空を見上げ、溜め息を吐く。
いつからだろう、自分が空を再び飛ぶ日を夢見なくなったのは。
蒼いキャンパスを自由に飛び回る同胞たちから目を背け、一人の少女はカーテンを閉めた。
俯かせた顔を室内に向けた少女の視線は一箇所に釘付けになる。
そこには蜘蛛の巣のような罅の入った姿見があった。
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等身大の姿見にはやつれ果てた一人の少女が写り、その背から生えた翼の片方は羽根が抜け落ちいびつに歪んだ醜いものになっていた。
今時珍しいことはない。
世界に突如現れるようになった異形の化け物に食い千切られたのだ。
幸い命は助かった。
友人や戦友はそれを喜んでくれたが、それだけだった。
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今まで息をするよりも当たり前にあった空を奪われた。
それはあまりにも残酷で、溺れるような辛く厳しい日々の始まりだった。
最初の頃は良かった。
再び空を飛べるようになる日を夢見てリハビリに耐え、義翼を付けた訓練に明け暮れた。
だが、駄目だった。
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失った翼の痛みが癒え、義翼のお陰で歩くのも日常を送るのも難儀しなくなった。
しかし空だけは駄目だった。
どんなに訓練しようと、新しい義翼を試しても、飛び立つことだけができなかった。
それでもひた向きに挑み続けたが、いつしか周囲から人が櫛が欠けるようにいなくなっていった。
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孤独の中にあっても頑張り続けた少女だったが、いつしか空を目指すことが苦痛になっていた。
そしてそれに気付いてしまった瞬間から、空を目指すのを辞めていた。
空を諦めたというのに、未だに未練がましく空を見上げて溜め息を吐く空虚な日々の始まりだった。
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それが変わったのは錆が浮き、ただ朽ち果てていくのを待っているような退廃的な、代わり映えのしない一日の中でだった。
人の足が遠のいて久しく、もう何年と叩かれる事のなかったドアノッカーが音をたてる。
気怠気な少女が振り返り、玄関を開けると胡散臭い黒装束の男が立っていた。
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訝しむ少女を余所に男は言った。
「空を、もう一度飛びたくないですか?」
胡散臭い笑みをより胡散くさせる男。
またか、少女は胡乱な瞳と共に吐き捨てる。
翼を失ってから何度となくやってきては金をだまし取ろうとしてきた詐欺師達と同じ口上だったからだ。
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最早僅かな期待すら灯らなくなった心に自嘲しつつ少女は即座に断ろうとしたが、言葉を紡ぐよりも早く人差し指で口を抑えられる。
更に半身を引いた男は、少女へ見せつけるように空を指し示し、ニタりと笑う。
「もう一度飛びたくないですか、あの空を。憎くはないですか、空を奪った不条理が」
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胡散臭さが服を着て立っているような男だったが、少女へ向けられた瞳は何処までも暗く、すべてを飲み込みそうなほど深かった。
その瞳に思わず返答を躊躇った少女に男は手を差し出した。
「我々が貴方に空を飛ぶ力を授けましょう。我々だけが不条理に抗う力を授けられる。私と共に来ませんか?」
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証拠も、根拠も、信用すらない相手。
だが気付けば少女は男の手を取っていた。
また空を飛べる。
消えたはずの想いと共に。
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悪堕ち羽根っ娘物語【堕ちたる翼】
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