2019年09月16日
海から見たフォッサマグナ 日本海の拡大
<地球セミナ136-1 藤岡換太郎著 「フォッサマグナ」 日本列島を分断する巨大地溝の正体[1] 第3章> <大村 沙紀>
<フォッサマグナと二つの縁辺海>
前章ではフォッサマグナの南部と北部で形成過程が異なる事をみてきた。ここでは海に焦点を絞って成因を探る。北部フォッサマグナの面する日本海はユーラシア大陸の縁辺海という大陸の縁にある小さな海洋である。北から、ベーリング海、オホーツク海、日本海、東シナ海、南シナ海、フィリピン海などが縁辺海であるが、フォッサマグナの接する縁辺海は日本海とフィリピン海、特に日本海がフォッサマグナと重要な関係にある。
<日本海の地形を俯瞰する>
日本列島をあたかも防波堤とみるような配置で囲われたのが日本海である。間宮海峡、宗谷海峡、津軽海峡及び対馬海峡で太平洋に繋がる。
日本海の海底構造は2種類あり、水深2,000mより浅い陸地と同じような起伏に富んだ地形と、2,000mより深い平坦な地形の海盆から成る。主な海盆は日本海盆、大和海盆、対馬海盆である。
日本列島をあたかも防波堤とみるような配置で囲われたのが日本海である。間宮海峡、宗谷海峡、津軽海峡及び対馬海峡で太平洋に繋がる。
日本海盆は深さ3,000mの海底に広がる面積30万平方キロの大平原で唯一海洋地殻(玄武岩質)[2]により構成される。大和海盆には大和海嶺という九州の広さほどの山脈がある。大和堆という花崗岩質[2]の山があり日本海の出来る前の地質であることより過去の陸地を暗示する。対馬海盆も同様である。
<いまだにわからない日本海の形成史>
日本海の形成史は諸説あり、フォッサマグナの謎も然りである。寺田寅彦はヴェーゲナーの大陸移動説を当てはめて論文発表、観測事実には基づいていないが斬新ではある。
1985~2003年の海底掘削調査の国際プロジェクトでその形成史はかなり明らかにされてきた。1900万年前頃には大陸の東縁にあった日本列島が対馬、能登半島、鳥取、島根辺りで大地の裂け目(リフト)が形成され断裂が始まった。この裂け目が拡大して巨大な湖が出来た。
図2 大地の裂け目ができ、大陸と切り離される。[5]
<日本海形成の七つのモデル>
1.陥没説
プレートテクトニクスに基づいて日本海盆の地殻が海洋地殻であることが判明してこの説は消失。
2.大陸移動説
ヴェーゲナーの大陸移動説の応用。古地磁気の研究者である乙藤洋一郎(神戸大学)は、東北日本と西南日本が異なる回転をして合体したと提言、「観音開き説」と言われる。また川井直人らは「日本列島折れ曲がり」として提唱する。
3.沈み込みによるマントルの上昇説
太平洋プレートの沈み込みに伴いプレートからの水の放出によるマントルの融点降下でマグマが発生、上昇して地表に火山列を形成する。久野久、久城育夫、巽好幸らは日本海深部でマグマが発生、リフトが大地を裂き日本海を拡大させたという説を提唱。参考[4]
高橋雅紀の「日本海ロールバック」説:海のプレートの沈み込みに伴い陸のプレートが伸びて裂け目が出来リフトが日本海を拡張した。
【参考】リフト;地球のマントル上昇に伴い地殻が膨張し割れるなど、地殻に伸張作用が働いてできた形状を指す地質学用語である。
4.プルアパートベイズン説 (Pull-apart basin)
日本海の北側と南側の横ずれ断層の間の部分が引っ張られて空洞ができ日本海が陥没したとする説。横ずれが同時に起きた地質学的証拠がない。
図3 プルアパートベイズンの原理図(小学館日本百科全書より)
5.トランスフォーム断層説
相馬恒雄、丸山茂徳らが提唱、日本海に多数あるトランスフォーム断層が日本列島を南に押しやり日本海が出来たとする。証拠、痕跡に乏しい。
【参考】トランスフォーム断層(Transform fault): プレート境界において生成される横ずれ状の断層のことである。中央海嶺-中央海嶺型、中央海嶺-海溝型、海溝-海溝型の3種類が考えられているが、ほとんどのトランスフォーム断層は、中央海嶺に交差して顕著に見られる海嶺―海嶺型である。
6.ホットリージョンマイグレーション説
都城秋穂(みやしろ あきほ)のアイデア。マントル深部にはホットリージョン(熱い地域)があり高温の「プルームPlume」があるがこれがゆっくりと移動(Migration)して縁辺海を形成したとする説。
【参考】プルームとは:地震波の伝達速度が変化することで提唱されたある場所のマントルの状態を指す。温度が高く、数千キロにも達する大きさの領域(個体)である。
このプルームが地表近くでは圧力の低下で融解しマグマとなる。東アフリカ、フレンチポリネシアの地下に存在が確認されている。大地を引き裂く作用がある。都城は南シナ海、スル海、西フィリピン海盆、パレスベラ海盆、四国海盆、日本海などの成因時期(第3紀)を考慮するとホットリージョンのプルームの移動が成因と考えられる。
7.オラーコジン説
立石雅昭、志岐常正が提案。オラーコジンとはロシアの研究者が使用したギリシャ語由来の(溝の生成)を意味する。ロシアの平坦な地形に大規模な溝状の断裂を呈する所があり命名。
多くは3本の断裂が出来、2つは発達した「腕」となり他方は未発達な「腕」となることが多い。プルームが上昇して地殻を裂いてマグマが噴き出すとき地殻が3方向に裂かれ発達した2本の「腕」は海洋を作り残りの未発達な「腕」が造山帯で山脈を作る。
オラーコジンに着目したアメリカのポール・ホフマンらは地球内部から上昇して地殻を裂いたマグマが噴き出すとき地殻は3方向に裂かれY字の断裂が出来る。発達した2方向には海洋ができ不完全は1方向の断裂は閉じて造山帯を作ると解釈した。
プレートテクトニクスが提唱されるとプレート3重点にオラーコジンの考えが応用された。ユーラシア大陸の縁に3カ所の割れ目ができ2方向が日本海を形成、残る1本がフォッサマグナになった、と解釈した。
<日本海の形成を考える困難さ>
日本海の拡大とフォッサマグナの形成は年代的に一致している。深さ6000m以上の溝状の構造を形成し得るもの、さらにフォッサマグナの中には海底火山産物がある事などを考慮すれば有力候補は海溝、トランスフォーム断層、リフト、オラーコジンくらいとなる。
地磁気による年代測定は有力だが日本海の地殻は過去の時点で高温であったため地磁気は磁性を失っている。磁鉄鉱は573℃で磁力を失う。北部フォッサマグナの成立については日本海成因の謎に直結しており、混とんとした状況である。詳細は次章以降に譲る。
【参考資料】
[1]フォッサマグナ BLUEBACKS 藤岡換太郎著
[2]三つの石で地球が分かる BLUEBACKS 藤岡換太郎
[3]気象庁HP https://www.jma-net.go.jp/jsmarine/japansea.html
[4]山陰海岸ジオパークHP http://geopark.jp/geopark/saninkaigan/
[5]日本列島誕生 ジオ・ジャパン 激動の日本列島誕生の物語 宝島社