私はTwitterでもブログでも、"リスク許容度"の範囲内で投資をすべきだと、常々言っています。
※これは小淵オリジナルの考えではなく一般的なことです。そして超重要です。
自分のリスク許容度にぴったりな投資先はなかなか存在しません。かといって米国株式、国内株式、国内外債券、コモディティ、……などの資産クラス(アセットクラス)を組み合わせてポートフォリオを構築すること(アセットアロケーション)は、"普通の人"にとって非常に手間であり、どの資産を何%持つべきか計算するのも困難です。
そこで、資産クラスの中でもっともハイリスク・ハイリターンなインデックスファンド(ここでは全米株式インデックスファンド)を一つ持ち、それと現金との組み合わせ(比率配分)でリスクを管理するのが簡便で合理的です。
現金比率を大きくすればするほど、ポートフォリオ全体のリスク(リターンも)は下がっていきます。
そしてちょうど自分のリスク許容度にぴったりなポイントがそのどこかにあります。本記事では、最適な現金比率を計算で見つけられます。
具体的に、読者のあなた自身のリスク許容度に応じて、ポートフォリオの中で現金比率をいくらにすればよいか、誰でも使える計算式を紹介します。
また、実際の運用でどのように活用すればよいかを説明します。これによりドルコスト法などという手間のかかる"小技"を使わなくともしっかりとリスク管理ができます。
もちろん投資は自己責任。この記事も鵜呑みにせず、自分で納得してから実行してください。特に計算式はご自分で検算して正しいことを確かめてください。小淵は責任を負いません。
目次
前提を手短に
リスク許容度とは?
資産の評価額が変動したとき、自分の心がどれくらいの下落までなら耐えられるか、という数値です。
心の問題ですので、誰か他人が教えてくれるものではありません。
投資経験のある方なら、-20%くらいまでは耐えられたけど-30%まで下がったとき怖くなって売ってしまった。というような経験があるかと思います。
その場合、リスク許容度は-20%~-30%の間にあります。安全を見て-25%などで設定するといいかと思います。
はじめての方や、投資経験の浅い方で下落を経験したことのない方は、想像してみましょう。
証券口座に入っている自分の資産。株であれ現金であれ、そのトータルの評価額が、当初よりマイナス何%下落したときに、ソワソワして落ち着かなくなったり、気がかりでイライラしたり、もう投資なんかしなければよかったと思ったりしますか?
そのパーセントのちょっと手前の数値が、自分のリスク許容度です。
1円でも元金から下落するのはいやだ、という人はリスク許容度は0%です。もう投資ブログを読む必要はありません。元金保証でリターンが期待できる投資先は存在しませんので、もはや投資ではありません。銀行預金しているだけでいいですよ。
-20%くらいなら我慢できるがそれ以上下がったらいやだ、という人は、リスク許容度を-20%と設定していいでしょう。
それ以上下落したら自分が冷静でいられなくなるギリギリのラインがリスク許容度です。「ー◯%」という数字を自分の中に持っておきましょう。
自分のリスク許容度がわからない、計算できない、想像できないという人は、いったん投資をやめましょう。もしくはごく少額で一定期間やってみて、自分のリスク許容度がわかってから再開しましょう。リスク許容度を把握せずに投資をすることは絶対に避けなければいけません。
保有するのは全米株式インデックスと現金の2種類だけ
普通の人はこれだけでじゅうぶんです。
現代ポートフォリオ理論では、市場全部の株を時価総額加重平均で持つのが最適なポートフォリオだと結論づけています。
では"どの市場"を選びましょう? きるだけ大きなマーケットが望ましいです。全米やS&P500でいいでしょう。
ETFなら「VTI」や「VOO」、投信なら「楽天・全米株式インデックス・ファンド (楽天VTI)」や「SBI バンガード S&P500」が相当します。(できるだけコストの低いものを選ぶとこうなります)
これに全世界株式をくわえてもいいでしょう。「VT」や「eMAXIS Slim 全世界株式」など。
すなわち、
VTI & 現金
VOO& 現金
IVV& 現金
楽天VTI & 現金
SBI バンガード S&P500 & 現金
VT & 現金
eMAXIS Slim 全世界株式 & 現金
このうちの"いずれか"を選択することになります。
これだけで、ポートフォリオの効率(シャープレシオ)を落とさずに、リスク許容度を管理できます。
これ以外の持ち方をする必要は特にありません。「VOOとVTIと現金」や「VTと楽天VTIと現金」などのポートフォリオを作ることにあまり意味はありません。
むしろリスクの管理が難しくなるのでやらないほうがいいです。
高配当ETFやセクター別ETF(または投信)、レバレッジ系の商品、個別銘柄を合わせてもつ必要はありません。どれを組み入れても時価総額加重平均のバランスをくずしてしまいます。
いち早く資産形成したいなら、(全米株式か全世界株式どちらかの)「時価総額加重平均型のETFか投信1種類と、現金」これだけで問題ありません。
※国内株式インデックスや債券、REIT、コモディティなども混ぜた資産配分(アセットアロケーション)を持てというのがインデックス投資の"従来の"基本形です。それはリターンを大きく落とさずにリスクを下げる手法ですが、個人がやるには複雑過ぎます。リスクの計算が煩雑すぎてほぼ不可能ですし、複数の投資先を持つことで手間(時間コスト)もかかります。最適なシャープレシオの投資先(先述)1つと、現金。近年では、この組み合わせだけでリスク管理することが主流になりつつあるようです。私も勉強中です。詳しくは別の機会に。
本記事の構成
本記事では、まず「全米株式インデックスファンドと現金」について、理想的な現金比率の計算方法を説明します。「VTIと現金」「VOO(またはIVV)と現金」の方は、自分のことと思ってくださって結構です。
後半で、算出した現金比率をもちいて、実際の運用にどう活かすかを説明します。
最後に、全米株式インデックスファンド以外の投資先についても計算できるように、より一般化した計算式をご紹介します。
もう一度、目次を掲載しておきます。
目次
全米株式インデックス・ファンドに投資するときの計算式 ★必見
全米株式インデックスファンドの「ほぼ最大下落率」を-50%と考えます。-50%とした場合に、このファンドと現金との2種類でリスク許容度を調整する場合、以下の計算式がつかえます。
全米株式インデックスファンドの「ほぼ最大下落率」を-50%とし、これと現金との2種類でリスクを調整するとき、
あなたのリスク許容度が -T%の場合、あなたの資産配分における理想的な現金比率C%は、100から2倍のTを引いた値にしましょう。
計算式であらわすと:
理想的な現金比率C(%)
= 100 -(2 ✕ T)
※ただし、Tは50を超えない。
※「ほぼ最大下落率」とは、全米株式インデックスで実際に起こりそうな最大の下落率です。これ以上暴落することは絶対にないとは言えないので「ほぼ」をつけました。リーマンショックのときがだいたい-50%です。つまり、将来またリーマンショック級の景気後退が訪れることを想定しています。実際は、かなり小さい確率で、-50%を上回る暴落が来る可能性は残されています。ここでは、-50%くらい見ておけば、人生で経験する「ほとんどの暴落」に備えられるだろうという考えでこの値を採用しました。。本記事の最後に、この数値を変えられるような計算式を提示します。
※ただしTは50以下の数字とします。50より大きい数字、例えば-60%や-70%の下落も耐えられるよという人は、計算するまでもなく現金比率ゼロでいいですよ。だって想定している最大下落率が今回-50%ですからね。
具体的な数字を入れて確認してみましょう
例えば、あなたのリスク許容度が-40%の場合(40%の下落までなら精神的に耐えられるという意味)、T=40を代入して計算すればいいんです。
理想的な現金比率C(%) = 100 -(2 ✕ 40)
理想的な現金比率C(%) = 100 - 80
理想的な現金比率C(%) = 20
となります。
あなたにとって理想的な現金比率が20%とわかりました。リスク許容度の範囲内で、最大限 市場成長の恩恵を受けられるベストな配分です。
つぎに、暴落が起こったときに本当にリスク許容度-40%を超えないか、具体的な数字で計算して確かめてみましょう。
あなたの総資産は500万円とします。さきほど現金比率を20%と計算しましたので、資産配分はこうしました。
全米株式インデックス・ファンド 400万円(80%)
現金 100万円(20%)
計 500万円
「ほぼ最大下落率」で設定した-50%の大暴落がきたとしましょう。
すると、資産の評価額はこうなります。
全米株式インデックス・ファンド 200万円
現金 100万円
計 300万円
※現金は市場の下落の影響を受けませんので、評価額はそのままです。
資産全体でどれくらい下落したかを計算します。
合計の500万円が300万円になりましたので、-200万円ですね。
-200万円 ÷ 500万円 = -0.4
下落率は-0.4、パーセント表記では-40%となりました。
このように、「ほぼ最大下落率」の-50%の打撃を受けても、資産全体ではリスク許容度の-40%の範囲内におさまりました。こうやって、1種類のインデックスファンドと現金とで、リスクを管理できます。
おさらいです。
全米株式インデックスファンドの「ほぼ最大下落率」を-50%とし、これと現金との2種類でリスクを調整するとき、
あなたのリスク許容度が -T%の場合、あなたの資産配分における理想的な現金比率C%は、100から2倍のTを引いた値にしましょう。
計算式であらわすと:
理想的な現金比率C(%)
= 100 -(2 ✕ T)
※ただし、Tは50を超えない。
これで、リスク許容度の調整は基本的に終わりです。
どう運用するか
リスク資産(ここでは1種類の全米株式インデックスファンド)と現金との比率を決めたら、具体的にどのように運用すればいいのでしょうか。
それは簡単です。保有資産の中の現金比率がつねに先ほど算出したC%になるようにすればいいのです。
最初は、現金をC%を残して全米株式インデックスファンドを買いましょう。以降、追加購入するときも、常にC%を残しつつ買っていくだけです。
事例でご説明します。
最初
例えば、あなたは今、手持ちの現金200万円を使って投資を始めようと思い立ったとします。
自分のリスク許容度は、頭で考えた結果、-35%と設定しました(T=35)。すると先ほどの計算式から「理想的な現金比率は30%」と導き出されます。
※ここでも全米株式インデックスファンドの「ほぼ最大下落率」は-50%としています。
ネット証券口座を開設し、200万円を振込みます。
そして、30%の60万円を現金のまま置いておき、残りの140万円で当該ファンドを購入します。
※売買手数料無視。
これをやるだけです。投入資金を(100-C)%とC%に分けて、(100-C)%の方で全米株式インデックスファンドを買えばいいのです。
追加購入
あなたは今後毎月、給料が入るたびに、このインデックスファンドを追加購入したい。
毎月の給料から投資にまわせる金額は60,000円です。
そこであなたは、毎月60,000円を証券口座に振込みます。
そして、そのうち30%である18,000円を現金で残し、42,000円を使って当該ファンドを買い増ししていきます。
入金できる金額が増えても減っても同じです。追加購入するときも、(100-C)%とC%の比率をたもって買付けしていくだけです。簡単ですね。
ルール「リスク資産と現金の比率を一定にたもつ」
このようにしてリスク資産と現金の比率を一定にたもっていけばいい。それだけです。
つねに現金比率がC%であることを管理していけばいいわけですが、インデックスファンドは株価が変動します。そのため現金比率C%も日常的に動いています。
その場合は、毎月購入するときに、購入額を調整すればいいでしょう。
例えば、最初ファンド140万円(70%)、現金60万円(30%)のバランスだったのが、一ヶ月後に、ファンド評価額147万円(約71%)、現金60万円(約29%)となっていたとします。
70:30の比率に戻すには、次に追加入金する60,000円を、ファンド買い増し約20,000円、現金で40,000円とすれば、ファンド評価額149万円(約70%)、現金64万円(約30%)となり、元の比率に戻すことができます。
これをアセットアロケーションのリバランスといいます。
毎月このような細かい計算をするのは、骨が折れます。実際にはアセットアロケーションのリバランスはここまで細かくなくてもいいでしょう。
数%くらいずれてもいいように、Tの値を厳しめにしておけばいいでしょう。そうすれば、現金比率が多少ずれても、急激にリスク許容度を超えることはありません。
もしくは、毎月60,000円をとりあえず現金で残しておいて、リスク資産の比率が大きく下げたときに不定期で買うというものいいでしょう。
リスク資産を売却してまでリバランスするのは、あまりおすすめできません。なぜなら課税で売却益の約2割を失うからです。
より一般的な計算式 ★超必見
最後に、他のリスク資産にも応用できるように、一般的な計算式をご紹介します。
先ほど、具体例で説明するために「ほぼ最大下落率」を-50%としました。しかし、当然ながら、他の投資先ではこの数字が変わります。
より一般的にするため、下落率を「-D%」とおきます。みなさんがそれぞれ保有しているリスク資産に応じてみなさん自身が推定し代入してください。
すばり計算式は、以下のとおりです。
投資するリスク資産全体の「ほぼ最大下落率」を-D%とし、これと現金との2種類でリスクを調整するとき、
あなたのリスク許容度が -T%の場合、あなたの資産配分における理想的な現金比率C%は、
理想的な現金比率C(%) =
{ (D - T) ÷ D }✕ 100
※ただし、TはDを超えない。
我ながら簡単な式に変形できたのでおどろいています。ぜひ「小淵の現金比率公式」とでもよんで広めてください。
Twitterで検算してくださった犬ぼっくりさん(@inu_bokkuri)をはじめ、ご自身の数字を入れたりしてリプをくださった方々、この場を借りて感謝申し上げます。
今回は、TやDをどのように算定するかという議論ははぶきました。Tは投資家それぞれの環境や心で決まるものですので、私がこうあるべきと言うことはできません。またDも、多種多様な投資先がありますので、一概には言えません(また、同じ投資先であっても標準偏差の何倍まで下落すると見るかなどについても個々の考えで異なります)。
特にDは、1種類のインデックスファンドであればある程度容易に見積もれますが、複数のインデックスファンドとなると、算定が非常に難しい。時価総額加重平均のインデックスファンドが最も効率がよいという事実をふまえると、投資先が1種類であることは尚更メリットがあることになります。
VTIと現金だけ。VTと現金だけ。このようなポートフォリオが大変優秀であることをぜひ知っていただきたいです。
ビュッフェレストランのように、なんでもかんでも手当り次第にETFや投資信託、個別株をお皿に盛る投資法は、実はとてもヘンなんです。
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