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    Pairシステム Linkシステム Lociシステム Pegシステム Phoneticシステム
    創案者ソウアンシャ 不詳フショウ 不詳フショウ シモニデス?(紀元前556年頃 - 紀元前468年) Henry Herdson (mid-1600s)  Winckelman (1648)
    Francis Fauvel-Gouraud (1844)
    イメージ ○ー○

    ○ー○
    ○→○→○→…… ○ ○ ○……
    ↑ ↑ ↑
    ■-■-■……
    ○ ○ ○……
    ↑ ↑ ↑
    □→□→□…… 
    ○ ○ ○……
    ↑ ↑ ↑
    □-□-□……
    ↑ ↑ ↑
    1 2 3…… 
    概要 一対イッツイのものをイメージでムスびつける。 A、B、C、D……ならば、AとB、BとC、CとD……という具合グアイにイメージでムスびつける。 現実ゲンジツまたは仮想カソウ場所バショに、オボえたいものをイメージでムスびつける。 順序ジュンジョ明確メイカクなもの(peg;かけくぎ)を記憶キオクしておいて、それにオボえたいものをイメージでムスびつける。 数字スウジ対応タイオウするキーワードを生成セイセイし、それに覚えたいものをイメージで結びつける。



     Loci(場所)システムは、創出者の名前が伝えられる最古の記憶術であり、もっとも長く実用に供してきた記憶術でもある。
     
     Lociとはlocusの複数形で「場所」を表すラテン語に由来する。現代語では、数学における「軌跡」、遺伝生物学における「遺伝子座」(とは染色体やゲノムにおける遺伝子の位置)を表す語である。
     locusに対応するギリシア語はtoposであり、単に物理学的な空間を意味するだけでなく、アリストテレス以来、修辞論上の場所、すなわち何かを論じる際の基本的論述形式(すなわち議論の型)、あるいは論題を蓄えている場所をも意味した。
     英語のcommonplace(ありふれた言いぐさ、 きまり文句)やtopic(論題、 主題)の語源でもある。
     
     記憶術についての最古の文献は、キケロ『弁論家について』だが、そのなかで古代ギリシアの詩人シモニデス(Simonides)が用いた方法として登場する。
     キケロに仮託された『ヘレンニウス宛の弁論術 Rhetorica ad Herennium』は、Lociシステムについて、現在用いられているほとんどそのままの方法を詳述している。


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     以後、記憶術はレトリカ(弁論術)の一部門として、古代ギリシア、ローマからヨーロッパ中世へと継承されるが、その内実は記憶すべきものを空間的に配置するLociシステムに他ならなかった。ジュリオ・カミッロの記憶劇場Teatro della Memoriaも当然この延長線上にある。
     また旧ソ連の心理学者ルリア(Luria, A. R.)が行った1920年代から50年代に渡る研究は、心理学における記憶術研究の嚆矢となったが、彼が研究した記憶術者S(シェレシェフスキー:Shereshevskii)が用いたのも、このLociシステムだ*1
     フィクションでは、ハンニバル・レクター博士が使っていたのもLociシステムだった*2
     
    *1 Luria, A. R., The Mind of a Mnemonist,1968 (天野清訳『偉大な記憶力の物語――ある記憶術者の精神生活』1983).

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    *2 トマス・ハリス『ハンニバル』『ハンニバル・ライジング』

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     Lociシステムは、ペア法やリンク法と同じく、記憶すべきものを視覚イメージに置き換え、複数の視覚イメージを結びつけることで行われる。
     ペア法やリンク法と異なるのは、イメージ化したものを結びつけ繋留する〈掛け金〉をあらかじめ用意しておくことである。
     そしてLoci(場所)システムの名のとおり、イメージを結びつけ繋留されるのは〈場所〉である。
     
     〈場所〉は、実際にある場所でも架空の場所でもかまわないが、我々がよく知っている(忘れようがない)ものが選ばれることが多い。
     我々が毎日暮らす家や部屋、よく知る近所の町並み、毎日通う通勤・通学路で目にするもの、より簡便には自分の身体の一部を用いることもある。
     現実の空間的実在物から〈場所〉を選ぶことで、〈場所〉それぞれの順序関係は決定され固定される。
     ただそれぞれのアイテムを思い出せればいいのではなく、決まった順序どおりに思い出したい場合など(話す順序が重要な演説など、まさにこの用途である)、〈場所〉の順序が固定されることは都合がいい。
     
     
    ■Lociシステムの実際

     「雑誌、自動車、医者、薔薇、ボール」を覚えたいとしよう。
    (Linkシステムでも使った例である。実際には5つ程度を覚えるのにLociシステムを持ち出すのは大げさかもしれないが、要領が分かれば5つも50も同じである)。

     Lociシステムは、大きく分けて2つのステップからなる。
     まず最初は、記憶を結びつける/係留する〈場所〉を用意すること。
     そして次は、用意した〈場所〉に記憶したいものをイメージ化して結びつけること。

     〈場所〉としては、いろんなものが候補となる。
     ある人は、通勤電車の朝乗る駅から降りる駅までの、それぞれの駅を〈場所〉にしている。これができるのは、彼がすべての駅とそのイメージを覚えているからだが、満員電車に飛び乗り降りるだけの通勤客全員が、通勤路線にそこまでの愛着を感じていない気がする。
     ある人は、最初に覚えた自分の体の部分を〈場所〉にする方法を使っている。自分の体はどこへいっても着いてくるし、長年連れ添ってきているのでよく知っている。自分の体のそれぞれの場所に感覚に意識を集中するのは瞑想的テクニックにも通じていて、試験でも思い出そうとするのと落ち着くのとが同時にできて具合がいいという。

     しかし「記憶の宮殿」とはじめてしまったから、ベーシックにあなたが普段暮らしている部屋をまずは使ってみるとしよう。
     〈場所〉には、寝室ー洗面ートイレーダイニングー玄関の5つを使おう。あなたが朝、目覚めて出発するまでに通る順序担っている。

     
     たとえば、こんなイメージを作っていく。

    1.雑誌と寝室〈場所〉 「朝、寝室で目覚めると、雑誌のページを布団にしているのに気付く。インクの臭いがして、ふとん(ページ)をはねのけて出ようとすると、ページの紙ががさがさと音を立てる」

    2.自動車と洗面〈場所〉 「洗面で顔を洗おうと蛇口をひねると、蛇口から車がうにゅ~んと出てくる」

    3.医者とトイレ〈場所〉 「トイレを開けると、アタマに反射鏡をつけ白衣を来た医者が、両手をつないで腕で便座をつくり、どや顔で「早く座れ」としゃがんで待っている。どうやら自分は便器をやっていると言いたいらしい」

    4.薔薇とダイニング〈場所〉 「気を取り直して朝食を取ろうとダイニングへ行くと、いつも自分が座る席に巨大なバラが座って、コーヒーを飲んでいる。しかしコーヒーはさすがに熱かったらしく、いきなりしおれていく」

    5.ボールと玄関〈場所〉 「出かけようと玄関へいくと、ドアの替りに巨大なボールが入り口を塞いでいる。出かけなければならないので、玉ころがしの要領でボールを押し転がしながら『いってきます』を言って外へ出る」

    ※コツ
    (1)各イメージは、一度にひとつずつ思い浮かべる。
    (2)ひとつのイメージに多めの時間(最初のうちは8秒以上)をかけ、先へ急がない。
    (3)後戻りしない(覚えたかどうか不安になると後戻りしがち。そうならないためにも、最初はひとつずつのイメージにしっかり時間をかける)。 
    (4)作り出すイメージは奇妙なものほどいい。
     具体的には(a)結び付けられる2つがただ並置されているのでなく相互にインタラクションがあること、(b)イメージに動きがあること、に注意してイメージを作ると記憶に残りやすい。

    (詳しくは→)いかにして忘れられないイメージを作り上げるか/記憶術やや詳しい目その2 読書猿Classic: between / beyond readers いかにして忘れられないイメージを作り上げるか/記憶術やや詳しい目その2 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
     
     
     
    ■Lociシステムの長所

     Lociシステムの長所も短所も、あらかじめ記憶を結わい付ける〈場所〉を用意するところから生まれる。
     
     長所のひとつめは、記憶する技術としての性能が高いことである。記憶再生の正確さは高く、記憶の保持期間もまた他の記憶術と比較しても著しく長い。
     ロスとローレンス(Ross, J. & Lawrence, K. A.1968)の実験では、Lociシステムを用いた場合40語のリストの直後再生成績が37.5語ときわめて優れていた
    * Ross, J. & Lawrence, K. A., Some Observations on Memory Artifice, Psychonomic Science, 13, 1968.

     記憶術者Sは、Lociシステムで記憶した数十語からなる単語リストや数字の系列、数式などを十数年後にも誤らず再生したとルリアは報告している。
     Lociシステムのこの性能の高さを説明する仮説のひとつは、Lociシステムが、海馬にある場所ニューロンの特性を利用しているというものである。場所ニューロンは名前のとおり、場所の記憶を司る。場所の記憶は動物にとって重要なため、長期記憶に保存されやすい性質を持っている。
     場所についての記憶は、たとえば人の名前についての記憶より、保持されやすく、また再生されやすい。
     加えて、場所についての記憶は、他の記憶を引き出すトリガーの役割を果たすことが多い。再び人の名前の例だと、どこで会ったかを思い出せればその人の名前やその他の記憶が引き出されることが少なくない。
     記憶をイメージ化したものをひっかける結びつけ繋留する〈掛け金〉として、記憶者がよく親しんでいる(忘れようがない)〈場所〉を使うことも、人工的に〈掛け金〉を用意するPegシステムや合成するPhoneticシステムに比べて、Lociシステムが長期的にも安定した記憶再生を誇ることに関係があるのかもしれない。
     
     長所のふたつめは、大量の記憶を再生することについてである。Lociシステムは、元々弁論家がメモなどの他の記憶手段を使えないことから編み出し継承した記憶技法であるので、弁論や演説のように多くの項目を決まった順序で再生することに優れている。弁論家や演説家は巨大な建物や大通りをイメージしてこれを〈場所〉として用いて、弁論・演説の項目をイメージに転換し、建物や大通りのそこここに結び付けていく。これができれば、あとは弁論や演説の最中に、自分が記憶のイメージを置いた建物や大通りを想像の中で歩くことで、記憶した項目をあらかじめ定めた順番で想起できる。
     



    ■Lociシステムの短所

     短所のひとつめは、今見た長所の裏返しである。
     Lociシステムは大量の記憶対象を決まった順番に(シーケンシャルに)再生するにはよい方法だが、逆に必要な場合に必要な項目だけを取り出す(ランダム・アクセス)ことには、あまり適さない。
     もっとも現実の大通りで目当ての店を探して回ることが可能であるように、想像の大通りという〈場所〉を順番に訪ねて歩くことはできる。一発で呼出しができなくても、かつてのテープレコーダーから目的のデータを探したように、である。しかしやったことがある人なら、別の方法があるなら、そっちを使いたくなるだろう。
     
     Lociシステムは、古くから続く記憶術である。古代人もまた、その弱点には気付いていた。
     彼らは一連の記憶の中から、特定の記憶を探し出すための工夫を考えている。
     そのうち理解しやすく使いやすいものは、我々が街路に名前や数字をつけるように、記憶の〈場所〉にも同じことをするものである。
     一定の間隔(たとえば10個おきに)印をつけたり(たとえば木挽台のイメージがローマ数字の X の形をしていることから用いられた)、何番目かを表すシンボル(その数に応じた指を立てた手のイメージがよく使われた)を〈場所〉に刻み込んだりした。
     
     短所の二つ目は、〈Lociシステム〉の根本に関わる。つまり、あらかじめ〈場所〉を用意する必要があることが、それである。
     これはペア法やリンク法のように、やり方を教わればその場でできるノウハウのレベルから、準備と訓練が必要な術(アート)のレベルに記憶術の水準が移行したことを意味する。
     我々の家や町、自分の体などは、よく見知ったものであるが、それをLociシステムに使おうとすれば、どこにイメージを配置するかをあらかじめ決めておかねばならない。置く場所があやふやだと、記憶を再生する場合にも、どこに注意を向ければいいかが怪しくなり、再生率が下がる。
     〈場所〉の準備は、思った以上に大変である。我々に身近であり記憶術の〈場所〉に使えるものは、一つ二つではないが、しかし多すぎもしない。家、通り、体…と様々な種類の〈場所〉が考えられるが、しかし我々が記憶しなければならない情報の種類は、通常それよりずっと多い。
     Lociシステムは強力な記憶技法だが、その最大の欠点はLociシステムに用いる〈場所〉が不足・枯渇することである。Lociシステムより新しい記憶術は、したがってこの記憶を繋留する〈場所〉の枯渇にいかに対処するか、という方向で進化した。
     
     誤解がないように申し添えると、Lociシステムの〈場所〉はもちろん、複数の目的に、繰り返し用いることができる。
     もし再利用可能でないなら、新しく何か覚える度に〈場所〉を用意しなければならず、たとえば10個のアイテムを記憶するのにその倍のイメージが必要となり、他の技法と比べてきわめて不経済なものになっただろう。
     
     しかし一種類の〈場所〉に複数種の情報を結びつけることは、(その〈場所〉を使い始めて日が浅いうちはとくに)パフォーマンスの低下をもたらす。
     

    ※〈場所〉の重複使用時に干渉をさけるには?

    1.複数の〈場所〉系列を用意する。
     同じ場所系列の使用は、1〜2日はあける。

    2.累進的エラボレーション
     重ねたイメージー場所法にリンクシステムを加えたもの。
     最初の使用では、〈場所〉と〈記憶したいもの〉を結びつける。
     次に使うときは、〈場所+1段目で記録したもの〉に対して、新たに〈記憶したいもの〉を結びつける。以下、同様。
     たとえば
    (1)「寝室」という〈場所〉に、記憶したいもの=《雑誌》を結びつける
    (2)「雑誌がある寝室」という〈場所〉に、記憶したいもの=《鏡》を結びつける
    (3)「雑誌がある寝室を写した鏡」という〈場所〉に、記憶したいもの=《猿》を結びつける
    ・・・といった具合に。




    ■我々の記憶ニーズと記憶術の提供するもののギャップ

     Lociシステムの2つの弱点が問題になるのは、我々の記憶ニーズが伝統的記憶術が応じていたものとは異なってきているからである。
     このギャップは、単にLociシステムだけでなく、伝統的記憶術が現代の記憶ニーズのなかで活用されにくい要因になっているので、少し詳述しよう。
     
     伝統的記憶術は、補助記憶となる記録手段なしに、大量の情報を記憶するところに特徴がある。言わば大容量少種類の記憶ニーズに、伝統的記憶術は応えてきた。
     しかし我々が直面する〈覚えきれない〉という事態は、これとは異なる。
     現代では、大容量少種類の記憶ニーズに対しては、さまざまな記録装置(紙から携帯端末まで)を用いることができる。
     呼び出す少数のキーさえ覚えていれば、実用的にはほとんど無限と言っていい記憶容量を(しかも低コストで)我々は活用することができる。
     
     
     したがって今の我々の記憶ニーズは、記憶を要するものが大量にあるというよりむしろ、多種多様であることの方にウエイトがある。

     たとえば円周率を何千桁も記憶するようなニーズは、記憶力競技にでも出場しない限り生じない。
     かつては長時間の演説や弁論といった大容量記憶のニーズがあったが(Lociシステムはまさにこのためのものだった)設けられた場面設定で一人の人間が多くの時間を割り当てられ長々と弁ずることができる時代はとうに過ぎ去った。

     少量だが多種多様なものを扱う記憶ニーズに対応するためは、記憶イメージを結び付けるものを現実の実在空間から選んだ〈場所〉に限るのではなく、いわば記憶の寄り代を人工的かつ規則的に(いつでも、そして、いくらでも)発生させる方法(システム)が必要になるだろう。
     Lociシステムから進化した近代的な記憶術(Phoneticシステムなど)の技法は、この方面への発展を遂げたものである。
     

    ■Lociシステムの用途

     このシリーズで紹介している記憶術のシステムは基本的に「上位互換」であり、pairシステムや link システムにできることはlociシステムにもできる。
     その上でlociシステムならでの例を上げよう。


     Lociシステムは、少量多種類の記憶ニーズに向かないと述べたが、現代でも大量少種類を長期間記憶する記憶ニーズも少なくない。
     何よりLociシステムの記憶特性は、語り部たちがいた時代と比べて現代人が衰退させた記憶様式を補完し得るものである。

     たとえば長期に渡ってくりかえし参照したいテキスト、その分野のバイブル的書物など、頻繁に更新されないが大容量なものを記憶するのにLociシステムは適する。
     
     また手順を記憶することは、順番の入れ違えにも強いLociシステムが得意とするところである。弱点であるランダム・アクセスが苦手な側面は、この用途では問題にならない。
     
     このふたつを結び合わせたものとしては、問題解決や思考技術、文章執筆など……のための、やや複雑な手順やテンプレートを、Lociシステムで記憶するという応用例がある。
     一般に、思考系のライフハックやメンタルスキルは、複雑になるほど使われない傾向がある。
     弱点を補強しパフォーマンスを改善するために、それらの手順は修正されていくのだが、修正バージョンは以前のものよりも複雑になることが多い。
     これが組織活動や専門領域のものであれば、文書化やツール化が複雑な手順の遂行をサポートするが、個人の行動・習慣という領域となると、ツールの利用は(チェックリストのような簡単なものですら)面倒がられ、その結果、実際に使われるのは(使われるとしても)、手順にして数ステップ以内のシンプルなものだけとなる。

     手順を記憶すること、長期に渡って正確に想起できるようにすることは、Lociシステムの本領である。
     そして一旦記憶してしまえば、手順書やチェックリストを、いつでもどこでも使える状態で〈携帯〉しているのと同じになる。
     多くの人がその煩雑さから使用をさし控える、しかし有効なノウハウや手続きが、Lociシステムのサポートによって普段使い可能となる。
     ここに記憶術は、機械的暗記・暗唱のスキルではなく、様々なメンタル・スキルを実装可能とするメタ・スキルとなる。
     
     有用なライフハックやメンタルスキルをいつでも使えるようにする/実際に活用するために、Lociシステムによる〈記憶の宮殿〉の一部を〈内なる道具箱〉に割り当てるべきだ、とRon-Hans Evansは言っている。


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    ※メモがない・できないときのLociシステム

     あらかじめ〈場所〉を用意しておく、というLociシステムの本来のやり方とは異なるが、今現にいる場所に記憶をリンクするLociシステムがある。
     たとえば夜中ふいに目が覚めて、夢やひらめきを消え去らないうちに記録したいが手近に筆記具が見当たらない時、金井美恵子『文章教室』の彼のように映画を見ていてメモを取りたいがライト付きボールペン(そんなものがあるのだ)を忘れてしまった時などに用いる。
     やり方は予想がつくように、覚えたいことをイメージ化した後、今自分がいる場所に結びつけておく。
     Lociシステムのジオタグ的応用だが、万全を期するためには、あとで自分が今日いた/移動した場所を思い出して(心の中で再び移動してみて)フォローアップしておく方がいいだろう。
     


      

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     いろいろな記憶の方法(方略)があるけれど、記憶ニーズから考えると普通の人に求められているのは、feat of memory見世物や記憶のスプリント競技に必要な、円周率を何桁も覚えるような少種類大容量タイプの記憶術ではない。
     むしろ必要なのは、多種類の事項について長期にメンテナンスできるような記憶方略である。
     
     繰り返し、間隔を次第に広げながら(例えば1日後、3日後、7日後……という具合に)復習していくスペースド・リハーサルについては、次の記事で書いた。

    復習のタイミングを変えるだけで記憶の定着度は4倍になる 読書猿Classic: between / beyond readers 復習のタイミングを変えるだけで記憶の定着度は4倍になる 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加

    ForgetCurveSR.jpg



     スペースド・リハーサルは単純な暗唱ものから文章理解から技能習得に至るまで有効だが、最大の欠点は〈面倒くさい〉ことである。

     最初のうちはいいが、学習をはじめて何十日か経つと、復習すべき項目が〈1日前覚えた項目〉〈3日前覚えた項目〉〈7日前覚えた項目〉……と積み重なってきて、しかも復習までの期間が広がっていくわけだから、とっさに今日はどれを復習すればいいかが分かりにくくなる。
     
     対策はいくつかある。

     一番楽なのは、スペースド・リハーサルを機能に取り入れていて復習のタイミングをお任せできるソフトフェアやアプリやサービスを利用することである。

     しかし既存のソフトやサービスで、自分が学びたいコンテンツが使えるとは限らない。
     というのもスペースド・リハーサルが有効なのは、単に暗記ものだけでなく、文章理解などの高度の情報処理が必要なものから手や体で覚える身体技能系にいたるまで有効であるからだ。

     自分でコンテンツを用意できる場合もあるが、情報機器にあまり依存しない方法も(bricks-and-mortar つまり「紙と鉛筆でできる」方法も)、確保しておきたい。
     
     次善の、しかしより汎用性がある方法は、あらかじめスペースド・リハーサルのスケジュール表にして作っておくことである。
     つまり下のような表である。横軸が日程、縦軸が復習回数である。

    sch1.jpg
    (クリックで拡大)

     見てのとおり1、3、7、14、21……と次第に空けて番号を書き込んでいるだから「紙と鉛筆でできる」。実際は紙を何枚も貼り合わせることになる。
     
     やり終えたところは、線を引くなり、豆印を押すなりして消していけば、セルフモニタリング・シートにもなる。
     
     
     さて、この表をエクセルなどの表計算ソフトでつくっておくのもよい(Google Docで作るのもオススメだ)。 
     学習計画は、様々な理由から修正が必要になるが、表計算ソフトで作っておくと、日程欄を変えるだけで、スペースド・リハーサルのスケジュールを〈再計算〉が可能だからだ。
     実際、何日か休んでしまって、スペースド・リハーサルでやろうにもめんどくさくなっていまって中断することが結構多い。
     
     エクセルファイルで2012年の1年間分を作っておいた(speaced-sch.xlsx ;xlsファイルは列数制限があったので行列入れ替えました→speaced-sch.xls )。





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    ……手書きスペースド・リハーサル・スケジュール表の作り方の詳細な説明がある。




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    古今東西の記憶術をざっくり7つにまとめてみた 古今東西の記憶術をざっくり7つにまとめてみた このエントリーをはてなブックマークに追加





    howtomemorize.png


     「繰り返し書く」という覚え方を使うことと学業成績の間には、ほとんど関係がない。

     これは「繰り返し書く」ことが役に立たないというよりも、成績の良い者もそうでないものも誰もが使うユニバーサルな方法だからだ。

     日本の高校生を対象に英単語の覚え方を調べた研究*1によると、「繰り返し書く」やり方については、ほとんどの者が使っていた。そして、それ以外の方法を使う者はわずかだった。

    *1 Okada, J. (2006). Vocabulary Learning Strategies for Japanese High School EFL Students.

     〈それ以外のやり方〉、例えば精緻化ストラテジー(語呂合わせやイメージ法が含まれる)や体制化ストラテジー(まとめなおす、接頭語・接尾語で単語を覚えるなどが含まれる)、さらに言うとメタ認知的ストラテジー(学習方法を工夫したり、学習計画を立てる)までも、短期的な記憶改善をもたらすだけでなく、それらを用いることと学業成績には、有意な相関関係があることが分かっている*2 *3。

    *2 Pintrich,P.R.,Smith,D.A.F.,Garcia,T.,&Mckeachie,W.J. 1993.Reliability and predictive validity of the
    Motivated Strategies for Learning Questionnaire(MSLQ). Educational and Psychological Measurement.
    53, pp.801-813.
    *3 Wolters,C.A. 1998.Self-regulated learning and college students’ regulation of motivation. Journal of
    Educational Psychology. 90, pp.224-235.



     単に相関関係があるだけでは、やり方が成績を上げるのか、成績がいいからやり方にまで気を回せるのか、あるいはアタマがいいから成績もいいし、いろんなやり方を使ったりするのかはっきりしない。
     しかし精緻化ストラテジーや体制化ストラテジーを教師が上から教えることでも成績が上がるという研究*4があるのをみると、〈やり方が成績を上げる〉と思ってもよさそうである。

    *4 下地・丸山(2009).「英単語教育における高校生の学習方略の導入に関する研究」『茨城大学教育実践研究』28, 153-165.


     勉強が苦手な人は、そもそも勉強に「やり方」があるという意識が薄い。

     あるいは、勉強することには決った「やり方」があるのであって、自分で「やり方」を探したり選んだり作り変えたり工夫するようなものでないと思い込んでいることが少なくない。

     しかし実際は、同じやり方ですら、人から強いられるよりも、自分で選んだ方がうまくいく。


     普段は分量の問題もあって、ひとつのやり方について書くことが多いけれど、
     「覚え方を自分で選ぶ」というメタ認知ストラテジーを駆使してもらう機会となるよう〈覚え方のカタログ〉を用意してみた。

     こうしたリストは不完全に終わるよう運命付けられているが、見た人が〈抜けているから自分で追加する〉というのがむしろ本望である。



    リハーサル  繰り返すこと

    1.何度も唱える
     音韻ループの容量は2秒間(2秒で言えるものなら唱えられる)
     70回暗唱(『話せる英文法』で推奨される基本例文の覚え方)


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    2.何度も書く
     汎用性高く、最も広く使われる記憶法。
     短所:自己修正できないと繰り返すうちに間違いが蓄積されることも。

    3.繰り返し唱えながら書く
     10回音読3回筆写×3ターン繰り返して本一冊を覚える(『絶対音読』で推奨される覚え方)


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    千田 潤一

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    4.リコール・プロセス"正解を隠して思い出し、すぐに確認することを繰り返す。
     単語カードや見え消しマーカーをつかった方法もこれにあたる。
     長所:間違いが蓄積される欠点がない。アウトプット重視で、覚えたつもりで出てこない、といったことがない。
     短所:長い単語など、一度に処理できないものは覚えにくい。

    サフメッズ(SAFMEDS)法
     Say All Fast Minute EveryDay Suffleの略。
     カードの表に問題、裏に正解を書いて、毎日1分間、シャッフルしてから、できるだけ速く答える。
     1分間で何枚のカードを言えたか記録してグラフにする。1日何回やってもいい。
     1週間で2~3倍の速度になる。流暢に引き出せる知識は、忘れにくく、応用されやすい。
     専門書を読む前に重要用語をこれで叩き込んでおくのにも使う。

    5.スペースド・リハーサル
     復習までの間隔を次第に広げて繰り返す方が定着率が高い。

    復習のタイミングを変えるだけで記憶の定着度は4倍になる 読書猿Classic: between / beyond readers 復習のタイミングを変えるだけで記憶の定着度は4倍になる 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加

    ※パソコンを使える人は、Ankiという無料ソフトがオススメ。次の記事を参照。

    決して後退しない学習ーAnkiを使うとどうして一生忘れないのか? 読書猿Classic: between / beyond readers 決して後退しない学習ーAnkiを使うとどうして一生忘れないのか? 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加




    6.DWM(Day-Week-Month)法
     1日前、1週間前、1か月前に覚えたものを復習する

    7.35ミニッツモジュール
     新規事項を覚える(20分間)→4分休憩→1日前、1週間前、1か月前の復習(各2分)→今日の復習(5分)

    8.ショート・スペースド・リハーサル
     聞いてから(見てから)4秒後、8秒後、16秒後、32秒後と、間隔を次第に広げて復唱する。
     リハーサルからホールド法に橋渡し。
     繰り返すうちに、次までの感覚が広がり、短期記憶の限界を越えて保持することになる。

    9.セルフ・テスト
     自分で作ったテストを、自分で解く。
     効果は高いが、自分でテストをつくる実力と時間が必要。

    10.反復ドリル
     単純な問題を繰り返し解く
     長所:間違いや記憶の不確かな部分を発見し修正することで覚えていく。記憶の精度や想起の速度など高めるのに良い
     短所:退屈。正答率が上がっていくとモチベーションが下がる。

    11.LowFirst法
     誤答率の高いものから順に復習する
     改良LowFirst法では誤答率が基準(10%程度)を下回った項目は復習対象から外すことで復習効率を上げている
     長所:記憶のしにくさを加味したスペースド・リハーサルになるので復習効率が高い(元々、スペースド・リハーサルが何故有効かを研究する中から生まれた技法)


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    水野 りか

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    12.ホールド法短期記憶の限界(15~30秒)を越えて保持することで、長期記憶に送り込む
     15-30秒あけて唱える:文字を見てすぐ読み上げるのでなく、15~30秒頭で保持してから何も見ずに復唱する
     15-30秒あけて書く:文字を見てすぐ書き写すのでなく、15~30秒頭で保持してから何も見ずに書写する
     15-30秒あけてシャドウイング:音声を聞いてすぐ唱えるのでなく、15~30秒頭で保持してから何も見ずに復唱する
     15-30秒あけてディクテーション:音声を聞いてすぐ唱えるのでなく、15~30秒頭で保持してから何も見ずに書き出す

    15秒で訓練なしにできる記憶力を倍増させる方法 読書猿Classic: between / beyond readers 15秒で訓練なしにできる記憶力を倍増させる方法 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加



    精緻化 記憶したい情報を連想的・意味的に関連づけ長期記憶に情報を送り込む

    13.イメージ法
     記憶したい情報をイメージ化する
     イメージ記憶は大容量。Shepard(1967)によれば、100万枚の写真、短期では986,300枚(98%強!)、1年後でも731,400枚(73%)を記憶できた。
     二重コーディング仮説:イメージについて覚えるとき、イメージ内容を自分に説明しながら覚える→イメージでコード化、言語でもコード化→だからよく覚えられて思い出しやすい。

    14.連想法
     記憶したい情報から連想するものと結びつける。

    15.語呂合わせ
     無意味な数字(年号など)を意味のある文章に変換して覚える。
    (例)「1192年→いい国作ろう鎌倉幕府」「ルート3=1.7320508人並みにおごれや」
     日本語は音素が比較的少ないので、語呂合わせは作りやすいとされる
     うまい語呂合わせをつくるのは結構むずかしい。そのため「名作」は継承される(医学系など)。

    16.キーワード法
     発音の似た母語をつかって意味とイメージを結びつける
     例)「死ぬほどダイ(die)好き」
    ・発音の結びつき→大好きの「だい」とdie
    ・意味の結びつき→「死ぬ」と「大好き」
    ・イメージの結びつき→見知った恋多き子が「死ぬほどダイ(die)好き」と言っている光景を思い浮かべる
     長所:音と意味の連想法とイメージ法による幾重ねの精緻化のため効果が高い。外国語の単語を記憶するには最強のものの一つ。
     短所:うまく結びつく母語をみつけるのが大変。外国語を覚える場合は発音の不正確になる危険。

    17.ライム(韻)法
     韻(ライム)を踏んで覚える。語呂合わせが難しい、音素の多い言語で使われる。

    18.Vocabulary Cartoon
     韻(ライム)が似た語とイラストと例文を合わせた自国語内キーワード法に基づいてつくられた本。
     長所:キーワード法の利点を生かし、欠点を克服している。母語内なので発音の不正確さは縮小し、既製品なので自分で語を見つける手間もいらない。単語についてはこれが多分最強の覚え方。
     短所:イラスト、例文を載せるため1ページに1語のレイアウトとなって収録語数が少ない。自国語内の学習者を対象とした本なので、外国語として学ぶ者は記憶の手がかりになる方の語も知らないことも。


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    19.マイ・ポエム法(自己関与文)
     自分に関係した記憶は定着しやすい。

    20.物語法
     記憶したいものをストーリー仕立てにする。
     神話、伝承などに見られる、人類にとって最も古い記憶法の一つ。

    21.頭文字法
     例)五大湖→HOMES(Huron, Ontario, Michigan, Erie, Superiorの頭文字)
     例)独学のプロセス→MASTER=Mindset, Acquire material, Sense-making, Trigger of Memory, Exhibit, Review
    22.歌唱法
     物語法と並ぶ、最も古い記憶法
     例)ポリネシアの歌う海図(夜間に航海するため、星座の位置と島の位置が歌に織り込まれている)
     例)古代ギリシアのスパルタでは法律は書かれたものでなく、歌うものだった


    23.Jazz Chants
     ジャズに合わせて、同じような文句を繰り返しリズムにのって口ずさむうちに、英語の調子と英文が身に付くというもの。

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    ニーモニクス(記憶術)
     古代ギリシアの時代から弁論術の伝統の中で用いられて来たもの。
     基本は記憶したい情報をイメージ化し結びつけること。精緻化の一種と考えられる。
     効果は高いが複雑なものになるほど訓練が必要となる。

    いかにして忘れられないイメージを作り上げるか/記憶術やや詳しい目その2 読書猿Classic: between / beyond readers いかにして忘れられないイメージを作り上げるか/記憶術やや詳しい目その2 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加


    24.ペア法
     二つのものをイメージして結びつける。新奇なイメージの方が効果的。

    Pairシステムで単語を覚える/記憶術やや詳しい目その3 読書猿Classic: between / beyond readers Pairシステムで単語を覚える/記憶術やや詳しい目その3 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加


    25.リンク法
     ペア法を数珠繋ぎにして使用する。たとえばABCDE……といったものを覚える場合、AとBをまず結びつけて覚え、次にBとCを、その次にCとDを……といった風に、数珠つなぎにして覚えていく。
     長所:記憶したいもの自体が次々とイメージを結びつけるものになるので、空間法やペグ法のような事前準備が不要
     短所:リンクをたどって思い出すことになるので、順不同で呼び出したいものの記憶には向かない。

    Linkシステムで数珠つなぎに覚える/記憶術やや詳しい目その4 読書猿Classic: between / beyond readers Linkシステムで数珠つなぎに覚える/記憶術やや詳しい目その4 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加



    26.場所法
     よく使う通りやよく行く場所、自分の部屋(にある家具)など熟知したものを手がかりに、記憶したい事項を結びつけて記憶する。記憶したいものを場所・位置情報と結びつけるため効果が高い。
     ルリアが報告した記憶術者Sもこの方法を使用している。

    最強の記憶術Lociシステムで「記憶の宮殿」を構築する/記憶術やや詳しい目その5 読書猿Classic: between / beyond readers 最強の記憶術Lociシステムで「記憶の宮殿」を構築する/記憶術やや詳しい目その5 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加


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     長所:記憶したい情報と場所が一対一対応しているので、リンク法と違い、ある程度の順不同でも思い出せる"
     短所:結びつけるための場所を用意しておくことが必要。

    27.手指法
     記憶したいものを手の指に結び付けてイメージする。
     指の数以下の項目についてしか使えないが、メモが取れない場合など、とっさの場合に役に立つ。

    28.身体法
     記憶したいものを、頭頂、額、まゆ、目……と、体の各部分に結びつけてイメージする。
     手の指よりを多くのものを結びつけることができるが、あらかじめどの場所を使うか決めておき、慣れておく必要がある。

    29.時計法
     アナログ時計の数字の上に記憶したいものを置いたイメージをつくる。

    30.マイルーム法
     自分が普段いる場所に記憶したいものを置いたイメージをつくる。これもあらかじめどの場所を使うか決めておき、慣れておく必要がある。

    31.トリップ法
     通学・通勤経路に記憶したいものを置いたイメージをつくる。
     通る駅、バス停などを使うことが多い。

    32.ミュージアム法
     博物館や美術館の展示に、記憶したいものを結びつける。
     長所:大規模で著名作品が多い美術館・博物館を使えるなら、相当の量の記憶が可能。
     短所:あらかじめ記憶に使う美術館・博物館を選んで通い、展示内容と空間配置を熟知しておく必要がある。

    33.鉤語(ペグ)法
     〈場所〉のかわりに、記憶したいものを結びつける「かけくぎ(ペグ)」を用意しておく方法。あらかじめ、かけくぎ(ペグ)を準備しておき、すぐに呼び出せるよう記憶しておくことが必要になる。
     長所:ペグを数字と対応してつくるので、任意の何番目のアイテムを思い出すということも可能。
     短所:あらかじめペグを作っておく必要がある。現実のニーズでは1種類のものを大量に覚えることよりも、少量だが多種類のものを覚えることが多い。同じペグを異なる系列につかうと混乱しやすいが、何種類ものペグを用意する必要が出てくる。

    近代記憶術Pegシステムで1冊を格納し自在に引き出す/記憶術やや詳しい目その6 読書猿Classic: between / beyond readers 近代記憶術Pegシステムで1冊を格納し自在に引き出す/記憶術やや詳しい目その6 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加

    音韻ペグの例
    1→one→sun,fun,gun,nun/2→two→shoe,Jew/3→three→tree,bee,key,tea/4→four→door,core/5→five→live/6→six→sticks/7→seven→heaven/8→eight→gate,date,fate,mate/9→nine→line,sign,pine,wine/10→ten→pen,men,hen
    形態ペグの例
    1→鉛筆、煙突/2→アヒル/3→耳、唇/4→ヨット/5→鍵/6→さくらんぼ/7→がけ、鎌/8→だるま/9→オタマジャクシ/0→卵

    34.フォネティック法
     伝統的記憶術の最も洗練された/最も訓練を必要とする方法。
     ルールに基づいて組織的に何種類でもペグを作り出すことでペグ法の欠点を解消する。
     長所:作り出されるペグは数字に基づいているため順序が自動的に決まるので、あらかじめ必要なペグを用意しなければならないペグ法の欠点が克服されている
     短所:いつでも作れるとはいうものの、数字に対応して、なおかつイメージしやすく記憶術に使いやすいペグをつくるには訓練が必要"

    究極の記憶術Phoneticシステムで大容量記憶にランダム・アクセスする 読書猿Classic: between / beyond readers 究極の記憶術Phoneticシステムで大容量記憶にランダム・アクセスする 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加

    数字子音置換法
    0→s,c(サ行の音),z/1→t,d,th/2→n/3→m/4→r/5→l/6→sh,ch,j,g(ヂャ行の音)/7→k,c(カ行の音),g(ガ行の音),ng/8→f,v/9→p,bこれ以外のアルファベット(母音字は任意に使えるので、同じ数字に対応する無数のペグをつくることができる)

    数字仮名置換法
    1→あ行/2→か行/3→さ行/4→た行/5→な行/6→は行/7→ま行/8→や行/9→ら行/0わ、ぱ行
    それぞれの行の文字はすべて使えるので、同じ数字に対応する無数のペグをつくることができる

    35.フォネティック・マップ人工的なペグを組み合わせて(例10×10=100マスの)マトリクスをつくり、空間配置や地図を記憶したり、大量のものを覚えるのに使う。


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    Harry Lorayne、Jerry Lucas 他

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    36.ドミニック法
     マインドマップのトニー・ブザンが主催した世界記憶力大会でチャンピオンになったドミニク・オブライエンの方法。


    記憶力を伸ばす技術―記憶力の世界チャンピオンが明かす画期的なテクニック記憶力を伸ばす技術―記憶力の世界チャンピオンが明かす画期的なテクニック
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    ドミニク オブライエン

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     ペグをつくるのに、数字をアルファベットに変換し(1→A、2→B、3→C、4→D、5→E、6→S、7→G、8→H、9→N、0→O)、そのアルファベットのイニシャルをもつ人物の顔に結びつける。つまり二桁の数字を人物の映像と結びつけたものを用意して、これをペグに使うもの。

    (例)27→BG→Bill Gates→billgates.jpg



     長所:人の顔は最もよく記憶されるものであるので、ペグとしては使いやすい。
     短所:イニシャルが異なり自分がイメージしやすい100人をあらかじめ選んで、すぐに使えるように用意(記憶)しておく必要がある。

    37.ドミニック・ホテル法
     ドミニック・キーを組み合わせてフォネティック・マップ法を行う。
     100×100=10000個の記憶の部屋をつくる事になる。


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    体制化 関連する情報をまとめ、整理して覚える


    38.グルーピング
     覚えたいものを分類し、まとめ直すことで覚える。
     〈勉強〉の原イメージ。

    39.接頭語、接尾語、語幹で覚える

    英語の接頭語(辞)もまとめてみた 読書猿Classic: between / beyond readers 英語の接頭語(辞)もまとめてみた 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加

    英語の接尾語(辞)をまとめてみた 読書猿Classic: between / beyond readers 英語の接尾語(辞)をまとめてみた 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加


    40.語源で覚える


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    山並 陞一

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    41.コーネル大学式ノート
     1ページを3つの欄(本文欄、見出し・コメント欄、要約欄)に区切る。見出し・コメント欄、要約欄を使って復習する。

    Cornell Note PDF Geneator


    42.コンデンス・ノート
     濃縮したノート。テスト範囲を1枚にまとめたもの等。
     カンニングのために小さなメモにまとめると、自然に覚えるのもこれ。


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    43.メモリーツリー
     テーマを幹にして、関連項目を枝葉に書いていく。
     知識は互いにつながりあって記憶され、つながりをたどることで検索され想起されることを活用。

    44.マインドマップ
     メモリーツリーの元になった技法。
     創案者のトニー・ブザンは、伝統的な記憶術の本を書いたり、記憶力大会World Memory Championshipsを主催している。


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    45.コンセプトマップ(概念地図)
     概念間の関係を示した図。


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    福岡 敏行

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     知識は、脳内の宣言的記憶の上で動作する産物(チャンク、命題)として格納されており、概念地図は宣言的記憶システムの構成を反映するよう構築されているため、有意味学習が容易になる。
     ひとつの主題について放射状に広がるマインドマップに対して、コンセプトマップは概念間の関係を表すことを重視するため、中心が複数存在したり互いに連結されない概念群があってもかまわない。



    46.文章を読んで単語を覚える
     文脈から単語の意味を類推することを通じて記憶する。
     インプットの効率は悪い(異なる文脈(文章)で10回以上出会うことが必要)が、忘れにくい。



    社会的方略 
    効果は高いが、相手が必要。勉強は一人でするものといった文化のためか用いられることが少ない。

    47.交換テスト
     相手が作ったテストを自分が、自分が作ったテストを相手がやる。セルフテストより効果が高い。

    48.相互教授法
     二人で話し合いながら「予測する」「質問をつくる」「要約する」「明確化する」という4つの方略を使って文章を理解していく(テストで聞かれそうな質問を生徒自身が構成する、その物語で何が起こるのかを予測するなど)。

    49.ロールプレイング
     複数の人がそれぞれ役を演じ、疑似体験を通じて、ある事柄が実際に起こったときに適切に対応できるようにする学習方法。

    50.ジグソー法
     1つの長い文章を、人数分(例えば3つ)の部分に切って、それぞれを1人ずつが受け持って勉強する。それらを持ち寄って互いに自分が勉強したところを紹介しあって、ジグソーパズルを解くように全体像を協力して浮かび上がらせる学習法。



    記憶のためのマインドセット

    51.感情と結びつける
     ポジティブな感情でもネガティブな感情でも
     恐怖と結び付いた記憶は、動物にとって生き残るのに必要だから

    52.Early Learning Set"
     文字、自転車、九九など、はじめて学んだの記憶を呼び覚まし、〈初めて学んだ状態〉に自分をセットする。

    53.極限状態に身を置く
     人間が最もよく学習するのは、自分の持っている知識がまったく役に立たなくなった状況。
    (例)医局に入ったばかりのインターン・レジデント、部族社会の通過儀礼、カルトの洗脳手法など"