統計学パラダイムと多変量解析
お題
講演者の立場
- パラダイム変化は,(日本統計学界では)起こっているとは言えない
- 近いうちに,変化を起こさねばならない
- 窒息感・閉塞感あり.breakthrough を待っている
- 等質で静的な中小標本から母集団を推測する状況以外に
- 異質で動的な大標本を扱う状況が出てきた
- そのような分野で統計学者以外の活躍が目立つ
- 現在の科学は,要素還元主義を超えたところで勝負している
- 必ずしも統計学者の評価が高くない
処方箋のキーワード
- いま見えているもの
- 非線型,非正規,カオス,フラクタルシミュレーション....
- データマイニング,ニューラルネット,ICA,IFA
- 変化への原動力は異分野との交流である
- 情報(工)学・数理工学との接点
- 有意な共同研究(応用研究),統計学者のプレセンスを示す
- 応用研究から方法論に関する知見を統計学へ持ち帰ることが重要
パラダイムの変化(移行)とは
- トーマス・クーン
- ある時代の支配的な科学的対象把握の仕方
- 通常科学(期)と異常科学(期)
- ドゥルーズ+ガタリ
- ロイヤル(R)サイエンスとマイナー(M)サイエンス
- R: 出来上がった理論体系の固定化へ向かう動き
- M: 理論体系を突き崩そうとする動き
- 科学とは,RサイエンスとMサイエンスの動的なぶつかり合いである
マイナーサイエンスは何か
- 統計学者が統計学のパラダイムの変化を語ることができるのか?
- (日本の)統計学におけるMサイエンスは何か?
- 情報(工)学・数理工学からの統計学
- 有意な共同研究(応用研究)
有意な共同研究(応用研究)
- 応用研究から方法論に関する知見を統計学へ持ち帰ることが重要
- 統計学者が行っているアカデミックな仕事を認知させる
- 統計学者が開発した方法論を積極的に利用
- 固有の方法論を開発・提供
- 開発した方法論は統計学の雑誌に出版
統計学の地位を引き上げる
- 多くの応用研究者が 「統計学者が何をしているか」を知らない
- 汎用パッケージでの日本人研究の引用がほとんどない
- 汎用パッケージに組み入れられるような方法論を開発する
インパクトファクター
インパクトファクターのインパクト
- 応用研究に参画し,統計学者が開発した新しい方法論を積極的に利用し統計論文を引用
科学の方向(1)テオーリアの科学からプラクシスの科学へ
- 基礎科学ほど広報活動・説明(accountability)にも力をいれる必要あり
科学の方向(2)学問の分化から(浅い)統合へ
- 応用研究からの方法論に関する知見を統計学へ持ち帰ることが重要
多変量解析の展開(1)
- 計算機
- 大型計算機の登場(1960年代)
- 高性能廉価PC,WSの登場(1990年代)
- ネットワーク化(1990年代)
多変量解析の展開(2)
- モデル
- 非線形モデルへ
- Projection Pursuit, MARS, Neural Networks….
- モデルを作る時代へ
- 探索から検証へ
- 推測理論から記述重視へ
多変量解析の展開(3)
- 膨大な推測理論のデータ解析への適用拡搬
- 理論と応用の乖離の縮小
- 理論の巻き返し
- 確率構造を如何に入れるか
共分散構造分析の意義
- 多変量解析での役割
- 分析と総合(綜合)
- 反証主義の導入
- 非逐次モデルへ
- 測定モデルと構造モデルの分離
分析と総合(綜合?)
- デカルトの analysis and synthesis
- 古典的多変量解析は analysis のための道具
- 共分散構造分析は synthesis のための道具
- カオス・フラクタルなど,要素還元主義で対応できない領域での分析方法の必要性
反証主義の導入
- ポパーの反証主義(falsificationism)
- 科学でできることは反証だけである
- 反証されなかったものを暫定的に受け入れる
- 反証に関してオープンであるべき
- 古典的多変量解析には「モデルを検証する」という儀式がない
- 共分散構造分析では「適合度」によりモデルの妥当性を検証することが一義的に重要
非逐次モデルへ
- 階層構造から相互結合へ,フィードバックのあるモデルへ
- 現状・将来
- 因果は線形
- 平衡状態のみしか扱えない
- 振動・発散・カオティックなものをどのようにモデルに組み込んでいくか
- 非逐次からインタラクティヴへ
非逐次モデル:例
測定モデルと構造モデルの分離
- ラカトシュの「精緻化された反証主義」(夢と禁欲 by 佐和隆光)
測定モデルと構造モデルの分離:例
まとめ
- パラダイム変化は起こさないといけない
- 情報(工)学・数理工学からのプレッシャー
- 窒息感・閉塞感
- 統計学者の地位向上
まとめ:続
- 他分野との交流が重要
- 21世紀の科学の方向: 学問分野の浅い統合+複合領域の活性化
- パラダイムの変化へ向かって外部からの情報を利用
- 応用研究者との有意な共同研究
- 統計学者のアカデミックな仕事の利用・紹介
- 基礎科学ほど広報活動が必要
- 統計学者のプレセンスを高める
- インパクトファクターを向上させる
- 理論家から実務化までバランスのいい人材の供給
- 研究者・学生の移動を促進
参考文献
- 浅田彰他(1986).科学的方法とは何か.中公新書.
- 岩崎学(1992).コンピュータ指向型データ解析の新手法.行動計量学.Vol.19, 37-49.
- 岩崎学(1997).非線形手法と行動計量学:統計学の視点から.行動計量学.Vol.24,161-189.
- 岩崎学(1999).複雑系と心理学.磯崎三喜年他編著「マインド・スペース」ナカニシヤ出版.
- ギタ・ペシス-パステルナーク(1993).デカルトなんかいらない?松浦俊輔訳.産業図書.
- 窪田輝蔵(1996).科学を計る:ガーフィールドとインパクトファクター.インターメディカル.