photo: Toshihiko Kono © Heibonsha

第五十三候 霎時施 こさめ ときどき ふる


 秋雨のようにしとしと降り続くのではなく、ぱらぱらと滴(しずく)を散らしてじきに止んでしまうような雨です。地面に重なる落ち葉に蕭々と降る雨はどこかもの寂しく、無常を感じさせます。11月に入れば太平洋側では晴れの日が続くようになりますが、日本海側は曇りがちで、空を見上げて初雪を待つ日々がやってきます。


此秋は何で年よる雲に鳥
芭蕉

元禄七年五月、江戸を出発した芭蕉は生前最後の旅に出る。東海道から郷里の伊賀上野を経て大坂へ。その旅の途中で詠まれたこの句、「旅懐」と前書がある。「今年の秋はどうしてこんなに年老い衰えた気持ちがするのだろう」という独白に、「雲に消え入ろうとする鳥」という風景を取り合わせた。ここに象徴された心情は、老衰への嘆きばかりではあるまい。人生や芸道への深い思慮にともなう寂しさがあろう。元禄八年『笈日記』所収。(押野 裕)

松尾芭蕉 まつおばしょう (一六四四─九四)
伊賀上野(三重県)生まれ。俳諧師。北村季吟門。蕉風と呼ばれる芸術性の高い境地を俳諧に確立。俳諧選集『猿蓑』、紀行文『おくのほそ道』など。今や世界的に知られる俳人。



旬のさかな のどくろ 喉黒


 水深百〜二百mの浅い海に棲む魚で、体を彩る鮮やかな赤が目を引く。和名は赤むつだが、喉黒の方がとおりがよい。「日本海の赤い宝石」の異名をもち、しばしば太平洋のキンキと対比される。「超」がつく高級魚であることから鮮魚はもっぱらデパートや一流店で扱われ、スーパーでお目にかかれるのは干物くらいである。開き干しを見ると、名前のとおり喉だけが黒くなっているのが面白い。
 脂ののりがよく、「白身のトロ」と賞される。新鮮なものならまず刺身。塩焼きや煮つけにしてもふんわりやわらかく、とろけるような味わいが楽しめる。



旬のやさい さつまいも 薩摩芋

『春夏秋冬えごよみ事典』より「軒並焼芋屋家業を営む図」

 食物繊維が豊富でお通じによいというイメージが先行しているが、ビタミンCをはじめとするビタミン類やミネラルをバランスよく含み、栄養価は極めて高い。凶作の年でも収穫されることから、江戸時代に広く普及した。二大品種は関東で人気を集めているベニアズマと、鳴門金時に代表される高系 号。ほかにもオレンジ色の果肉が特徴の種子島産の安納芋、淡黄色の皮と黄白色の果肉をもち焼酎の原料にもなる黄金千貫、皮も果肉も紫色のパープルスイートロードなど、さまざまな種類がある。
 選ぶときに注目すべきは切り口。蜜が出ていたり、蜜の跡が黒く残っているのは糖度が高い証拠だ。調理の際は低温でじっくりと加熱し甘みを引き出すのがコツである。



旬のくだもの りんご 林檎


 世界には一万五千種、日本だけでも二千種の林檎があるという。以前は赤く美しいものが追求されたが、最近では味のよさを優先した無袋栽培や葉取らず林檎が増えた。「サンふじ」や「サン津軽」など、頭に「サン」がついているのは、袋をかけず日光に当てて育てられたもの。
 「一日一個の林檎は医者要らず」というが、意外なことにビタミン類に関しては卓越したものはない。それよりも食物繊維のペクチン、カリウム、ポリフェノールが多いのが特徴で、整腸作用や高血圧予防などが期待できる。
 切った林檎を変色予防に塩水などにさらすのはご存じのとおりだが、茶色くなってしまった林檎もレモン汁につけておくと元に戻る。



季節のたのしみ しょくようぎく 食用菊


 十月下旬から十一月にかけて各地で菊人形の祭りが行われます。山形県南陽市や福島県二本松市などが有名です。
 食用菊も秋が旬。和え物やおひたし、酢の物など、食べ方はお好み次第です。調理するときは沸騰した湯に塩と酢を入れてさっと茹でます。酢を入れるのは色よく茹であげるため。歯ざわりが身上なので茹ですぎないように注意しましょう。
 なお、漢方では菊は目の薬として知られ、目の充血や腫れ、痛み、視力の低下に効果があるとされています。自律神経を安定させる働きもあり、解熱作用やリラックス効果も期待できます。