「高級化」の内実は“ボッタクリ”
西陣織業界の闇

 小西美術工藝社の社長を務め、日本の伝統産業に造詣の深いデービッド・アトキンソン氏の著書「国宝消滅」(東洋経済新報社)によると、日本人の着物需要が減っていくなかで、着物業界は売り上げを維持するため、「価格を上げ、原価を下げる」という、ともすれば「ボッタクリ」とも言えなくはない戦略を取ったことがうかがえるという。

 たとえば、西陣織は1966年(昭和41年)に出荷量がピークを迎え、そこから減少に転じていくのだが、出荷金額のピークはその10年後というタイムラグが出ている。このことについて、「和装振興研究会」の報告書では、「出荷数量の減少を受けて、供給側が高付加価値商品にシフトしたことがうかがえる」と分析している。

 そんなもん、世界一の技術を誇る日本の職人がつくるのだから、高級ブランドのように多少高くなるのはしょうがないだろという声が聞こえてきそうだが、この「高付加価値」はそういう類のものではない。

「東京都中小企業種別経営動向調査報告書」によると、呉服業界の売上原価率は、昭和56年(1981年)度には64.2%だったが、平成25年(2013年)度を見ると49.5%と大きく改善している。同時期の小売業の平均が68~63%ということを考えると、尋常ではないほど原価を削っている。

 そう聞くと、勘のいい方はお気づきだろう。ベトナムなどの海外生産へと移行しているのだ。ユニクロなどファストファッションのように「質」と「低価格」を両立させるために、優秀な縫製技術が安価で得られる海外に依存するというのなら話は分かるが、日本の着物の場合は、ユーザーが減るなかでも利益をキープする術として、海外生産で原価を下げつつ、「高付加価値」を訴求するという「ボッタクリ」のそしりも受けかねない戦略に出たのだ。