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ソファに全身を預けるのが心地よいと感じる疲労がずっしりと身体に響く。
柔らかいソファは俺の身体を全て埋め込んでしまうのではないかと思えるくらい、全身は確かな疲労を感じていた。
「あー……疲れた……死ぬ……」
何故か担当バであるタキオンのメニューを一緒にこなす事になり、無念にも途中でギブアップ。いや、ウマ娘でもないただの人間の男が同じメニューを途中まででもこなすなんて我ながらよくやったと褒めてやりたい所なのだが。
お陰様でタキオンの担当を務める前と比べてだいぶ身体に筋肉も付いてきたとは思う。俺以外がタキオンのトレーナーに立候補なんてしてきたら全力で止めてやりたいくらいだ。女性なら尚更。
「おやおや、随分お疲れみたいだねぇ……ここは私の出番かな?」
機嫌が良さそうにトレーナー室へ入ってきたジャージ姿のタキオンが、どこから取り出したのか試験管を軽く振りながら見せつけてくる。
「誰のせいだと思ってんだ……」
「いやぁ、良いデータが取れたよ。流石は私の専属モルモットだ」
「いや……まあそれでお前の研究が進むなら別にいいけど」
実際のところ断ることは出来たのだが、それでも俺がこいつのデータ採取や実験に付き合ってるのは、やはり走りに惚れ込んだ弱みというのもあるのだろう。
とはいえ、こうしてトレーニングに付き合った次の日は決まって全身が筋肉痛になる。出来れば次の日に休みが控えてる時にしてほしいのだが。
「今日はもう動けん……」
「君、汗だくのジャージ姿のままだと風邪を引くだろう。さっさとシャワーでも浴びてくれたまえ」
「無理だ……身体動かない……」
「……だったら、私がシャワー室まで連れて行って一緒に洗い流すことも出来るけれど……どうする?」
「……自分で行きます」
弱っている状態なら本当にやってくれるのではないかと一瞬脳裏に過ったが、流石に周囲から誤解を受ける上に倫理的に良くないので急いで煩悩を振り払う。
とはいえ、やはり過去も含めて何度もこいつの実験を兼ねたトレーニングに付き合って何も無し……というのは、流石に納得がいかない部分もある。
心身ともに疲労の溜まった状態でまともな事を考える事なんて出来ないとは思うが、ダメ元で口を開いてみる。
「……あー、タキオンが何かご褒美とかくれたらもっと頑張れるかもしれないなー……」
ご褒美──あまり女子高生相手に使うべき言葉ではないだろう。場合によってはセクハラになる可能性もある。
だが俺にとっては無問題。彼女のトレーニングに身体を張ってきたのだ。正直に言うと対価など要らない程度には彼女に惚れ込んでいるが、こういった駆け引きにタキオン自身どう応じてくるのか少しだけ気になる部分があった。
「……へぇ、”ご褒美” ねぇ……」
案の定、「面白そうじゃないか」とでも言いたげな怪しい笑みを浮かべている。あ、これは失敗したか──と構えていると、ジャージのチャックを少しだけ下ろし、怪しげな笑みのままソファに横たわる俺を見下ろしてきた。
「そういえば……アイネス君だったかな?彼女が担当トレーナーにとある駆け引きをしていたのを思い出したよ……それがご褒美になるかは、君の感性次第だがね」
俺の横たわるソファの真隣で、やけに胸元が強調されるように前屈みになり、そのままチャックを下の方まで下ろし───
「……揉むかい?」
「……は?」
………………
「俺の身体を揉んでくれる……ってことだよな?」
「いや、私の胸を君に揉ませてあげようとしてるんだが」
言葉を失った。それもそうだろう、今の俺にはタキオンが何を言ってるのか分からない。
「……む、ね?」
「分からないかい?そうだね……アイネス君と同じような呼称であれば、おっぱ……」
「うわあああああ!!わああああああ!!!」
タキオンの口から下品な言葉を聞くのに躊躇いを感じ、思わずかき消すように声を出してしまう。
「急に声を上げるのはやめたまえ」
「ご、ごめん……なんだけど、いや……流石にまずくないか?」
「ご褒美とやらが欲しいと言ったのは君だろう」
「そうなんだけどさ……」
理解が追いつかなかった。というか、そんな会話が周りの耳に届くってトレセンは一体どうなっているんだ。
アイネスちゃんのトレーナーには後日詳しい話を聞くとして、今は目の前で胸を揉むか揉まないかの選択肢を与えてきてるタキオンをどうにかしなくてはならない。
「……何が目的?」
「いやあ、人のオスというのは胸が好きと聞いてね。疲れの溜まっている時に胸を揉ませてやれば、実際に疲労回復の効果があるのか試したかったのさ」
実験も兼ねていることは薄々勘づいてはいたが、それはそれとしてトレセンの風紀に関しては一度よく見直すべきだと思う。
確かに、タキオンの胸は魅力的だ。アイネスちゃん程ではないにしても、十分大きい部類に入るし、今みたいに迫られるとつい誘いに負けてしまいそうになる。
……が、俺も1人の大人であり、何よりアグネスタキオンの担当トレーナー。ここで負けては様々な面で危険が舞い降りて来るに違いない。
「あのなタキオン、気持ちは嬉しいけど…こういうのは俺相手には……」
ここは大人としてケジメをつけなければいけない。そう思い口を開くも、油断している隙に俺の片手はタキオンにガッチリと掴まれてしまう。
タキオンは一瞬悪戯な笑みを浮かべたと思うと、そのまま俺の手はタキオンの身体に引き寄せられるようにされ。
「そう、これはただの実験だよ。モルモット君」
──そして。
「………え?」
むにゅ。
「…………」
「どうだい?疲労回復の効果は見られたかな?」
片手に感じる柔らかさ。今まで触ったことがない、手から少しはみ出るくらいのサイズ──マシュマロのような柔らかさ。
そう、強引に胸を揉ませられたのだ。
「む、反応が無いな……もう片方の手でも触らせた方が良いか……?」
思わず言葉を失っていたが、今の俺は他人から見れば確実に職を失うようなことをしている。
停止した思考が一気に働き出し、思わずソファから飛び上がる。
「おまっ、お前ぇっ!?な、何してっ……!!」
急いで手を退けようとするもウマ娘の力には及ばず、タキオンの胸に触れたままの俺の手はぴくりとも動かなかった。
「おお、確かに飛び上がれる程度には回復しているようだね」
「そうじゃなくて……!!」
抵抗しようとすれば余計に力が入り、自然と掌に感じる柔らかさは強烈なものになっていく。一旦落ち着こうと力を抜いてみれば、今度は体操着に染み込んだ汗のしっとりした感触が伝わって逃げ場を与えられない。
(ダメだ、考えるな……考えるな……)
煩悩を振り払おうとするも、既に意識を集中させている掌にはタキオンのすべての感触が焼き付けられているようだった。
まだ触れてから1分も経っていないだろうに、既に秒針が何度もてっぺんを通り越している気がする。
「た、頼むタキオン……離して……」
「んー?どうしてかな?」
「だってお前……こんなところ誰かに見られたら……」
「その心配は無いさ」
彼女はトレーナー室のドアに向かって指を差す。
「鍵は間違いなく閉めたからね」
「っ…………」
あまりにも用意周到なタキオンにため息すらつくレベルだったが、俺はあることに気付く。
俺はタキオンに ”ご褒美” を求めて掛け合った末に胸を揉むことになっている。
……が、タキオンはこの部屋に入ってきた時点で鍵を閉めている……つまり。
「あのさ、タキオン……」
「ん?」
「もしかして……元から揉ませるつもりだった……?」
俺がそう尋ねると、彼女の口元が緩やかに弧を描くのが見える。
「……さぁ?」
「っ………!!」
自分の中の思考が、まるで先程までの躊躇とは一瞬にして180°変わってしまったのが分かる。
正直、彼女の提案に乗ってしまえば確実に実験に利用されてしまう上に、弱みを握られてしまうに違いない。
いや、それが彼女の研究に役立つなら一向に構わないとは思ってはいるが、肝心の倫理面に関して問題が大アリなのだ。なのだが……
「……いい、のか?」
「クク、君次第……だけどねぇ」
疲労によってまともな思考回路を失った俺は、あろうことか年下の女の子──しかも担当ウマ娘に甘えようとしているのだ。
なにより、普段甘えてくる立場の彼女に甘やかされるというのは貴重な経験となるだろう。
そうだ、これは仕方ない。仕方ない事なんだ。
(………ごめん、タキオン)
そう心の中で呟き、掴まれていた手が開放されるのと同時にタキオンの膨らみに指を食い込ませる。
「っ…………!」
「うお……」
彼女の身体が小さくぴくんと跳ねたのも構わず、徐々に掌に感触を馴染ませていく。
柔らかい、気持ちいい。ただそれだけしか頭に浮かばなかったが、ひたすら幸せであることは分かる。
「っ……どうかな、トレー……ぅっ……♡な、くんっ……疲れは、ん、取れそう……かい……?」
「……うん」
小さく身悶えながら震える彼女の胸を片手でゆっくりと揉んでいく。 自分で夢中になってしまっていることにも気づかず、無意識にもう片方の手はタキオンの片胸に触れていた。
「っ……両方かい?全く……随分と図体の大きい赤ん坊だね……ふ、ぅ……♡」
赤ん坊。
その言葉で飛びかけていた意識が戻ると思いきや、俺を更に深みへと誘ってくる。
以前に何度もスーパークリークの「でちゅね遊び」とやらに出くわしてしまったことがあり、異様な光景に思わず逃げ出してしまうことがほとんどだった。
だが、今はどうだろう。
傍から見れば、俺も同類なんじゃないか?
「……タキオン」
「ん……?どうしたんだい、トレーナー君」
「俺さ、頑張ってるよな?」
「…………」
「アグネスタキオンというウマ娘に惚れ込んで、果てを見るために実験にも協力して……この際だから言うけどな、全然苦だと思ったことはないよ」
「……うん」
「なんならこれからも無茶な実験だって積極的に協力していきたいし、お前の研究を進めるためならなんだってしてやりたい。それはずっと変わらない」
まるで全てを吐き出すように消え入りそうな声で呟く。
「でもさ、だからこそ……タキオンから自分の中に残る何かが欲しかったりするんだよ」
「……ふぅん」
「何だっていい、褒めてくれるだけでもいい。何にしろ、タキオンから貰ったものがあれば俺はこれからもっと頑張れる」
我ながら、まるで弱った小動物と同じ姿に見えていると思う。こんな弱い自分を受け入れてくれる女の子なんて、そうそういるものではないだろう。だが、それも過去の話。
「つまり……私に甘えたいっていう心の表れかな?」
「………」
「なるほど……ほうほう、なるほどねぇ……」
タキオンはしばらくこちらの表情をニヤニヤしながら覗いていた。でも何だか馬鹿にされている気はしなくて、むしろ──
「いいよ、トレーナー君」
「…………え?」
「ほら、おいで」
優しい包容力さえ感じるような──
「───タキオンっ……!」
「わ……」
気づけば、俺は母親のように手を広げて受け入れ態勢を取っていたタキオンの胸に飛び込んでいた。
「よしよしトレーナー君、君はよく頑張っているよ」
「本当か?俺、タキオンから見てちゃんとモルモット出来てるか……?」
「勿論だとも」
頭を撫でてくるタキオンの小さな掌が温かい。
「君は私にとって唯一無二の……最高の助手さ」
「……!!」
胸の奥から何かが湧き上がってくるのを感じる。やりどころのない感情を押し殺すかのように、タキオンの大きめの胸に顔を埋める。
「おやおや、仕方ないねぇ……よしよし」
「うぅぅ……タキオン……」
俺と同じ柔軟剤の匂いと、女の子の汗の匂い。混ざりあって、なんだか甘酸っぱさを感じる匂いとなっていた。
柔らかい、温かい、気持ちいい。うわごとのように心の中でひたすら繰り返し、まるで本当に子供になってしまった気分だ。
「クク……まさかアイネス君も自分のトレーナーにここまではしていないだろつねぇ……まあ、クリーク君は私達には踏み込めない領域だが」
「タキオン、もっと……」
「ん?仕方ないね……ほら、君の気が済むまで撫でてあげよう」
トレーニングで乱れきった髪を正すように頭を撫でられる。十数年振りの感触、これは……まるで母親だ。
俺を暖かく包み込んでくれる母親の全てを思い出す。時折「これで料理ができれば完璧なんだけどな」などと思いつつ、俺はタキオンの秘めたる包容力に溺れきっていた。
スーパークリークのトレーナーも普段からこういうのを経験しているのだろうか。そう考えると、少しだけ羨ましい気がしてくる。
「うぅぅ……」
「本当に赤ん坊みたいだねぇ……満足するまでこのままでいるといいさ」
「タキオン……」
「ん?」
「もう1回……俺の事褒めて……」
「ん、よしよし……いつも感謝しているよ。優秀な私のトレーナー君」
頭を撫でる手つきが心地よい。ウマ娘の力加減は難しいということを感じさせない。まるで聖母のような柔らかさ。
タキオンの温もりにしばらく浸っていると、少しずつうとうとしてくるのを感じた。
ああ──俺はこのまま情けない姿を晒してタキオンの胸で眠ってしまうのだろうか。
それでも、嗅ぎ慣れた彼女の匂いを体内に少しだけ取り込めば、身体は安心感を覚えて力を抜いていってしまう。
ああ、何だか───
「……トレーナー君?」
「たき……おん……」
温かい。
まるで遺言のようにそう残し、赤子のようにゆっくりと意識を落としていった。
◇
「ん……」
「おや、目が覚めたかい?」
目を開けてみれば、天井の蛍光灯に照らされたタキオンがこちらの顔を覗き込んでいた。
夢──ではないようだ。先程と全く同じ格好をしている。
この体勢は膝枕だろうか。タキオンの顔が少しだけ彼女の胸が邪魔して見えにくい。
「随分と可愛らしい寝顔を浮かべて……本当に母親になった気分だったよ」
「ご、ごめん……」
時計を見れば、約30分が経過している。大して時間は経っていないと思うべきか、30分間も同じ体勢を取らせて申し訳ないと思うべきか。
……何より
「あ、あのさ……さっきのこと……」
「ん?安心したまえ、しっかりとレポートを取らせてもらったよ」
そう言って、タキオンは30分俺を膝に乗せたまま書いたとは思えないレポート用紙数枚を見せびらかしてきた。
「いっ、いつの間にっ!?」
「これはこれは、本当に貴重なデータが取れたよ」
つまり、あのレポートには俺がタキオンに甘えて弱ってた様子や、あんなことやこんなことが書かれていると。
これは……流出したら非常にマズイ。
「か、返せ!!」
「返せも何も、元から私のものだろう」
「それはそうだけど!!ちょ、それ渡してくれ」
「嫌だよ、君のおかげで入手できた貴重な資料なんだ」
「だからって……え?俺……?」
妙に素直なタキオンの言葉に思わずポカンとしてしまう。
「そうだよ、トレーナー君」
タキオンはそのまま俺の頭に向かって手を伸ばし──
「君は本当に優秀だね、よしよし……」
先程のように、聖母のような笑みで俺の頭を撫でてきた。
「……!!」
「くすくす……君、好きになったんだろう? ”これ” ……あぁ、もちろん揉みたい時にこっちを揉ませてやることも出来るよ」
「……タキオン」
「どうしたんだい、トレーナー君?」
ああ、駄目だなあ。
俺も随分情けない大人になってしまったものだ。
「これからも……時々でいいから、お願いしたい」
「……クク……勿論だとも……♡」
今日だけで……しかも、たったの数分で籠絡させられるなんて。
もこう先生、僕はずっとあなたの味方です。