舵を切るイギリス
面会交流優先の文化を定着させた2014年改正とその弊害
離婚後の子どもの養育について、“両方の親”との継続的関わりから「子どもの安全」を最優先する方針に転換しようとしている国はオーストラリアだけではない。重要な先行事例となっている国のひとつがイギリスだ。
イギリスでは2014年に児童法が改正されたのだが、その際、離婚後の親子の関わりについて、「子どもが危害を受けたり、その危険性があることを示す証拠がない限り、親子の関わりを継続することが子の福祉を促進する」という推定が盛り込まれた。つまり、“よほどの例外を除いて、親子の面会交流は子どもの育成にとって良いものだ”という考え方が法律の土台に据えられたのだ。これによって、同居していない親と子どもの面会交流を優先する文化(=プロコンタクトカルチャー)が定着した。
このプロコンタクトカルチャーによって、裁判において、子どもの身体の安全や意思よりも面会交流が重視されるようになった。例えば、子どもの養育に関する裁判にかかわる専門家は、前述の司法省の調査において以下のように証言している。
親としての権利が子どもの意思や感情よりも優先されるという前提があるように感じることがありました。例え親が虐待で有罪判決を受けていても、その親の行動や子どもの意思を考慮せず、その親との接触に同意するように子どもを説得することが自分の役割だと考えているようなソーシャルワーカーも散見されました。(注1)
ここで留意しておかなければならないのは、イギリスは面会交流を重視する姿勢をとってはいるが、それと同時に離婚後の家庭内暴力や虐待の被害者を保護する制度も整備してきたということだ。例えば、親が虐待をしている疑いがあれば、裁判所は事実調査を行う外部の専門機関を活用でき、また安全に面会交流を行えるように「監視付きの面会交流施設」も各地に整備されている。そのような国においてもなお、プロコンタクトカルチャーの定着によって、子どもや同居している親の安全が軽視されるケースが多発したのだ。
「直ちに見直せ」 根本改革を求めた司法省報告書

イギリス司法省の報告書“Assessing Risk of Harm to Children and Parents in Private Law Children Cases”
これらの問題を重くみたイギリス司法省が昨年6月に公表したのが、冒頭の報告書だ。離婚後の子どもの養育をめぐるリスクについて、専門家や当事者である子どもや親、支援団体などを含む多様な関係者への調査を行った上で取りまとめられた
(注2)。
1200件以上の回答を得てまとめられたこの報告書では、離婚後の子どもの養育に関する制度を「根本的に改革」する必要があるとし、特に児童法における「子どもが危害を受けたり、その危険性があることを示す証拠がない限り、親子の関わりを継続することが子の福祉を促進する」という推定について「直ちに見直す」ように勧告した。
イギリスもまた、面会交流を優先する法制度から訣別し、子どもの安全優先へと舵を切りつつある(注3)。