新型コロナウイルスの感染拡大状況とワクチン接種進捗に応じた医療需要の予測ツール
新型コロナウイルスに対するワクチン接種が進む中、その効果によって、感染者数(検査陽性者数)が多くとも必ずしも直ちに医療提供体制の逼迫につながるわけではなくなってきている。われわれは、今後の感染拡大の際に必要となる病床数(酸素投与を必要とする患者や重症者の数にもとづく。)といった医療需要について、短期的(1から4週間後)あるいは中期的(1から2ヶ月後)に予測するためのツールを開発した(EXCELファイル:医療需要予測ツール_20211020.xlsx ダウンロードするには、ファイル名をクリック後、「Download」を選択)。本ツールでは、任意の状況を想定して「新規陽性者数、感染拡大スピード、ワクチン接種率」を使用者が入力する。さらに、ワクチンの効果・年代別の重症化率・入院期間といったパラメータがあらかじめ入力されている。これらの初期値は、科学論文や複数の自治体からのデータをもとに設定したが、使用者が任意の値に変更することも可能である。
本ツールによって、2021年の冬期の流行をそれぞれの自治体で想定しながら、必要とする病床の確保ならびに、どういう段階で地域での感染対策の強化などを呼びかける必要があるかの検討に用いることができる。また、今後リバウンドが起こった際には、その後に起こりうる状況の見える化にも用いることができる。
・短期的な予測
短期的な予測において2週間~4週間後の状況が現在の確保病床数を越えるか否かを検討することで、医療体制の拡充や対策の強化を行うべきか判断の参考として用いることができる。予測ツールでは、4週間にわたって感染拡大のスピードが変わらず同じでありつづける、と想定している。言い換えると、“現在の状況”を「近い未来の医療負荷」として投影した予測結果であるが、実際には、感染状況や対策に応じて市民の行動が変化しうるため、その通りになる蓋然性は高くない。寧ろ、結果をもとに必要な対策を適切なタイミングで行うことで、予測ツールで推定された状況を避けることが期待される。詳しくは、PDF資料(ツールをレベル分類の参考に用いるにあたって_20211108.pdf)に説明がある。
・中期的な予測
今後の流行で想定される感染の広がりとして、たとえば、ある時点での新規陽性者数・ワクチン接種率を入力し、「拡大シナリオ:横ばい(1.0→横ばい)」とすることで、現在の状態が続いた場合に医療需要がどの程度になるのかを検討することができる。また、今後、リバウンドが見られ始めたとき、「そのときの新規陽性者数」と「そのときのワクチン接種率」を入力し、「拡大シナリオ:増加(1.3~1.5→先月と同様)」と設定することで、第6波で起きうるその後2か月間の悲観的な予測を検討できる。さらに、「さまざまな新規陽性者数」と「今冬に想定されるワクチン接種率」を入力し、予測ツールによって算出される「酸素投与を要する人の数、重症者数、必要な確保病床数」を参照することで、【現在の確保病床ではどの程度の規模の感染状況に耐えられるのか】や【想定される感染規模に対して、どの程度の確保病床数が必要になるのか】を検討するためのデータを得ることができる。詳しくは、PDF資料(ツールの説明資料_20211020.pdf)に説明がある。
本ツールはインターネット上で公開されており、行政・医療機関・一般市民が自由に利用することができる。あくまでモデルであり絶対的なものではないことには留意されたい。1つの参考資料として、本ツールが今後の流行に対する備えや、更なる議論の発展に役立つことを期するものである。
本ツール、およびモデルの詳細や説明資料を入手できるURL: https://github.com/yukifuruse1217/COVIDhealthBurden
本予測ツールの紹介(外部サイト):
厚生労働省アドバイザリーボード:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000845990.pdf
国立感染症研究所ウェブサイト:https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10718-covid19-62.html
日本医事新報:https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=18264
予測ツールの開発・検証チーム:古瀬 祐気(京都大学)、和田 耕治(国際医療福祉大学)、押谷 仁(東北大学)、髙 勇羅(国立感染症研究所)、鈴木 基(国立感染症研究所)、脇田 隆字(国立感染症研究所)
文責:古瀬 祐気
問い合わせ先:furusey.kyoto@gmail.com