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この作品「俺たちは一人じゃない」は「ウマ娘プリティーダービー」「ウマ娘」等のタグがつけられた作品です。
俺たちは一人じゃない/マカロニサラダの小説

俺たちは一人じゃない

5,210 文字(読了目安: 10分)

週一ペースと言いましたが、書けちゃいましたので投稿します。

前回の3話目を投稿後、伸びててびっくりしました。
ブクマ、コメントありがとうございます。めちゃくちゃ嬉しいです、励みです。

これからもどうぞよろしくお願いいたします。

2021年7月11日 15:00
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眠った記憶はない。

瞬きさえしていなかった。

被っていなかったはずのタオルケットを被っている。

手に持っていたはずの目覚まし時計は、いつもの場所に戻っていて。

スペちゃんのベッドにも誰もいなかった。

「どうなっているの……?」

一瞬で、時間が飛んだ?

心臓の脈打つ音が聞こえる。

息が浅い。

嫌な汗をかいている。

一体何が起きているのだろう。

スマートフォンの日付を確認する。

日付は――やっぱり【8月30日】。

「なんで……何がどうなってるの……」

自分ひとりが8月30日を繰り返しているのだろうか。

そう考えると、途方もない孤独感が身体にのしかかってくるような気がした。

呆然として、スマートフォンを手放したとき――。

ピロンッ、と通知音が鳴った。

……今までの8月30日にはなかった出来事だ。

大急ぎで拾い直し、液晶画面を確認する。

「トレーナーさんから、メッセージ……?」

【おはよう、スズカ。突然だが、スペシャルウィークと一緒に来れないか?】

一瞬意味が分からずに首をひねったけれど――。

すぐにその意味に気が付く。

『雨が降ってれば話は別だけど、降る前に終わらせたいんだよ。だから明日、俺が【スペシャルウィークと一緒に来れないか?】っていう確認のメッセージを送るから、その時は頼む』

そう。

前回の8月30日にトレーナーさんは言っていた。

トレーナーさんが今、このメッセージを送れたのだとしたら、前回の8月30日に起きたことを知っているということになる。

つまり――。

「トレーナーさんも私と同じように、8月30日の繰り返しに気づいてる――?」

居ても立っても居られず、トレーナーさんに電話を掛ける。

トレーナーさんは1コールで出てくれた。

『もしもし、どうした。スズカ』

「あの、あの。トレーナーさん、私……」

『……やっぱりスズカもなんだな』

「はい、はい……!」

『用件は大体わかった。俺も準備したらトレーナー室に向かうから、スズカも来てくれ』

「はい、分かりました」

『あ、ご飯は食べてくること。そしてこのことは他言無用だ。それじゃあ、またな』

それだけ言い残すと、トレーナーさんは電話を切った。

良かった……私一人じゃないんだ。

さっきまでの無気力感が吹き飛んだ私は、大急ぎで制服に着替えて部屋を飛び出した。





食堂で朝食を食べ終えて、足早にトレーナー室へと向かう。

「トレーナーさん……」

私は早く会いたい一心で廊下を駆ける。

エアグルーヴや生徒会の人に見られたら注意されてしまうだろう。

今日がまだ夏休み期間で良かったと思う。

「着いた……」

念のため、トレーナーさんが来ているかの確認でノックをする。

返事はない。

「まだ来てないのかしら……」

そこで私は、前回のことを思い出す。

「あ、鍵って私が持ってたんだっけ……」

だとしたら、スカートのポケットに入れっぱなしのはず。

そう思って探ってみるけど、鍵は無かった。

もしかして落とした……?

「トレーナーさん、もしかして鍵が無くて部屋にいないんじゃ……」

だとしたら一大事だ。

「ま、まず連絡しないと……!」

スマートフォンを手に取り、トレーナーさんに電話をする。

すると、廊下の奥でなにかの着信音が聞こえてきた。

その音はだんだんと近くなってくる。

それに比例するように、私のコール音も続いていく。

結局、その着信音がすぐ隣で鳴るまで続き、やむなく自分で切ることになった。

「……バカみてえに早いな。ちゃんと朝ご飯食べてきたのか?」

「はい、ちゃんと食べました。それよりも、せっかく電話したんだから出てください」

「すぐそこにいるんだから出なくて当たり前だろ……それでどうした。俺に早く来いっていう催促だったか」

「いえ、違います……あの、ですね――」

鍵を落としてしまって。

そう言う前に、彼は鞄から鍵を取り出して扉を開く。

「なんだ?」

「……なんで、鍵を持ってるんですか?」

「トレーナー室の鍵は俺が持ってるに決まってるだろ」

「え……でも、昨日確かに私に預けられましたよね……?」

それを聞いたトレーナーさんは、何故か一瞬だけ驚いた顔をした。

「あの……?」

「……そういえばそうだったな。それについても俺の見解だけど、話すよ。とりあえず中に入ろう」

トレーナーさんに促されるまま、私は部屋のパイプ椅子に腰かける。

「それで、念のための確認だが……スズカは今朝のメッセージの意味が分かってここに来たんだろう?」

「は、はい」

「それなら俺と同じだ。今は……何度目だったか」

「4度目の8月30日、です」

「そうそう、4度目か」

改めて、私ひとりで8月30日を繰り返しているわけじゃなかったんだということに安堵する。

トレーナーさんも一緒だったんだ。

胸の当たりをそっと抑える。

気を許せば泣きだしかねないくらい、ほっとしている。

「よかった……」

「……そうだな」

逆にトレーナーさんは悲しそうな目をして、私を見つめる。

……嬉しくないのかしら。

そうだとしたら、さすがに悲しい。

「もうわかっているだろうけど、俺が今朝出したメッセージの意味は、スズカの置かれた状況が俺と一緒かどうか計るためだ」

「状況を……ですか?」

「ああ。メッセージの真意が分かればスズカも繰り返してるってことになるし、逆にスペシャルウィークは合宿に行ってていませんとかいう普通の反応をしたら繰り返していないっていうことになる」

……なるほど。

さすがのトレーナーさんも、面と向かって同じ1日を繰り返してるとは言えなかったのね。

「ここで言えることは、俺たちは同じ状況に放り込まれた仲間……言い換えるなら、俺たちは一人じゃない」

トレーナーさんの力強い言葉に、私は頷く。

「よし。じゃあ簡単に状況を説明しておこう。この1日ループは明日終わるかもしれない。それとは逆に、永遠に終わらない可能性もある」

永遠に終わらない……。

それってつまり、トレーナーさんとずっと一緒にいられるということで。

「俺たちは……いや、この世界全てが8月30日に閉じ込められている。俺が調べた限りでは、この事実に気づいてるのは俺たちだけだと思われる」

不安な気分はもうない。

「そして、さっきの鍵の件についてだが」

「ああ、はい」

トレーナー室の前で話したことだろう。

「昨日はスズカに渡してた鍵が、ループの時間を越えると俺の鞄の中に戻っていた。ということは」

「ループ前の物は、ちゃんと元に戻る……」

「そういうことだ」

なるほど、それならちゃんと説明がつく。

「肝心のこうなってる原因についてだが……さっぱり分からん。スズカはなにか心当たりがあるか?」

心当たり……。

無いといえば無いし、あるといえばある。

――伝説の三女神様の像で感じた、不思議な感覚。

「……あるのか?」

「あっ……い、いえ。なにも……すみません」

変なことを言っても混乱を招くだけだろう。

言わない方が吉と判断し、口をつぐむ。

「そうか。じゃあ……原因は分からずじまいか」

……正直な話、原因なんてどうでもよかった。

今の私が感じているのは、何かが始まる直前の、少しの緊張と非日常への好奇心。

トレーナーさんがいなくなるのは8月31日。

つまり、8月31日が来るまではトレーナーさんと一緒の時間を過ごせるというわけで。

その事実に胸の高まりが抑えきれない。

「――スズカ?」

「は、はい……!」

「考え事をしたい気持ちも分かるが、ここは俺との話に集中してほしい」

「あ……はい。ごめんなさい……」

「ああ。じゃあもう一回言うけど――」

それからはもう、私とトレーナーさんの間で意見交換が長い間交わされた。

ここ数日間に起きた出来事。

自分たちの置かれた状況が、あまりにも日常からかけ離れていたため、互いに何も言えないでいたらしい。

うん……それは、私も同じでした。

でも今はもう、不安なんてない。

だってトレーナーさんが一緒だから。

トレーナーさんとまたここで――終わろうとしていた同じ時間を共有できることが嬉しくて仕方ない。

そう。

多分そのとき私は、この状況を歓迎さえしていた。

これは伝説の三女神様の像が私にもたらしてくれたご褒美。

もしくは、奇跡という言葉が相応しい何かであり――。

神様の祝福だと、本気で思っていた。





8月30日は見事な夕暮れが長く続いた。

4回目の8月30日も、それは同じで。

グラウンドはとても綺麗な夕暮れに染まっていて。

雨が降った後に吹いてくる風はとても涼やかだった。

そして、トレーナーさんと一緒の帰り道だ。

「トレーニングについてだけど、身体の状態が合宿後ってことならあまり厳しいものはできないな」

「……怪我しても治ると思いますが」

「そういうことを言うな」

「ふふっ、冗談です」

「冗談でも言うな。不吉だ」

「分かりました……でも、どうせ同じ1日を繰り返すなら、通り雨が無い日にしてほしかったです」

雨が降ってる間はグラウンドが使用できないから、正直苦手だ。

「そうか? 変化に富んでて良いと思うけどな。晴れの日にループしてたら、雨なんて永遠に見られなくなってたかもしれないんだぞ?」

「……トレーナーさんも不吉なこと、言わないでください」

でも、そう言われると確かに雨が降っててもいいかなと思ってしまう。

「すまんすまん。トレーニングの話に戻るけど、日課のジョギングくらいは続けていいぞ」

「それは、はい」

言われなくてもそうするつもりだった。

さすがにずっと走らないでいるのはとてもじゃないが、我慢できそうにない。

「……あとさ、スズカ。ひとつ聞いてもいいか?」

トレーナーさんが、私を見て尋ねる。

「なんですか、トレーナーさん」

「スズカはこのループ、続いた方がいいか? それとも早く終わってほしいか?」

「そうですね……」

即答できずに、私は少しの間悩んだ。

「私は……」

本心では続いてほしい。

けれど、本音を話すのに、少しだけ勇気が必要だった。

「……私は、もう少し続いてほしいって思ってます」

「……そっか」

そう言うと彼は、ふぅ、と小さくため息をつく。

トレーナーさんは、このループが早く終わってほしいんだろう。

やっぱり言うんじゃなかったと後悔し始めたとき――。

「……俺も同じだよ。意見が合うなんて珍しいな」

さっきの後悔はどこへやら。

トレーナーさんも続いてほしいって思ってるなんて全く考えてなかった。

「そ、そうなんですか? 私、てっきり……」

「もちろん、終わってほしいことは終わってほしいけどな……まだ未練があるんだろうな、ここに」

そう言うトレーナーさんの微笑みはとても温かで。

――同時に、寂しさも感じた。





寮の前でトレーナーさんと別れる。

いつもなら門限の延長をするのだけれど、トレーナーさんはなにやら用事があるらしい。

今日はどうしようか。

今までのことを頭の中で整理できる場所が欲しい。

明日から、トレーナーさんと一緒にループについての調査を始める。

午前中になにをするか決めて、色んな研究をしてみようとトレーナーさんは言っていた。

さっきまでのことを考えると、言いしれない高揚感が身体の内側から上ってきて、いてもたってもいられないような気持ちになった。

「……そうだわ、あそこなら」

来た道をもう一回戻って、私が向かった先は。

――伝説の三女神様の像。

そこで私はぼんやりと夕空を見上げていた。

燃える様な赤い空だった。

遥かな高みを、朱に染まった雲がゆっくりと動いていく。

ああ、また始まるんだ――と、そんな言葉が頭に浮かんだ。

私たちの過ごした、長い長い夏の1日が本当に始まったのは、多分このときだったのだろう。

空が暗くなるまで、私はその黄昏時をじっと見守った。

ふと、視線を移せば。

三女神様も他の例に漏れず、夕焼けに照らされている。

……彼と一緒にいられるように願った場所。

ここは、そういう場所でもある。

「ありがとうございます、三女神様……」

私は最初の8月30日とは違う気持ちで。

感謝と敬意を込めて、手を合わせた。

こうして、夏の1日の物語は――静かに、始まりを告げた。

コメント

  • bismarck_ituki

    凄く引き込まれる。 面白い

    7月12日
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