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「現シリーズ」
澱む現

オオカミ達の宴 前座編

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 カチャカチャと器具か何かが音を立ててこすれあう音が股の間でする。
 身体は歯医者か、ともすれば産婦人科の診察台のような作りで、股を開かれたまま左右に固定されていた。
 手は身体の横に沿うような形でベルトか何かで縛り付けられている。頭は動くが、腹は完全に椅子から浮かすことができないように固定されているようだ。首を懸命に動かして自分の下肢と老医師の姿を確認しようと試みるが、それはただの徒労に終わっていた。

「けんさ…て、ナに」

 まだ痺れて動かない口と舌に焦れながら、文昭は説明を請おうと必死だった。
 優しげな容姿だなどといったものに真実はないと男の例で知っているからこそ、文昭はこの一見老紳士に見えるこの人間に、一切の助けは求めない。

「……おや…?どうやら君は唇に痺れが残るタイプのようだね…」

 文昭の口がまだ不自由なのを知った老医師はそう言うと、しわがれた手で文昭の口元を拭った。あまり感覚はなかったが、何かを押し当てられているような不快感がある。涎でも垂れていたのだろうか。

「……もう少しで痺れも治ると思うから、我慢だよ」

 その手を綺麗な布で拭った後、キュパキュパと音を立てつつ皺枯れた手に手術で使うようなゴム手袋をはめながら、老医師は微笑んだ。まるで孫の晴れ姿を見て微笑んでいるかのようなその表情に、文昭はぞっとする。
 こういった関係者は皆こんなに聖者のような表情を平気でできるのだろうかと思うと、極度の人間不信に陥りそうだった。

「検査といっても、君の意識のない間に粗方は終わったから、後は『感度』くらいかねぇ残っているのは。……まあ痛い事はしないから、心配しなさんな」

 ぽふんと文昭の頭に手を置くと、手術を怖がる子供を励ますように、優しく撫でる。その仕草にぎょっとした文昭は、その手を振りほどこうとあわてて首を振った。
 それは文昭なりの精一杯の抵抗だったが、老医師には通じなかったようだ。より目じりの皺を深めて慈悲深げに微笑まれただけだった。

「さて、まずは君の大事な部分が勃起する前に、大きさを測っておこうかね」

 そう言うと、老医師は文昭が固定されている椅子の近くにある、可動式棚の上にある銀プレート上に並べてある巻尺を手にとった。
 『測る』と言うくらいだから、その巻尺をペニスに巻きつけられるというのは目に見えている。文昭は、ジャーッっと巻尺を引き伸ばす老医師の手元を見て、息を潜めた。逃げ出したいのは関の山だが、それが出来るような状況ではない。

「っ……冷た…!!」

 冷えたビニール状のメジャー部分を陰茎に巻き付けられ、文昭は鳥肌を立てた。ペニスが冷たさに縮みあがるのではないかと、なけなしの男のプライドが疼く。縮んだところを測られて「小さい」などと言われたのでは面目が立たないではないか。
 そんな文昭の内心を知ってか知らずか、老医師は掌で局部を包み、暫く様子を見ているようだった。それはそれで恥ずかしい。

「………………ふむ」

 老医師は1つうなずくと、巻尺で次は睾丸の幅や亀頭の括れなどを測り始める。その手つきにはいやらしさの欠片もなく、事務的に事は進められていった。
 文昭はもうどうにでもなれといった心情で、眉を顰めて手際よく進められていく測定を眺めている。これくらいの刺激で勃起するほど現状的には飢えていないので、されるがままに任せておいた。
 最終的には、硬い20㎝ほどの定規(端の部分に余白がないもの)を取り出し、定規をペニスの根元の骨(恥骨)の部分まで押し付けてペニスの先端までの長さを計測し始める。陰毛をかき分けて恥骨を探られる行為というのは、意味もなく恥ずかしいものがあった。

 一通り股間にあるモノのサイズを測り終わった老医師は、書類に次々と書き込んでいく。サラサラと紙の上をボールペンが走る音が聞こえてきた。結果は教えてくれないつもりなのだろうか。

「知りたいかね?」

 そんな文昭の視線に気づいたのだろう。
 もっさりとした白髪の眉毛を片方だけ器用に持ち上げながら、老医師はにっかりと嗤った。快活さが滲み出る、実にいい笑顔だ。

「…………別に」

「いやいやいや、実にいいサイズだよ。日本人の平均を地でいっている。皮も剥けてるみたいだし、いまどきの高校生にしては清潔だ」

「……………………」

 褒めてくれているのだろうけれど、文昭は少しも嬉しくはなかった。複雑な心境だ。
 顔をしかめてその意を示したあとそっぽを向くと、老医師がくすっと笑う気配がした。

――胸糞悪りぃ野郎だ。

 文昭は顰めていた眉間をさらに狭め、内心で唾をはき捨てる。





「じゃあ次は乳首を見せてね。何か感じたら『気持ちいい』とか『痛い』って応えるんだよ」

 いいね?と、子供に言い聞かせるような、柔軟さと有無を言わせない強制的な声色で老医師は確認をした。文昭はもちろん無視を決め込む。
 返事がない事も気にならないのか、テキパキとした動きで老医師は美顔機のような白い機械を銀のプレートの上から手に持ち替えると、それを戸惑いなく文昭の胸に押し当ててきた。

「つ……っ?!」

 それは肌に触れる部分が吸い付くような粘性のあるジェルのようなものでできていて、かなり冷たかった。
 びくりと反応をした文昭を見て、老医師はふさふさの眉毛を再びひょいと持ち上げる。

「大丈夫、すぐに温まるから我慢するんだよ。…………じゃあ始めようか」

 そう言うと、老医師は時間を惜しむように、文昭の右乳首に取り付けた機械についているボタンを操作し始めた。
 ピッという音がすると、じんわりとした熱が乳輪を中心に集まってきたのが感じられる。

「……ン…?」

 良くわからない検査に、文昭は眉をひそめた。その文昭の微妙な変化を捉えた老医師は、それで事足りたとでもいうように次の段階へと移った。再度機械を操作し始める。
 そしてまた、ピッという電子音が聞こえた。

「っ……ン…っく…?!」

「ん?もう何か感じたのかな?」

 老医師が問いかけてくるが、文昭にはこの感覚の正体がまだよくわからなかった。
 生暖かい物が乳首に張り付き、それがまるで奥へと誘い込むように乳頭を誘うのだ。
 暫くそれに耐えていると、ジンと甘い痺れが腰を疼かせる。じっとしていられないような焦燥感が半身を覆い、足をもぞもぞと動かした。

 そんな文昭の反応を見て、老医師はまた機械をいじり始めた。
 今度は先ほどとは違い、ボタンを操作をした途端に急激に動きが早くなる。先ほどの刺激で快感を得ている事を老医師は文昭にわざわざ確認せずとも理解したのだろう。次は乳首への刺激だけで勃起できるかどうかを調べ始めたのだ。
 ウゴウゴとその機械は乳首を刺激して、こね回し、吸い上げる。その度に、締め付けられて動けない腰が腹筋とともに何度か痙攣を繰り返した。

「っ……!!」

 とっさに悲鳴は噛み殺しはしたが、小さく、最初はほとんど肌の色と同化するくらいに肌色だった粒は赤く熟れ色付き、存在を示すように疼き始めていた。
 剥き出しの性器は少しずつではあるがその首をもたげ始めており、文昭の身体は乳頭だけの刺激で勃起できるほどに、感度が極められていた。それは誰の目にも明らかだ。

 老医師は満足そうにそれを確認すると、無言のまま可動式の棚の上に置いていた書類に、何かを書き込んでいく。

「どれどれ……」

 何事かを書き終わると、文昭の乳首に取り付けられていた機械を稼働中のままなんの断りもなく一気に引き離した。

「っあ……!!っひ、ぐ、ぅ」

 ジュぷッという音とともに、ひどく吸い取られるような衝撃的な快感に襲われ、文昭はのどを仰け反らせた。
 喉仏を忙しなく上下に動かし、荒くなる息を整えようと懸命に努力する文昭を嘲笑うかのように、老医師は反対側の乳首にそれを取り付け、熟れた方の乳首を指で弄りはじめた。
 硬く尖りきったそれを、慎重に摘み上げる。クイッと引っ張られた瞬間、鋭すぎる感覚がそこから広がり、文昭は狼狽して息を呑んだ。

「ほほー…ここがそんなに感じるのかね?」

「…ちがっ…ぁ!!」

 否定しようにも、そこから与えられる快感は甘すぎた。
 片方を機械が、片方を老医師が弄る度に、びくびくと腹筋が震える。蜜のような甘美な快感が、ぞくぞくと際限なく性器まで流れ込んできた。

「ん、んん……っひ、ぁ!」

 足の指がぶるぶると震える。
 固定されたまま数回痙攣を繰り返し、指先を丸めたり反らしたりと落ち着きがない。

「……ふむ…」

「っ――ぁ、やッ!!」

 何かに納得したのか、老医師は1つ頷くと、文昭の立ち上がりかけた性器を掌で包み込んだ。
 性器に触れられているというだけで、そこから意識が離せない。興奮に血が沸き立ち、硬くなったそこがずくんずくんと脈打った。その手を動かして欲しくて仕方がない。その欲望だけに頭の中を支配される。

――っは、あ。……もう、なんで…っ動かせよ、扱けっしごけよッ!!もう結果は出てんだろ…?!

 だのに、ペニスを支えて包み込んでいる手は動かさず、執拗なまでに老医師は文昭の乳首を攻め立てた。
 くりくりと転がしては引っ張って離す。その繰り返しだ。その度に、こらえ切れない愉悦が沸き起こって喉を付いた。

「――ぁ、う!ぃっ……や、めっ!!ふッ」

 捻られるとまだ少し痛いが、その後の甘さが増す。その快感に眉を寄せ、文昭は懸命に息を噛み殺しながら、それに耐えていた。

「……君は本当に恐ろしく淫猥な表情をするね」

 ハッと目を開けると、老医師が文昭の顔に強い視線を向けていた。自分がどんな表情をしていたかと考えただけで、頬がかぁあっと火照る。

「あの男は君の乳首をよほど気に入っていたのかもしれないね、珍しい事もあるもんだ」

 そう言うと、文昭のペニスにただ添えられていただけだった手が、ようやくゆっくりとペニスをなぞり上げた。
 完全に起ち上がり存在を示しているそこは、張り詰めすぎて痛いくらいだ。

「――っ……!!」

――すげ、いい。あ、もっと下ッ……!!そこっ、そこが!い 擦れっ!!あ、いい。いい。なにコイツ、うめぇ…っあ!!

「っく、ふッ……ぅ!ひっぁ」

 ずっと求めていた刺激を与えられ、急に全身になだれ込んできた快感に、大きく身体が震えた。
 内心ではかなり老医師の長けた性技を絶賛して喜びつつも、文昭は必死になって声を押し殺す。

「んん゛んんんっ…っぐ!!」

「我慢強いんだなぁ。あの男のもとに居たのに、少しも性奴的なところがないなんて……ある意味レアではあるが…」

 正直に感嘆の声を上げながら、今度は可動式の小さめの棚の上にある、銀色のトレイに並べられたペンチのようなモノを手に取った老医師。
 先端の鋏のようになっている部分が丸く、その部分を何かに差し込むような造りになっていて、まるで鼻鏡(びきょう)のようだった。鼻の穴を拡げて奥をのぞきこむめにできているそれと、かなり似通っている。



「…これはね、こうやって使うんだよ……」

 説明口調のまま、文昭のアナルに老医師の指が添えられた。冷たい器具がジェル状のものを纏ったまま押し当てられる。
 潤滑液の役割を果たしているらしいそれは、冷たいながらも容赦なく潜り込んできた。まだ馴らされていないそこは、いくら日々酷使されているとはいえ、急には順応できずにきつく抵抗を示す。

「っぐ……あ!あ!!やめっ…止めろっ!!いて、えッ!!」

 文昭が恐怖に身を竦ませるも、老医師は容赦なく器具をグイッと一気に押し入れ、次の瞬間には肛門の括約筋を完全に押し拡げた。外の空気が日頃触れる事のない直腸に、どっと外気がなだれ込んでくる。
 腹の中を暴かれる恐怖に、文昭は恐慌状態に陥りかけた。

「っあ……!?っや、めろっ…あ、あああああああ!!はなせ!ちくしょうックソッ……!!わぁあああああ!!」

――腹ん中……!!あ、だめっ力、入らな…っ?!

 ひくひくひくっと忙しなく後孔が収縮を繰り返し、その箇所を閉じようと懸命に頑張るが、器具は何かで完全に固定されているためビクともしなかった。
 ひいひいと腹をよじって身悶える文昭をよそに、老医師はアヌスの中をペンライトで照らしながら興味深げに身を屈めて観察し始める。

「ほうほう、傷も付いてないようだ。…ああ、腸内洗浄は君が寝ている間にキチンとしておいたよ」

 アナルの縁を手でなぞりながら、老医師は会陰をなでた。ピクリと文昭のペニスが躍動する。

「私にはスカトロの気はないから、洗浄は機械で済ませたからね。医療設備だ。だからココは綺麗だし、とても清潔になっている。君の前立腺が良く見えるよ」

「っや、やだっつってんだろッ……!!外せっ外せよっ」

 老医師の柔和な笑みが更に文昭を逆なでした。がむしゃらに身体を動かすが、それも固定されていて意味がない。
 老医師が、そんな文昭を嘲笑うかのように前立腺へと指を伸ばした。

――や、やだっ……!!

 目をきつく瞑り、不文昭はその衝撃がくるのを待つ。
 男に慣らされた身体は、恐ろしいほどに敏感で快楽に従順だ。それは誰に扱われても変わらないだろう。
 こんな見も知らぬ老人に扱われてさえも起つのだ。きっと耐えられない。

 こんな身体になってしまった自分は、きっとあられもなく他人の手で拓かされる。

――やっ……嫌だ!!誰か、誰か助けて!助けに来い!来いっこいよ!!怖いッ恐い……!!だれか、だれか!!

 もう帰ってこなくていいと言い捨てた父、友達だよと言いながら平気で裏切った幼馴染で親友だった元クラスメイト、友人たち、面影すらも思い出せない母、自分を蹂躙し、自分だけは解かってやると嘯いた男…。思い浮かぶ人間の顔は、誰もが文昭の事を一度は大切だといってくれた人間ばかりだった。
 けれど今、その中で自分を助けに来てくれる人間などいない。誰もが去っていった。自分を捨てていった。


――助けに来いよ……!!何で、何で誰も……っ!!


『へぇ、アンタって本当に逸材なのねぇ』『アンタが居なくなっても誰も警察に届出を出してないのよ』


――助けっ


「…………っやっだぁああぁあああ!!あっ?!あ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 前立腺を指の腹で探られ、ごりごりと押される。
 その衝撃に頭の中は白く弾け、瞳からは我慢してきた涙が溢れ落ちた。大きく首を仰け反らせて震え、足の指を丸めて悶える文昭のペニスの先端からは、もう触れられてもいないのに白濁が勢い良くあふれ出る。
 後孔は激しく収縮して指を喰い締めたいと蠢いているのに、押し拡げる器具によってその願望は叶えられなかった。ひくひくと忙しなく内壁が痙攣を繰り返す。

「っあ、ぐ、っひ……や、あ゛あ、あああ!!」

 前立腺をなぶられ、喜悦と恐怖の狭間で恐慌状態の文昭をさらに追い詰めるかのように、老医師は無慈悲にも勃起したペニスの根元をテープで縛り始めた。
 根元を射精できないようにテーピングされた文昭は、後孔を激しく躍動させながら、思いつく限りの罵倒を繰り返し叫ぶ。

「はいはい、ちょっと待ってね。勃起したペニスの大きさも測らないと膨張率とかもわからないからね」

「クソッ!!テメェまじ死ねッしねっしねってめぇら皆クソだ!!死ねよ、マジ死ね!みんな死ねぇええええええ!!」

「これこれ、そう気安く『死ね』なんて口にするもんじゃない」

 そう言うと、老医師は狂ったように「死ね」を連呼する文昭の口に、椅子に付いていたらしいギャグボールをかませた。頭部も動かせないように、椅子の後ろで固定される。

「これでも咥えて静かにしてなさい」

「ふ!ひぇ!!ほぁえら、ひえ!!」

 それでも必死に声を上げ続ける文昭を無視して、老医師は再び最初と同じような行程でペニスのサイズを測り始めた。
 文昭は酸欠に陥りながらも、言葉の形になっていない罵声を叫び続けている。
 興奮のためか、もともとそういう素質があるのかは現段階ではまだ定かではないが、文昭のペニスは萎えることはなかった。むしろ反り返り、余計に存在を誇張し始めている。

「ふひぁっ?!はっはぅっ!」

 仰け反る事も出来ずに、固定された頭を最大限に動かして天井を睨んでいた文昭の尿道に違和感が走った。
 その瞬間、文昭の身体が硬直して、まるで体が感電しているように震え、縛られた足の指が広がる。

「へぁぁぁっ!ひっ!ひひゃぁぁっ!!」

 その違和感の正体が何なのかを確かめることも出来ないままに、次の瞬間には、射精するよりも強い力で尿道から精液が吸い上げられた。

「あ…があぁっ…」

 びくびくとペニスと腹筋を連動させて痙攣をする。アナルも誘い込むように激しく痙攣を繰り返していた。
 先ほどのジェルだけではない、腸液もかなり分泌されているようだ。完全には出きれない精液とともに、診察台からそれらがポタポタと滴り落ちていく。
 首を上げることが出来なくなってしまった文昭の目には映ることはないが、今老医師の手には細く長いスポイトが握られていた。それが今まさに尿道に差し込まれているのだ。

「ひっ…ひっ…!!な…っあっあぁっ!!」

 射し込まれ吸われている先端から、まるで何もかもが溢れていきそうな強烈な快感に、文昭は悲鳴をあげる。
 その荒々しい快感につられて、がくがくと腰が砕けていった。目の前が真っ白になっていく。

「尿道も気持ちいいかね?」

「…………っ……っ!!」

 必死に否定しようと、文昭の固定された頭が小刻みに左右に振れた。首を左右に振りたいのに、動かないのだろう。

「でもほら、吸い取っても吸い取っても溢れ出てくるし、気持ちよさそうな顔をしてるよ、君」

「ふぅふぇえ!ひもひふあい!」

 否定的な言葉を上げても、それは口枷のせいで言葉にならなかった。しかし老医師はニュアンスで聞き取ったのか、本当に?と聞きながらスポイトを抜き差しし始めた。

「はっ!ひぁっああああっ!」

 明らかに嬌声とわかる高い声が、文昭の閉じ切れない口からあがる。
 突起も何もないソレは普段男が使うものよりも滑らかで刺激は少なかったが、飢えきった文昭を感じさせるには足りていたようだ。口枷の横からだらだらと涎を垂らしながら、動けない身体を必死に硬直させている。

――つるつるして、る!滑って、熱いッ…熱い…!ちんこ、中、あつい!!や、出る!でる!ッあ?!ムリ、出せなっ!!吸われっ…すっ!!吸っあ、ぁあ、いい、いい

「はっふぁっ!ふぁえおぉ!!……う…………んん、ぁ、あ…ぅ…あぁあ、あ……ふ、ぁ……あ、ぁん、ぁ」

 気まぐれに、採取した精液を尿道に送り込み、再び吸い上げたりと行為を繰り返すと、そのうち文昭の反応があまり返ってこなくなった。
 慣れてきたのだろうかと老医師が顔を覗き込むと、焦点を失い始めた瞳が愉悦と法悦で蕩けきり、うっとりと歪められ始めているところだった。

「……相当いいらしいねぇ」

感心したように呟くと、最後に大きく吸い取ってから完全にスポイトを抜き去った。

「ひっ!ひぁぁぁ!!」

 びくびくとのたうつペニスは無視をして、つぅーっと糸を引くスポイトの中身を試験管状のものに移すと、そのまま銀のプレートの上に並べる。

「さてと、それじゃあ最後の仕掛けに入ろうかね…」

 老医師はそう言うと、可動式の棚の一番上の引き出しを開けた。
 そこにはまるで小型のAED(自動体外式除細動器)のような機械が入っている。しかし、そこにある電極パッドには普通あるべきコードが付いていない。その代わり、電気信号を受信するための細くしなやかな針金状のアンテナが付いていた。

「じゃあこれで最後になるから、気を確かにもっておくれよ」

 老医師は妙な事を1つ言い、文昭の無理やり拡げられたままになっているアナルを覗き込むようにしてしゃがんだ。
 確かめるように文昭の後孔の中を探り、容易に見つかる前立腺を優しく指の腹でなでる。

「ひっ!ひひっ!」

 緩みきっていた文昭の腹筋が、再び訪れた快楽に従うように跳ねた。アナルも躍動を取り戻し、指を捕らえようと必死で収縮を繰り返す。

「うん、そうそう」

 満足そうに、文昭が後孔をもの欲しそうにひくつかせるのを見て呟く。
 老医師はその電極パッドを前立腺に貼り終えると、アナルを押し広げていた器具の留め金を外し、取り去った。

「ほら、ちゃんとお尻の穴を締めて。ガバガバだと、誰も高く買ってくれんよ」

 そう言い、文昭の尻たぶをぺちぺちと数回叩いた。
 徐々に収縮をしていくそこを興味深そうに見つめていたが、文昭の後孔が電極パッドを問題なく飲み込んだのを確認するとひとつ頷いた後、白衣の胸元に入れていたらしいPHSを取り出してどこかにかけ始めた。

 一方の文昭はというと、ようやく外された器具と内部に貼り付けられた異物の違和感に眉を顰めながら、まだ外されていないペニスの戒めのせいで熱に浮かされたように思考が定まらないままだった。







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「……準備はできているんでしょうね」

 女と数人の黒服の男が検査室に入ってきたのは、文昭の後孔に電極パッドが埋め込まれてから数分後の事だった。おそらく先ほど電話をかけた人物がこの女だったのだろう。
 老医師はそれとなく文昭を横目に見ながら微笑んだ。満面の笑みに近かったかもしれない。

「…これは上ものだ。あの男が女以外を商品として出すとは驚きだったが、これはいい値で売れるぞ」

「ハ、そんなくだらない事はいいのよ。検査結果が出たならそれをデータ化して打ち出しておいて。オークション時に画面で出すから。……あと、アレはきちんと付けたんでしょうね」

 女は厳しい口調でそれだけを言うと、台の上に固定されている文昭をきつく睨んだ。

「言われた事はちゃんとやったよ。仕込みは万全だ。確かめてみるかね?」

 老医師はそう言うと、先ほど文昭に仕込んだ電極パッドの入っていた箱から、カードほどの大きさの薄いリモコンを取り出した。
 ぐったりと横たわっている文昭の横に立つと、女はそのリモコンを見せ付けるようにしてボタンをチラつかせ、ためらいなく押した。

「がぁ!がぁぁぁぁぁ!」

 何の音もないそれはしかし、確実に何かの電磁波を発していたのだろう。
 文昭は手やモノとは違った、直接脳髄にエクスタシーの電気信号を叩きこまれるような感覚に陥った。
 全身が蕩けてなくなってしまうような恍惚感に包まれ、むせび泣くことしかできない。

「ふぁ!あっ…あっ…あっ…!や、あ、いぎぃゃ、ぁ凄う、ぎ、あ、ふぇっぐ…っお、」

 腰の奥から這い上がる甘く切ない痺れが、ビリビリと背筋を流れ脳内に流れ込んでいく。まるで脳の奥底で脳内麻薬の分泌を促しているようだった。

「ひゅっ、ひっ!ひっ!ひっ!!ひあ、ひゃぁあああ!!」

 際限なく膨らむ快楽に、文昭は目を見開いてあえぎ続けた。目もくらむような快感とはまさにこのことだろう。

「この電子機材はね、アンタのもと飼い主に作ってもらったんだけど、すごく画期的。……電極パッドに微弱電流が流れるようになっていてね、前立腺に電気信号を送り込めるんですって。…まあ今は一番弱いのにしてるけど、本当は性奴隷調教用に開発したものだから、『強』の状態で1分も続ければ、廃人になれるわよ」

 快楽を得るためなら糞塗れの尻を平気で舐めるような人間になれるわ。と嗤いも交えて話す楽しげな女の声も、今では文昭の耳に届く事はない。
 快楽中枢に直に送り込まれる快感に途切れることなく思考回路を侵され、常にイっている状態を維持したまま、射精もせずにオーガズムに達した。

「っくあッ……!きあぁ!!ひ、っひぃいい……ン…ふ」

 繋がれた細い手足が魚のようにビクンビクンと痙攣する。完全に白目を剥いた形で、強すぎた快感に意識がふわりと途切れるようにして気を失った。






「この男をショー部屋に運んでおきなさい。まずはお披露目で乱交させるから」

 女がそう言うと、背後に控えていた数人の男たちがうなずき文昭の拘束を解き始めた。完全に気を失ってしまっている文昭は、まるで軟体動物のようにグニャグニャと全身を弛緩させている。
 薄く開かれたままの瞳には完全に意思の光はなく、溜まっていた涙がすっと顎へと滴った。




「そんなに気に入らないのかい、あの男に抱かれた『男』が…」

 苛立った女の様子を横目に見ながら老医師が器具を片付けつつそう言うと、女は苦虫を噛み潰したような顔になって吐き捨てるように応えた。

「……当たり前でしょッ」

「『女』の身体が嫌になったなら、もう一度手術をするかね?こういうことをするなら若いときがいい。治癒力が落ちるからね」

 老医師が手もとを見ながら振り返らずにそう言うと、『女』は間髪いれず、老医師の手入れをしている器具が乗っていた棚を、憤りに任せて蹴り飛ばした。ガッチャーンと派手な音が室内に響き渡る。

「馬鹿言わないでちょうだいっ。これからなのよ。あの男を変えるのは『アタシ』なの。『男』なんかじゃないのよ。ましてやあんな乳臭いガキじゃないの」

――アタシなの……!!

 ギリリと歯を食いしばる『女』は、今までの何よりも人間味のある血の通った表情をしていた。ソレを見た老医師はひとつため息を付き、首を振る。

(……あの男に、そこまでする価値があるとも思えんがね、私には)

 床に散らばった物を見ながら、老医師は密かに『女』を哀れんだ。









■□■□■□■□■□■□









 ふと気が付いた文昭は、現在よくわからない状況下に置かれていた。薄っすらとした闇の中、硬い椅子に座らされて放置されているようだ。
 両手首が何かで固定されてくっ付けられており、額の位置で吊り下げられている。足は固定されてはいないらしいけれど、それ以前に身体が痺れ切っていていうことを聞いてくれそうもなかった。
 完全に砕けた腰と弛緩して細かく震えるしかない手足に、文昭は呆然とするだけだ。

 これ以上にひどい事など有り得るのだろうかと考えて、思考能力が下がった脳がこたえを返す。――これから売りに出されるのに、何を悠長な。と。――ああ、そうだ。売られるんだっけ、俺。――誰に買われるんだろう。――どうせロクなヤツじゃないに決まってる。――アイツよりましだろ、誰でも。――わからねぇぞ、殺されるかも。――嗚呼、死にたくねぇな。――死にたくない。――でも、これ以上苦しいなら、いっそ、いっそし……






「あがっ…あ…?!」

 思考回路がマイナスな方へと判断を下しそうになったとき、急に忘れていた刺激がアナルの奥、直腸から脳天に一瞬だけ突抜けた。
 泡を吹いてしまうのではないかというほどの快感に似た衝撃に、背筋が一瞬で伸びきる。

「は、っひぃ……イ」

 どろりとした濃厚な快楽の感覚を無理やり脳髄に叩きこまれ、文昭は思考の中断を余儀なくされた。
 すっかり違和感をなくしていたアナルの中の電極の存在を思い出し、ようやくこの刺激がそれによってもたらされているのだと理解したとき、文昭の横に動く影があった。慌ててそちらへ首を向けると、いつの間にかそこには、身体のラインを強調する真っ赤なドレスを着飾った女が立っていた。
 カツカツと響く高いヒールの足音さえ耳に入らないほど、身体は全身が心臓になってしまったかのように激しく脈を打ち、潮騒と鼓動の煩い喧騒で耳を支配されていたようだ。

「ようやくお目覚めのようね。随分と遅いから、水でもぶっ掛けようかと思ってたところよ」

「っおまえッ……!!」

「なぁに?あんまり大きな声を出すと、この暗幕がいくら防音性に優れているといっても聞こえちゃうわよ?」

「…ま、…く…?」

 女がそう言ってちらりと目をやった先に、文昭も釣られて目を向けた。壁だとばかり思っていたそれは、確かに重厚なカーテンのように見えなくもない。いや、今女が言ったとおりに暗幕なのだろう。

「……なんで こんな、所…」

「この向こうにはね、今日のメインであるアンタを待ってる客が沢山いるの。この幕が開くのを今か今かと待ち望んでいるのよ」

 女は無表情のまま、淡々と語った。出会ったときとそれほど変化のない、平淡な口調と表情。でもその中に、文昭は優越感のようなものを感じ取った。絶対的な余裕とでも言うのだろうか。

「まずは手始めに私の所に所属している奴隷と乱交ショーをしてもらうわ」

「……ショー?」

「そうよ。アンタの処女はもう望めないわけだし、せいぜいいい声で鳴いて客を煽りなさい。それで自分の値を吊り上げるのね。自分の一生を安売りしたくないでしょ?」

 とんでもない事を、本当にこの女はさらっと言ってしまう。さぁっと血の気が引いていくのを感じた。

「いッ……嫌だっ!!何でこんなことしなくちゃなんねーんだよ!!出来るわけねーだろ?!」

「できるできないじゃないのよ、やるの」

 女はそう言うと、文昭の座っていた椅子を思いっきり背後に蹴り上げた。椅子はあっけなく音を立てて吹っ飛び、支えをなくした文昭は崩れるように床に膝をつく。

「ィぎぁッ……痛っ!!」

 手首が天井に吊るされているせいで完全に床に倒れこむ事ができない。手首と肩に瞬間的に全体重の負荷がかかり、容易に脱臼できる勢いだった。
 しかし若さゆえの柔軟さのおかげか、痛みこそ激しかったものの関節が外れる事はなかったようだ。不幸中の幸いとでも言うべきだろうか。

「っふ、……クソッ」

 文昭は必死に肩や手首の負担を軽減しようと、まるで生まれたての子羊のように震える足腰を叱咤して立ちあがろうと必死になる。しかしガクガクと震える腰は、意に反して依然抜けたままだ。

「フッいい様ね」

 その様子を女は鼻で嗤う。

「K-JとH-Yをつれてきなさい。乱交のパートナーにするから」

「はい」

 馬鹿にしたような視線を文昭に向けたまま、女は(どうやらステージ状になっているらしいこの場所の)舞台袖に立って控えていた黒スーツの男たちに指示を出した。
 男たちは女の命令に低い声で厳かに返事をすると、女の言葉にすばやく反応をしてきびすを返す。
 再びステージの上には文昭と女の二人だけになった。


「…そうそう、電子麻薬の快楽はどう?ラットでの実験を経ての実用化だけど、実際の人間にも効果抜群だって実証されてるわ」

 気持ちいいでしょう?女はそういいながらドレスの大きく開かれた胸元から、何か小さなチップを取り出した。
 それを人差し指と親指で挟んで、文昭の目の前に晒す。

「この電極チップをラットの脳にある快楽中枢に埋め込むの。そしたらどうなると思う?」

「………………」

「ラットが主人の命令に従ったときには、快楽中枢を刺激する。そうしたらもっと気持ちよくなりたいラットは主人の命令に従うようになるわ。学習効果が得られるのね。従わなければ、まあ、普通の電気ショックを喰らわせればいい」

 女はとても楽しそうだ。
 どこか恍惚とした表情で夢を語る人間のようだった。

「じゃあもし脳の快楽中枢に電極を刺して、ボタンを押したら電気が流れるように設定された人間にボタンを持たせたらどうなるのか、アンタはわかる?」

「……………………」

 文昭はだんまりを決め込む。
 女を目の前のチップ越しに睨み続ける事で強いいっぱいで、文昭にはそれに反論する余地がない。

「実験結果としてはね、その人間は狂ったように持たされたボタンを押しつづけて、本人の意志では止められなくなるんだそうよ。電子麻薬に脳内が侵されて、もう普通には戻れないの。『気持ちいい』ってうわ言を繰り返しながら、ずっと幸福感を味わうのよ」

――嫌だ。……こわい

 女が何を言いたいのか、もう文昭は半ば気付きかけていた。ガクガクと力の入らない足腰が、更に恐怖で使い物にならないほどに震え始める。完全に床に膝をつき、天井から上半身を吊り下げられた状態になった。

「……そう、アンタも気付いてると思うけど、コレのモドキをアンタの前立腺に貼ってるの。次の飼い主が決まったら、お祝いにこのチップを埋める手術をタダにしてあげる。そうしたらアンタの一生はきっと気持ちがいい事でいっぱいで、幸せね、きっと」

「…………い、ぃやだ。そんなもん、誰が」

 文昭は顔面いっぱいに怯えをにじませる。
 あれは、幸福感などという生温いものではなかった。気持ちいいとか、そういうのとも少し次元が異なっている気もする。あんなものを与えられて喜ぶ筈がないと理性が訴える反面で、目が霞むような快楽を欲して疼く欲望が確かに常に横にあった。
 あの時、女は一番弱い電流にしていると言っていた。ではもっと強くしたらどれほどの快感が待っているというのだろうか。それを思うと、期待からか、ごくりと喉の奥がなった。


「…ちょっと起ってきてるじゃないの、アンタのマラ。あの気持ちよさを思い出したの?馬鹿な子ね」

「っ……!!」

 反論はできなかった。
 先ほど与えられた衝撃的な快楽も後を引き、あの気持ちよさを想像しただけでも勝手に身体が疼く。身体が覚えたてのあの快楽を勝手に求めるのだ。

「待ってなさい。今、あの男でも与えられなかった最上級の悦楽を味あわせてあげるからね」

 女は欲望に忠実な文昭のペニスを蔑んだ目で見つめながら、少しだけ口の端を歪めて笑った。こみ上げてくる身体の震えが、もはや恐怖なのか期待なのか文昭自身にもわからない。




「……連れて来ました」

 ガタン、と音を立てて、先ほど黒スーツの男たちが出ていった舞台袖とは違う方向から姿を現す。舞台中央の扉から出てきたようだ。
 文昭からは背後になるため、その姿を見る事はできない。

「鎖はどうしますか」

「左右の柱にくくりつけておいて頂戴。ちゃんと巻き取れるようにしなさいよ」

「はい」

 女は文昭の背後に目を走らせ、冷静に指示を出す。
 ガチャガチャと鉄が触れ合う音が背後で煩く響いたかと思うと、数人の足音が左右に分かれて更に耳を騒がせた。
 何事かとようやく見える範囲まで来た人影に目を凝らすと、そこには黒スーツの男に引き摺られるようにして歩かされている、首輪で鎖に繋がれた2人の男性がいた。しかも鎖に繋がれている2人は全裸だ。男根はすでに完全に勃起し切っている状態で、鼻息も荒い。
 この2人と乱交させる気なのだと、文昭はすぐに察しがついた。

「……っ」

 逃げを打とうにも、こんな状態では例え手の拘束がなかったとしても逃げ果せるのはムリだろう。

「…そうよ。大人しくしてなさい。もし言う事を聞かなかったら、電流を一番強いので流すわよ」

 女の目には偽りの色も冗談を言う色もなかった。本気なのだと、文昭はガクガクと震える身体を竦ませた。




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