1話 歓喜と不安
「今日からか……。」
彼はある学校の巨大な正門の前でそう言った。
4月7日、時刻は午前5時半。この時間帯は人は外に出ないので、寂しい街並みが広がる。もし、高いビルの3、4階から正門を見たら、その前に立ち止まっている彼がよく見えるだろう。
(やっと、やっとスタートラインに着いた……!)
右手を強く握り、顔を上げ前を向いた。
それからも、彼ーー 桐ヶ
4月7日の7時6分。国立魔術学校の正門を複数の生徒が通り過ぎていった。
魔術学校の登校時間は7時5分から7時25分なので、まだ行列のようにはなっていなかったが、全校生徒数が約650人もいる為、人数は多かった。
その登校中の生徒たちの多くは、昨日入学したばかりの新入生である。
(はぁ……、やっぱ早く来ちゃったかな。)
その新入生の1人、
何事も早いに越したことはない、と考え早めに来たが、昨日の入学式の圧倒的な人数の生徒が数えられる程しかいなかった。(それでも20〜30人はいる)
おそらく多くの生徒は友達と少し遅れて登校するのだろう。
(仲良い友達とか作れるかな…。いい学校生活が送れればいいけど……。)
そう思いながら、零央は昇降口へと向かっていく。
零央が教室に着いて5分後には、クラスメイトの3分の1が室内に来ていた。
立ち歩いて入学前からの友達と話している者も当然いるが、零央は1人で持ってきた本を、等間隔で空いた机の上で読んでいた。
何しろ、彼は遠くからの転入生の為、顔見知りさえいなかった。昨日の式でも、誰にも話しかけられず、誰かと親しくなることも出来なかった。
「あ、その本俺も知ってるよ!」
唐突に話しかれられ、思わず声を出して驚いた。
あまり知られていない本を知っていたからではなく、まだ知り合ってすらいない人へ話しかけられる事に、零央は理解が追いつかなかった。
また、話しかけてきた彼を見て、一瞬動揺した。
少しボサボサの黒髪に黒い目の彼が、左目に眼帯を付けていたからである。
「えっと…、君は?」
本を机に置き、そう応えることしか零央は出来なかった。
「あぁ俺?俺は桐ヶ谷誠。隣の席だよ。よろしく!」
痛々しい眼帯とは裏腹な、パッとした笑顔を彼は見せた。
彼が僕の、魔術学校に来て初めての友達になるのであった。