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一ノ瀬さんにお姫様抱っこされた日の放課後、私は神室さんの後をつけてコンビニの中にいた。神室さんに気づかれないようにスマホの動画モードをオンにして撮影を開始する。
やっぱり今日盗む気なんだね。明らかに昨日よりしれっとしていて、盗む気がないような雰囲気を出している。
確か神室さんは刺激が欲しくて万引きを繰り返していたって原作にもかいてあるんだったっけ?それで坂柳有栖に使われるのは刺激のある毎日で、万引きをするのをやめた、と。
まぁいいや。お、自分の手元を自分の体で監視カメラから隠している。それを違和感なく通り過ぎるような感じで、お酒一本を取っていった。華麗すぎる犯行に、これまでどれだけこんなことを繰り返していたのがわかる。
まぁ、こっちから撮影すればバリバリ万引きしているところ見られるんだけどね。証拠ゲット〜、これでこれから神室さんは私の言うことを絶対聞かなければならなくなるんだけどね!
「すみません、神室さん。少しお話が」
「…!またあんた?なに?」
「これなんですが…」
「………ッ!それよこしなさい!」
急いで私から携帯をぶんどろうとしてくる。しかし、私も取られるなんてそこまで鈍臭くない。すぐに掲示板に流せるように準備している。ワンタップすれば神室さんは、犯罪者だと確定してしまうだろう。
「くっ!……なによ?何が目的?別にそこに流しても良いんだけど」
「なかなかに強気ですね。しかし、あなたのクラスメイトである私としてもこれは心苦しい事実です。正直に言いますと、私はこの行いを見過ごしたいと思います」
この言葉を聞いて神室さんは少し落ち着きを取り戻して、安堵の表情を浮かべるがこの後の私の言葉により、その表情を変えざるを得なくなってしまうだろう。
「私の言うことをなんでも聞いてくれるならですけど」
「は?そんなことするわけないじゃん」
「ふふ、そんな強気な態度、嫌いではありませんよ。しかし、あなたはなぜ万引きなんてしたんでしょうか?そのお酒が欲しかったから?私にはそうは思いませんでした。犯行の瞬間を見ていたのですが、あなたはとても手慣れているようでした。つまりこの高校に入る前からやっていたと言うことです。あなたはお酒を美味しいと思いますか?」
「不味いに決まって…ッ!」
「不味いと言うことは飲んだことがあるのですね?それに、不味いのに今もお酒を万引きしている。それはなぜか?私の方で勝手な憶測をさせてもらいました。あなたは、万引きをすることにより、スリルを感じているのではないでしょうか?そしてそのスリルを楽しんでいる。違いますか?」
「……正解。で?あんたの名推理を聞いて私が意見を変えると思ったの?」
神室さんは私のこの推理を聞いても狼狽えもせずに早く掲示板に載せれば?と態度を変えない。
掲示板に載せれば学校側にこのことが知られてしまい、神室さんの停学や罰金を支払わなければならなくなる。それはAクラスとしても避けたいところなのだ。
「でしたら、私の手足となり私に付き従う方が充実な毎日を送れることを約束しましょう。万引きなどといういつかはバレてしまうスリルの楽しさではなく、言われたことをこなし、主人を守り、そして私に貢献する。それはあなたが今している万引きよりもよりスリルな日常を送れる最良な判断だと私が自信を持って言いきれます」
私の熱心なプロポーズに(訳すと従順な駒になれ)神室さんは少し考えるそぶりをした後、私の目を見て気怠げに答えた。
「…………はぁ、良いわよ。その契約のってあげる。こんな危険な万引き続けててもバレちゃうしね。てか、バレちゃったし。これから私はあんたの手の中。それもまぁ、あんたなら良いかもしれないけどね」
「では、私たちはこれから親友ということでよろしいですか?」
「え、それはやだ」
神室さんは表情から心底嫌だと隠す気もせず嫌悪感丸出しだ。
え、普通に傷つく。しかし!私には神室さんになんでも命令できる契約を結んだのだ!無理矢理親友になってもらうぞ。
「いえ、あなたは契約の通り私の言ったことは絶対となるので、もう私たちは親友です」
私がそういうと、神室さんは苦虫を噛み潰したような顔をした後、呆れるようにため息をついた。
「はぁ、あんたの最初の命令が親友になれだなんて、なんかしっくりこないわね」
それから私と神室さんは親友(建前上)になったのであった。この関係が本物の親友とお互いに認め合うようになるのだろうか。
☆☆☆
神室さんと親友になってから一週間。特に何事もなく日常は平和に進んでいる。と、ここで今日の授業は水泳だ。水泳、水泳…。うっ、頭が…!
みんなも大体察しがついたであろう。運動音痴で体力のない私、坂柳有栖だが、水泳なんてやったこともない。
一度家族で室内プールに来たことがあったのだが、案の定、私は溺れてしまい過保護な親のせいで腰ぐらいの高さの子供プールでしか遊べなかった。
泳ごうと思うと体制が崩れてしまい慌てて起きあがろうとすればより体制を崩してしまう悪循環。鼻には水が入るし呼吸はできないしで散々な思い出しかない。
そしてとうとう体育の授業が来てしまった…。熱血っぽい先生が言うにはいきなり競争をするらしく女子は五人組では2グループずつで競うらしい。最下位は補習。カッコいい坂柳のイメージがまたしても崩れていく…。
「か、神室さん、プールの授業サボるのってありだと思います?」
今回AクラスのみんなはDクラスとは違い全員が参加している。リーダーとなる私がサボるわけにはいかないのだが…。
「ダメに決まってるでしょ?いつも変な命令させてくるあんたが苦しむ姿を見てみたいんだけど」
神室さんは辛辣に、むしろ楽しそうに私を突き放してくる。
おい、お前親友だろ!そこは私に任せとけとか言ってくれてもいいだろう!?
私がプールの授業なくなれ!と神に祈っていると早速男子のレースが始まった。やはり早いのは、橋本くんや鬼頭くんなどの身体能力抜群のメンバーたち。正直に言って羨ましい。
男子のレースが終わり、女子のレースが始まる。そこには無表情な神室さんがいて、いつでも始まってもいいように構えている。
「よーい、ドン!」
先生の合図によって五人一斉にスタートを切り、ゴールに向かって泳いでいく。私は神室さんを応援するため、プールサイドでついていくような形になった。
神室さんはやはり運動神経が良く泳ぎのスピードもぶっちぎりの一位であった。私はプールから上がってくる神室さんに近寄る。
「一位、おめでとうございます。やはり神室さんは運動神経が良いのですね。少し羨ましいです」
「あんたがどれだけ泳げるかわからないけど、泳げなくて溺れることを期待しているわ」
「…………溺れたら助けてくださいね」
「そんなにやばいの?」
ついにこの時が来てしまった。私は震えながら着水しゴールの方を見てみる。ゴールまでは50メートルありとても私が泳げるような距離ではない。てか、さっきから思っていたけど足がギリギリ底についている感じでめっちゃ背伸びしている。
「よーい、ドン!」
合図とともに私は壁を蹴る。今日の授業のために私は色々と勉強したのだ!いいスタートをきるには最初の壁からが重要だって(小学生用の水泳ガイドブック参照)
あ、やば、鼻に水が息ができな……ぼぼぼぼぼ!
私は壁蹴りスタートから10メートルもせずに体制を崩して溺れてしまった。しかも私の身長ではプールの底に足がつかないため致命的だ。
「おい!誰か坂柳を助けろ!」
ちょ、助けろってお前が助けろよ!なんで人任せなん!?
あ、やば、意識が…。そう思ったところで体が誰かから掴まれて持ち上げられる。ゴーグルをしていて見辛いがシルエット的にも多分神室さんだろう。助けてと命じといて良かった…。
「はぁ、まさか完璧だと思っていたあんたにもこんな弱点があったなんてね…。落ち着いて大きく深呼吸。鼻から吸って口からはいて…」
神室さんに言われた通り必死に深呼吸を行う。それにしても神室さんに助けてもらった時の安心感はすごかったなぁ。やっぱり神室さんはちゃんと助けてくれるあたり普通に優しい。
その後保健室に行ったが特に何もなく体に異常はないと言われた。体育の先生からは、後で補習な、と言われたが本当に泳げるようになるのだろうか…。不安しかなかった。
救世主神室。
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