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アルターエゴ
アルターエゴ
Alternative - アルターエゴの小説 - pixiv
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4,691文字
Alternative
 前作の続きなので、そちらも見てくださると幸いです。
 まあ作者名から分かる通り、こういう話が結構好きなので、こういう展開にしてます……吸血鬼ライスの独自設定が多いので正直伝わり切れているか凄く不安なのですが……
 書きたいウマ娘は何人もいるのに時間が追いついてこないのが目下の悩みです。遅筆の原因です。それでも応援してくださると、本当に幸いです。
 いつもいいね、ブクマ、コメントしてくださって有り難うございます。リクエストとかはコメントでくださればなるべく受けますので、気軽にどうぞ。これからもよろしくお願いします。
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2021年11月5日 14:47

 何から話そうかな、と、主人である吸血鬼の少女は切り出した。  片眼を隠す前髪から漏れだす赤い光をこちらに向けて。 「何が聞きたい、お兄様?」 「お前は誰だ?」  即答。  対して、彼女は膨れ面。 「口がなってないなあ。ご主人様だよ?」  ぞわわわわわ、と全身が震えた。  視線は下、年も下、相も変わらず可愛らしい姿のライスシャワー──だのに、どうして見下げられている気がするのだろう。 「えへへ、良いよ、赦してあげる。お兄様はお兄様だもんね」  だが、その威圧は数秒続いた程度でふっと掻き消えた。 「……そりゃあ、どうも」 「説明すると長くなるけど良いの?」 「幾らでも。お前が嫌なら取り下げる」 「ライスは全然良いよ。えへへ、お兄様とこうしてお話しできるなんて、夢みたい」  左手は鬱陶しそうに背中の翼の皺を伸ばしながら、そしてもう片方の右手を占領したトレーナーの膝の上から彼の首に絡めて、そうして彼女は話を始める。 「まず前提条件。ライスはライスだけど、お兄様の知るライスシャワーではない」 「オッケー」 「だけど、限りなく性格はライスシャワーに近い、というよりもライスシャワー+@って感じかな。オルタナティブって言うのが一番適切なのかも」  なるほど、と思うも束の間──彼女は、ちゅ、と。  まるで、軽食を摘まむかのように、彼の頬にキスをした。 「それでね」 「おいちょっと待て」 「お腹空いたんだもん……あれれ、お顔真っ赤だよ、お兄様? ドキドキしちゃった?」  もうほんと誰なんだこの女。  知らない知らない。 「うふふ。で、続けるよ?」 「もう突っ込むの諦めたわ」 「お兄様も少し自覚してると思うんだけど、吸血鬼になると、ちょっとだけ倫理観が人と変わるんだよ」  言われてみれば成程、確かに今こうして吸血鬼の眷属として生きているトレーナーも、眷属になる前に比べて少しだけ人が変わったという自覚は、ある。  目に映る人間が、例外なく全て食料に見えたり。  やたら、周りの今まで何とも思わなかった規則や行動が、やたら煩雑な物に見える様になったり。  光が苦手になるから、必然的に思考はインドア派になった気がするし。  何より、その強すぎる力は、精神を狂暴に染めていく。 「だから駄目だって話じゃ全然ない。お兄様のその変化だって、言ってしまえば誤差の範囲内で、物凄い影響が生活に出るということは無いでしょ? ……だけど、どうしてもライスシャワーはそれが認められなかったの。特に、お兄様のことを食物としか見られなくなったことが」  大好きな大好きなお兄様を、いつか噛み殺す日が来てしまうかもしれない。  それを、彼女はひたすらに恐れた。  彼女は責任感が強くて、自分に厳しい性格で、引っ込み思案だから。必死で、誰に相談できるわけでも無いその感情を無理矢理嚙み殺して、欲求を歯を食いしばって封じ殺して、自分が暴走してしまわないようにと、耐えて耐えて耐えて。  だけど結局、一週間も経たずに決壊した。 「極端なんだよ、ライスシャワー。彼女が吸血鬼化についてお兄様に相談したのも、本当はかなり遅かったんだ。一週間? くらいは頑張って飢えにも渇きにも耐え切れてたんだけど、流石に命の限界を感じて、どうしようもなくなって──そこでようやく、お兄様に打ち明けられたって感じだったんだよ」  あっけらかんと、衝撃的な事実が彼女の口から語られる。  何も知らなかった、察することのできなかった彼を、言外に糾弾するように。 「分かった?」   そこで、上目遣いでこちらを見る彼女は、その視線の先に幻視しているライスシャワーを嘲笑うかの様に、口角を釣り上げて笑った。  傲慢に、凄惨に、美しく──笑った。 「……いや、おかしいだろ」  対して、トレーナーは苦い顔で否定する。  彼女が血液を求めて苦しむ様を、何度も見てきた。  その姿を見ているからこそわかる。あの状態で一週間持つとは、到底思えない。  と、そう伝えると、彼女は首を傾げて、それからすぐに合点が行ったという表情に戻った。 「あ、ちょっと説明不足だったね。あそこまでの執着はお兄様のせいだよ」 「……俺のせいなのか」 「うん。あ、別に気にすることじゃないよ。単にお兄様の血液が尋常じゃないくらい美味しいって、ただそれだけだから。お兄様の血液を呑むとね、頭がぽわあってして、凄く気持ち良くなるらしいんだよ」 「麻薬かよ」 「実質そうなんじゃないかな?」  他人事の様に、突き放す様に。彼女はそう言った。 「ま、ライスはお兄様の血の味知らないんだけどね。さっきも言った通り、ライスとライスシャワーは違うから」  ずばずばと、普段の彼女からは想像できないような勢いで、言葉が出る。  それは、何の気兼ねも無くするトレーナーとの会話がとにかく楽しいといった表情だった。  ただ、その内に少しだけ見える恍惚としたような目は、まあほぼ間違いなく目の前の彼を若干捕食対象として見ている目だった。結局お兄様のことを食物としか見られなくなっている。ちょっとだけ感動したのを返して欲しい。 「血の味にも個体差があるのか」 「というよりもね、ライスがお兄様のことが大好きで、お兄様もライスのことが大好きだから、それで。吸血鬼が求めるのは愛だからね。逆に言うけど、そこまでの相互愛があったからこそお兄様は生きてるんだよ? お兄様がもしただの赤の他人だったら、もしその想いが一方通行だったら、よしんば、お互いに互いを想っていたとしても、それがただのトレーナーとウマ娘との間にある親愛程度の物だったら──どの例だとしても、お兄様はきっと三日で干乾びてる。一人分の体で吸血鬼を養うなんて、そう簡単に出来る物じゃないんだよ」  恐ろしすぎるイフも、可愛らしく語れば何てことも無いように思えるから不思議だ。  ──そして凄くナチュラルに、彼女がどれほど自分のことが好きなのかということを暴露してしまっている。 「……そんなに好かれてるか、俺」 「勿論。ライスもライスシャワーも、お兄様のことが大大大好きだよ。じゃなきゃライスだって毎晩毎晩寝てる間にちゅっちゅしないし」 「いやあの、マジで何やってんのお前」 「愛情補給だよ。えへへ、ライスはお兄様の血液の味は分かんないけど、その代わりにお兄様の唾液の味は知ってるんだ♡」  れろぉ、と彼女は艶っぽく舌を出した。  「いっぱい、いっぱい、交換したもんね?」  わざとらしく唾液の水音を立てながら、こちらを誘うような眼をして、尻尾でハートを作りながら。  尋常ではないくらいの、噎せ返るような色香を振り撒いて。 「今晩もちゅっちゅしようね♡ お兄様♡」 「なるほど別人」 「どっちが好き?」 「ノーコメント」  吸血鬼というよりサキュバスだろうこれ。  ……と思ったが顔面が真っ赤になっていることを確認して、その評価は取り下げる。  彼女は確かにライスシャワーではないが、節々から感じるライスシャワーの片鱗からは、その人格がきちんとライスシャワーをベースとしているのだということを感じさせられる。  ただ、そういうことを思った後に口に出すか出さないか、その差だろう。  割とむっつりな妹様だし。 「んで、結局お前は何者なんだよ」 「うん、そうだよね。そろそろ結論に行っても良いかな」   今の彼女は、自分のことをライスと呼称していながら、彼が知るウマ娘のライスシャワーとは違う存在であるかのように振る舞っている。  ──まるで、年の離れた妹のことを語るかのように。  ──まるで、一方的に知っている有名人について語るかのように。  ライスシャワーではないライスシャワーは、ライスシャワーについて語っている。  そんな彼女は。 「さっき言った通り、ライスシャワーは吸血鬼化に伴う自分の倫理観の変化を受け入れることが出来なかった──何せ、大好きな大好きなお兄様に嫌われてしまうと思っちゃったから。その結果、彼女は自分の中で生まれた、言うなれば吸血鬼的性格、それを心の奥底に封印したの。ここまで言えば分かるかな? お兄様?」  そう。  ──もう、言うまでもないことなのだが。 「だから言ったでしょ? 吸血鬼性が強いだけの、ライスシャワーって」  多重人格。  アルターエゴ。  その答えに彼が辿り着いた瞬間、彼女は部屋のカーテンを開けた。  そこには、不自然なほどに大きく、金色に光り輝く満月があった。  ──それを背景にして、彼女は窓枠に腰掛けた。 「さあ、自己紹介は終わったし、改めていっぱいお話ししよう、お兄様? お兄様の疑問の到達点はここじゃないでしょう?」  場に、凄惨な雰囲気が、もう一度渦を巻き始めた。  中心にはライスシャワー・オルタナティブ。  お兄様のことが大好きな、お兄様の御主人様。 「満月の夜に、睡眠薬を摂取させなかったのは失敗だったね。ライスとしては、すっごく有難いけど。ずっとずっとずっとずっと、逢いたかったんだよ?」  銀色に輝く八重歯を剥き出しに、蠱惑的なルビー色の瞳をかっと見開いて。  歌う様に、体を左右に揺らして。  彼女は、告げる。 「弱い弱いライスシャワーが封印してしまったせいで、忘れてしまった──否、目を背けてしまった、吸血鬼についての情報。お兄様が喉から手が出る程欲しがっている、その情報を、ライスは知っている。知っているけど、ただでは教えられないよ?」 「……何が条件だ?」 「だって、ライスは、ライスシャワーのこと、大嫌いだもん」  それは、ある意味見慣れた様な。  寂しい笑みだった。 「大好きなお兄様と、目の前でいちゃいちゃして。夜になって寝てくれないと大好きなお兄様には会えない、そんなライスを生み出しておいて。いつもいつも自分だけ、お兄様に構ってもらえて。そんなことするくらいだったら吸血鬼(ライス)を背負ったまま生きてくれれば良かったのに、それすらもできないのに、お兄様の隣で吸血鬼(ライス)のことなんて無かったかのように笑う、ライスシャワーが嫌い。ライスだって、ライスだって……お兄様のこと、心の底から、大好きなのに」  元から、彼女は彼女自身を嫌悪していた。  その性質を引き継いで、その上で、更に嫌っていた。 「そんなライスが、ようやくお兄様と会えたこの夜を、ライスシャワーの為なんかに使ってやる義理なんて無いんだもん。例えお兄様が好きなのはライスじゃなくてライスシャワーなんだって、知ってても」 「……俺と話せるのが夢みたいってのは、嘘じゃなかったのか」 「…………ライスシャワーにとっては、この時間はただの夢で終わるけど」  ライスにとっては、ずっとずっと待ってた、夢なんだよ。 「そっか」 「だから、お兄様」  ぽすりと、力なく歩み寄った彼女は彼の胸に額を当てて。  泣きそうな声で、言った。 「……今夜だけでも、ライスと遊んでくれる?」  ──命令すれば嫌でも叶うだろ、なんて野暮なことは、流石に言わなかった。  その程度の乙女心は、汲み取れる。 「……何がしたい?」  それに、彼女はライスシャワーだ。  お兄様が、誰よりも愛する、妹だ。 「全部全部、お兄様が叶えてやるよ。ライス」  ぱあっと、彼女は。  吸血鬼に言えば怒られるだろうが、向日葵の様な笑みを浮かべて、言った。

「海‼ 海に行こ、お兄様‼」



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