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打倒魔王の魔術学校生徒 作者:野河マコト
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6話 格闘能力

時刻は10時55分。4時間目に言われたように、俺は先生を訪ねに職員室へ向かった。

その後、先生は中央中庭まで着いてきてくれと言い出した。

本当に何するんだよ…。わざわざ中庭行く必要性あるのか?でもそれを知る術は俺には無いか。

とにかくついて行くしか無かった。

中庭に着いた時には、もう11時を過ぎていた。

左手に花壇があるその中庭の木製の長椅子に、先生と思しき男が1人座っていた。

俺たちが向かってくるのに気付くと、椅子から立ち上がった。

「桐ヶ谷、こちらは黒崎賢人(くろさきけんと)先生だ。」

その男がこちらを見たと同時に、先生がそう言った。

「黒崎だ。よろしく。」

そう言って、黒崎先生は手を出してきた。

俺は迷わずその手を握り、こちらこそ、と返事をした。

だが、この間にも俺は黒崎先生を()()()()

今、この手を握りあっている時でさえ、彼は隙を見せていなかった。

この先生はかなりの手練だ。頭の中でも、直感でも俺はそう感じていた。

「それにしても…。」

握手を止めた後、俺は周りを見ながら思ったことを少し口に出していた。

何故こんな所に俺を呼び出したのか。それが未だに謎だ。

「なんでこんな所に呼んーー」

担任の静寂先生に問おうと振り向いたその時、俺は後ろに跳んでいた。身体が勝手に後ろへ下がったのだ。

前を見ると、黒崎先生が右腕を出している。つまり、先生が攻撃してきたのだ。

そのまま先生は距離を詰める。

その眼には、迷いも何も無い、真っ直ぐな眼をしていた。

左拳を握り出してきた一撃を、俺は右腕で横から押し、軌道を逸らした。

と途端に、右側から風が顔に来るのを感じた。その方向に身をよじり、腕を交差させて防御の構えを取った。

その腕に先生の左脚が入り込み、俺は後ろへ蹴り飛ばされた。

両足でその場に留まろうとする。土埃を上げながら、3メートル程俺は後ろへ飛ばされた。

先生がそれ以上来ないことを見て、静寂先生に大声で問う。

「先生!どういうことですか!?なんで突然攻撃受けなきゃいけないんですか!?」

その問いに対して、先生は、

「あれ?言ってなかったっけ?4時間目は自己防衛の為の格闘技術をどれだけ習得しているかを見ていたんだ。君は4時間目いなかったから、外にも行けるこの自由時間に見ることにしたんだよ。」

絶っっ対聞いてねぇ!そんな事一言も言ってなかった!!

それ4時間目の終わりに言えよ!そう言いたい!

でも、そういう事か。それならみんながあれだけ疲れていたのも納得がいく。

まだ昼飯食べてなくてよかったとつくづく思う。横腹が痛いと動きづらいからな。

そしてひとつ疑問が浮かぶ。

「黒崎先生!それならこっちから攻撃してもいいんですか?」

相手は攻撃してくるのに自分は駄目というのは、紛れもなく不公平だ。

最悪それでも行けるかもしれないが…。

「あぁ。むしろ来てくれないとお前の力量が測れないからな。どんどん来い!」

案の定、不当なルール設定は無いみたいだ。

「それじゃ、お言葉に甘えて!」

俺は左足で地面を蹴り、走り出した。


誠は黒崎の前に来ると、右腕を後ろに引いた。が、左足を前に出したままスライディングで攻撃してきた。

黒崎はそれを跳んで躱し、誠を正面に捉えようと、身を捻って向きを変え着地した。

顔を上げると、誠が下から立ち上がって攻撃してきた。スライディングした後、左手を使って体勢を整えていたのだ。

黒崎の顎に右アッパーを当てにいくが、両手を重ねた黒崎の防御で防がれた。

誠は止まらずに左フックを放つ。これも右手で外側へ逸らされるが、その勢いを利用して、右脚で蹴りを脇腹に喰らわせた。

この一撃に黒崎は一瞬怯んだが、すぐさま右拳を誠の腹に叩き込み反撃した。

「がッ…!」

誠は突然の衝撃に後退り、体勢を崩す。

そこを逃さず、黒崎は同じ場所に横蹴りを放った。

吹き飛ばされた誠が前を見ると、黒崎がありえない速度で接近してきた。

それが風の魔法だと気づいた時には、いつでも攻撃を防げるよう準備していた。

宙浮いていた足を着けた時には、右手で相手の拳を受け止めていた。

「…そっちは魔術使えんの、かよ!」

掴んだ拳を払い除け、左手で殴ろうとする誠。

だが、黒崎の右手がその手を払い除け返した。

そして先程払われた左拳が、誠の顎を狙って空気を押しのける。が、誠が首を後ろに逸らしたため、不発に終わった。

その勢いのまま、誠は黒崎へ頭突きした。

これは予想出来なかったのか、黒崎はそれをまともに受けた。

「ぐぁ…!」

後ろへよろめいた隙を逃さず、誠は膝蹴りを仕掛けた。

「おら!」

これも見事に命中したが、誠はそのまま体勢を崩し、黒崎に覆い被さるように倒れ込んだ。

2人共立ち上がると、誠からパンチを繰り出し、黒崎はそれを受け流す。

そして誠の前に手を出し、風の魔法を発動。渦巻く突風が誠を校舎の壁まで飛ばすはずだった。

「な…?」

突如地面の感覚が消えたと思うと、自分の身体が横に傾いていく。誠が超低姿勢で足を引っ掛けたのだ。

引っ掛けた時の勢いを更に上げ、元の姿勢に戻りながら回し蹴りを喰らわせた。

「あらよ!」

相手はそのまま壁にぶつかった。

黒崎が思い描いていた誠の姿が、自分の姿へと変わっていた。

誠はそこから黒崎に向かって走り出した。そして軽く跳躍し、前方へ右脚を鋭く出した。

「うらぁ!」

ヒーロー物のドラマで見るような飛び蹴りを、立ち上がってすぐの無防備な黒崎に放った。

壁にぶつかる衝撃を再び喰らい、入れていた力急に抜けた。

誠が脚を離すと、膝からガクンっと崩れた。

「ふぅぅーー…。」

それを確認してから、誠は長い息を吐いた。

入学して初めての戦いは、自身の勝利で幕を閉じた。


「さて…、これで君の格闘技術は把握させてもらった。お疲れ様。」

その言葉を聞いて、俺はピクンっと反応した。

「…先生、2つ言わせて下さい。」

「ん?1つじゃなくて?まぁ構わないよ。」

それを聞いて、内心ほっとしたような気がする。

「1つ、まずは準備運動くらいさせて欲しかったです!そしてもう1つ!」

俺は人差し指を立てて先生にそう訴える。

そして矢継ぎ早にもう1つ目を言う。

「何も言わずに魔術使われるとマジしんどいんで、魔術使うって先に言っておいて下さい!まだ対策も何も学んでないんですから!」

あぁそうだったな、と先生は納得してくれた?ようだ。次同じようなのやる時覚えていて欲しい。

ところで黒崎先生は大丈夫だろうかと、忘れかけていた相手を思い出す。

振り向くと、黒崎先生は既に立ち上がっていた。

え?えもう立ってる?

その事に俺は驚愕とした。

あれだけの攻撃を受けたのに自然と立っていられるとか意味不明なのだが…。

不思議そうに見つめていたらしく、当の本人からは「一応衝撃を魔法で受け流していたから大丈夫だ。」と言われた。

いや膝から落ちたよね?本当に大丈夫かな…。

「ま、という訳で格闘技術測定も終了。付き合わせて悪かったな。」

場の雰囲気からか、それとも時間が来たのか、静寂先生は俺に向かってそう言った。

「いえ、自分が走り過ぎてぶっ倒れたからですし。悪いと思ってるのはこっちの方ですよ。」

と、俺は心に思っていることをそのまま口にした。

「それもそうかもな。…自由時間はあと1時間あるから、休憩とか昼飯とか取っておいた方がいいぞ。」

腕時計を見ながら、先生は俺を気遣って言った。

自由時間中は学校や学園の外にも出れるから、授業の後に羽を伸ばす人も多いらしい。

まぁ自分は学食で十分だけどね。

「桐ヶ谷。お前の技量はかなりのものだ。これからも鍛錬を怠るなよ。」

静寂先生の発言に返事をしたら、黒崎先生が真っ直ぐ俺に言葉を投げかけた。

当たり前です、と言おうとしたが、ここは好印象を与えた方が良いだろうと思い、「はい!」と返答した。

「それじゃ、気をつけろよ〜!」

片手を挙げてそう言った静寂先生に、俺は、

「はい!黒崎先生、ありがとうございました!」

と感謝を伝え、中庭を後にした。

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