち出して、机に積んでいく。

事の発端は、昨日の会話。

【私たちみたいにループの経験がある人が前例でいないでしょうか】

そういう私の疑問によって生まれたのが今回の調査だ。

【なるほどな、一理ある。その人がインタビュー記事とか、なんらかの形で残してくれている可能性はあるな】

そうして図書館に行く予定を立て、エアグルーヴに話したところ。

【共同作業は心理的距離を縮める効果があるからな。上手くやるんだぞ】

という謎の激励も受けた上で、一緒に資料を探しているのだけれど……。

「あ、この本……まだ読んでないなあ」

図書館というのはすごく誘惑の多い所で、なかなか資料探しに集中できなかったりする。

「ああ、その本か。それなりに面白かったぞ」

「それなり……もう、トレーナーさん。その言い方だと読む気が無くなっちゃうじゃないですか」

「こっちの方が面白いぞ。なかなか頭を使うミステリーだ」

「……私、頭を使う本は、ちょっと……」

「ああ、やっぱり」

「なんなんですか。そう思うなら勧めないでください」

トレーナーさんは眉をひそめ、人差し指を立てて見せた。

ここが図書館であることを思い出し、慌てて私はこくこくと頷いた。

「じゃあ、俺は社会学や心理学方面から調べていくから、スズカは物理学方面をお願いな」

一方的に話を決めると、トレーナーさんは行ってしまう。

「物理……そこまで得意じゃないんですけど……」

などと呟きつつ、私も真面目に本を探し始めた。





それから夕方になるまで作業は続いた。

原因は不明だけれど、当初予定していた作業が思ったよりも難航してしまったからだ。

……決して途中で余計な本を読んでいたから、というわけじゃない。うん。決して。

トレーナーさんから離れ、ひとりタイムリープについて書かれている雑誌を読み続ける。

読み物として面白く、夢中になり始めていた時……。

「あの……」

「……はい?」

突然かけられた声に顔を上げると、そこには見知らぬ男性が立っていた。

歳は……トレーナーさんと同じくらい、かしら。

「すみません、突然声をかけて」

彼は本当に申し訳なさそうに頭を下げる。

「いえ、大丈夫です……それで、私になにかご用ですか?」

「サイレンススズカさん、ですよね。私、あなたのファンでして……」

「……そうなんですね、ありがとうございます」

「あの……今、一緒に図書館に来てる男は、あなたのトレーナー……ですよね」

「はい、そうです。ご存知なんですね」

「もちろんです。大学が一緒だったので。彼と」

「……! そうなんですか?」

「それで、少し彼のことでお話したいことがありまして……来ていただけますか?」

「でも、トレーナーさんには会わなくてもいいんですか?」

その男性は小さく首を横に振り、すたすたと歩き出した。

私はしばらく、その背中を見つめていた。

ついていっていいものかどうか、少し迷ったからだ。

この時間帯の図書館には、ループ中に何度か来ている。

その時、あの人に声をかけられたことは無かった。

私とトレーナーさん以外の人々は、私たちが関わらない限り、毎日同じことを寸分の狂いなく繰り返している。

今までの図書館での行動と、今回の行動に決定的な違いがあるのだとしたら……。

トレーナーさんの存在しかない。

私は今まで、この時間帯にトレーナーさんと図書館で行動を共にしたことが無かった。

それなら……。

彼が、トレーナーさんの担当である私に用があるのは本当なんだ。

「トレーナーさんの話って……」

私は小さく呟き、彼の後を追った。





図書館の外に出る。

いつものように穏やかで美しい夕暮れの中で、彼は硬い表情で私を見ていた。

「あの……トレーナーさんの話ってなんですか……?」

「担当トレーナーが彼なら、代えた方がいいと思います」

唐突な一言に、一瞬言葉を失う。

「スズカさんは後悔すると思います。なにより、あいつだって……」

決めつけるような言い方に、私は眉をひそめた。

「あの……なにを言っているのかはよく分かりませんけど、もしトレーナーさんの悪口を言いたいなら……やめてください」

「ち、違います。違うんです……忠告してるんです!」

「忠告って何を……」

彼が一瞬戸惑うような表情を見せ、それからまた口を開こうとしたとき。

「スズカ、なんで勝手に帰ろうとしてるんだ」

声に振り返れば、トレーナーさんがいる。

「あ……ちょっと待って――」

トレーナーさんと彼を引き合わせると、喧嘩が始まるかもしれないと思って、私はなんとか誤魔化そうとしたのだけれど……。

「あれ、お前……なんだよ! 久し振りだな!」

トレーナーさんは懐かしそうな笑顔を彼に見せた。

「え……あの……」

「こいつさ、高校時代からの友人なんだ。しばらく会ってなかったな、元気だったか?」

よほど親しかったのか、いつになく打ち解けた態度でトレーナーさんが歩み寄ろうとした。

けれど……トレーナーさんを恐れるように、彼は一歩下がった。

「寄るなよ。お前とは縁を切ったんだ」

「……え……なんだよ、それ……」

「そんなことも忘れたのかよ! くそ!!」

彼はそれだけ言って、走り去っていった。

私は突然の大声に身をすくませながら、小さくなる背中を見つめた。

「あの……トレーナーさん、今のは……」

トレーナーさんは何も答えてくれなかった。

それから、重たいため息をつく。

「……さあな。虫の居所でも悪かったんだろ」

トレーナーさんはそれだけ言って、あとはこの話題に一切触れようとはしなかった。





バスを降り、人通りのない道を歩く。

空に星が輝き、潮の香りがかすかに鼻をくすぐった。

2つの足音とさざ波の音。

ぽつぽつと私が話す。

ぽつぽつと彼が返す。

言葉が途切れる。

さざ波が聞こえる。

それをずっと繰り返している。

先ほどの男性の怒鳴り声が、まだ頭に響いていた。

ああいった攻撃的な声に慣れていない私は、まだ少し落ち着かない気持ちでいた。

トレーナーさんは……どうなんだろう。

あの時、トレーナーさんは怒鳴られた意味が一瞬分からずに、でも次の瞬間にはその原因に気づいたようだった。

彼は私に何かを隠しているようだった。

尋ねようか、少し迷った。

隠しているのなら、私には聞かれたくはないのだろう。

そういった秘密は誰でも持っているものだ。

でも気になる気持ちもあって……。

……。

…………。

……やめておこう。

言いたくないことを無理に聞き出すのは、よくない。

私たちは先ほどと同じようにぽつぽつと言葉を交わし、歩き続けた。

一体何があったんだろう。

元気がないなら慰めてあげたいのだけれど、それはやはり出過ぎたマネなのだろうか。

そんなことをずっと考えているうちに、寮に着いた。

「……送ってくれて、ありがとうございます。トレーナーさん」

なんとなく、別れを名残惜しく感じながらそう言った。

「あのさ……」

トレーナーさんは何かを言いかけて、結局何も言わず口を閉じた。

「どうかしたんですか?」

「いや……その……」

トレーナーさんは私を見て、少し笑ってみせた。

「ありがとな……聞かないでいてくれて」

なんのことかと、一瞬分からなくて……。

少し考えて、図書館での一件のことだと分かった。

私は小さく首を振った。

「でも……気が向いたらでいいですから、相談してください。お役に立てるかどうかは分かりませんけど……」

「ああ、そうさせてもらうよ」

トレーナーさんは何か思いついたように笑った。

「まあ、もっとも、スズカじゃ頼りにならないけどな」

「そ、そんなことありませんよ。話を聞くくらいなら、きちんとできます」

そんなことを言いながら、私はほっとしていた。

よかった。

いつものトレーナーさんだ。

私たちは微笑み合って、それからまた明日と言って別れた。

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