アグリージャパンとならぬように
〝地上戦″の代表例として挙げられた「ISETAN the Japan Store」も、2016年10月末にクアラルンプール中心部に地下1階、4階までという日本商品だけを展示したデパートとしてオープンしたが、歓迎されたのは初めだけ。
太田氏は「この店を舞台に日本のテレビ局がドラマを製作、マレーシアでも人気となった」(同誌)と自賛したが、現地の価格設定がバラバラで高すぎる上に、ありきたりな酒、寿司、そば、工芸品といった展示は自治体の「アンテナショップ」の拡大版でしかないというのが現地の冷めた評価だ。
計画を推進した三越伊勢丹ホールディングス(HD)の大西洋前社長も2017年3月、独善的な経営手法が批判を浴びて突然失脚した。
現地の在留邦人の間では「マレーシア進出の日本企業は3年以内に7割が撤退」というジンクスがある中、日本製品特化のデパートはまさに、スタートから採算度外視のビジネスだとしか言えないのかもしれない。
クールジャパン機構はそれに10億7000万円を投資している。日本ブランドの紹介で日本への観光インバウンドを期待することのようだが、税金が投入されている組織の仕事としては十分な説明が必要だ。そもそも、〝クールジャパン″は商売用の看板ではない。
しかも、投資案件は出資した民間企業23社(1社5億円、地方銀行2行は1億円)が手掛ける事業への投資が目立つ。
三越伊勢丹HDもその1つだが、ニューヨークで人気のあるラーメン店「一風堂」を展開する「力の源ホールディングス」に7億円を投資し、ラーメンダイニング形式の店舗を展開している。融資枠は最大13億円まで確保されている。
しかし、海外展開を望む他の中小サービス企業への支援ならいざ知れず、海外で認知度が高く営業利益を上げている有力企業に敢えて支援する理由が分からない。
さらに問題なのは、クールジャパン機構内で今年2月に従業員に対するセクハラ問題が表面化し裁判沙汰になるなど、組織自体のガバナンスも極めに杜撰としか言いようのない状況に陥っていることだ。
経産省は3月、クールジャパン機構の太田社長を6月開催予定の定時株主総会で、ソニー・ミュージックエンタテイント元社長の北川直樹氏に交代させる人事を発表した。
組織立て直しの意図は明瞭だが、果たしてこうした人事で〝クールジャパン″の現場に立ち込める不可解な霧が晴れる保証はどこにもなさそうだ。
もちろん、投資案件は10年の期間を経て最終的に評価されるが、他の官民ファンドの苦戦状況と合わせて考えれば、省庁をまたぐ官民ファンドの整理や統廃合問題の中で、クールジャパン機構もその対象になる可能性は十分にある。
官庁主導の"クールジャパン"はクールでないとの批判が常にあるが、いい加減な事業展開を続け一部で言われる「アグリージャパン」にならないよう最大限の注意が必要だろう。