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この作品「仲が悪いより、仲が良い方がいいですよ」は「ウマ娘プリティーダービー」「ウマ娘」等のタグがつけられた作品です。
仲が悪いより、仲が良い方がいいですよ/マカロニサラダの小説

仲が悪いより、仲が良い方がいいですよ

5,942 文字(読了目安: 12分)

9話です。

第1話がブクマ200とのこと、感無量です。

いつも閲覧、ブクマありがとうございます。あと半月で完結させますのでよろしくお願いします。

2021年8月14日 15:05
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その放課後もいつも通りに、扇風機は夏の生ぬるい空気をかき回している。

セミの声がやたらと大きく聞こえていた。

私は居心地の悪い思いをしながら、ちらちらと文庫本を読むトレーナーさんを見つめていた。

結論から言えば、なんとなくぎこちない。

いまだにこう……会話に困ったりすることがある。

「……なんだよ」

「あ……いや、なんでもないです……」

トレーナーさんは本から顔を上げて、私を不審そうに見つめている。

「えーと……元気ですか?」

「……元気だよ」

……。

…………。

い、居づらい……。

ループの間にかなり仲良くなったような気もするのだけど……。

それに比例して、トレーナーさんの私に対する態度が意地の悪いものになり始めている気がする。

「……きょ、今日は暑いですね」

「……毎日暑いだろ。ループしてるんだから」

「そ、それはそうなんですけど……」

……。

…………。

「あの……」

もう一度何か声を掛けようとしたとき。

トレーナーさんはため息をついて文庫を閉じた。

「スズカは本当に人の読書を邪魔するのが好きだな」

「ご、ごめんなさい……」

「全くだ。スズカは人に頼りすぎるところがあるぞ。寂しがりやにもほどがある。もう子供じゃないんだし、もう少し自立したらどうなんだ?」

「む……」

トレーナーさんの言い様に、私は少し頬を膨らませた。

「と、トレーナーさんはそう言いますけど……私、トレーナーさんも結構寂しがり屋だと思います」

「ほう」

それは面白いことを聞いた、とでも言いたげに、トレーナーさんは片眉を上げた。

「だ、だってトレーナーさん、いつも私と一緒にいるじゃないですか。寂しがり屋です、私以上の」

我ながら反論の余地のない追及だ。

「ブーメランになってるが……まあ、もしそう見えるなら、それは俺がスズカの担当だからだ」

「……それが?」

「言い換えるなら、誰かさんが合宿明けの身体状況にも関わらず無理をしないように監視役が必要ってことだ」

「その意見には反論があります」

どうぞ? とトレーナーさんが私に手のひらを差し出した。

「その言い分はトレーナーさん自身が寂しがり屋じゃないという証明はできていません」

トレーナーさんは何かを考え込んで。

「……反論を却下する」

「な、なんでですか。説明を求めます」

「俺とスズカはトレーナーと競争バの関係だ。つまり俺自身がルールなんだ」

「なっ……そ、そんな理屈、通りません」

「通る。俺はトレーナーだぞ」

「私たちの関係は二人三脚。つまり対等の関係だって言ったのトレーナーさんじゃないですか」

トレーナーさんは、またなにかを考える仕草をした上で……。

「そんなこと、言ったっけなあ」

棒読みでそう言った。

く、屈辱だ。

「と、トレーナーさんは意地が悪いです。意地悪です」

「それしか言うことはないのか?」

「い……意地悪ですし、意地悪だし、意地悪です!」

「……もう少し、悪口のバリエーションを増やしてきたらどうだ?」

「うぅ……意地が悪いです……」

「……なにやってるんだ、お前たちは」

「……エアグルーヴ?」

声のする方を見ると、トレーナー室の扉に手を掛けているエアグルーヴが立っていた。

「ねえ、聞いて。エアグルーヴ。トレーナーさんが意地悪なの」

「スズカの聞き分けが悪いだけだろ」

「そ、そんな言い方ないですよ。私はコミュニケーションを取ろうと思って……」

「俺は読書をしようと思ってた」

「……小学生か、お前らは」





……。

…………。

話を聞くところによると、エアグルーヴはたまたまトレーナー室の前を通りかかったらしい。

すると、珍しく言い合いをしている私たちの声が気になってしまい、お節介を焼きたくなったようだ。

そして――。

「というわけで、今回はサイレンススズカとそのトレーナー、両名の不和解消を議題としたい。なにか意見のあるものは?」

私たちは生徒会室に連れてこられていた。

中に入ってみれば、生徒会長であるシンボリルドルフ、その会長を師事してやまないトウカイテイオーの姿もあった。

どうやら、夏休み期間で暇を持て余しているらしい。

……しかし、その由緒正しき生徒会室で行われる議題が、私とトレーナーさんが仲良くなるようにみんなで考えることだなんて。

なんという晒しものだろう。

すでに恥辱で顔が熱い。

トレーナーさんもそれはそれは不愉快そうな顔をしていた。

「放っておいてほしいという意見はありですか?」

トレーナーさんがおずおずと尋ねる。

「なしだ。いくらお前が明日には辞職するとはいえ、今後のスズカの活躍に差しさわりが出るかもしれないからな」

「それをどうにかするのは後任のトレーナーの仕事では」

「うるさい。とにかく却下だ」

「……ねえ、カイチョー。エアグルーヴの言ってる事、珍しくめちゃくちゃじゃない?」

「聞こえてるぞ、テイオー」

エアグルーヴの意見にトレーナーさんとテイオーは不機嫌そうに黙り込んだ。

その後は――。

「全面的にトレーナーが悪いよね。そもそも3年も一緒にいるのに不仲を疑われるなんて相当だよ? ボクとトレーナーの関係を見習うのがいいじゃないかな!」

「テイオーの場合は自分からぐいぐい行きすぎな気もするが……」

「……そ、そうでもないよ? ちゃんと最近はトレーナーの方から遊びに誘ってくれてるし……」

「私はスズカの方にも非があると思う。控えめすぎるのだ、もっと堂々とアプローチしろ」

「エ、エアグルーヴ……!?」

そんな感じで、頭上を飛び交う論争。

もう内容がまるで関係なくなってる……。

まさかトレーナー室での些細な言い合いが、これだけの大事に発展するなんて……。

当事者である私たちはただただ困って、お互いを見やるばかりである。

そして時は過ぎ――。

2時間に渡る論争の結果。

「では、決議を言い渡す。君たちはここに書かれていることをよく守り、一緒に行動することだ」

ルドルフはホワイトボードを指す。

「朝、昼休み、放課後。出来る限り一緒にいること……ですか」

「……わ、私は構いませんけど……」

トレーナーさんの方はどうなんだろう。

「正直、お三方には悪いですけど気が進みませんね」

な……仲良くできる気がしない……。

「そう言わずにやってみろ。お前たちが意味もなく仲が良くないのは確かなのだからな」

「そうだよ! それに仲良くなればレースも勝てるようになるよ! ボクみたいに!」

そんなに傍から見て、私たちは仲が悪いのだろうか。

「……その前に、一緒にいるようにとだけ書いてありますけど、私は明日で辞職する身ですよ? 無理じゃないですか?」

……。

…………。

「学校終わりに一緒に出掛けるといい」

「はちみーデートをオススメするぞよ!」

「辞任後も、双方の合意があれば会えるのだから、そうしろ」

「むちゃくちゃですね……大丈夫かよ、生徒会……」

トレーナーさんは不満たらたらながら、とりあえずうなずいた。

早速、と言っていいかなんというか、生徒会の案が実行に移されたため、そこで切り上げられた。

頑張れよ、というエアグルーヴの送り出しを受け、私たちはトレーナー室に戻った。

――そして現在、私はトレーナーさんと2人きりである。

……。

…………。

逆にやりづらい……。

「……ねえ、トレーナーさん。これからどうしましょうか」

とトレーナーさんの方を振り返ってみれば――。

「……はぁ」

思わずため息をついてしまう。

彼はイヤホンをしながら本を読んでいた。

一緒にいれば何をやっても自由なんだよな? それなら今までと変わらないし、本を読んでるから声をかけないでくれ。

的なオーラが漂っている。

ような気がする。

本の題名は「Souvenirs quotidiens perdus」

……何語だろう。

というか……。

「あの、せっかく生徒会の人たちが提案してくれたんですし、もうちょっとこう……」

トレーナーさんが視線だけをこちらに向け――。

「…………ふう」

ため息をついて、再び読書に夢中の状態に。

「……いいんですよ、トレーナーさん。トレーナーさんがその気なら……私だって、無視しちゃいますからね。私だって怒るときは怒りますし、結構怖いんですよ?」

……反応なし。

私はムッとしつつ、本を読みだした……。

のはいいが、集中できない。

無視するというのは……少し言い過ぎたかもしれないと考えて、全く読書に集中できないのだ。

そのうち……段々イライラした気持ちになってくる。

どうして私だけ気を遣う必要があるんだろう。

ループしてしまえば生徒会の提案は無かったことになるとはいえ、失礼だと思う。

そう思って私は、再び顔を上げる。

私に足りないのは勇気なのだ。

勇気を持って、口を開く。

「トレーナーさん、聞いてください」

……反応なし。

「トレーナーさん!」

彼はようやくイヤホンを取って、私を見つめる。

よし! このチャンスは逃せない。

「なんの本を読んでいるんですか?」

「ああ、これか? ミステリーだよ」

そう言ってタイトルを見せてくれる。

【Souvenirs quotidiens perdus】

「ミステリーの基本をちゃんと押さえつつ、人間ドラマとしてもとても面白いんだ。最後にどんな展開が待っているのか、今から楽しみなんだ」

「そうなんですね……私、そういうのはちょっと……最後の展開を確認してからじゃないと、落ち着いて読めなくって」

「は……?」

「え……なんですか?」

「しんじ……られない……」

トレーナーさんは立ちくらみでも起こしたように、ふらふらと数歩下がった。

「そ、そんなオーバーな反応をしなくても……」

「なにを考えてるんだ? 小説っていうのはな、始まりから終わりに向かって読むと面白くなるようにできてるんだぞ? それを終わりから読むなんて、小説への冒涜以外のなにものでもないじゃないか!」

「そ、そんなことありませんよ。本当に面白い本は、終わりから読んでも面白いんです。それに終わりの展開を知ってたほうが、安心して読めますし」

「安心して読んでどうするんだよ。先の展開が分からないからこそ面白いんだぞ」

「そ、そういう押し付けはよくないです。終わりを知っているからこそ、物語の仕掛けとか、伏線を楽しめると思いますし……」

「そういう楽しみ方自体がマニアックだって言ってるんだ。2回目に読むときで十分だろう。1回目の読書は、人生において一度きりなんだぞ?」

「だ、だからこそ、物語を丁寧に鑑賞するために――」

平行線の論争をしばらく続けたあと……。

……不意に、トレーナーさんが部屋の入り口を眺めた。

「ど、どうかしたんですか?」

そんな私に人差し指を立てて見せる。

喋るな、ということだろうか。

意味は分からないながら、とりあえずうなずいた。

トレーナーさんは足音を立てずに部屋のドアに近寄って、そのドアに耳をつけ……。

勢いよく眉間にしわが寄った。

なにが起きたのだろう……と思っていると、彼はくいくいと私を手招きした。

「どうかし――」

再び立てられる人差し指に慌てて黙り込み、彼のマネをして、抜き足差し足でドアに近づく。

とにかく、指示されるまま壁に耳を付けてみる。

すると――。

「……何も聞こえなくなったな」

「男女がひとつの部屋で2人きりだよ? これはもう……アレなんじゃないかな?」

「彼らに限ってそんなことは……」

「こ、校内で不純異性交遊だと? いやしかし、スズカの今までの事を思ってみれば……だが! あいつもそれぐらいは弁えているはずだ!」

「落ち着け、エアグルーヴ。仮に間違いがあったとしても、彼は明日で辞任だ。なんとかしよう」

「それは良くないと思うよ、カイチョー……」

私とトレーナーさんは互いに見やった。

トレーナーさんはため息、私は苦笑い。

トレーナーさんがドアを思いっきり開いた。

次の瞬間、生徒会メンバーが前のめりに倒れてくる。

「い、いきなり開かないでよ! 怪我したらどうするのさ!」

「すみませんね。まさか、こんなところでみなさん揃って立ち聞きしているなんて思ってもいなかったもので……」

「気づいていた、というわけか」

「澄ました顔をしても無駄ですよ、生徒会長様」

深いため息と共に、トレーナーさんは部屋を出ようとして、私を振り返った。

「なにやってんだ、スズカも行くぞ」

「え……私も、ですか?」

「一緒にいられるときは一緒にいる……だよな。こう見えても、一度約束したことは守るタイプなんで」

トレーナーさんが部屋に鍵をかけ、歩き出す。

私はみんなに会釈して、慌てて彼の後を追った。





…………。

とにかく歩いて時間を潰そうということになり、私たちは学園を出て、坂道をゆっくりと歩いていた。

トレーナーさんと歩いている最中。

私はとても上機嫌だった。

「……ふふっ、ふふふっ」

「……今日は特別気味が悪いな、スズカ。妙なものでも食べたのか?」

「今日は特別気味が悪いって……私、普段から気味が悪いんですか?」

……いえ、深く考えるのはやめましょう。

傷ついてしまいそうだし。

「とにかくですね……トレーナーさんも協力的ですし、これなら明日からもっと楽しめそうだなって思ったんです」

「明日も続ける気なのかよ、スズカは……」

「当然です。トレーナーさんもさっき言いましたよね。約束したことは守るって」

「……そういうことを、よく恥ずかしげもなく真正面から言えるな」

「そうですかね……素直な気持ち、なんですが」

「その素直な気持ちが恥ずかしいって言ってるんだ」

「でも、仲が悪いより、仲が良い方がいいですよ」

生徒会の案、やりましょうよ。という気持ちを込めてトレーナーさんを見る。

トレーナーさんは盛大にため息をついて、少し表情を緩めた。

「……負けたよ。いいぞ。俺も少し、仲良くする努力をしよう」

トレーナーさんの言葉に、私は笑顔で頷いた。

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