pixivは2021年5月31日付けでプライバシーポリシーを改定しました。
グラス「このくらい…でしょうか」
姿見に写った自分の腰周りをチェックします。
……まだいけますね。
ウエスト部分をもう一段折り畳みます。
グラス「……良し」
通常よりも露出を多く、さりとて下品になり過ぎず。良い塩梅ではないでしょうか。
そろそろトレーナーさんも来られる時間ですね。…後は実践あるのみです。
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トレーナー室の扉を開けるとグラスワンダーがソファに腰掛けている。手元には本があるので、先に来て読書をしていたようだ。
トレーナー「ごめん。遅れちゃったかな」
グラス「いえいえ。時間通りですよ。私のほうが、帰りのHRがいつもより早く終わったものですから。」
遅刻してしまったわけではないとわかり、少し安堵しながらテーブルを挟んで向かいのソファに座る。
トレーナー「そっか。じゃあ、昨日伝えてたようにまずはここで次のレースに向けた作戦会議をしよう。練習内容も改めて組み直してみて、グラスのリズムに合うように〜〜〜」
口はそのまま動かしながら。ふと、頭で別のことを考える。
何かがおかしい。
目の前に居るのはいつものグラスだ。そこに間違いは無い。けれど、どうにも違和感が拭えない。 体調か?いや、今だって自分の話を真剣に聞いてくれていて、調子が悪そうにも見えない。 もっとこう…分かりやすいような何かが明確に違っているようなーー
トレーナー「あ」
しまった!うっかり変な声を出してしまった。いやしかしこれは…!
グラス「? どうかなさいましたか、トレーナーさん。」
トレーナー「あ あー…いや、なんでもない。ちょっと個人的な仕事を思い出しただけだ。すまない、続けよう」
見間違い…ではない。これは、確実に、
トレーナー「(グラスのスカートが短い‼︎)」
白のニーソックスも履いているから、普段の丈なら座った状態で腿が隠れていたはずだ。 しかし今日の彼女の太腿は完全に露わになっている。つまり普段よりもスカート丈がいくらか短いのだと思われる。
トレーナー「(…イメチェンとか、気分転換とか…かな?でもトレセンは制服の着方に結構厳しかったような…)」
そして気づいてしまったが最後、急激に目のやり場に困りだす。 太腿だけではない。対面で座っているから、脚がズレれば中まで見えてしまいそうな際どさだ。
トレーナー「(こういうのって指摘した方が良いんだろうか。でもそれって下手したらセクハラ案件に…)」
この歳で逮捕は嫌だなぁ。黙っとこう…。
【グラスワンダー視点】
「あ」
…お気付きになりましたね?トレーナーさん…
グラス「? どうかなさいましたか、トレーナーさん」
トレーナー「あ あー…いや、なんでもない。ちょっと個人的な仕事を思い出しただけだ。すまない、続けよう」
嘘ばっかり。
平静を装っていても、内心動揺していることが隠しきれていません。
そうです。今日の私はーーというよりトレーナーさんが来られる前に、スカート丈をうんと短くしておいたのですよ。
きっかけは些細なことでした。
先週のお休みの日、私はトレーナーさんと共にトレセンから少し離れた地方のレースを視察しに行きました。
将来が有望そうなウマ娘を見極め、その情報をまとめてトレセン本部に伝達するという トレーナーさんのお仕事だったのですが。 休日の予定もなく、あわよくばトレーナーさんと一緒に過ごせたら…などと考えていた私は半ば強引に同行させていただきました。
〜地方レース場〜
トレーナー「△△!久しぶり」
トレ友「おお!よく来たな。」
トレーナー「突然連絡してすまなかったね」
トレ友「いいってことよ。ウチの子達も中央の教官様が観に来るって言ったら、大層気合入ってたからな。良い刺激になるさ」
トレーナー「う゛…中央の、『新米』教官ってちゃんと言ってくれよ。そんな期待されるとプレッシャーが…」
トレ友「お。そちらのお嬢さんは…」
トレーナー「聞けよ」
トレ友「…紹介は要らない、グラスワンダーさんですね?『不退転』のお噂はかねがね聞いています。貴女のトレーナーとは古い友人で、△△と言います。今日は宜しく。」
グラス「こちらこそ、宜しくお願いいたします。」
トレ友「…それじゃあ、早速だが」
トレーナー「ああ。グラス、申し訳ないけど席を外してくれるか。ここから先の話は、ここのウマ娘達の個人情報に結構触れることになるんだ」
グラス「わかりました。」
トレーナー「自由にレースを観ててくれ。終わったら連絡するから。あと、これ。屋台もあるからお小遣い。視察とは言え休日だし、楽しんどいで」
グラス「あ、はい。…ありがとうございます」
お二人からとぼとぼと離れます。 トレーナーさんと一緒にレースを観られるわけではなかったのですか…。 それに、お小遣いって。 子供扱いされているようで気に入りません。
少し離れたところまで来て、つい耳を澄ませて会話を盗み聞きします。これくらいは良いでしょう。
トレ友「羨ましいねえ。あんなに上品で可憐な子を担当できるなんて」
トレーナー「担当ウマ娘に可憐も何も関係ないだろう」
トレ友「いや、あるね。ウチのなんてまぁ、上品さとはかけ離れたような感じで。あまりに野生が過ぎるというか……は は は」
トレーナー「……た、大変そうだな」
グラス「(地方のトレーナーさんも苦労されているのですね…)」
トレ友「でも、あんなに見た目も中身も良い子だと逆に大変か?」
トレーナー「逆に?」
トレ友「……こないだ協会から通達が来たの、見ただろ?」ボソボソ
トレーナー「! ああ。○○学園のトレーナーの」ヒソヒソ
突然ヒソヒソ声で話し始めました。 多少聞き取り辛いですが、ウマ娘の聴力ならば問題ありません。
トレーナー「酷い事件だよな。自分に好意があると勝手に勘違いして、挙句担当ウマ娘を薬で…」ボソボソ
トレ友「幸い未遂で、その子に危害が及ぶ前に発覚したから良かったが…。俺達も周囲でそういうことが起こらないとも限らないし、注意しないとな。」ヒソヒソ
そういえばついこの間、担任の先生からトレーナーとのトラブルがあった場合には直ぐに相談するようにと、それとなくお知らせがあったことを思い出しました。
成る程。別の学校で事件があったから…。
恐らく全国のトレーナー間で内々に伝達されているお話なのでしょう。これ以上は部外者の私は聞かない方が良さそうですね……
トレ友「……まあ、明日は我が身とも言うし。手ぇ出さないように気を付けろよ?」
トレーナー「大丈夫。グラスに対してはそういうのは無いよ」
……。
盗み聞きをやめるのはやめです。
もう少し聞いていましょう。
トレ友「でも随分仲良さそうだったじゃないか。今日だって本当は二人で来る予定じゃなかっただろ?」
トレーナー「グラスの見聞が広まるかもと思って付いてくるのを許しただけだよ。トレーニングの一環みたいな。」
へえ。
トレーニングの一環。へええ。
まあ、トレーナーさんはお仕事で来てますから。そう思われるのは仕方ないかもしれませんが。
見聞を広げる目的以外じゃ貴方に付いてきちゃ駄目だったのでしょうかね?
トレーナー「それにグラスは俺の担当ウマ娘で、言うなれば…そう」
トレーナー「娘みたいな」
は?
ちょっ…は?
娘?私が?
トレーナーさんにとって、娘のような?
さっき頂いたお小遣いはそういう意味だったんですか?
離れた位置から思わず振り返って、トレーナーさんを睨みます。
トレーナー「娘に変な感情なんて起こりようもないし。その辺りは心配ないよ。」
トレーナー「それにグラスも賢い子だから、僕以上にウマ娘とトレーナーの線引きをしてくれてるんじゃないかな。あくまで公的で良好な関係を保てるように、彼女こそ僕をコントロールしてくれてるように思う。」
してませんけど⁉︎
線引きもコントロールもした覚えがありませんけど⁉︎
というか好きなんですけど‼︎‼︎
担当バとトレーナーの関係なんて超えてしまいたいと常日頃思っていますよ‼︎公私混同してますよ‼︎仕方ないでしょう好きなんですから‼︎
グラス「(あ、あの人はッ……あのッ…)」
グラス「(うぅぅぅぅぅ‼︎)」
あっ、△△さんが私の視線に気付いてしまいました。 怨念を込めすぎたでしょうか。
トレ友「んっ?……ああ。そういう」
トレーナー「そもそもグラスは美人だけれど、だからこそ…情欲?みたいなのが湧く隙も無いというか。わかる?」
トレ友「オーケー。わかった、この話はここまでにして仕事をしよう」
トレーナー「そうだね、本題に入ろうか」
トレ友「…後でグラスさんにごめんって言っといて」
トレーナー「え?」
いえいえ謝る必要はありませんよ△△さん。
実に…実に貴重なお話が聞けましたから…♪
〜現在・トレーナー室〜
そういうわけで、私はこうして打って出ることにしました。
グラス「(私には何の情欲も、劣情も抱かないと?)」
グラス「(ならば抱かせてみましょう。娘のようだなんて二度と思えない位に‼︎)」
グラス「すみませんトレーナーさん。ちょっと…」
トレーナー「? ああ、どうかした?」
グラス「いえ。今日は教室内授業が多かったもので、身体が強張ってしまって。」
グラス「……んっ……」
私は両腕を頭の天辺よりも高く伸ばして、身体も弓なりにのけぞる様に、大きく気伸びをしてみせます。
スカートの裾が上体に引っ張られるくらいに。
トレーナー「」
グラス「……ふぅ。失礼しました。続きを」
トレーナー「あ、ああ…えーと、あれ?どこまで話したっけ…」
わかりやすい動揺…
効果絶大なようですね♪
では…そろそろ次の作戦に移りましょう。
【トレーナー視点】
グラス「……んっ……」
突然艶かしい声を出したと思ったら、座ったまま伸びをし始めた。
というか!そんなに身体を反るとスカートが…じゃない、見ない、見ない!
グラス「……ふぅ。失礼しました。続きを」
トレーナー「あ、ああ…えーと」
…。
あれ?
トレーナー「どこまで話したっけ…」
やばい。気を取られてど忘れしてしまった。
グラス「当面の体力強化のためのスケジュールについて、ですよ」
トレーナー「そ、そうそう。悪いね」
グラス「いいんです。でもちょっと…ふふっ、珍しいですね」
グラスのせいだよ⁉︎
とは言えないよなぁ…。
その後も暫くトレーニングメニューについて話し合った。
トレーナー「…ふぅ、ひとまずこれでやって行こうか。改善点が出たらその都度対応しよう」
グラス「わかりました〜」
トレーナー「そうだ、最後にこれだけ見て貰えるか?」
テーブルに書類を広げて、その内の数枚をグラスの前に置く。
トレーナー「こっちが次のレースで出走する予定のウマ娘の名簿。で、これがそのうちのひとりの個人表なんだけど…」
グラス「はい。…あ」
グラス「すみません、そちらに行って良いですか?」
トレーナー「え」
言うなり、グラスはテーブルを迂回して対面のソファにーー自分の隣に来て座った。
グラス「この方が一緒に見やすいです」
トレーナー「…そう、だな」
理屈はわかる。
さっきまでの通りグラスに書類を向けていると、自分には逆さまになってしまうため非常に見辛い。それを考えてくれたのだろう。
しかしーーなら、どうしてこんなにも密着して座る?
隣に来るとかその程度のものではない。
自分の左の脚にグラスの右脚がぴったりとくっつくように座っている。
脚がその状態なら、当然身体も密着している。肩と肩が触れ合ってしまいそうな距離感だ。
トレーナー「(いやいやいや!おかしいだろ絶対‼︎)」
明らかに異常な状況下であるにも関わらず。
グラス「? どうされました…?」
当の本人は平然としている。
トレーナー「(……俺が変なだけなのか?)」
懐かれてるとか、そう解釈して良いのか?
駄目だ。ここで考えても結論は出ない。 後でほかのトレーナーに相談してみよう。
取り敢えず今は目の前のことに集中だ。
トレーナー「何でもないよ。それで、この資料の子を見て欲しいんだ。今回のレースから初参加でーー」
資料を指さしながら説明する。
が、目線は机上の資料よりもーー自身の視界で見て下側に映るーーグラスの太腿に行ってしまいそうになる。
さっきまで机を挟んで向かいにあったグラスの腿が、今は自分の隣にーー‼︎
トレーナー「(だ…駄目だ、駄目だ、絶対に見るな。見てしまうのは、トレーナーとしても大人としても失格だ)」
頭で必死に自制を訴えつつ、口では自動的に説明を続けている。
グラス「確かに、要注意人物かもしれませんね。ここに書いてある通り、彼女も私と同様に差しウマのようですしーー」
話しながら、グラスが身をよじって資料を指差そうとすると、彼女の露になっている腿同士がシュッ、シュと音を立てて擦れ合う。
加えて先程は離れていて気が付かなかった彼女の柔らかい香りが鼻腔をくすぐってくる。
見るな。聞くな。嗅ぐな。
今は耐えろ。ーー耐えろ。
トレーナー「(つ…疲れた……)」
10分と少し程経って、ようやくグラスはソファを離れてくれた。
ほんの短い出来事だった筈が、気づけば冷や汗が流れ、全身の緊張感でグッタリきている。
グラス「ミーティングはこれで終了ですね?」
トレーナー「うん。あとの時間は軽く流しで走ってみて、それで今日は終わりにしよう」
グラス「では、走りに行く前に。トレーナーさんにお願いがあって…」
トレーナー「お願い?」
グラス「実は、昨日の授業でダンスレッスンがあったんですが…どうも脚の具合が違うような気がして」
グラス「今ここで簡単に踊ってみますので、トレーナーさんが見て、気づいたことがあ」ば指摘して貰いたいんです」
トレーナー「勿論構わない…」
違う。
構わなくない、構う。
グラスは何て言った?
今、ここで、踊る?
ーーそのスカートで?
グラス「ありがとうございます。じゃあ、始めますね」
【グラス視点】
甘美。
ひとことで言えばそれに尽きるーーそんな至福の時間でした。
彼と隣り合わせで、彼に密着しながらの話し合いなんて初めての経験でしたが…もっと早くにやっておけば良かったと後悔しました。
密着するだけじゃなくて、時には体制を変えながら裾から下が見やすいようにしたり、 首元に付けておいた香水が香るようにしてみたり。その度に、彼の身体が強張るのが感じられ、同時に心拍数も上昇していくことが手に取るようにわかりました。 話しながらトレーナーさんの腿にさり気なく右の手を添えたりすると、ピクッと震わせたりして…とっても可愛…面白かったです。
さあ、名残惜しいですが次の作戦へ。
さらに攻めてみせましょう。
グラス「実は、昨日の授業でダンスレッスンがあったんですが…どうも脚の具合が違うような気がして」
グラス「今ここで簡単に踊ってみますので、トレーナーさんが見て、気づいたことがあ」ば指摘して貰いたいんです」
トレーナーさんが「勿論構わない」と言いかけてハッとした表情をなさいます。
恐らく気付かれたのでしょう。しかし、撤回する隙は与えません。
グラス「ありがとうございます。じゃあ、始めますね」
私は踊り出しました。
キュッ、キュッと靴が床に擦れる音が響きます。
裾が短いので、あまり大胆には動けない。
そう思っているのでしょう?
しかし、今回の丈はある程度動いてもぎりぎり見えない高さに調整してあります。 そして、これまでダンス練習を重ねてきた私にはひとつひとつの振り付けがどの程度衣装の見せ方に影響を与えるか、全て把握できているのです。 中が見えてしまうような振り付けは抑え目に。そうでないものは思い切り。
激しく。
扇情的に。
さりとて、上品に。
露出度の高い下半身をアピールしながらも、 彼にとびきりの笑顔をプレゼント。
目を逸らしたいでしょう?
でも、逸らせないでしょう。
これはあくまでダンス練習の一環で、 加えて私は「脚の調子が違う」と言っておきました。
もしかすると脚に何らかの異常があるかもしれない。
だとすれば、トレーナーとしてしっかりと見ない訳にはいかない。
優しい貴方ならそう考えるはずです。
グラス「(ほら、もうお顔が真っ赤ですよ)」
彼が興奮してくれている。
それだけで、どうしようもなく私は気分が高揚して、踊りながら曲を口ずさみます。
グラス「ーーきっと、勝利のめーがみはーー」
グラス「私だけにチュウするっ♪」
【トレーナー視点】
危険だ。
これは、非常に危険だ。
彼女から目を離せない。
脚の調子を観察するとか、ダンスをしっかり観てあげるとか、そういう尤もらしい取り繕いが出来なくなっている。
少なくとも、今この時、
自分はグラスワンダーを「女」として、酷く下卑た男の目で見てしまっているからだ。
一挙一動の媚びたような振り付け。
上気してうっすら紅く染まる彼女の頬と、いつもの穏やかな笑みとは違う、アイドル的な、女性らしさを全面に出したような笑顔。
重力を感じさせず軽やかに舞うミニスカ。そこから視線を少し落とせばやたらと強調される肌色の領域。日々の鍛錬で引き締められつつも女性らしいしなやかさがあり、少しだけ汗ばんでいるせいか、妙に妖艶さを放っている。
トレーナー「(早く…早く終わってくれ。)」
トレーナー「(そして終わったら、精一杯謝罪しよう)」
グラスが一曲分を踊り終えると、室温はかなり高まっていた。
踊った彼女はもとより、自分まで汗をかいてしまっている。彼女の姿に文字通り熱中してしまった。
グラス「はっ、はっ、…はぁっ……」
グラス「……どう、でしたか?何か、お気づきの点は、ありましたか?」
トレーナー「……」
グラス「トレーナーさん…?」
トレーナー「……ごめん」
トレーナー「今のダンス、正直に言ってトレーナーとして見れなかった。その…グラスの……何というか、女性的な魅力ばかりに目が行ってしまって」
トレーナー「本当申し訳ない。…気持ち悪いよな。今日はもう、練習もやめとこう。…少し頭を冷やさせてくれ」
本当にどうかしてる。
そして、白状してしまった。
これからはもう、今まで通りの関係ではーー。
グラス「欲情してくださったんですか?」
トレーナー「…は?」
グラス「ですから私に欲情してくださったんですよね?トレーナーさん」
【グラス視点】
やった…!
やりました‼︎
女性的な魅力、とはかなり回りくどい表現ですが。つまるところ、私に邪な念を抱いてくださったと解釈して良いでしょう。 思わず舞い上がってしまいそうです。
トレーナー「本当申し訳ない。…気持ち悪いよな。今日はもう、練習もやめとこう。…少し頭を冷やさせてくれ」
気持ち悪くなんてありませんよ。 それに頭を冷やす必要もありません。
それでは、詰めの一手といきましょう。
グラス「欲情してくださったんですか?」
トレーナー「…は?」
困惑なさっています。
普段の私の口からはまず出ない台詞ですからね。
グラス「ですから私に欲情してくださったんですよね?トレーナーさん」
言いながら、ソファに座る彼に歩み寄ります。
グラス「いつもより距離感が近かったからですか?」
テーブルを少し退かして、彼の目の前に来ます。
グラス「いつもと違う匂いがしたからですか?…これ、この間エルと一緒に出かけた際に新しく購入した香水なんです。」
良い匂いがするでしょう?と言い、制服の胸元を僅かに開いてパタパタ仰いでみせます。
グラス「…それとも」
靴を脱いで、ソファに片脚ずつ膝を乗せます。彼の両脚を挟むように跨いで、膝立ちの姿勢で、下着が見えない程度に裾をつまんで広げます。
グラス「………いつもよりうんと短くて、たくさん脚が見えちゃってたから、ですか?」
わざとらしく、首を傾げてみせます。
彼は口を半開きにさせながら、視線をどこに持っていけば良いかわからないといった様子です。
ああ…。たまりません。
しかし、もう一押し。
可能ならば、彼の欲求をこのまま爆発させてしまいたい。
愛する彼に、愛されたい。
グラス「トレーナーさん…」
彼の身体にもたれかかって、耳元で囁きます。
これが今の私にできる、精一杯の誘惑です。
グラス「トレーナさん」コソッ
グラス「このなかを覗いてみたくはないですか?」
彼の手を握って移動させ、裾を掴ませます。
グラス「それとも…スカートのなかに限らず、私のカラダの隅々を見てみますか?」
グラス「私のこと、もっともっと、滅茶苦茶にしてみたいと思いませんか?」
グラス「わざと丈を短くして…密着したり、見せつけるように踊ったりする生意気な担当バのことを、お仕置きしたいとはお思いになりませんか?」
ふと。
彼に跨っている私の下半身の、下の辺りに違和感を覚えます。
グラス「……あ……」
これ。
ふくらん、で……。
トレーナーさんの顔が一層険しく、一層真っ赤に染まります。
グラス「……♡」
グラス「大丈夫ですよ。ここには誰も来ません。二人きりです」
グラス「我慢しなくて良いんです」
グラス「ね?トレーナーさん」
トレーナー「ッ……駄目、だ、グラス…こんなの…」
グラス「……」
私もいい加減限界が近いです。
だから、彼のふくらみに私の下腹部を押し付けて、彼の頭に手を回しながら、最大限に媚びた声でおねだりしてみます。
グラス「おねがい、とれーなーさん…♡」
次の瞬間、私の視界には天井と、私のことを凄い目つきで見下ろす彼の姿がありました。
【トレーナー視点】
気がつけば自分はグラスをソファに押し倒していた。
しまった。
と一瞬血の気が引いた心地になっていると、 無理矢理に押し倒されて尚、恍惚とした表情で自分を見上げる彼女に再び情欲を掻き立てられる。
トレーナー「グラスっ…グラス」
グラス「…はい、トレーナーさん」
ここまで誘惑されて正気でいられる筈もない。
乱れた髪の毛、捲れるスカート、少しはだけた胸元、
全ての要素がなけなしの理性を壊しにかかる。
グラス「…良いですよ?」
彼女は余裕の無い自分をじっと見つめて、そのまま嬉しそうに目を瞑り、唇を少し突き上げた。
トレーナー「(…)」
トレーナー「(もう、どうなっても良い)」
今はただ、グラスワンダーが欲しい。
そんなことを考えながら、彼女と口付けをーー
寸前で、僅かに残っていた理性が無意識に捉えたある違和感を訴える。
グラス「……」
グラス「……あれ?トレーナーさん…?」
鼻をくすぐる香水の匂い。
ーー否、それだけじゃない。何かが混じっている…気がする。
続いて彼女の額に手を当てる。
踊ったり密着したり、興奮状態であることを差し引いたとして。
体温が…恐らく、異常に高い。
グラス「…あの、トレーナーさん。キスを…」
トレーナー「グラス」
トレーナー「保健室行こう」
【グラス視点】
先生「発情期だね」
先生「体温高めだと思わなかった?ちゃんと自分で気づいて、お薬飲まないと駄目じゃない。」
先生「ホルモンバランスが一時的に崩れるからね。トレーナーさんが感じた僅かな匂いっていうのもそのせいよ。まあ、大事に至らなくて良かったわ。あとは処方箋飲んで、帰ってぐっすり寝ること。お大事に。」
バタン。
保健室の扉を閉めます。
私は両手で顔を覆いながら。
トレーナーさんはバツが悪そうに顔を背けながら。
その場で暫し立ち尽くします。
トレーナー「……帰ろうか」
グラス「……ハイ」
寮までの道中、歩きながら懸命に謝罪します。
グラス「ごめんなさい。ごめんなさい。まさか、まさか『この時期』だったなんて。私、気が付かなくて。」
トレーナー「僕の方こそ申し訳ない。グラスの担当だっていうのに、すぐにわかってあげられなかった。もっと精進するよ」
確かに思い当たる節はありました。
最たるものが、いつもよりも積極的になれる高揚感。
普段なら考えられないような、え、えっ…淫らなことを、平気で出来てしまう自分。
トレーナーさんに私への認識を少し変えて欲しかっただけで、ここまでしようなどとは昨日まで…いや、今日登校していた間も思いもしなかった。
放課後から体調が変化したことにどうして気づけなかったのか。やはり浮ついていたのでしょう。
グラス「……それで、その…さっきまでのことなんですが」
トレーナー「……勿論グラスのしたことは忘れるようにするよ。けど、僕のしでかそうとした行為は、大人として咎められるべきで。…グラスが望むなら、担当を降りることも辞さないとーー」
グラス「そんな、やめて下さい!… 私はそんなこと望みません」
トレーナー「…ありがとう」
こ…この人は。
どこまでいっても、あれだけのことをされても、最後には私を守ろうとする。
それは担当バとして?
それとも…まだ「娘のように思ってる」から?
そう考えると無性に腹が立ってきた。
グラス「…トレーナーさん…」
トレーナー「ん?」
私はスカートを思い切りたくし上げてみせます。
彼と私の間には遮るものも無く、完全に下着が見えていることでしょう。
トレーナー「⁉︎ な、何してっ…グラス⁉︎」
グラス「逸らさないで、ちゃんと見てください。…あれだけのことをして…そして、これでもまだお子様ですか?貴方にとって私は『娘のような』存在ですか?」
トレーナー「何を言ってるんだ。お子様とか、娘とか…」
トレーナー「……!……まさか、あのレース場の時の会話を」
私は裾を下ろしました。
グラス「私はトレーナーさんをお慕いしています。恋慕の意味で、です」
グラス「…今日のことだって、『この時期』だったとは言え、全てが嘘では無いんです。私はトレーナーさんに情欲を抱いて欲しい。トレーナーさんになら、私の全てをさらけ出してしまいたい」
グラス「私は、貴方に…っ」
グラス「…これでもなお、私はトレーナーさんにとって対象外ですか?担当バとしてしか、見られませんか?」
トレーナー「……」
言ってやりました。
もう後戻りはできません。
後は野となれ山となれ、です。
トレーナー「僕は、これまでグラスのことをそういう風に見ようとしなかった」
トレーナー「でも…流石に、あれだけ過激な体験させられて、その後でこんなに情熱的に告白されてしまうと」
トレーナー「…正直、クラッときてる。グラスのことを女性として、嫌が応にも魅力を感じてしまう」
彼の言葉に思わず頬が緩みます。
トレーナー「でも、交際とか、そういう話だとまた別で…もう少しだけ時間を貰っても良いかな。今後はちゃんと女性としてのグラスに向き合って、考えてみるよ」
グラス「……! ええ、ええ。是非。今後も長いお付き合いですから。気長にお返事をお待ちしていますね」
トレーナー「ありがとう…頑張るよ」
すぐに交際とはなりませんでしたが、 少なくとも本日は一歩、進むことができました。
それが堪らなく嬉しくて、笑みを溢れさせながら私は再度歩き始めます。
辺りは既に暗くなり、木枯らしが吹いています。 ですがちっとも寒くありません。
グラス「良いお返事を期待していますね?トレーナーさん」
グラス「でも、誘惑に負けて私を押し倒したことは事実ですよね」
トレーナー「う゛」
グラス「…お返事、早く聞かせて貰えそうですね?」
トレーナー「いや、あの時は空気に呑まれたってこともあるし、もう一度よく考えてみてーー」
グラス「あーあ、トレーナーさんとキスしたかったなぁ」
トレーナー「〜〜ッ」
トレーナー「……早めに結論出します」
グラス「ふふっ、宜しくお願いします〜。」
ー了ー