4話 身体能力測定
にしても本当に暇だった…。
いっそ寝とけば良かったかな…。でも3時間目に間に合わなかったらまずいか。
そう言えば3時間目は身体能力測定だっけか。一体どんなことするんだ?
て待てよ、え?今日やんの?え?こんな超寒い中!?いやテレビの天気予報じゃ「春なのに真冬並みの寒さ」とか言ってたぞ!?
案の定、激凍とでも言うべき寒さの中で(俺にとっては)身体能力測定は行われた。
やる事としては、200m走、持久走、走り幅跳び、垂直跳び、腕立て伏せ、ハンドボール投げ、反復横跳び、か。
…へ?それだけ?
いや、楽だとは思ったけど、少な過ぎないか?
よくある腹筋とか長座体前屈とかは?…無いのね。まいっか。寒いしサクッと終わらせるか。
俺がまずやったのは200m走。
身体を温める為の準備運動のような気持ちで走りに来たが、まさかの一直線を走るものだった。
普通はカーブがある筈だからそれを想像していたのだが…、まぁいいだろ。むしろ直線の方が走りやすい。
俺の番になったので、クラウチングスタートの体勢で構える。
なるべく早く出る為に、前に出している左足に重心を置く。
ホイッスルが鳴ったと同時に俺は前に出た。
その時点で既に他の人とは5cm程の差が開いていた。
その差を広げるかのように、俺はどんどん加速していく。(間隔とかの話は、走り終わった後に見ていたクラスメイトに聞いた)
ゴールに着き、タイムを聞くが、正直どうでも良かった。
実際に近距離戦をするのなら、瞬間的な反応速度と反射神経の方が大事だ。個人的に。
だからただ純粋に走った200mの秒数には興味がなかった。
「桐ヶ谷誠、記録、24.4。」
…いや、そう言われても速いのか分からないんですけど?そう先生に言いたくなった。(ちなみにうちの担任ではない)
周りで小さなざわめきが起こったから、まぁまぁ速いのだろう。
そもそも期待してないからどんなタイムでも別にいいんだけど。
さて、次行くか。寒いし。
次は走り幅跳びの場所へ向かった。
並んでいる人数が少なかったから、そのまま走って向かった。さっきの200m走の延長戦だと思えば体力的にも楽勝だろ。
担当の先生が説明を始めたが、別に特に聞いてない。
だって、走って跳ぶだけだろ?
助走の歩数は決めてるし、飛ぶ時の足だって決めてるんだから、聞かなくてもいいだろ。
これもまた、4m6cmと言われたが凄いのか分からない。
あぁもういいや、とっとと行こう。
それで注目浴びて面倒事に巻き込まれたくないし。それに記録とか考えないでやれば早く終わるだろうしな。
という訳で、今はラストの持久走の順番待ちをしている最中だ。
さっき思った通り、記録とか周りの視線や反応は無視してやったことが幸をそうしたのか、30分がとんでもなく早く感じた。
それから持久走の会場へ向かったのだが、…待ち時間長くね?もう5分くらい待ってるような気がする。
これじゃ身体が冷める…て、あれ佐久間君か?
最後にスタートした列の時間からして、まだ1周目か。でも何故だろう。気のせいかな?なんかもう疲れているように見えるが…。
その不安(?)は的中し、5周で終わってしまった。体力面で問題があるみたいだ。
うーん…、機会があったら鍛えてあげようかな。
そう考えているうちに俺の番が来た。
さて、これで最後だから、全力で頑張るか。
1つ深呼吸して、スタートラインに着いた。スタートの合図に合わせて、全員走り出した。
ところが、また疑問が浮かんだ。
俺は個人的に最速の20%の力で走ってるつもりだが、他のみんなはある程度置き去りにされている。俺が速いのかな?
自分の身体能力は、普通より凄いことが今俺の中で判明した。
ハァ、ハァ…、と荒い息を吐きながら、俺は走り続けている。
これだから持久走は嫌いなんだ。
走るという工程が延々と続く。力の限り動かなければならないから、途中で投げ出すことも出来ない。俺の嫌いな運動の中でも上位を争うものだった。
そんなことを考えていると、周りにいた他の走者たちが居ないことに気づいた。
もしやと思い時計を見ると、もう8、いや9分くらい走っていたのだ。
これは流石に声を出して驚いた。
最後に持久走をしたのは、確か小学4年生の時で、10周約4分のタイムだった。
たかが3年くらいでこれ程まで成長する…のか…!?
驚きの余り一瞬気が抜け、走るのが止まりそうになったが、すぐ体勢を立て直した。
だが体力が無くなってきているのは事実だったので、そろそろ頃合いだろうと俺は思った。
普通なら、ここでペースを落とす人が多いだろう。だが、俺はむしろ全力疾走した。
理由は単純、疲れきっているときにいつでも全力で走れるようにする為と、持久力を上げる為である。
最後の1周を終えた頃には、立つこともままならない程に疲れていた。
「桐ヶ谷誠、記録、25周を9分42秒…!」
その記録に対するツッコミも考えられない程の疲労が、俺を襲っていた。
「大丈夫桐ヶ谷君!?ねぇ、しっかり!」
今日の朝聞いた、聞き覚えのある声が、俺を呼んだ。それを最後に、俺は疲れのあまり気を失ってしまった。