告白のなんやかんやから巻き込まれてから一週間。思っていた通り、私と一之瀬さんが付き合っているとの噂が広がっていた。私たちが否定しても、それはより真実味が湧いてきてしまう。朝のランニングなんてたまに早くいく生徒に見られていたので(ちょうどお姫様抱っこされてる時)より信憑性が高まってしまったと言っていいだろう。
その噂が広まってから少しした時、神室さんに妙に食いつかれたので事情を説明すると、興味をなくしたかのようにどっかに行ってしまった。なんかあったのだろうか。
一之瀬さんは善人なので千尋ちゃんの気持ちを考えて、公にすることができないのだろう。
この噂が立ち始めてから、朝のランニングをしているとたまに一年生の人たちが本当かどうか確かめにきて、もうほとんどの人は本当に付き合っていると思っているのだろう。
まぁ、私は痛くも痒くもないけど。Aクラスのみんなには説明したからAクラスは信じていないようだ。
それにしても、そろそろ考えていたことを実行する時が来そうだから準備しとこうと。あんまりすることないけど。
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私、堀北鈴音は今とても気分が悪い。せっかくポイントを使ってまで救った須藤くんが暴力事件を起こしてしまったからだ。
須藤くんが暴力事件を起こしたと聞いて、私はとてもではないが裏切られたような気さえしたのだ。しかし、須藤くんがいうには確かに殴ったが相手から挑発されたという。だからまだ勝てるチャンスだと思い考えているところだ。相手はCクラス。
私がなんとか審議を遅らせられてはいるが、一向に決定的な証拠は見つかっていない。
私がどうしようか考えながら歩いていると、後ろから突然声をかけられた。振り向いてみると、そこには背の小さな銀髪の少女が微笑んでいた。
「私に何か用かしら?今暇ではないから早く終わらせて」
「あぁ、すみません。もう少し世間話をしたかったのですが…、では早速本題について。いきなりですが、私のクラスと休戦協定関係を築きませんか?」
目の前の少女はいきなりとんでもないことを言い出した。しかし、クラスは1人の意思では動くものではないので、単なる戯言だろう。
「そんな戯言を聞くために耳を傾けたわけではないのだけれど。第一あなたは誰なの?」
「申し遅れました、私はAクラスの坂柳有栖と言います」
それを聞いた時私の中で衝撃が走った。私の目標としているAクラスの生徒。私の方が上なはずなのに…。
「それで、協定関係については考えてくれましたか?」
微笑みながら、協力してくれるのか再度話しかけてくる。正直に言って、その申し出はあなたたち弱いから協力してあげる、と言われているようなものなのだ。
私は内心苛立ちながら、その協定について考える。
「堀北さんは今回の暴力事件の解決に困っているのではないのかと思いまして。私たちAクラスが目撃者などを探し、Dクラスに提供すれば、その審議では勝てるでしょう。うまくいけば審議をすることすらしなくても良くなります」
「まずなぜあなたたちは私たちのクラスに協力しようと思ったの?」
「それは、龍園くんに痛い目を見てもらいたいからです」
はっきり言って異常だ。クラスポイント差が近いならわかるのだが、今Aクラスは独走状態。こんな下位クラス同士の争いに首を突っ込むのがおかしい。それに1人の意思ではそう簡単にクラスを動かせない。
「はぁ、あなたが言いたいことはわかったわ。でも、あなたがリーダーだとしても全員がこんな下位クラス同士の争いに参加するとは思えない」
ふふ、と坂柳がおかしそうに笑うとまだまだ甘いようですね、と言った。
「それはどういう意味?」
「私たちAクラスはとっくの昔に統率が完璧になっています。そして、私の一存でも、クラスはそれを信じて動く。それを聞いても協定は結べませんか?」
私はこの坂柳さんの自信が嘘のようには感じなかった。これがAクラスなのか。それに対して私たちDクラスはいつまで経っても統率が取れていない。
私は協定を組むメリットとデメリットを考えたが、私たちDクラスにとってAクラスとは違い1人の意思ではクラスを動かせない。私は強い劣等感を感じてしまっていた。
「私の一存では決められないわ。一度Dクラスで、話し合ってからその答えを出しても大丈夫かしら?」
「それで構いません」
では、と坂柳は立ち去っていった。
☆☆☆
あの後、綾小路くんを通して平田くんと櫛田さんにこのことを伝えて、話し合うことにした。場所はカラオケルームであり、監視カメラもなければ盗み聞きもできないこの敷地内で数少ない、密会に向いている場所だ。
4人(綾小路くんは無理矢理連れてきた)で話し合ってみると今回の件についてAクラスが目撃者を探してくれるのはとてもありがたいことなので、協定を結ぶことにした。Dクラスの人たちもそれなりに探してくれている人もいるのだが、須藤くんがどうなろうと関係ないと何も協力しない人も少なくはない。
これが完成されたAクラスと不良品なDクラスの差なんだと改めて痛感した。
でも、私は諦めるわけにはいかない。坂柳さんが言っていた、自分の意思はクラスの意思。私はいつだって兄を追いかけ、兄に追いつくことを目標にひた走ってきた。その中で人間関係は必要ないと切り捨て、いらないものだと思っていた。しかし、リーダーとなるには、Aクラスに上がるためには、とても大切なことだったのだと理解した。坂柳さんがなぜAクラスであり、私がなぜDクラスなのか…。今更ながらに気付かされた。
それでも、私は諦めない。絶対に上に上がって兄さんに追いついてみせる。
私は強い決意を抱いて坂柳さんに協定の有無を伝えたのだった。
☆☆☆
Aクラスとの協定を結んでから5日目。ついに審議は明日となったのだが未だに目撃者は見つかっていない。目撃者かもという人物もDクラスの生徒であり信憑性を欠いてしまうのだ。
私が他に方法がないのか考えていると、綾小路くんの助言をしてくれた。偽の監視カメラを用意すれば良いのだ。そのことを坂柳さんに伝えると、今すぐ会ってほしいとのことで、私の部屋に坂柳さんを招いていた。
「ふふ、やっとその答えに辿り着いたようですね。堀北さんなら思いつくと私は信じていましたよ」
「その言い方からすると、最初からあなたは思いついていたみたいね。なぜもっと早く言ってくれないのかしら?」
「それではあなたの成長につながらないでしょう?それにこんなことも思いつかないのであれば、決定的な証拠は渡せませんから」
そういうと、坂柳さんはスマホを取り出してある動画を見せてきた。その動画には須藤くんとCクラスのやり合いが最初から最後まで完璧に写っており、これを出せば審議でも勝てはしないが、Cクラスの一人勝ちにはならないはずだ。
「………あなた、どうやってこの動画を…!」
坂柳さんは驚いている私の反応を楽しむようにこちらの様子を伺っていた。
「いえ、少しこちらからも裏で動いていたもので。それで、この動画を提供する代わりAクラスとDクラスの停戦協定契約を続けるということでよろしいですか?期限はあなた方がこの協定を必要ないと思うまで」
強敵であるAクラスが味方になってくれるのはDクラスとしては願ったり叶ったりな申し出だが、この協定にAクラスにはメリットはないはずだ。
「こちらとしては嬉しい申し出だけど、Aクラスにはメリットがないのよ?なぜ私たちと組むのか教えてもらえるかしら?」
坂柳さんは私をまっすぐと見つめると、あなたです、と言ってきた。最初は意味がわからなかったが、さっきの言葉から何を言いたいのかがわかってくる。
「なるほど、やはり堀北さんも察しが早いですね。そう、私はあなたの成長を手助け、あるいは見守っていたいんです。どこまで実力をつけ、どこまで私に通用する敵となるのか。そのために私はDクラスと協定を結ぶのです」
「…………はぁ、あなたがそんな悠長なことをしていると私に抜かされるんじゃないのかしら?」
「ええ、私もそうなることを期待してますが、そう簡単には負けはしませんよ?」
坂柳さんは余裕そうな表情を浮かべると、もう用はないといい玄関に向かって歩き出した。その時坂柳さんはテーブルに足の小指をぶつけてしまったらしく、痛みにもがいていた…。え?
「い、痛ッ!?……痛い…」
とてもAクラスのリーダーと呼べるような姿ではない、見るも無惨な格好をしていた。坂柳さんは痛がってはいたが、何事もなかったかのように玄関に向かっていく。玄関に着いた時、坂柳さんは顔を真っ赤にして、
「このことは誰にも言わないでくださいね…?」
と言ってきたのだが、私が目標とするAクラスとは一体なんなのだろうと考えさせられてしまった。
☆☆☆
無事にCクラスの訴え取り下げられて、なんとか嵐が通り過ぎたと言えるぐらいにはこの騒動は終わっていた。
坂柳有栖。彼女には負けられないと私は強く決意するのであった。
結構私、堀北さん好きなんだ。
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