『俺だ、寮の裏に来い』
真後ろに清隆くんがつけていたことに私は内心めっちゃ恐怖でドキドキしています。無表情でついてくんなよ…怖い。
清隆くんについていくように寮の裏に行くと(結構遅い時間なんで暗くて見えない)清隆くんが待ち構えるようにして仁王立ちしていた。
「私に何か用ですか?」
「俺は有栖がこの学校にいるとは思わなかった…」
「…?なぜですか?その言葉の意味が少し分かりかねますが…」
え?どゆことどゆこと?なんでそこまで驚くの?
「あいつらから有栖が死んだと聞いたんだ…」
清隆くんは、宝石のような瞳でこちらを覗き込んでくる。相変わらず無表情だ。清隆くんが何を思って私に近づいてきたのかはわからないが、危険ではないことは確かだ。
うーん、私が死んだ?でも、都合がいいのか。清隆くんの育成に私が邪魔になって殺したという筋書きだが、実際は、遠ざけられただけである。
「確かにあの日から清隆くんと私が面談するのは禁止されましたが、殺されてはいません。それに、あそこから抜け出せたようで良かったです。どうでしたか?私が語った外の世界は」
「あぁ、そうだったのか…すまん、少し思い込みをしていたようだ。…………そうだな、外の世界は有栖が語ったように新鮮でとても楽しいと思う」
「そうでしたか、それは何よりです。では、話がついたようでこれで…」
Uターンして自分の部屋に戻ろうとすると、
「待ってくれ……………チェス、しないか?」
…………ふふ、そっか、覚えてたんだね。初めて会って、初めて触れて、初めてチェスで遊んだあの日のことを。
どこか遠い昔のようにも、昨日あった出来事のようにも思い出せる。
「ええ、チェスボードなら今買ってきたところです。ちょうど相手がいなくて困っていたところなんですよ」
そういうと、清隆くんは少し笑ったような気がして、私たちは寮に戻ったのであった。
☆☆☆
チェス強すぎだ!どうなってんだよこれ!?まずい、その一手は強すぎる…!
チェスを始めてはや2時間。戦局は清隆くんに軍杯が上がっていた。
「どうした有栖、少しは腕を上げたんじゃなかったのか?」
ぐぬぬ、煽ってくるな〜!頑張れ!私の脳!坂柳スペック見せてやれ!ここだぁ!
「………!」
しめしめ、驚いてやんぜ。
「ふふ、そう簡単には負けませんよ?」
ちなみに原作の坂柳とは違い私はあまり清隆くんには執着していない。だって、こんな化け物に勝てるわけないでしょう?今だって、絶対プロでも20分ぐらい悩むような最高の一手を決めたのに、ものの10秒くらいで最悪の一手を打たれてしまう。
「チェックメイトだ」
「なっ!?…………参りました」
悔しい〜!今まで清隆くん以外にチェスで負けたことはない。だから絶対勝ちこしてやる…!
「………もう一回やりましょう」
「いや、すまないがこれ以上いると寮のルールに引っかかっるからこの辺にしておこう」
言われて時計を見ると、あともう少しで20時になる時間だった。確か、女子寮に男子生徒がいるのは20時まで。
「む、では清隆くんの部屋に行きましょう。それなら問題ないはずです」
「勘弁してくれ、別に今日やらなくてもいいだろ。また今度やろう」
「………わかりました。では、今日はどうもありがとうございました。清隆くんとチェスをするのはとても有意義な時間でした。これからの高校生活お互い楽しみましょうね」
「あぁ」
お邪魔しました、と挨拶をして私は清隆くんの部屋から出た。
私はとても負けず嫌いなのである。だから、絶対に次は清隆くんに勝ってやる…!ちなみにここまでの私と清隆くんのチェスの勝敗は、50勝76敗1分だ。清隆くんが化け物だと改めてわかるだろう。チェスを教えたのは私なのに…。最初らへんは大人気なくボコボコにしていたのだが、段々と勝てなくなりついには負け越してしまった。ぐぬぬ…!
部屋に戻り今日1日で疲れた体をお風呂で癒して、部屋着に着替えてベッドに倒れ込む。今日出会った人たちや出来事を思い出し本当に原作の舞台に来たんだと改めて実感する。今日1日だけでとても濃い1日ではあったが、こんなにも楽しかったことはあるのだろうか。そして、これからは今日よりもより楽しい毎日が待っているのだろう。少し先の未来に想いを馳せながら、私は深い眠りについた。
☆☆☆
私の朝は早い。朝6時に目覚ましが鳴りだし、学校への用意を終わらせると、昨日配られたジャージを羽織ってランニングをするために外へと飛び出す。
原作とは違い歩いたり走ったりができるようになった私であるが、標準より体力がかなり低いのだ。これから起こるであろう特別試験などでリーダーになるのに足手纏いなんて嫌だ!私はなんでもできる超人になりたいのだ。
まず、学校まで走ってみよう。確か、寮から学校までは歩いて7、8分だったから、走って3分を目指そう。よーい、ドン!
5分後…
………ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ…!やっと、ついた…!やばい、頭が、クラクラ、する…。
あまりの辛さに這いつくばりながらベンチへと向かう。ベンチに座るとそのまま横になる。
そう、こんな坂柳有栖はみんなに見せたくない。そんな一心で小さな頃から(今も小さいとか言ったやつ表出ろ)毎朝ランニングをしているのだが、どんだけやっても記録は大きく上がってくれない。少しは上がっているのだが、本当に微量である。
こんなんで無人島試験やら体育祭なんかの特別試験に挑んでしまうと、いつも余裕の笑みをしている私の理想の坂柳有栖は台無しである。
はぁ、体力が欲しい。運動音痴すぎて嫌気がさしてくる。
空に向かって仰向けになり、まだ少し肌寒い4月の青空を見てみる。快晴だ。私の心もこれぐらい晴れてくれればいいのになぁ。
もうこんなところでへばってないで、寮に戻ろう。誰かに見られたらたまらないしね。
「あれ?坂柳さん?」
フラグ回収ありがとうございまーす。今までで一番のスピードでベンチから起き上がり声のした方へ顔を向けるとそこにはジャージ姿の一之瀬さんがいた。少し汗をかいているところから私と一緒で朝のランニングをしているのだろう。
それにしても気づいているだろうか、私が汗がやばくてまだ息切れをしていることについて。
「お、おはよう、ございます。今日も、とても、良い、天気、ですね…。はぁ、少し、だけ、朝のラン、ニングを、していたの、ですが…ゴホッ!」
「ちょっ!?大丈夫!?坂柳さん!?水あるからこれ飲んで!」
うっ、見られてしまった。私が運動音痴なところが。カッコ悪いな…、これでもかなり取り繕うと頑張ったのだが言葉を出すだけでも辛いのだ。あれ?私って駅伝でもしていたのだろうか…?
一ノ瀬さんからもらった水を飲むと、だいぶ落ち着いてきた。一之瀬さんはこちらを心配そうに覗き込んでくる。
「大丈夫?結構辛そうだったから…、あまり無理しちゃダメだよ?」
「すみません、水ありがとうございます。寮から学校まで走っただけなので気にしないでください」
そういうと、一之瀬さんは驚いた顔をしてこんなお世辞を言ってくる。
「あ、あはは、寮から学校までってと、遠いもんね…。頑張ったね坂柳さん!」
ぷっつーん!私を子供扱いしたな?しかも、なんか意外って顔でこちらを覗き込まれる。私は頬を膨らませ明らかに不機嫌ですよオーラを出して一之瀬さんと目を合わせないようにした。
「わわわ!ごめんね!そういう意味で言ったわけじゃないんだけど…。ただ、坂柳さんが努力家だなんて意外だなぁって思っただけで…」
ガーン!私のみんなから見る天才というレッテルが…。努力家だなんて…。
「はぁ、もういいです。でも、このことは誰にも言わないでくださいよ?あまり知られたくないことなので」
「ええー、良いと思うけどなー。………わかったよ!だからそんなジト目で私を見ないで!私が悪いことしたと思っちゃうから!」
ぐぬぬ、必殺ジト目攻撃!相手はいたたまれなくなってしまう!特に坂柳のジト目攻撃は最強だ。
そろそろ朝食を作らないといけなかったので、ベンチから立ちあがろうとすると、力が入らない。あれ?
「………すみません、一之瀬さん、ちょっと疲れすぎて足に力が入らないのですが…、寮まで行くのに手伝ってくれませんか?」
そういうと一之瀬さんは快く返事をしてくれて私をおんぶして……………、お姫様抱っこ?!
「ちょ、ちょっと待ってください、流石にこの体勢は恥ずかしいです。おんぶでお願いします。」
「照れてる坂柳さん可愛いから、このままでいいよね?それにこんな朝早くなんて誰も見てないよ。坂柳さん体が小さいからこっちの方が運びやすいんだよねぇ」
え、ちょ、いや、まじで、これは恥ずかしい。誰も見てないとか言うけど、それでも恥ずかしいんだからね!?あれ、一之瀬さんって善人じゃなかったっけ?小悪魔の間違いでは?
それから寮に着くまで私は一之瀬さんに顔を見せることができずただ両手で顔を隠すしかなかったのであった。
照れてる坂柳さんって見たことないから、最高ですよね。
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