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「親の権利」から「子の安全」へ〜共同養育を進めた国で起きている方針転換

「親権」をめぐる海外の経験に学ぶ

阿部 藹 琉球大学客員研究員

英豪の経験が示唆すること

問題は、親子の交流が「常に望ましい」か

 離婚後の子の養育について、子どもと”両方の親”との継続的な関わりを重視する立場から同居していない親と子どもの面会交流を推進してきたオーストラリアやイギリス。今これらの国々では、 “両方の親”との関係継続よりも子どもの安全と健全な環境を守ることを中心に据える制度に変えていこうとしている。

 この背景について、小川教授はこう分析する。

 小川
 私も親が離別(離婚)した後でも親子の交流はできるだけ継続することが望ましいと思っています。けれど問題は“親子の交流が常に望ましいか”という点です。一般的に「親は必ず子の為になる行動をする」という考えが社会で共有されており、法制度もこの前提で作られています。しかし残念ながら現実的にはそうでない親もいます。また、親が離別するということは、父母が「離別しなくてはならないなんらかの対立状況にある」ということで、子どもの養育について二人の考えが一致しないことも多い。法律などなくても円満に交流を続けられる父母や親子は良いのですが、考えが一致しない、または葛藤や問題がある父母もいる。法制度はそうした親にどう対処するべきか、ということを考えなければなりません。

 子どもの権利について定め、196の国と地域が締約している「子どもの権利条約」では、子どもがその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保し、父母のいずれとも関わりを維持する権利を尊重するよう各国に求めている。しかし一方で、子どもが父母や監護者から虐待を受けている場合は、保護するためのあらゆる措置を取ること、そして何より子どもに関するすべての措置について、「子どもの最善の利益」を考慮することを求めている。

「親権」に潜む親の権利性、子どもの利益を基本に据えた議論を

 今、日本では離婚後の共同親権に関する議論が進んでいるが、そもそも「親権」という言葉にも、親の権利性が色濃く反映されているように思う。小川教授によればオーストラリアではすでに権利性を想起させる「親権」や「監護権」という用語をなくし、「親の責任」や「養育」という用語を使用しているという。その背景には子どもを“分別がなく、親からの躾や保護、管理を必要としている弱い者”ではなく”小さくとも権利を持つ1人の人間”として尊重するという考え方がある。

 親の離婚は、双方の親にとっても大変な事態ではあるが、子どもにとっては生きる土台が揺らぐほどの衝撃を与える出来事である。そんな時に最も重視するべきは何か? イギリスやオーストラリアがその経験を調査して辿り着いたのは親の権利や親との関わりの前にまず、“子どもの安全と健全な環境こそが子どもにとって最善の利益”であるという答えだった。

 日本においても、これらの国々の経験から学び、何よりも「子どもの安全と健全な環境」を基本に据えた議論が進むことを願ってやまない。

 【注】
(1)“Assessing Risk of Harm to Children and Parents in Private Law Children Cases”, 77ページ参照 https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/895173/assessing-risk-harm-children-parents-pl-childrens-cases-report_.pdf
(2)“Assessing Risk of Harm to Children and Parents in Private Law Children Cases”や “Domestic abuse and private law children cases” https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/895175/domestic-abuse-private-law-children-cases-literature-review.pdf
(3)“Assessing Risk of Harm to Children and Parents in Private Law Children Cases”, 171-175ページ参照

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筆者

阿部 藹

阿部 藹(あべ あい) 琉球大学客員研究員

1978年生まれ。京都大学法学部卒業。2002年NHK入局。ディレクターとして大分放送局や国際放送局で番組制作を行う。夫の転勤を機に2013年にNHKを退局し、沖縄に転居。島ぐるみ会議国連部会のメンバーとして、2015年の翁長前知事の国連人権理事会での口頭声明の実現に尽力する。その後仲間と共に沖縄国際人権法研究会を立ち上げ、沖縄の諸問題を国際人権法の観点から分析し情報発信を行っている。2017年渡英。エセックス大学大学院にて国際人権法学修士課程を修了。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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