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そのイベントは、突然に訪れた。
「ちゅっ」
「………………ん?」
俺はその時、何が起こったのか、すぐには理解することができなかった。
……まずは、落ち着いて、考えてみよう。……初めに、担当ウマ娘のアグネスタキオンが、トレーナー室にやってくる。ドアが開く音がしたので、俺も一瞬だけそちらに目をやった。
それから、再び視線を手元の書類に落とした瞬間のことである。
視界の片隅に、強烈な光景が割り込んできたのだ。
―タキオンの、投げキッスである。
大事な事なので、もう一度言わせていただこう。
アグネスタキオンの!!!!投げキッスである!!!!!!!!
「……」
俺は、視線を手元からタキオンに戻した。当然の行動だ。
彼女はいつも通りに専用の席に……向かうでもなく、部屋の真ん中で立ち止まってこちらを眺めている。
凝視している、というわけではなく、ただ視線を向けてぼーっとしている、そういう感じであった。やや違和感のある光景ではあったが、幾ら眺めども、そこに投げキッスの残滓は存在しない。
そうして佇むタキオンをじっと眺めていると、少しずつその眉が八の字に曲がっていく。どうやら今まで考え事をしていて、俺の視線に気が付いていなかったようだ。
「……なんだい、トレーナーくん」
「タキオン、お前、今……投げキッス、しなかった?」
おそるおそる、タキオンに聞いてみる。
「―今日は絶好の研究日和だね。さて、トレーナー君。今日はこの試験管の中身を飲んでもらおうじゃないか」
「そうじゃなくて、投げキッスー」
「ああ、それより先に今日の体温測定を行おうか。一昨日の薬は予期せぬ発汗、発熱作用があったみたいだからねぇ」
「……」
……タキオンは、話題を逸らそうとしている?
いや、そもそも、投げキッス自体、タキオンに密かに強い劣情を抱いている俺の見間違い、妄想だったという可能性も否定しきれない。……そうだ、冷静に考えてもあのタキオンが、意味のない投げキッスなんてするわけがないのだ。うまぴょいの練習中なら、まだわかる。だが、ファイナルズもとっくに終わっているので、そもそも振り付け練習をする必要なんて微塵もない。
「……」
―これは現実なのか、胡蝶の夢か。
だが、諦めきれない可能性が、そこにはある。
「トレーナーくん、何をぼさっとしているんだい。さっさとこっちにきたまえよ」
席に腰を掛けたタキオンは既に尋常の状態に戻り、いわゆる『萌え袖』をクイクイとさせて、俺を呼んでいる。
その無意識に行っているえっちな仕草に何度、何も考えぬままに彼女の差し出す薬を飲んだことか。エロ栗毛がよ。体で誘って、大人を良いように弄びやがって。
「トレーナーくーん」
痺れを切らしたタキオンが、席を立ちあがりこちらに近づいてくる。
「あんまりぼーっとされると困るよ、キミ。もっとしっかりしてくれないと―」
俺は近づいてきたタキオンの腕を、咄嗟に掴んだ。すると、ぴたりと彼女の動きが止まる。それから掴まれた箇所に目をやり、不思議そうにこう尋ねてきた。
「……何だい、トレーナーくん?」
「さっき、投げキッスしたよね???」
なかったことにはしないぞ、タキオン。
「トレーナーくん、そんなことより実験を」
「そんなこととはなんだ!!!!投げキッスだぞ!!!!!????」
「きゅ、急に大きな声を出すなよぉ……」
一瞬びくっと震え、ぺたんと耳を畳むタキオン。ウマ娘は聴覚が人間と比べて非常に高く、しかもデリケートなのだ。イヤイヤと後ろに身体を逃がそうとするタキオンに対して申し訳ない気持ちが湧いてくるが、悪いな。この心は性欲で一杯なんだ。最早罪悪感が付け入る隙はない。
「投げキッス!!したよね!!!???」
「君も、しつこいな……ああ、したよ。したが、それが何だというんだい」
埒が明かないと思ったのだろう、ついにタキオンは認めた。だがまだ内埒は明かせないぞ。性欲包囲網だ。
「どうして急に投げキッスしたんだ?答えよ!」
「そ、そりゃ気まぐれだよ、気まぐれ。それより実験に移りたいんだが、もういいかい?」
「ダメ!!!!!もう一回投げキッスやれ!!!!」
「え、えぇ……」
困惑気味だった少女の表情が、面倒くさい人間をみるものに変わる。
そうだ、俺はタキオンに関しては煩いのだ。愛しているからな。
栗毛に対する情欲は今の今までモラルで覆い隠して生きてきたが、タキオン側からのアプローチとなると流石に話は別である。まさに毛利氏にとっての宇宙が、俺にとってのタキオンなのだ。
「投げキッス、リトライ!」
「はぁ……どうしてそこまで投げキッス程度に拘るかな……。ウイニングライブの練習中に、幾らでも見ただろう?」
見た。あれは至福の時間だった。繰り返し繰り返し、投げキッスをする俺の愛栗毛……
だが、うまぴょいの投げキッスは、あくまでうまぴょいの投げキッスなのだ。
たしかに投げキッスではあるが、それは本物の投げキッスではない。
だが、先ほどの投げキッスは、たとえ気まぐれであろうとも間違いなく本物なのだ!!!
正真正銘、俺だけのタキオンのチュウだ!!!!!
「……わかるか?タキオン」
「流石の私も、君の心の中まで読めるわけじゃないんだよぅ……」
「読め!!!!!!」
「だ、だからっ、……大声は、やめてくれって……」
今度は素直に頭を下げた。タキオンに嫌われたいわけじゃないからな。
「一回!一回だけやってくれたら、それで満足するから」
「……本当に、それで満足するんだろうねえ?」
「するする。ちょびっとだけ、ちょびっとだけでいいから」
タキオンが深くため息を吐いた後、「仕方ないな……」と呟くのが聞こえた。どうやら投げキッスをしてくれるらしい。
掴んでいた腕を離すと、タキオンは少しだけ距離を取って俺の真向かいに立った。
「一回だけだよ、……」
俺はウンウンと頷く。
栗毛教の俺が、栗毛との誓いを破るわけにはいかない。約束は守ろう。
……しかし。普段のタキオンなら、「ふぅン……トレーナーくん。私とセックスしたいなら、ここの試験管100本、毎日飲んでもらおうか」なんて、俺の劣情を満たす代償として、交換条件を出してくるはずだが。もちろん、タキオンはそんな爛れたことは言わないけどね。俺の夢の中のタキオンはいつもこんな感じだけど。……とんだ爛れウマだな!!恩を性で返しやがって。ビッチホースがよ!
とにかく、気が付いてしまうと、交換条件を出してこないのは、些か彼女らしくはない。
「……おーい、トレーナーくん。もう、やってもいいのかい?」
気が付くと、タキオンが俺の顔を不審気にのぞき込んでいた。おっといけない。今は目先のチュウだ。というか顔近い。かわいすぎて吐き気してきた。
なんとか、理性を保たねば。
「ああ……じゃあ、お願いします」
「はあ。どうして私が、こんなこと……」
ぶつくさ言いながらも結局はやってくれるんだもんな。そういうところ凄く好きだ、愛してるぞ、タキオン。
……というわけで、栗毛の少女は、若干嫌々ながらも。
自らのトレーナーに対して、投げキッスを敢行したのであった。……
「……ちゅっ」
「……」
マーベラス!!!!
やはり、本物の投げキッスはいい。素晴らしい。
タキオンのキス顔に、俺の胸が激しく高鳴るのが分かった。
だが。まだまだ、物足りない。
「……これでいいかい?」
「…………もう一回」
人間は、欲深き生き物なのだ。すまんな。
「え?いや、一回だけだって」
「二回やったら三回やるって相場が決まってるだろうが!!!!二度あることは三度ある!!!」
「まだ私、一回しかやってないよぉ……」
「先っちょだけ許可しておいてその先を許せないなんて、とんだ男狂わせだな!!流石栗毛と言いたいところだが、今はただただ、腹立たしい……!!」
「り、理不尽過ぎやしないかい」
「やってくれないと担当ウマ娘契約解除するぞ!!!」
「!?」
一線を越えた発言をしてしまったような気がするが、知ったこっちゃない。寧ろコラテラルダメージがデカすぎる発言だ。だが拒否なんてさせないし、そもそもの話、たとえ頼まれてもタキオンとの契約を解除するつもりはない。
俺は投げキッスガチ勢なのだ。そして栗毛との約束は破るためにある。奴らの言に従っていると、脳内がエロスで汚染されてしまうからだ。個別的自衛権。
と、思っていると。
目の前の栗毛がふらふら、とこちらに倒れ掛かってきた。
思わず両手で受け止めたところで、その様子がおかしいことに気が付く。
「……タキオン?」
―少女はとても哀し気で、今にも泣きだしそうな顔になっていた。
「トレーナーくん……契約解除だなんて、そんな哀しいこと、冗談でも言わないでおくれよ……」
「……ごめんなさい」
やりすぎた。
俺は一線を越えた発言をしてしまったことを素直に謝った。
「……じゃあ、後二回だけだからね」
「ウン」
「本当の本当に、二回だけだからね。これが終わったら、研究に付き合ってもらうよ?」
「ああ。俺も男だ、約束は守る!」
「さっき破ったばかりだよねえ?」
「ブラフだ」
「哀しいな、今日は全然話が通じないね……」
「よし、じゃあ始めてくれ!」
「ハー……本当の本当の本当に、最期だからね、……」
……。
「……ちゅっ…………ちゅっ……」
「……」
「これで、満足したかい?」
「……」
「―何だい、その目は。そんなに見つめられても、もうやるつもりは―」
「……こんなの見せつけられて我慢できるわけねえだろ!!!四度目の本番だ!!!キスさせろオラッ!!!!!」
三度の投げキッスにすっかり昂ってしまった俺は、タキオンの肩を思い切り引き寄せて接吻をかました。
「っむ!???むむむーーー!!???!」
これが、性衝動……!!そして、いつもは薬品臭い印象の強い、タキオン。その体内は、チョコレートが流れ落ちているかのように、甘かった。これが、栗毛の中……。
溶ける、溶けちゃうよこれ!!
タキオンの舌が、俺の舌の上でシャッキリポンと踊る!!
いや、これ普通に抵抗してるだけか。
「と、トレッむむ!?お、おいッッッんむむむむむッ!!!???」
タキオンが口を引き剝がし何事かを喋ろうとしているが、その度に俺は十万馬力の力で栗毛を引き戻し、マウストゥーマウスを継続させる。まだまだ逃がさんぞ、タキオン。
「や、やめっっちゅっ!!?はなれっぅむむっーーーー!!??」
やめろと言われてやめられる道理が、何処にある?
俺はか細い抵抗を跳ねのけ続け、無我夢中で栗毛の口内を、粘膜を犯しまくった。……
―さて、暫く一進一退の攻防を続けていると、徐々に目の前の栗毛の抵抗が弱まってくる。
諦めたのか、力尽きたのか、はたまた力が抜けてしまったのか―。
そこで漸く俺も欲望の一部が解消され、理性の付け入る隙が生まれる。
口を離して肩を引き寄せる力を抜くと、タキオンはそのまま床に崩れ落ちてしまった。
見れば、その顔は真っ赤に紅潮し蕩け切っており、満更でもなさ気な表情だ。……絶対、嫌がられるか、ドライな反応をされると思ったが。
そこは少し、意外だった。
「タキオン、大丈夫か?……」
「……」
タキオンは喋らない。
白衣の長い丈を床に広げたまま、少し俯いたままで、反応がない。
「はぁー……♡はぁー……♡……」
よくよく耳を澄ますと荒い呼吸が聞こえるから、気絶はしていないようだが。
というか、呼吸もエッチだな……タキオンの口から出たО2犯したい。オラッ、酸素姦!!!三重結合せよ!!!
「タキオンー」
「……」
「タキオンちゃーん」
「……」
身体を揺すっても、真っ赤に熟れたほっぺをつんつんしても、タキオンからの反応はない。
試しに背後から胸も揉んでみたが、それに対してもノーリアクション。無抵抗だ。
……一回だけのつもりだったが、柔らかくてついつい胸を繰り返し揉んでしまう。
while(1){モミモミ}。while(1){モミモミ}。
ここまで静かで、されるがままのタキオンは、初めてだ。……ちょっと、心配になってきたな……
……while(1){モミモミ}。while(1){モミモミ}。
それからタキオンの髪をなでていると、暫くした後に漸く、タキオンは再起動を果たした。
が、視線が合った彼女はどこかもじもじしていて、様子がおかしい。尻尾も、右へ左へと挙動不審に揺れている。それに火照った顔を見るに、まだまだ体の熱は引いていないようだった。……はぁ、タキオンの尻尾の毛で俺専用の歯ブラシ作りたい。
「……トレーナーくぅん」
囁くほどの小さな声量で、少女は話しかけてくる。
「何だ?タキオン」
「アレ、……その、もう一回、……やってくれるかい?」
「アレ?」
「だから、……キスだよ」
「……」
「このままじゃ、身体の火照りが熱くて、……止まりそうに、ないんだ」
「……」
「全部、君のせいだからね……♡」
いや、全部タキオンのせいだろう。
栗毛は、淫乱……喩え研究狂いのタキオンと雖も、そのカルマからは逃れられない。
そして、安易に投げキッスをかましたタキオンは、その代償として発情することとなってしまった。
俺?悪くないよ。悪いのはタキオンだよ。全部タキオンが選んだことだよ。えっちだよ。
ぺたんと座ったまま、俺の裾を掴み、いつになく媚びた声を出しながらこちらを見上げてくるタキオン。
そんな彼女に、俺は腹立たしい気持ちを抱くとともに、確かな情欲を感じていた。……
完
全部タキオンが悪い
……本当に?
さて、ここでタキオンにバトンが渡されました。
ここからは後半戦。栗毛チームのあまりのハイペースに、既に周回遅れチームも出ています。
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