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「はーーー……」
連日溜まっていく事務作業に、愛バの2人が振り向いてしまうほどの大きなため息をつく。
PCのキーボードを鳴らす音が止まったと思えば、次に聞こえたのは成人男性の情けないため息である。不審に思われるのも無理はない。
「あ、ごめん……余計なもん見せちゃって」
「いえ……お疲れですか?」
担当ウマ娘の1人であるマンハッタンカフェは心配そうな視線を向けてきた。彼女の金色の瞳に吸い込まれそうになりながらも、何とか意識を保ち事務作業を再開する。
寝不足……というわけではないが、仕事中に溜まった疲労は完全には取れていないらしい。もう1人の担当ウマ娘であるアグネスタキオンがこちらに向かって渡してきた怪しい色に光る薬(彼女曰く、疲労回復の効果があるらしい)をセールスを捌くかのごとくやんわりとお断りしつつ、俺の意識は再度PCへと向けられた。
「参ったねえ……仕事人間とはトレーナー君のためにあるような言葉だ」
「珈琲……淹れましょうか?」
「あ、あぁ……ごめん、頂いてもいい?」
実際、カフェの淹れた珈琲は一息つくのに丁度良い。俺好みの甘さに調節してくれる所も、彼女の優しさを感じる。
タキオンもタキオンで、実験抜きでも彼女なりの優しさを見せてくれているのだと思うと、自分はトレセン学園のトレーナーの中ではかなり恵まれているんじゃなかろうか。
「んん〜〜〜っ……やっぱり2人のウマ娘を担当となると結構大変だな」
「っ…………」
「あっ……ご、ごめんタキオン!そういうつもりじゃなくて……!」
俺が不意に漏らした言葉でタキオンが息を詰まらせるのを感じる。俺は元々カフェの担当トレーナーではあったが、成り行きでカフェの面倒を見ることになったタキオンが走りを再開した時、同時に俺が彼女のトレーナーに任命されたのだ。
俺としては彼女の実験で得られるものは今まで数えられる程度だが確かに確認できた上に、俺自身も彼女の走りに興味を持ってしまったので、これ以上喜ばしいことは無いと思っていた。
……俺が担当を兼任すると聞いた時のカフェは何だか拗ねたような顔をしていたが。
目の前でPCに広げられている資料は、カフェとタキオンのトレーニングのデータをまとめた物だ。こうして比較してみれば、2人の走りには明確な違いというものを見出すことができ、なかなかに面白い。兼任のトレーナーにしかできないことなのだと思うと、なかなかに嬉しくもある。
「……さっきから顔が気持ち悪いぞ、トレーナー君」
「え、あぁ、そう?」
どうやら無意味にニヤついていたらしい。自分の頬に手を添えてみれば、確かに口角が上がっている。
「うわぁ……これは確かに気持ち悪いな」
「タキオンさん、失礼ですよ……はい、トレーナーさん……珈琲です」
「あぁ、ありがとうカフェ」
珈琲の入ったカップを机にそっと置いてくれたカフェの頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細める。まるで猫みたいだ。
鼻腔に染み込むような優しい珈琲の香りはすぐに全身に広がっていく。
「あぁ〜〜〜……魔法みたいに直ぐに疲れでも取れればな……お前達の担当トレーナーとしての仕事に今以上に専念できるんだけど」
その言葉を聞いたタキオンが嬉しそうに耳をピクリと反応させる。
「ほうほう、そんな都合の良い薬をご所望なら私のこの秘薬を……!」
「タキオンさん」
懐から先程よりもさらに怪しい色の薬を取り出そうとした瞬間、カフェに制止される。なるほど、カフェが猫ならタキオンは犬だ。
「でも……確かにトレーナーさん、今の状態だと休みの日しかまともに休息が……」
「仕事してる奴は大抵そんなもんだよ。っていうか、そのために休日があるようなもんだし」
とはいえ、休日に1週間分の疲れが取れるかと言われるとそういうわけでもない。無意識にトレーニングのことを考えたりレース映像を見てしまうあたり、既にトレーナーとして末期なのだろうか。
「……あの、タキオンさん、ちょっと耳を貸してください」
「ん?何だいカフェ」
本当のことを言っていないことがバレたのか、何やらカフェはタキオンに耳打ちを始める。内容が気になるが、女の子2人の会話に割り込むなんて野暮だろう。俺は気にしないことにし、事務作業を再開する。
「ほう……?カフェにしてはなかなか良い案じゃないか」
「今から……ですよ?準備はいいですか?」
「ああ、勿論だとも」
無言でキーボードを叩き続ける俺に話を終えたであろうタキオンとカフェが近付いてくる。2人とも何かに期待しているような視線だが、余計に先程2人が話していた内容が気になってくる。
「あの、トレーナーさん……今のお仕事はどれくらいで終わりますか……?」
「え?一応いつでも終われる程度までは進めてるし、区切りは付けられるけど……」
「でしたら……一緒に来て欲しいところがあります」
「……え?」
素朴な疑問を抱く暇もなく、俺の片手はタキオンに引っ張られていた。
「あっ……タキオンさん、あまり無理させちゃ……」
「まあまあ、私達に任せたまえよ、疲れた君の身体は……今から嫌という程に癒されることになるからね」
「は?それどういう……」
ウマ娘の力に抗えないまま、俺はタキオンに手を引かれトレーナー室を後にする。
タキオンの言葉を不思議に思いながらも、俺はただ2人に導かれるままに足を進めることしか出来なかった。
2人の口元が弧を描いているのにも気付かないまま。
◇
連れてこられたのは、普段2人が共用で利用している空き教室──タキオンのラボだった。
そこまでは理解出来る。大方俺を使った実験でうんたら〜……というのを考えているのだろう。そうだとしたら、カフェが協力者になっているのは少し疑問だが。
だが、俺の予想とは違った方向であることがすぐに理解出来た。
後から入ってきたカフェによって部屋の鍵は締められ、完全に密室と化したこの部屋に充満する甘ったるい匂いを嗅いだ瞬間、腰から崩れ落ちるようにタキオンに向かって倒れていった。
「……え?」
「おっと、警戒しないでくれたまえよ。何も怪しいことをしようとしているわけじゃない。この香りは、カフェの協力の元作り上げたアロマでね」
「はい、ウマ娘には効果はありませんが……トレーナーさんのような人間が体内に取り入れると、少しだけ……」
少しだけ、何だ?
ちょっとでも意識を他方向に向ければ、タキオンとカフェの言葉が認識できない程度には脱力している。
だが不思議と苦しいとは思わなかった。むしろ身体の疲労が一緒に抜け落ちていくようで、心地よく───
「さて、そこのベッドに移動するよ?」
タキオンの言葉に俺は意識を朦朧とさせながらも、小さく頷く。カフェの優しい手が身体を支えてくれているのが分かる。
俺の力が抜けた身体は2人によってベッドに仰向けに寝かされ、間もなく2人が俺を挟むようにしてベッドに入り込んで来るのが分かる。
「トレーナーさん、ごめんなさい……でもこうするしかなかったんです」
「カ、フェ……?」
「どうしてもトレーナーさんが心配で……少しでも私たちで癒せたらって、そう思ったら……」
「……というわけだよ、トレーナー君。全てはカフェの意思さ」
「タキオンさん……貴方だって面白がってたじゃないですか……」
「……まあ、それは良いとして」
タキオンのすらりと伸びた指先が俺の耳をゆっくりと撫でると、反射的に身体が反応してしまう。
「おや、良い反応だね……カフェもやってみるかい?」
「では、失礼します……ふぅーーー……」
片側からはタキオンの指先が、もう片側からはカフェの吐息が俺の耳をくすぐっている。俺をおもちゃにでもしているのだろうか。そうであれは担当トレーナーとして2人を叱ってやらなければならない。そうでなくてはならない、のに──
(あぁ……)
少しでもこの2人の遊びに飲まれてしまえば、そこはもう後戻りのできない底なし沼なのだ。
(気持ちいい──かもしれない)
カフェの手が俺の頭を撫でてくる。優しい手つきに、思わず溺れてしまいそうで。
「トレーナーさん、いつもありがとうございます……私達に献身的尽くしてくれて……とても嬉しいですよ」
「……だそうだよ、トレーナー君?」
「タキオンさんだって同じようなこと思ってる癖に……何言ってるんですか……」
「……カフェ?それは口に出さない約束だろう?」
そう言いつつも、タキオンは脱力した俺の手を握ってくる。マッドサイエンティストとは思えないほど、小さくて柔らかい女の子の手。
「まあ……君が居なければ今の私は居なかった、そう言えるだろうね」
どこかぎこちなく、それでも確かな愛情表現のこもった声色に朦朧とした意識の中でタキオンなりの優しさを感じることができた。
身体がベッドに飲み込まれてしまいそうなほど、力が入らず全身を預けてしまう。そんな俺に両側から甘い言葉を囁き続ける彼女達。これは──きっと普通のトレーナーとウマ娘の関係を超えてしまっているのだろう。
それでも彼女達は、トレーナーとしての俺を癒そうとしてくれている。
「……トレーナーさん、いつも頑張ってくれて……ありがとうございます、そんなトレーナーさんが……私もタキオンさんも大好きですよ……」
「私も……というのは確かではないが、君にそれなりに感謝しているのは確かだよ、トレーナー君」
「よしよし……私の、私達の……大切な大切なトレーナーさん……」
俺は今、一体何をされているのだろう。
担当ウマ娘の2人にベッドに寝かされ、挙句の果てには2人に添い寝までされて。
(これ──理事長やらたづなさんに知られたらまずいな)
頭の中で自分の体に動けと訴えかけるも、俺の身体は全てを拒否していた。2人に身体を預けろと全てを任せてしまえと逆に命令されるように。
「ところでトレーナーさん……もしかして、耳が弱いんですか……?」
「おや、なかなか面白い発見だねぇ……そろそろ本番と行こう」
……と、それなりに癒されていたのも束の間。
何が引き金となったのか、耳元に2人の吐息を近付けられる。
そして。
「……れろっ……♡」
「んー……ちゅるっ……♡」
意識を手放すか手放すまいかの境目に立っていた俺の身体は、両耳に感じる生々しい温かさ……要するに、2人の舌が這う感覚によって一気に引き戻された。
「っっっ……!?」
「あ……本当に弱いみたいですね……」
「これは……ほうほう、なるほど……」
躊躇いもなく耳の内側にまで舌を入り込まされ、聴覚が2人の水音によって支配される。
「ん、ちゅる……ちゅ、は、ふぅ……♡トレーナーさん、気持ちいいですか……?」
「んー……れろっ、れろっ……ぢゅぅっ……ぷはっ、面白い反応だね……もう少し試してみるとしよう……♡」
「待っ……これっ、癒されるどころじゃっ……」
耳に走るもどかしい快感と鼓膜に響く音が全身を刺激してくる。朦朧としていた意識は少しずつはっきりとしてきて、2人のペースに飲まれてしまっていることが分かる。
早く止めなくては、そう思っても身体は上手く動かない。2人に拘束されているかのように、無意味な抵抗しか出来なかった。
少しでも彼女達に意識を向ければ、水音、水音、水音。そして快感。
「ちゅぷっ……れろ、ちゅぅ……♡はぁ……ふふ、トレーナーさん……♡」
「ん、れろっ……ふ、くすくす……♡良い癒し効果にはなったかな……れろれろっ……くちゅ……♡」
俺を癒す。そういう目的だったことをまるで忘れているかのように、俺の耳、そして身体を弄び続ける。
いや、確かに癒しているのかもしれない。男という生き物として、女の子に両側から耳を舐められて……これ以上のご褒美は無いだろう。
何故こんなことになったのか、元から2人はこれが目的だったのか。
思考は徐々に耳にだけ走る快感に埋め尽くされていき、身体が熱くなるのを感じる。
「んべ……ちゅぅぅっ……♡ここ……耳たぶ、でしたっけ……吸われるの弱いんですね……♡ちゅぱっ……♡」
「ふぅーーーっ……ふ、くす……♡どうだい?されるがままに愛バに癒されるのは……ん、れろれろっ……♡」
「く、ふっ……」
愛を流し込まれるように、耳に感じる温かさは増していく。くちゅ、くちゅ。そんな音だけを耳は感じ取り、時々囁かれる断続的な愛の言葉で身体はビクリと情けなく反応してしまう。
「ふふ……トレーナーさん……♡ちゅ、ん、はぁ……すき、すきですよ……♡」
「ふ、クク……♡ほーら……トレーナー君……愛バにこうやって……溶かされるように責め立てられて……君はいつまで平常を保っていられるんだろうねぇ……♡くす……♡」
「ダメですよ、タキオンさん……ん、ちゅ……これは……れるっ……癒してるんですから……♡」
「おっと、失礼……ちゅ、れろ〜っ……♡」
ダメだ、耐えろ俺。ここで反応しちゃダメだ。
部屋中に広がるアロマの香りと耳から伝わる快感に下半身が反応してしまわぬよう、括約筋に力を込める。
「すき、すき……♡トレーナーさん、すき♡」
「すきだよ、トレーナー君……♡ふ、ふふ……♡すー……き……♡」
次々と投げ込まれる愛の言葉に、俺の脳内はキャパオーバー寸前だった。
これは夢なのだろうか。夢にしろ現実にしろ、俺はきっと男として情けない顔を浮かべてしまっているのだろう。
あぁ───俺は弱者だったのだ。
そう実感し、ゆっくりと──ゆっくりと、俺は意識を手放していった。
◇
「あ……目が覚めましたか?」
そっと目を開けると、美しい黒髪と金色の瞳が目に入る。
「カフェ……?」
「……すみません、私の膝枕……硬いですよね」
「いや、そんなことないよ、ありがとう」
どうやら女の子の膝を借り続けて1時間弱眠りこけていたらしい。紅茶の匂いを漂わせ、俺の分のマグカップを持ったタキオンが近付いてくる。
「やれやれ、癒すのが目的だったのに途中でダウンしてしまうとはね……」
「え、じゃあやっぱりあれって夢じゃ……」
担当ウマ娘と一線を超えかけてしまったのが現実出会ったことを思い知らされ、サーっと顔から血の気が引いてくる。
「気にしないでください、トレーナーさん」
「え、あ……でも……」
「分かるだろう?これは……私達3人の間で起こったことなんだ」
開こうとする俺の口をタキオンが指先で塞ぐ。女の子の指ってこんなに柔らかかったのか。
「そうです、私達3人の……秘密、ですよ……」
秘密。
そんな言葉に実感を持てないまま、ゆっくりと身体を起き上がらせる。
「……あれ?」
頭がカフェの膝から離れ、上半身を起こすと1つの違和感に気付く。
「身体が……軽い?」
信じたくはなかったが、そういうことらしい。
なんて事だ、俺を弄んでいただけだと思っていたが、先程の行為には本当に癒し効果があったというのか。
今まで蓄積していた疲れが全て出ていったかのように清々しい体調だった。
「それは良かったです……ね、タキオンさん……?」
「クク……実験は成功みたいだねえ」
こんな魔法のような事が有るのなら、もっと前から知っておきたかったというのもある……が。
これはウマ娘との一線を超えた先に見えたものである。
そう簡単にもう一度……なんて。
(……いや)
先程のカフェとタキオンの言葉を思い出す。
「……なぁ、2人とも」
「はい?」
「何だい?」
「さっきのって……俺達だけの秘密、なんだよな?」
「……ん、あぁ……」
「…………はい♡」
2人が目を合わせているのが見える。作戦通り、といった目配せだろうか。何にせよ、もう既に俺は───
「また……お願いできるか?」
「はい……勿論です……♡」
「良いさ、何度でも……癒してあげようじゃないか」
2人に溺れてしまったのかもしれない。
ここから導き出される答えは百合ではない
そう、タキカフェサンドイッチだ