セイウンスカイ「はう・わんだふる・らいふ・いず……」
28歳になったセイウンスカイの概念です。今回も楽しく書けました。
ほんのりと、こないだの文章(novel/15656484)の続きモノです。単品でも読めると思いますが、もしよろしければ前作もぜひぜひ。
前回にも増して趣味全開で書いてしまってるので、肌に合わなかったりしてもご愛嬌で何卒。
以下、参考にした作品たち
【タイトル】
Your Song(Elton John)
【章タイトル】
prologue (Mr.Children)
D'où venons-nous? Que sommes-nous? Où allons-nous? (Eugène Henri Paul Gauguin)
the fox and the grapes (VisualArt's / Key Sounds Label)
To the skylark (Percy Bysshe Shelley)
Penny Lane (The Beatles)
青い栞(Galileo Galilei)
Your Song(Elton John)
【その他】
「『わたし~がオバさんになーっても~♪』」「『あーなたがっわかい~子が好きだから~♪』」
→私がオバさんになっても (森高千里)
「へいろーう、へいろーう、~」
→Smells Like Teen Spilit (Nirvana)
「だけど、こんな風にして世界は回っているんだよね」
→People Make the World Go Round (The Stylistics)
「なんとも楽しそうな目の前の君に~」
→君の知らない物語 (supercell)
「『大好きでいさせてくれてありがとう』の気分」
→Utauyo!!MIRACLE (放課後ティータイム)
「キミはもう過去となり、遠くへ去って行ってしまったんだね」
→A Dream Goes On Forever (Todd Rundgren)
「結局愛なんて、~」
→名もなき詩 (Mr.Children)
【ほのか~~に世界観を共有してる作品】
We Are Quite Fine!
novel/series/1594043
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Chap. 1: "prologue"
「わたし~がオバさんになーっても~♪」
2人しかいないカラオケボックスの1室で、ずっと昔のウイニングライブの感覚を思い出しながら、往年の名曲をノリノリで歌う私――セイウンスカイ。
そしてすぐ正面で、エチルアルコールに酔っ払って真っ赤な顔をしながらタンバリンをシャンシャン叩くのは、私の元トレーナーさんであり――そして、(いったん説明は省くけど、諸事情で)あと半月くらいで私と結婚してしまいそうになっている、なんとも言い難い腐れ縁の男性。
「あーなたがっわかい~子が好きだから~♪」
曲の最後まで歌いきってマイクを口元から下ろすと、タンバリンをやかましくジャカジャカ鳴らして、目の前の彼(結局呼び方を変えるのが面倒で、ここ10年くらいずっと「トレーナーさん」と呼び続けてる)はご満悦にひゅーひゅーと冷やかす。
私はそのヤジに軽く照れ笑いをしながら、私の歌唱を採点する画面になったカラオケのディスプレイに視線を向けた。
じゃらららららら、じゃん。87.605点。音程ボーナスがついて、最終的に88.982点。
ビール2杯とジントニック3杯が胃袋に収まったあとにしては、だいぶ上出来なんじゃない?
「スカイぃ~、お前やっぱり歌上手いよなぁ~! 現役のころからずっと思ってたんだよ、俺はお前がセンターに相応しいってさぁ~」
「はいはい、トレーナーさん、酔いすぎだってば。ほら、次トレーナーさんの番だよ」
「ん、ああ、おっしゃ」
立ち上がり、テーブルに置いてあったもう1本のマイクを手に取ってトレーナーさんが歌うのは、とてもハードロックな洋楽。トレーナーさんのオハコだ。
最初は「こんなのカラオケで歌うの?」ってなったけど、もう何十回も一緒にカラオケには来てるもんだから、さすがに慣れた。
思うに、だいぶ私の音楽の好みはトレーナーさんに影響された気がする。昔はJ-POPばかり聴いていたけど、もっぱら最近は洋楽かぶれ。有名な曲は(たとえばいまトレーナーさんが歌っているこの曲のように)、もう口ずさめるくらいにさえなっている。へいろーう、へいろーう、へいろーう、へいろーう、はうろーう、ってね。
この曲を聴いてると、単に語感が似てるという理由で学生時代の友人のことを思い出す。
今は勝負服デザイナーとして第二の人生(バ生?)を歩み出した彼女と最後に会ったのは、もう5年も前のこと――私の元同級生、エルコンドルパサーが病気をしたお見舞いに行ったときだ。
トレーナーさんが歌い切ると、私はぱらぱらと拍手してあげる。どうやら彼はご満悦な様子。
70点台後半から80点台前半の微妙な歌唱力な彼の声は、しかし案外セイちゃん的には好みで、一緒にこうやって歌ったり歌われたりするのは好きだった。
そんなこんなで、すっかり新曲がセットリストに加わらなくなったカラオケをしばらく続けていると、さっさと時間は過ぎ去っていく。
ほのかに喉へ痛みを感じ、不意にスマホの時計表示を見て、私はげんなりした。
「うわー、もう朝じゃん……肌荒れそうだなぁ、やだやだ」
「え、マジで? いま何時くらい?」
「見てよ、もう8時半……」
「うげぇ、俺、今日休みで良かった……スカイ、この後どうする?」
「ん~、帰って肌パックして寝たいかも……。セイちゃん、今日夕方からシフト入ってるし……」
「お、了解。そしたらコンビニ寄って帰るか。あ、ついでに市役所寄っていい?」
「市役所? なんで?」
「え、だってほら、婚姻届取りに行かないと」
「……あ~、そういえば……」
その場で何も考えず眠ってしまいたい誘惑を断ち切って、合成皮革のソファーから立ち上がり、テーブルの上の伝票を掴む。
2人でバカスカ飲みまくって、お会計総じて7688円。ちーん。
お財布から諭吉が消える悲しみにちょっとだけ浸ってみる。だけど、こんな風にして世界は回っているんだよね。せいぜい4ケタの飲食できゃいきゃいと騒げるほど、もう私は若くはなかった。
*
ああ、私の輝かしい青春時代!
……なぁんてオバさんクサいことを考えるようになりつつも、勤め先のパートのオバちゃんにうっかりそんなことを口走ったら、強めの語気で諭されてしまうようなお年頃。
セイちゃんは学園を卒業して高校卒業の資格を得て、あっちをふらふら、こっちをふらふら。
気付いたらなんとアラサー、彼氏いない歴=年齢の28歳になっていた。
ちなみに、もちろん独身である。とりあえずあと半月後くらいまではね。