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このウマ娘、タマモクロスには悩みがある。
「じゃ、今日もトレーニング始めるか」 「お、おう」
それがこの男、タマモクロスのトレーナーである。 特段カッコ良くもない顔。ガサツで暑苦しい。特筆すべきはガタイの良さと上背ぐらいのヘラヘラ笑顔が目印の男だ。 と言っても、別にトレーナーが何か悪いことをして来たわかではない。むしろタマモクロスはトレーナーには感謝している。 トレーナーがいなかったら、彼女はここまで強くはなれなかっただろう。 悩みはトレーナーと言うより、むしろタマモクロスの方に原因がある。
「おぉ!最高記録更新だタマ!」 「へへっ、どんなもんや!」 「流石、俺の自慢の愛バだぜ〜」
そう言うとトレーナーはガシガシとタマモクロスの頭を撫でる。心臓がめちゃくちゃに跳ねる。 最初は嫌だったが、気づいたらトレーナーに頭を撫でられるのは習慣になっていた。 彼女の頭はガタイの良いトレーナーの片手にすっぽり収まってしまう。 その大きさに、さらにドキドキする。
そう、タマモクロスはどうやらトレーナーの事が好きらしい。
らしい、と言うのは認めたくないせめてもの抵抗。と、言うのも、彼女はこの気持ちを認めない理由がある。
それは彼女とトレーナーが契約を結んで直ぐの話まで遡る。
〜〜〜
その日は今後の方針を話し合うため、カフェテリアでトレーナーと昼飯を食べてた。
「ったく、どいつもこいつも色ボケやがって…。トレセン学園はデートスポットじゃねぇぞ」 「なんや、トレーナーもそう思っとったんか?」 「じゃあ、タマもか?」 「もちろんや!ここのウマ娘と来たらトレーナー大好きっ娘ばっかりや。ウチは惚れたハレたのためにここに来たとちゃうねんぞ」 「なんだ?タマは俺のこと好きになってくれないのか?」 「アホか!アンタはトレーナーとしては良くても男としてはダメやな」
出会ったばかりの時は腕は良いけどガサツで暑苦しい奴という印象だった。
「はは、こいつは一本取られた」 「まぁええ。トレーナー!ウチとアンタでバンバン勝って本当のウマ娘とトレーナーの関係性って奴を見せつけたるんや!」 「そうだな!」
そこで二人は拳を合わせた。 惚れずの誓いを立てた。
〜〜〜〜 それから二年。まさか彼女が約束を破る事になるとは。
「おーい、タマ?大丈夫か?」
自分より一回りも大きいトレーナーが屈んで覗き込んでくる。
「だ、大丈夫や…!何もないで」 「そ、そうか。それなら良いんだ。無理するなよ。お前はまだまだ強くなれるんだから」
こーゆーとこ。雑かと思いきや急に優しくしてくるとが憎らしい。
「ほら、もう一本行ってくるで!」 「よし!行ってこい!」
取り敢えず走ろう。走ってまえば雑念は何でも消える。今までもそうして来た。
自分がトレーナーが好きなはずない。人生で偶々最初に深く関わった男だから勘違いしてるだけ。
そう言い聞かせた。
〜〜〜〜 「ふむふむ、なるほどな」 「なるほどですね〜」
その次の日。タマモクロスは同室のオグリと、同期のクリークにトレーナー室でこの事を話した。 今日はトレーナーはお偉い方にお呼ばれらしく、しばらく帰ってこない。
「つまりタマはトレーナーの事が好きなんだな」 「ふふふ、やっと想いに気付いたんですね」 「な…!ちゃうわ!」
二人から返ってきた答えは彼女の期待したものとはかけ離れていた。
「何が違うんだ?」 「だからトレーナーが気になるんは初めて仲良うなった男やからに過ぎんって」 「別にそれは好きな事は否定してないですよね〜?」 「え?」 「ウマ娘が初恋のトレーナーさんと結婚するのは珍しくありませんし、むしろタマちゃんは典型的な恋するウマ娘ですよ〜」 「な、な、な…!!」
たしかに言われてみればそうだ。 自分は気付かない間に、あんなにバカにしていた色ボケウマ娘達の一員になっていたのか。 が、顔を赤くしながらクッションを抱く姿はまさに恋する乙女だった。
「逆に聞くが、タマはトレーナーの事が嫌いなのか?」 「別にそう言うわけや無いけど…」 「じゃあどこが好きなんですか〜?」
気付けば尋問じみた事になっているが、頭がオーバーヒートしている彼女は気付かない所とか。
「その…ガサツに見えてごっつ気配りが出来るとことか…」 「とことか〜?」 「子供好きで面倒見が良いところとか…」 「ところとか?」 「料理が地味にうまい所とか…」 「そして一番は〜?」 「レースに勝った時は強く撫でるくせに、負けた時は笑って優しく撫でてくれる所とか……って、なんやこの質問!!!」
バンっと立ち上がりタマモクロスが力強くクッションを投げつける。
「でも良いじゃ無いですか。私もトレーナーさんが初恋ですよ〜」 「クリークんとことだけは一緒にされた無いわ」 「でも良かった。タマに好きな人が出来て。ぜひ結婚式には呼んでくれ」 「気が早過ぎるやろ!と言うか、オグリはトレーナーとどうなんや?」 「私か?別に私はどうと言う事はないぞ」 「でも、今週の土曜日お出掛けするんですよね?」 「あぁ、好きな物を食べて良いらしい。一緒にご飯に行くのはいつぶりだろうな」
と、お腹をさすりながら嬉しそうに語る。 何でもオグリのトレーナーは地方時代からの付き合いらしい。最近やっと中央の試験に合格し、無事にまたコンビを組めたそうだ。
「まぁでも、ウチからトレーナーにどうこうしようって気はないんやけどな」 「えぇ〜、どうしてですか?」 「ウチらはどっちもお互いを好きにならんって事で契約したんや。ウチが想いを伝えてまったら、この契約が終わってしまう」 「タマ…」 「だからこのままでええんや」
自分は今のトレーナーとの関係が好きだ。異性とか関係なく、ただの相棒いう存在。 それを壊したくなかった。
「それはもう手遅れかも知れませんね〜」 「へ?どういうことや?」 「ねぇ?タマちゃんのトレーナーさーん?」
ガタッ
クリークがここにいるはずのない人間を呼ぶと部屋の扉の向こうから音がした。
「え?クリーク?冗談やな?冗談やおな?ウチのトレーナーがこんなとこおるはず無いよな?」 「じゃあ確かめてみて下さい」
勢いよく扉まで走り思いっきり扉を開ける。
そこには見慣れた自分のトレーナーがいた。
「よ、よぉタマ」 「な、な、な、なんでアンタがこんなとこにおるんや!!!!」 「いや、急いでトレーナー室に来てってクリークに呼ばれて…」
クリークを睨むとひらひらと手を振ってくる。
「そんな事はどうでもええ!いつから、いつからここにおったんや!?」 「えっと、タマが俺の事を〜みたいなとこから」 「最初からやないか!!!」
つまり自分がトレーナーに向けて言ったあんなことやこんな事も全部聞かれていたという事だ。
「あ“あ“あ“あ“恥ずい恥ずい恥ずい!!」 「少しは落ち着けタマ」 「誰のせいや思っとるんや!」 「まぁ、まさかタマが俺の事そんな風に思ってたなんてな…」 「…っ!」
終わりだ。もう取り繕えない。 ならばもうどうとでもなれ。
「もうええ!せや!ウチはトレーナーのことが好きや!まだチビ達の為に頑張ってかなあかんのにアンタのせいで人生めちゃくちゃや!どう責任取るんや!」
トレーナーの胸元を掴みもはや半泣き状態で訴える。
「えっと、結婚すれば良い?」
「は?」 「俺もタマを愛してる。両想いだ」 「え?」 「コテコテの関西弁も、家族思いなところも、小さくて可愛いところも、レースの時の真剣な顔も」 「〜〜ッ///!!」 「だから結婚してくれ」
いきなりすぎるプロポーズに頭が追いつかない。まだ付き合っても無いのに、とかまだ学生なのにとかいろんな反論があった。 しかし、自然と言葉が出ていた。
「せやな…。ほな結婚しよか…」
気付けばOKしていた。
「おめでとうタマ!」 「おめでとうございますタマちゃん!」
パチパチと拍手で祝ってくれる二人。 片や半泣きのタマと将来を誓うトレーナー。 まさにカオスだった。
「って、結婚は早すぎるやろ!」
ここでやっと冷静になった。
「なんだ、タマは俺と結婚するの嫌なのか?」 「べ、別に嫌とちゃうけど…。まだお付き合いもしてへんし…。その…」
後一押しで煮え切らないタマ。
「あっ!」 「どうしたクリーク」 「ふふ、オグリちゃん。良い事思い付きました」 「む…ふむふむなるほど」
耳打ちで何かを話し合っている二人。 何やらよからぬ事を企んでいるらしい。
「オグリちゃん!今日はオグリちゃんの部屋に泊まっても良いですか?」 「あぁ、構わないぞ」
急に白々しい猿芝居が始まった。
「となると、クリークにはタマのベッドを使ってもらう事になるな」 「ちょいちょいちょーい!じゃあウチはどこで寝るんや!」 「ふふ、ちょうど部屋に泊めくれそうな人がいるじゃないですか」
瞬間タマとトレーナーの目が合う。
「な、何を言うとるんや!」 「じゃあ私達はこれで。外泊許可も私がとって来て上げますから。トレーナーさん、優しくしてあげてくださいね?」 「頑張れ、タマ」 「あっ、ちょっ!」
バタンッと話しを打ち切るように扉が閉められる。 トレーナー室にはタマとトレーナーの二人だけが残されてしまった。 もう部屋は占領されてしまっているだろう。 つまり、残った選択肢は一つしかない。
「えっと….、家来る?」 「……っ!…まぁ、せやな…」
改めて言葉にされると恥ずかしい。
「ええかトレーナー!今回はこれしか方法が無いで仕方なくやからな!」 「分かってるよ」 「変な気を起こしたらタダじゃおかへんで!」 「変な気って?」 「それは…。言わんくても分かるやろ!」 「ははは」 「何笑っとるんや!」
相変わらずこのトレーナーはヘラヘラ笑っているのがよく似合う。 こんなヘタレ男に手を出す勇気などないだろう。 こうしてタマとトレーナーの凸凹コンビは確かな絆の深まりを感じながら同じ寮に帰って行ったのだった。
「ところでタマ、さっきの答えは?」 「え?」 「結婚してくれるのか?しないのか?」 「それは…保留で頼むわ…」 「……まぁ、いいか。今は保留でもな」 「堪忍や、トレーナー…」
一先ずの保留に納得してもらえて、タマは胸を撫で下ろし安堵した。
「今日の夜で堕とせばいい話だしな」
だからトレーナーの呟きは聞こえなかった。
拙者、タマみたいな恋愛について興味ない勢が気づいたら恋に落ちる展開大好き侍、義によってうまだっちいたす。
n番煎じですが許して下さい…。
こんなタイトルですが、誓って全年齢です。
今回は最後まで純愛でいこうと思ってたのに気付いたらこんなオチにしてた。