【KYOTOGRAPHIE 2020】― 写真家 外山亮介が捉えた日本の職人

2020年9月19日より開幕の第8回『KYOTOGRAPHIE 2020 京都国際写真祭』参加作品より。

外山亮介
左/《種》 2008 © 外山亮介 右/《芽》 2018 © 外山亮介

「内面をすくい、魂を写す」
若手職人のポートレート作品たち

「シャッタースピードは1分から3分。職人の思いをすくい取るように」-外山亮介

1980年生まれ。写真家として、映像作家として活躍する外山亮介さんが、2008年、全国の伝統工芸を継ぐ若手職人20人のもとを訪れ、撮影したポートレート作品《種》から10年。ふたたび職人たちのもとへ向かい、自作の巨大カメラ、アンブロタイプ(ガラス湿板写真)を使って撮影した作品《芽》を完成。10年の歳月をかけた作品には、過去現在未来へと紡がれる「職人の魂」が宿っています。

外山亮介
高嶋克郎
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小嶋俊-京提灯

寛政年間創業。京都・今熊野で代々家族で京提灯を作る「小嶋商店」の小嶋俊さん。「兄の俊が竹を割り、弟が和紙を貼り、父が絵付けをする。暮らしと仕事の境界がないのが印象的」と外山さん。《芽》より。

外山亮介
photo=高嶋克郎

千代鶴貞秀-播州三木打刃物

兵庫の伝統産業、播州三木打刃物の鍛冶職人、千代鶴貞秀さん。「炉で鉄を熱する。火花が飛び散り顔を打つ。文化を支えるための道具を作る職人としての自負を感じた」と外山さん。《芽》より。


[写真家 外山亮介×「両足院」副住職 伊藤東凌×建築家 竹内誠一郎]

【特別鼎談】「半眼」の眼差しで

『KYOTO GRAPHIE』は、展示空間と作品とのコラボレートも魅力のひとつ。そこで、今回の会場「両足院」副住職の伊藤東凌さん、会場構成を手掛ける建築家の竹内誠一郎さんを交え、見どころを教えていただきました。

kyotographie2020
〈右〉建仁寺「両足院」副住職の伊藤東凌さん、〈中〉写真家の外山亮介さん、〈左〉建築家の竹内誠一郎さん。撮影=高嶋克郎
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伝統工芸の職人を撮影するのに外山さんが選んだカメラは、巨大な自作のアンブロタイプ(ガラス湿板写真)。その理由とは?


伊藤東凌さん
(以下、伊藤)等身大の姿はやはり迫力があります。なぜ職人を撮ろうと思ったのですか?
 

外山亮介さん(以下、外山)実家がきものの染屋で。2008年28歳のとき、実家を継いでいない後ろめたさがあり、ややもすると下火になりつつあった工芸の道を選んだ同世代の想いを知り、形にしたいと思いました。
 

竹内誠一郎さん(以下、竹内)最初の作品《種》を撮影された時、10年後にまた撮影することをすでに決めていたのですか?
 

外山 はい。職人は気持ちをあけっぴろげに話す人たちではないと頭にあったので、その気持ちをどうにか肖像に表出させられないかと思い、10年後の自分宛てに手紙を書いてもらうことにしました。そのとき、10年後にもう一度写真を撮りに来る約束をして、封をした手紙を預かりました。2018年の撮影時は、その手紙の封を切り、読んでもらってから撮影に臨んだんです。
 

伊藤 やはり、手紙を読むと職人の表情は変わるものですか?
 
外山
「過去現在未来のことを考えてください」と伝えると、みなさん表情がしゅっと、格好よくなられます。それに加え、10年後の《芽》の作品シリーズは、アンブロタイプでの撮影というのが大きかったかもしれません。アンブロタイプというのは、フレデリック・スコット・アーチャーが1851年に発明した写真黎明期の技法で、ガラス板に薬品を塗布し、撮影、現像するガラス写真です。
 

竹内 これを実践するために自作で巨大カメラを作られたとは驚きです。
 

外山 伝統工芸の重みに負けないような撮影方法を模索した末、アンブロタイプに辿り着きました。写真が工業化される前の技法なので、素材から手で作る職人を撮影するのにちょうどいいと思ったんです。写真を撮るときは、1分半から3分間、カメラの前でじっと止まってもらいます。職人の内面を掬い上げるにはどう撮影すべきか、考えた結果です。
 

伊藤 目に見えないものを掬い上げる。これは現代の効率主義のなかでこぼれてしまいそうな価値観を掬い上げることにも通じます。私も過去にアンブロタイプで撮影されたことがあるのですが、カメラの前でじっと止まっていないといけないのでとても緊張しました。昔の人は写真を撮ると魂が吸い取られるといいましたが、まさしくその感覚です。
 
竹内
外山さんの作品は、目を凝らして見すぎると見えなくなる。物質にし切れない魂のようなものを写した作品なので、「そのままでは見えないんだよ」という作品メッセージを会場作りのコンセプトにしました

外山亮介
床いっぱいの巨大なアンブロタイプのカメラ。手作りの痕跡が残る
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外山亮介さん
「僕の作品は、光の中では見えにくい。だからこそ、伝わるものがある」―外山亮介さん

伊藤 なぜ庭と室内の間に黒い御簾を掛けることを思いついたのですか?
 

竹内 昔、両足院で座禅をさせてもらったとき、そこで「半眼」を学びました。あえて視覚情報を減らし、普段、目で得ようとしている情報をシャットアウトして別のものを見ようとするやり方で、それがヒントに。空間そのものが、「半眼」のような装置になると、両足院で開催する意義も重なってくると考えました。
 

外山 「半眼」の眼差しは、自分の作品の意図にも通ずるところがあります。

竹内誠一郎
書院の会場模型。庭側に黒い紗の布を配し、周囲からの光を制御。
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竹内誠一郎さん
「黒い紗の幕を配し、視覚情報を減らして『半眼』の空間を作ります」―竹内誠一郎さん
 

伊藤 瞑想的な展示ですね。五感を活性化させる「半眼」の空間があって、五感が充実してくるともう一段階上の、普段は意識しない深層意識が呼び覚まされる。職人が写る作品を前に、この人、この目はどこを見ているんだろう、一方で、ガラスに写り込んだ自分の姿を見て自分の人生についても振り返ることになる。まさに、そのヴィジョンとの交流であり、魂との交流です。非常に意義のある体験になると思います。

竹内 スピード勝負の時代に長い時間軸で作品作りをされる外山さんの活動そのものが貴重な存在。ヴィジョンや確信があるからだと思います。

両足院
「両足院」書院前の池泉廻遊式庭園。奥にある茶室も会場となる。
高嶋克郎

伊藤東凌さん
「反射するガラスに自分が写る。自分とも向き合う瞑想的な作品」―伊藤東凌さん


伊藤
混沌とした時代、「ヴィジョン」はいま重要なテーマだと思います。

外山 「おまえはどうなんだ?」。そんな問いかけの作品になっています。工芸は、職人が自然と共生し、育んできたもの。このサステナブルな存在が、いまある地球問題を解決するヒントになればと願い、作品づくりをしていきたいと思います。

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とやまりょうすけ◉1980年生まれ。写真家。TVCM 制作会社勤務後、カメラを片手に中南米を巡る旅へ。 帰国後、鹿児島から北海道まで桜前線を追いかけ写真を撮る。スタジオ勤務、NGOのアシスタントカメラマンを経て現在に至る。

いとうとうりょう◉1980年生まれ。臨済宗建仁寺の塔頭「両足院」副住職。かつて「寺」が文化交流の場であり、芸術創造の場であったことにならい、現代作家にレジデンスとして場を開放したり、ともに制作活動を行ったりしている。
 
たけうちせいいちろう◉1983年生まれ。建築家。東京大学工学部建築学科卒業後、安藤忠雄建築研究所を経て2016年、竹内誠一郎建築研究所設立。京都を拠点に、別荘、 ホテル、個人住宅などの建築プロジェクトを進行中。

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外山亮介「導光」/KYOTOGRAPHIE 2020
presented by Kiwakoto 
会場:建仁寺「両足院」
京都市東山区大和大路通四条下ル4丁目小松町591

「KYOTOGRAPHIE」×「Kiwakoto」ワークショップを開催
職人技を軸にしたプレミアムなプロダクトを提案する「Kiwakoto」にて、外山亮介さんと彼の作品の被写体の一人、指物師の兵働知也さんによる本格的な木工(指物)のカメラオブスキュラを作るワークショップが開催される。指物の伝統的技法である、米をつぶした糊を使い、木釘を打って箱を組み立て、かんなで微調整をする工程などを自ら行い、自分だけの木工カメラオブスキュラを制作することができる。

日時:2020年10 月 3 日(土)①10 時~ ②14 時~の2回 ※所要時間は2時間半~3時間
会場:Kiwakoto本店(京都市中京区河原町通二条上ル清水町359 ABビル1階)
tel.075-212-0500 
参加費:5,000円(税込)
定員:各回4名(感染対策のため、同伴者がいる場合は事前に人数をお伝えください) ※お申し込みは電話または、メールinfo@kiwakoto.comにて受け付け


KYOTOGRAPHIE 2020 京都国際写真祭
2020年9月19日~10月18日
コロナ禍で例年の春から秋に延期され開催を迎える。第8回目となる『KYOTOGRAPHIE 2020』のテーマは「VISION」。世界の多様な視点によって作られたさまざまなヴィジョンを集めた写真から次世代の未来を想像し創造する。

詳細はこちら

kyotographie2020
©Pierre-Elie de Pibrac / Agence Vu’ Presented by CHANEL
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撮影=高嶋克郎 
『婦人画報』2020年10月号より

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