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「トレーナー、最近練習中に他のヤツばっか見てるのだ」
練習後、トレーナー室で振り返りをしているとそんなことをウインディが言い出すものだから、思わずきょとんとしてしまった。
「そんなことないだろ、メニューこなしてる間はシートに目を通したりしてるけど」 「いーや見てる、見てるのだ! メニュー終わったって言いに行くとき3回に1回は他のヤツの方に顔向けてるのだ!」 「そんなこと……」
ある。 別に意図しているわけではないが、手持ち無沙汰になると他のウマ娘の練習風景も確認しておきたくなってしまう。 目の前の担当バに集中できていない証拠か……反省しなければ。
「だいたい他のヤツなんかより100億万倍、ウインディちゃんの方が魅力的なんだからな! トレーナーは分かってないみたいだからいい機会にわからせてやるのだ!」 「はあ?」
そう言うなりウインディは仮眠室へと引っ込んだ。何をしようと言うのか。 10分ほど経ったあと、勝負服を着込んだ姿でウインディが出てきた。改めてまじまじ見ると、黒基調のデザインと獅子舞の組み合わせは、ウインディの個性をよく表していると思う。
「ふふん、やっぱりこの服はウインディちゃんの魅力が最大限に光ってるのだ。トレーナーにはこの神々しい姿を目に焼き付けさせてやるぞ!」
そう言ってウインディがポーズを取り始める。恐らくこれは本人が納得するまで続くだろうと悟った俺は、半ば渋々といった感じで彼女を写真に収め始めた。噛みつきのポーズ、胸を張るポーズ、下からのアオリのポーズ……。 よくそこまでポーズが思いつくなと思いながら俺は撮影を続け、数十分にも及んだ二人きりの撮影会は、振り向きのポーズを収めたところで終了した。
「これだけやれば他のヤツにいちいち目を向けなくなるな。トレーナー、ウインディちゃんの魅力、わかったのだ?」 「はいはい、わかったわかった」
まったくとんだ話だ。ちょっとした観察行為がここまでの労力を払う羽目になるとは。 しかしそもそもは、俺が練習中に気が抜けているとも言える振る舞いをしていたのが元凶なのである。ウインディの行為はともかくとしても、反省すべき点であることは間違いないだろう。
「うーん、なんか返事が気にいらないのだ……そうだ、トレーナー、ウインディちゃんの一番の魅力を言うのだ」 「ええ!?」
適当に返事をしたせいかまたウインディの面倒なところに引っかかってしまったらしい。すでに長いこと写真を撮っていて頭が回らない。だいたい魅力が分かってないとか、分かってなけりゃスカウトしてないんだが。一番ってなんだ? 全部並行して一番なんだが。うーむ、もう何がなんだか……。
「そりゃお前、ケツだろ」 「え?」
とりとめのない思考が数十秒回った後、俺の口は勝手に動き出した。
「聞こえなかったか? ケツだよケツ、そのでっけえ尻だよ」 「え、いや、聞こえてるけど、それは……」 「俺がお前の身体検査の資料持ってるの分かってるだろ? お前のケツのでかさを知らないと思うなよ。最初見たときは特に気にしてなかったのに、一回数字見てからはそればっかだ」 「トレーナー、はず、恥ずかしいからもういい……」
ウインディは顔を真っ赤にしてぼそぼそ言っている。何がもういいだ、言い出しっぺはお前だろ。
「もういいじゃねーよ、いつも俺の前でデカケツ振り回しやがって……我慢するのが大変なんだぞ」
喋りながらウインディの横に歩みを進めた俺は、ぺしんと彼女の尻をはたく。
「ひうっ」 「こんなに育っちまってよ、さぞかし走りも一級品になってんだろうな……二人で組んだメニューの成果だな? ん?」
ぺしんぺしん。彼女の尻への賛辞を続けながら、なおも俺ははたき続ける。 思いがけない話題への戸惑いとセクシャルな部分を評価された恥ずかしさからか、ウインディの顔は茹で上がらんばかりに火照っている。目尻にはうっすらと涙が見え、感情を堪え切ろうとしているだろうことが窺える。 普段見せない弱気な彼女の姿に背筋が波打つ感覚を覚えた俺は、気持ち強めに彼女の尻を引っ叩いた。
「あうっ♡」
彼女の口から漏れたのはこれまでとは違う声音で、言い逃れの出来ないほどに嬌声のそれである。彼女のそうした一面を己の手で引き出した達成感を噛み締めていると、ウインディがしなだれかかってきた。抱く形で支えると、身体に当たる違和感に気付いたのか、多少もじもじしながら見上げてくる。
「別に、ウインディちゃんはどう見られても構わないけど、お、お、お前がウインディちゃんをそういう風に見てくれてたのは感謝してやるのだ。ウインディちゃんは優しいから許してやる。それに……トレーナーはウインディちゃんの体調管理をしてくれてるし……ウインディちゃんもトレーナーの体調を管理してやるのだ。」
そう話すウインディの瞳は潤みを帯びている。すっかり熱を持った俺たちは、影をひとつにしながら、仮眠室へと足を伸ばしたのだった。
あれから数週間、他のウマ娘を見る回数も減った。担当バのトレーニングの調子を確認していないようでは、トレーナー失格と言われても仕方ないからだ。ただ、それに加えて、ウインディと取り決めを交わしたからというのも理由の一つである。 今日もウインディがメニューを終えるのを確認してから、俺はぐいと他のウマ娘に顔を向ける。横目でウインディの方を見ると、こちらに戻ってきているのがちゃんと見えた。
「トレーニングのメニュー終わったのだ。それと……」 「また他のヤツのこと見てたのだ。懲りてないトレーナーには、今日もウインディちゃんの『魅力』を教えてやるのだ」
そう話すウインディの顔は、この後を思わせるような、トレーニングとは明らかに違う理由の赤みを見せていた。