医療崩壊の危機を叫ぶウラでは……

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 なぜ政府は医師会にモノを言うことができないのか。その理由は、東京都医師会の尾崎治夫会長が代表を務める東京都医師政治連盟の政治資金収支報告書を見れば一目瞭然だ。政治家にばら撒いたカネは3年間で実に2億円。さらに、約200万円分のワインまで……。

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【写真5枚】“日医のドン”と呼ばれる尾崎会長

 強い感染力を持つ変異株「デルタ株」が猛威を振るっていることについて、

「日本の感染拡大は災害級の状態」

 と、述べた東京都医師会の尾崎治夫会長(69)。しかし、ろくに医療行為を受けられないまま自宅療養中に死亡する悲劇が相次いでいることは、明らかに人災である。昨年春の「第1波」から早1年半。政府が号令をかけ、日本医師会がコロナ患者の受け入れ態勢を拡充していれば、多くの命が失われずに済んだに違いない。

医療崩壊の危機を叫ぶウラでは……

 尾崎会長は最近、しきりに「野戦病院を作るべきだ」と訴えているが、

「現場の医師は“どこにそんな人員がいるの?”と冷ややかな目で見ています」

 と、医療業界関係者。

「日医(日本医師会)の中川俊男会長が存在感を示せず影響力が落ちてきたあたりから、尾崎さんは政治家にすり寄るような発言が目立ちはじめた。“野戦病院”もその一つです。そもそも昨年の日医の会長選挙で中川会長を担いだのは尾崎さんで、力関係は尾崎さんの方が上。実質的な会長というか、“ドン”として君臨しています」

 そんな“日医のドン”の政治家との密着ぶりが分かる資料が手元にある。東京都医師政治連盟の直近3年間、2017年から19年までの政治資金収支報告書。同連盟の所在地は東京都医師会と全く同一で、代表者は尾崎会長である。

「この組織は医師会傘下の医療機関から会費を集め、そのカネを政治家にひたすら配る利益誘導団体です」

 と、永田町関係者は言うが、そのカネの配り方は凄まじいの一言。パーティー券だけを見ても、3年間で約50名の議員に対し、約5千万円。寄附については約35の政治団体や政治家個人に約1億5千万円。計2億円ものカネを政治家にばら撒いているのだ。これだけの金銭的な支援を受けていれば、政治家が医師会に「コロナ患者を受け入れろ」と強く言えないのは当然のこと。患者の命ではなく、医師会の権益を守るための「正しいカネの使い方」といえよう。

「尾崎会長はワイン好きとして知られ、東京都医師政治連盟の名で集めたカネで、毎年、大量のワインを購入しています。17年から19年では、約200万円分。これも国会議員などへのロビー活動に使われたと見られます」(同)

 ワインの配布先は記されていないので判然としないが、カネの配り方にはいくつかの特徴が見て取れる。一つは、自民党の「医師会系の族議員」に手厚い資金提供がなされていることだ。いずれも3年間で、武見敬三参議院議員に6950万円、安藤高夫衆議院議員に1300万円、自見英子参議院議員には500万円のカネが流れている。

「安藤議員は次の衆院選で東京9区から出馬することが内々定している。これは物心両面でお世話になっている医師会に対する、自民党からの“お礼”でしょう」(同)

 カネを受け取っているのが主に東京都選出の国会議員や都議会議員なのは当然だが、自民党の下村博文政調会長に関しては不可解な点が。カネを出した側と受け取った側でいくつもの“ズレ”が生じているのだ。

 17年の東京都医師政治連盟の収支報告書には、「下村博文事務所」に20万円を会費(=パーティー券)として支払ったとの記述があるが、下村氏が代表を務める「博文会」の収支報告書には会費として同連盟から30万円を受け取ったとあり、金額が合わない。また、18年、19年に関しては、カネを受け取った団体に、下村氏が代表を務める「自民党東京都第11選挙区支部」が含まれるかどうかという点で“ズレ”が生じている。

「どちらが真実を書いているのかは不明ですが、誤った金額を記した側は政治資金規正法の虚偽記載にあたります」(神戸学院大学の上脇博之教授)

 東京都医師政治連盟は、

「金額については相違はありません」

 下村氏の事務所は文書で次のように回答した。

「こちらの収支報告書に修正すべき点が見つかりましたので、選管にて修正手続きを行いました」

 件の収支報告書には、下村氏が出馬を見送った自民党総裁選の“主役”の一人の名前もある。岸田文雄代議士が催したパーティーの会費として18年に20万円、19年に40万円を支出しているのだ。

「岸田さんや下村さんに献金しているのは、将来の首相候補を囲い込む、いわゆる青田買いということでしょう」(先の永田町関係者)

「結構安く入るんです」

 医師会というと自民党と近いイメージが強いが、尾崎会長の“交友範囲”はそこにとどまらない。10月3日に投開票される東京・武蔵野市長選挙では革新系の現職、松下玲子市長に肩入れしているのだ。

「9月24日には松下市長の支援団体が集会を催す予定になっているのですが、そのポスターには市長だけではなく、弁士として尾崎会長も名前、顔写真入りで載っています。医師会幹部が特定の候補者のための、いわゆる“2連ポスター”に堂々と登場するのは異例です」(政界関係者)

 問題の集会は緊急事態宣言が延長されたことにより、松下市長や尾崎会長が直接会場に姿を現すことはなくなった。ちなみに尾崎会長は武蔵野市民だというが、ここまで熱心に応援する理由はそれだけではない。

「松下市長は『武蔵野市PCR検査センター』を市営で設置し、その業務を医師会に委託しました。多額の委託料が入るPCR検査センター業務は医師会にとっておいしい仕事。その恩があるので尾崎会長は応援に前のめりになっているのでしょう」(同)

 尾崎会長本人は何と言うか。自身が院長を務めるクリニックで聞いた。

――多額のカネを国会議員などに配っている。

「東京都選出の国会議員っているんですよ。そんな中でちゃんと、我々のためにしっかり働いてくれている人には重点的に」

――ワインも配っている。

「そういうのをやるのがどうこうと言われちゃえばそれまでだけど。業者さんとちょっとお付き合いがあって、皆さんが普段飲まないようなものが結構安く入るんです」

――国が医師会に強く言えないのは多額の献金があるからではないか。

「普通の議員の方(医師会系以外)にはパーティー券にしても1口や2口でお付き合い程度。我々に強く出たり、面と向かって批判したりする方は確かに少ない。それは医療を軽視する議員が少ないからです」

 武蔵野市の松下市長との付き合いは長い?

「彼女が都議会議員の時からで、前回の市長選もある程度は応援した。今回も松下さんがコロナ禍でも医師会と協力してやって下さっているから応援しましょう、となって……」

 特定の人物の選挙にまで首を突っ込むことは珍しくない、と主張するのだが、

「松下市長は昨年、東京都が吉祥寺駅前のホテルをコロナの宿泊療養施設にしようとした際に反対し、そのせいで開設が3カ月も遅れた。よりによってコロナ対応に“後ろ向き”ともいえる市長に都医師会会長が肩入れするなど、あってはならないことです」(政府関係者)

 ワイン片手に札束の配り方を思案し、コロナそっちのけで選挙応援。これが医師会の真の姿である。

「週刊新潮」2021年9月23日号 掲載