無様屈服ワンちゃんばかりのこの世界で俺は巨乳好き 作:クゥン
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僕は件の友人を連れ、学食に来た。
掘り返さない、掘り返さないとは言ったが……少し志賀の状況を探る必要があると思う。
「今日の日替わりカレーうどんか親子丼だってよ」
「白い服だからうどんはパス。親子丼で」
「んじゃ俺カレーうどん……いややっぱアジフライ定食で」
「なにそのフェイント」
「なんかカレーうどんにするなっていう啓示が下った」
でも実際どう切り出したものか。
こういうとき、こいつはのらりくらりとかわすのが結構うまい。
なるたけ自然に、違和感が無いよう聞かないと……
「……今気づいたけど、なんか肌焼けた?」
「あー、こないだ海行った。……そういや言ってなかった、最近先輩……先輩?の友達が出来て、その人と行っててよ」
……は?
は???
こいつ僕の心配をよそに海行って遊んでたんか???
「ふぅーーーーん?友達ほっぽらかして海?海行ってたんだ?へぇーーーー!」
「わりぃ……。色々あったんだよ。成り行きとか、調査とか、興味とか……」
「いくらなんでも語るに落ちてるだろそれはぁ」
調査って言うけど成り行きと興味は絶対その場の雰囲気だよね?
それは通らないでしょぉ……
「にしても先輩?なんでまた。講義中じゃないとしたら、どっから交流生まれたのさ」
「図書室でレポート書いてたら罵倒された」
「縁切った方がいいよ」
絶対ロクでもないよその人。初手罵倒て。
跡部様だってそこまでされたらキレる。いやキレないかも……跡部様だし……
「なんでそんな悲しいこと言うんだよッ!何が悪ぃってんだよ!」
「客観的に聞いたからだけどっ!?初手罵倒は普通縁切るだろうがよぉ!」
「確かに」
こいつ……っ!
おちょくってんのか天然なのか分からないのが腹立つ……っ!!
「つーかそれを受け入れる君も君だろ。なんなの?寛容度高すぎでしょ、ふ面女かよ」
「そっから色々あったなぁ。うちにもちょいちょい来てたし、飲み行って相談事してたり」
「ほんとよく付き合い続けられたね!?」
「そこはほら、そん時訳あって色々追い詰められてる時期だったんだよ。お前らに頼むのも……ちょっと憚られてな」
「それ言われちゃうとなぁ……」
やっぱり彼の身に何かあったのは間違いないらしい。
先の質問、メスガキ云々がそれに関連するのかもしれないが……
その質問が『今も進行中』だから出た質問なのか『解決に向かっている』からなのかまでは分からないな。
やっばい、あんまり考えたくないなこれぇ……
「……東なら……まぁ大丈夫だろ。会ってみるか?」
「え。いいの?」
おっと急展開来たな?
平静を装っているけど一限からこっち、展開がジェットコースターでもう僕頭おかしくなりそうだぁ。
「電話出っかな……あ、もしもし先輩、今だいじょぶっすか」
『はいはーい。どしたのぉ?レポートダメだし食らった?』
「お陰様で違いますぅー。暇です?」
『午後講義ないから暇だけど』
「ちょっと学食来てくれません?俺の友達も一人いるんすけど」
『ご飯?いいわよー、どうせ一人だったし。面拝んだろうじゃないの』
「何キャラ?席取ってるんで。おなしゃーす。……今来るってよ」
「まぁじでぇ?」
ちょっと待てよぉ。
電話の声は聞こえないけど、もう結構いっぱいいっぱいだよ僕ぅ。
「ちなお前がさっき食い入るように見てたレポート、あれ先輩のアドバイス込々だから」
「お礼を言わないといけないねぇ!いやぁ来るのが待ち遠しいよ!」
「現金すぎんだろ」
「道理で志賀が作ったと思えない出来だったわけだ」
「喧嘩か?喧嘩売ってんのか?買わねぇぞ」
「買わないのかよ」
いやぁまさかまさかあんなに素晴らしいレポートを書いて下さっていただなんて。
これあれだな、僕もなるたけ懇意にさせていただく他ないなぁ!
「ふっふっふ……!」
「……どーせ頭の悪いこと考えてんだろうなぁ」
ふむ、来るのにまだ少しかかりそうだし……
折角だから今まで出てきた情報から『先輩』への考察をしてみようかな。
さっきの志賀の声色からかなり親し気。
つまり上下関係を気にしない、おおらかな人かな?
しかも志賀との仲はかなり良さげ。
電話の声は聞こえなかったけど、志賀を見た限り悪い人とかではないだろう。
「あれ?こうはぁい?後輩どこー?」
「せんぱーい。こっちこっち」
ただ割と最近に付き合いが始まり、それで海に行ってた訳だよね?
ってことはバリバリ陽キャのコミュ力極振り人間って可能性もある。
レポートの助言から始まったと予想するに、その線はかなりある。
「あっ、いたいた。荷物お願いしていい?」
「うーっす、どぞー」
「ご飯取ってからまた来るわねぇ」
そうだとしたら正直、ちょっと、かなりキツい。
真面目系ならともかくウェイ系だったら僕無理かも。
志賀が影響されやすいタイプだったらそれもすぐ分かるだろうけど、そんなことないしなぁ。
「お待たせー。よいしょっと」
「親子丼っすか。誘っといてなんですけど、先輩普段弁当作ってませんでしたっけ」
考えられるのは親切なノリのいい優男系、あるいは兄貴肌で頼りがいのある男前。
つまり僕の予想ではプロトな騎士王タイプか、あるいはケルトのバーサーカーな王様っぽい人。
これは間違いないだろう。そうであってほしい。僕の眼の保養の為にも。
「昨日飲み行ったじゃない?寝坊したわ」
「すんません」
「引きずった私が悪いしー」
志賀もまぁまぁ顔はいいけどややダウナー系だし、なら尚更似たもの同士なら陽気に海に出たりはしないよね。
やはり陽キャ系に間違いはない、それにきっと背は志賀より高くて……
「……」
「あっ、やっと帰って来たな。紹介しとくぞ。この人が俺の先輩兼ゲーマー兼何か」
「何かって何?私は都市伝説かなにか?……一ノ瀬愛佳でぇすっ!よろしくねぇ」
「うわキツ」
「表出ろ」
ちっちゃい。
「ちっちゃい」
「おい後輩。あんたの友達可愛い顔で初手ライン超えたわよ」
「大学生でそのライン超えない人間いねぇよ」
「分かってるわよんなこたぁ!!」
ちっちゃくて、なんか可愛い。
え、かわ、かわいい。
なにこれ、ドレス?ロリータって言うんだっけ?
え、可愛すぎ。
「くそっ、やってられないわね。後輩ちょっとそれ取って」
「ほい七味。まーまーそう言わず。つかそれはもうしゃーねーっすよ」
「可愛いと小さいは言われすぎてんのよこっちは。もっと違うとこ褒めて欲しいわ」
「わがままか」
待て待て待てそれよりさらっと志賀の隣座ってるその可愛い子だれ?
さらっとやってるけど『それ』で会話が成立してるし。
「す、すみません。東 夕貴と申します」
「あらご丁寧に。さっきも言ったけど一ノ瀬 愛佳よぉ」
「ちょっと、口んとこついてますよ。ほらこっち向いてください」
「むぅー」
えぇ……
すっごい自然に口拭いてる……!?
「あ、あの、一ノ瀬先輩……?」
「んー?なにぃ?」
「唐突ですみません。その、ふ、二人は付き合ってらっしゃる……?」
「「……」」
「「いいや?」」
「嘘でしょ」
嘘でしょ。
それは絶対嘘。
「なんで?いやおかしいでしょ。その距離感は絶対おかしい」
「友達だしそういうもんじゃねぇの?」
何言ってんだこいつ。
異性で友達が成立云々は置いといたとしてもその行動はおかしいだろ。
いや場合に寄っちゃ恋人でもしないだろぉ!?
「志賀だしそういうもんじゃないの?」
「普段からそういうもんなの!?」
この人はこの人で変な毒され方してるな!?
いや確かに志賀は距離感近いとこあったけど、僕はこんな近く無かったよ!?
「……いや、さっき家に来たり飲みに行ったりしてるって」
「おう」
「変な虫も寄らないし、こいつの家ゲームいっぱいあるし?」
「あぁもう僕限界」
考えるのやーめた。
これ以上は僕バカになるわ!!
「心配して損したよクソバカ野郎が」
「そこまで言うことなくねぇか!?」
「そうよそうよ。確かにこいつはバカだけどそこまで言うことないじゃない」
「クソチビ先輩も何言ってんすか?」
「しばき倒すわよっ!?」
もうなんなん?
友達はメスガキがどうこう言いだすし、連れてきた先輩はなんか……そういう可愛い生き物だし。
……あーでも、なんか読めてきた。
多分誰かが志賀の前で、この人のことメスガキって呼んだんだ。
んでメスガキってなに?って本人に聞くわけにもいかなくて僕に聞いて来たとかなんだ。
子供に近寄りたがらないのに、一ノ瀬先輩と知り合えたのは構内で出会ったからかな?
いやにしては距離感近いな?いやそこはあまり突っ込むべきじゃないかもな……
そうすると残す疑問はここ最近、距離を取ってた悩みってことだけなんだけど……
「アジフライちょっとちょうだい」
「んじゃ親子丼一口ください」
「やだ」
「は?」
……もう解決してんじゃないかなこれ。
いや、表に出してないだけかもしれない。
志賀は誤魔化しはぐらかしが上手いし。
「せめて等価交換守ってくれません?」
「私からのお礼で等価でしょ?」
「ハッ」
「鼻で笑いやがったわねぇ!?」
というか何で僕がこんなに悩んでんのにこいつらイチャついてんの?
馬鹿なの?死ぬの?
思考回路絶賛混線中だが?
「……ハァ」
「おっ、どした東。ため息つくとなんか色々あれらしいぞ」
「君のせいだよ」
「ひどくね?そう思いませんか先輩」
「残当」
「クソがっ」
それとなく目をやりつつ、なんかあったら手を貸せばいっか。
それ以上は望んでないだろうし、先輩に悪い。
いや明らかにこれはもう好きあってるでしょ。
割り込むなんて無粋無粋。
「ねぇ、東ちゃん……で合ってる?」
「は、はぁ。東ですが」
え、なに?めっちゃ笑顔で声かけてきた。
恐い、普通に怖い!
人のもんに手ぇ出すな焼き入れるわよ的なあれなの!?
「んーん、そういうんじゃなくてぇ……東、ちゃん、よね?」
「……? あ、あーそういう!はい、そうです」
うっそ、やばっ、一発で女って見抜かれたの?
この聞き方、絶対確信持って聞いてきてるじゃん。
「やっぱり?ふふん、これでも服装にはちょっと覚えがあるからね!」
「あの、あれですよ?別になんか意図があってってわけじゃ……」
「ん?なにが?着たい物を着ればいいじゃないの」
「その服で大学に来てる先輩が言うとすごい説得力ですね」
「でしょ?」
ほんと凄い説得力。
めっちゃ見られてるのに微塵も気にしちゃいないよ。
「えっ、なに、なんの話?先輩と東にしか分かんねぇこと?」
「黙れ。……ねっ、今度お茶しながらお話しましょ?連絡先もらっていい?」
「も、もちろん、全然いいですけど」
「やったっ」
「俺の扱い酷くねぇ?」
いやもう君はそれでいいよ。
むしろずっとそのままでいて欲しい。
でも、志賀がこの人と仲良くなった理由がちょっと分かった。
何か、凄く自然に『この人とは合う』って感じたんだ。
あるいは、この人には何か、そういう惹かれる何かがあるのかもしれない。
確信はないけど、長い付き合いになりそうな気がするなぁ……
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