5話 4時間目
視界に突然光が射し込んで来た。
目がしっかりと開くと、自分の今の状況が概ね把握出来た。
ベットの上に寝ていて、左に窓が数枚ある。右にあった白いカーテンを見て、保健室であることが分かった。奥の壁の上の方では、時計が10時26分を指していた。
そして、何故こんな場所に居るのか思い出した。
3時間目にあった持久走で体力を使い果たして、そのままぶっ倒れたんだ。
4時間目は9時45分から10時35分までのはず。つまり…
「4時間目はもう間に合わないな…。」
果たして何をする予定だったんだろう。俺は欠伸をしながら考察してみた。
流石にもう身体を使うようなものはしないかな、と考えていたら、
「あら、起きていたんですか。体調の方はどうですか?」
と、保健室に入ってきた人に突然質問をされた。
どう見ても大人だったから、この人は先生だろう。
「あ、はい。特に問題はないと思いますが…、まだ少し眠いですかね。」
俺は思ったことを素直に話した。すると「それなら良かった。」とその先生は応え、もうベットから出ていいと言った。「もし体調が優れなくなったらまた来てください」と言う言葉も付け足して。
保健室から出て1、2分足らずで、俺は教室に着いた。だが、教室は明かりが消されていて、もぬけの殻だった。
みんなは一体どこで授業をしているのやら…。
それにしても、1時間目と2時間目には外から身体能力測定をしている声が聞こえたが、4時間目の今には聞こえなかった。
単に偶然かもしれないが、もしかしたら何か意図があるかもしれない。それを考えている途中で、教室のドアがガラガラと音を立てた。
「ハァ…、マジしんどい…。」
「なんで私まで…?」
「もう動けねぇよ…。」
帰ってきて早々、みんな疲れ果てた様子でダラダラと席に着き始めた。
えーと…、何があった…?いや恐怖さえ覚えるよ…。
疲れたって言ってるから、多分体を動かしたのだろう。
それを裏付けるように、今にも倒れそうなほどフラフラになりながら、佐久間君が僕の側にやって来た。
「桐ヶ谷君…!体…、大丈…夫…!?」
佐久間君は息を切らしながらそう言ってきた。だが、僕の体より自分のことを考えて欲しい…。
「あ、あぁ。大丈夫だよ。それより佐久間君の方こそ大丈夫?」
僕は困りながら佐久間君へ言った。
「あぁ…、ほら、…この通り…、大丈夫だ…よ…。」
いやこの通りって!全然大丈夫じゃねぇよ!
言葉が喉の扉をこじ開けそうになったが、どうにか押さえて鍵を掛けた。
「…ところで、4時間目は何やってたの?」
俺は自分が今知りたいことに話題を変換した。
すると、佐久間君はたちまち絶望の表情を浮かばせた。相当恐ろしい事だったのだろう。その表情が余計に求知心を掻き立てた。
「あぁいや、言いたくないなら別にいいんだけどさ。」
それをかき消して、俺は彼を心配してそう言った。
みんなの様子から体を動かすことをしていたと推測できる。そこで先程の問いの考察が出来た。
外で身体能力測定をした次の時間は、おそらく4時間目にやった内容の授業を必ずやるのだろう。
つまり、外で軽くない準備運動をしてから、屋内で別の運動をする、という意図が考えられるのだ。
授業終了後に昼食に入る4時間目に測定をやっても意味がないから、この時間に外から声は聞こえないのだろう。
て、これ考えて意味あったのかな…?自分がバカバカしく思えてきたぜ…。
俺がそんな風に考え込んでいると、先生が前のドアから入ってきた。そのまま教卓の前へ移動する。
「はい、みんなお疲れ様。これで今日の魔術科目の授業は終了だ。通常科目でもしっかりやれよ?お、桐ヶ谷、戻ってたか。」
て、保健室行きになった生徒のことは最後かよ!
そうツッコミたいが一応相槌は打っておいた。
やる気無しとみなされるギリギリの気持ちでの相槌ではあったが。
にしてもこれで魔術科目は終わりか。午後から通常科目って言うけど、どうせ教科書等の配布に説明で終了だろ?あぁ…、2時間目のデジャブを感じる。
この学校は確かに数少ない魔術学校ではあるが、魔術しか習わない、という訳ではない。
現代社会の学校と同じ内容のカリキュラムも当然割り振られている。国語に数学、理科、社会、英語などなど。
だが小学生から大学生までいるのだから、教員の方は凄く大変だろう。
小学や中学には無い化学や、理科ⅠだのⅡだのがあったりするし、小学1年生なんかは生活って教科もあるしな。いやぁめんどくさい。
「あぁ桐ヶ谷。すまないが、昼食後に俺の所に来てくれ。」
唐突な発言に、凄い速度で振り向いてしまった。
え?俺なんかやらかしたっけ?へ?こんな初日に?嘘だろ!?
いやでも待てよ…。単に頼み事なのかもしれない。だけど…、う〜〜ん!分からん!一体何されるんだよ…。