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メジロライアンと筋肉とプリンセスと - ばくりゅ@乱文製造機の小説 - pixiv
メジロライアンと筋肉とプリンセスと - ばくりゅ@乱文製造機の小説 - pixiv
3,938文字
メジロライアンと筋肉とプリンセスと
筋肉を鍛え上げるメジロライアンと乙女心に悩むトレーナーの話。
ライアンの私服ってさ……かわいいよね。
プリンセスは女の子だけの特権じゃねーぜ!
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2021年10月16日 12:42

ライアンを傷付けたかもしれない。 担当トレーナーとして、自身の発言を悔やみながら、学園の廊下を進む。 勢い良く進むこちらに遠慮してか、ウマ娘達や教師の皆が道を譲ってくれる

心が逸るも、頭を過るのは先程の事。 思い返すほどに男としても失格な失言だった。

担当しているメジロライアンが、最近妙に艶っぽい。

出会った頃の心身を追い込むようなハードトレーニングはなりを潜めた。 その分だけ筋肉の硬さは失われたが、柔軟さが宿り、彼女に芯が生まれたように思う。 だから今では振る舞いの一つ一つに余裕すらを感じられた。

「悪口のつもりじゃ無かったんだが……」

快活さの中に、何処か怯えの影をちらつかせていたライアン。 ストイックに鍛えていても、年頃の少女なのだ。 そんな彼女が、自分らしい強さを手に入れた事が嬉しくて、そして惹かれて、けど

「だからって『丸くなった』はなかったなぁ~……」

呟くも言い訳にはならないだろう。いい歳をした男が泣き言など、女々しい。 こちらの言葉にライアンは驚いた顔を見せ、俯いて去ってしまった。 予想外の反応に驚き、見送ってしまったのは痛恨だろう。 だから、今必至になって広い学園内で彼女の姿を追っていた。ただ心当りはある。

「ん?」

と、目的地の入口にウマ娘達が集まっていた。 キャーキャーとはしゃぐ彼女たちの間を割って、中を覗き込むと……

「ライアン……」

小声で探し相手の名を呟く。思った通りトレーニング中だったらしい。 集中している彼女の姿を影からじっと眺める。

「――――ふふん」 思わず、頬が歪んだ。

ギシッ ギシッ ギシッ――――それは太い、一本の幹のようであった。 引き締まった筋肉に包まれた、すらりとしたライアンの肉体。

それが逆さまに垂直に立ち、親指一本で、ウマ娘の全体重を支えていた。

ゆっくりと、しかし確実に力強く、腕が伸縮を屈伸を繰り返す。 額に滲む汗、真剣な眼差し、筋肉が生み出す熱が湯気すら纏わせている。

たまらぬ。 離れたこの場所からでさえ、獣臭すら嗅ぎ取れそうであった。

だが懸念が脳裏をよぎる。 今のライアンは確かにウマ娘として完成された体とトレーニングをしている。 しかし

(あの追い込みよう、昔みたいじゃないか)

最近の余裕のある姿ではない。 出会った頃の、今以上に逞しい躯体に、何処か不安な心を宿していたライアン。 不安な気持ちで様子を眺めていると

 ・ ・ ⏰ ・ ・

なにやらトレーニング室の入口が騒がしい。 ウマ娘の優れた耳を少しだけ、そちらへ向ける。

下級生たちの黄色い声に混じる「ライアンさん」という単語。

どうやらあたしを見ているらしい。 答えてあげたかったけど、今は腕立て伏せに集中。 片腕の筋肉で全体重を支えつつ、体幹がブレないよう姿勢維持、屈伸を続ける。

最近トレーニング量をあえて絞っていた事もあり、きつい。 けど今辛いのは、あたしの弱さ、甘ったれた心に原因があるんだ。

(トレーナーさんは、今のあたしを良くないって思ってるんだ)

今日指摘された通り、あたしの筋肉は少し萎み、柔らかな肉が増えている。 女の子らしい、丸い線形を描くふにゃっとした体。

周囲は気付いてないけど、トレーナーさんはしっかり見ていてくれていた。 それは嬉しい……けど、きっとだけど、あの人は嬉しくなかったんだと思う。

男の人が、トレーナーさんが好きそうで、あたしが憧れていた少女の体。

それはレースウマ娘とトレーナーの関係には、不純だったんだ。 誰にも求められていない、だってほら

「ライアンさんって、格好いいよねー」 「先輩みたいにストイックになれたらな~」

みんなみんな、格好いいあたしを求めてる。 ……きっとトレーナーさんだって強くて、逞しくて、よく走るウマ娘がいいんだ。 お姫様よりも、王子様。

(昔はお姫様に憧れたりもしたっけ)

腕立て伏せで雑念払おうとするも、頭の中はぐちゃぐちゃ。 色々な思いが入り混じる。 昔は絵本、今は少女漫画だけど、物語のお姫様になりたいと思ったものだ。

スマートでスラッとした格好良い白バラの王子様が迎えに来てくれる。

そんな男の人に、いつかギュッと抱き上げてもらいたいと願ってた。でも、

(あたしはショートヘアでお姫様とは程遠い筋肉娘)

それでも夢を手放せないあたしは、笑われるだろうか? ……まず間違いなく笑われるだろう。

「やっぱりウマ娘の筋力は、人間と大違いだな」 「いやウマ娘どころかゴリラだろ、ゴリラ娘」

ほら。こちらを眺めていたトレーナーさん達の失笑が聞こえた。 その通りだ、あたしはゴリラだ、筋肉だけが美点の筋肉ゴリラ。そう笑おうとして

「あれ……?」

目に汗が入ったのだろうか、視界が急にぼやけた。 それは意識しても止めようがなくて、何かが胸の奥から目へと湧き上がってくる。 なんとかしようと思ったけど、そのせいで注意が完全に散漫になった。 あ、と思った時にはもう遅い。

ぐらり、とバランスを崩し、地面へと倒れて落ちていく。

受け身を取ろうにも、意識は散乱していて、間に合わない。 ただぼんやりと「あぁ怪我しちゃうな」なんて思うだけ。 せめてと迫る痛みを覚悟し、目を瞑る。

そしてドンッ、と地面を揺らす音が響いた。

「……痛く、ない?」

硬い衝撃はあった。 けど思っていたよりは柔らかく、温かい。 予想とは異なる感触に、恐る恐る目を開く。

「大丈夫かライアン」 「トレーナー……さん……?」

すぐ傍に、それこそキスが出来るほど近くに、あたしの担当トレーナーの顔があった。

あたしのトレーナーの、大きな顔。 太い眉。太い首。太い肩。太い腕。そして分厚い胸板。 身長一九二センチ、そんな太いヒトだった。

しばし呆然としたけど、あたしが今俗にいう『お姫様だっこ』をされている事に気付く。 さっきまでの悩みが消し飛び、急激に頬が熱くなる。

「お、おろして下さい! その、あたし重いでしょうし!」 「重くない」

そっけなく呟くと、トレーナーさんは周囲の人を押しのけて、訓練室から出た。 堂々と廊下を進むこちらに視線が集まる。 当然だ、ここはウマ娘など女性が大半を占めるトレセン学園。

そこで少数派の男性トレーナーが『お姫様抱っこ』をしているのだ。

集まる好奇の視線に耐えかね、身を縮こまらせる。 ちらりと表情を伺うも、トレーナーさんは周囲の事を一切気にした素振りを見せない。 むしろわざと注目を集めているような錯覚さえ憶える。 どうやら保健室に向かっているらしい。心配性すぎる、いい加減下ろして貰おうと、身を捩る。

「本当に大丈夫です。こんな筋肉娘、重――――「軽い」……へ?」

「女の子は、みんな軽い」

ぼそりと低い声で、しかし太くハッキリとした言葉だった。 そんな筈はない。ウマ娘は人間女性と見た目はほぼ同じだが、筋肉や骨の密度などは全く違う。 今だって相当無理している筈なのに、トレーナーさんは涼しい顔をしている。

……いや違う。心なしか頬が赤い、気がした。やっぱり強がりなのだろう。 だけど弱音を吐こうとはしない。

視線に気付いたのか、あたしと視線が合う。 少し逡巡した後、トレーナーさんはウマ耳にそっと唇を近付けた。

「俺はどんなライアンでも、可愛いと思ってるぞ」 「――――……へ? あの、それって?!」

何かの聞き間違いかと思い、問い返す。 でもトレーナーさんは視線を外し、また前を向いてのしのしと進んでいく。 でもあたしはハッキリと見た。今度こそトレーナーさんの頬が、赤く染まっているのを。

聞き違いじゃ、なかった。

あたしは単純すぎると思う。 けど頬が緩み、胸からさっきとは違う何かが込み上げてきて、止めらない。 言葉に詰まるあたしに、また声が降って来た。

「姿勢、落ちそう感じはしないか?」 「……ちょっと揺れるんで、しっかり掴まっても良いですか」 「……勿論いいぞ」 「へへへ」

そっとトレーナーさんの首に手を回し、分厚い胸板に顔を寄せる。 完全に抱き着いている格好だが、何も言わない。 周囲のどよめきも何もかも、全部を無視して近くに感じる温もりを確かめる。

トレーナーさんは、夢見た王子様じゃない。 どう贔屓目にも、思い描いていた理想からは程遠い。

顔は四角くて、体型もムキムキ、性格だって結構負けず嫌いだ。 全てが全て理想の相手とは正反対で、かけ離れている。でも、そうだとしても、

「トレーナーさん、これからも末永く、よろしくお願いします!」 「とことんまで付き合ってやる。一生、どこまでも」

温泉旅行の時は照れてしまったけど、想いをハッキリ告げた。 口の端から力を抜き、トレーナーさんも即答する。 こちらの意図を察していない筈がない。でも頷いてくれた。

このヒトと出会って、これまで歩んで来れてよかった。そしてこれからも。

互いの腕に力がこもり、より強く密着する。 心臓の鼓動が一つになったような、そんな気がした。

あの日の事は、当然ながら学園中の噂となった。 しかもウマ娘達は耳が良いので、あたしたちのヒソヒソ話はバッチリ駄々洩れしていたオマケつき。 その所為かは分からないけど、トレセン学園のウマ娘達の間でお姫様抱っこがブームとなり

「痛たたたた……」

担当(グラスワンダーやヒシアケボノ、ゴールドシップ等)にせがまれて 無理をした多くの男性トレーナーが腰痛に悩まされたのは、また別の話。



メジロライアンと筋肉とプリンセスと
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