自民党が、イージス・アショアの代替案と、「相手の領域内でも攻撃を阻止する能力」の検討を政府に求める提言を行った。中心となった小野寺五典・元防衛相は阻止能力について「ミサイル攻撃に対処するには、『盾』の位置を変える必要がある」と説く。「この能力は日本の技術でより安く開発できる」
(聞き手 森 永輔)
自民党は8月4日、小野寺さんたちが中心となって、「抑止力」をテーマとする提言を政府に提出しました。河野太郎防衛相が6月15日、イージス・アショア配備計画の停止を明らかにしたのが契機でした。提言の最初の項目が「イージス・アショア代替機能の確保」となっています。どのような代替案が最適とお考えですか。
以下の3案が浮上しています。(1)レーダーと発射機の分離配備。レーダーは従来の計画通り地上の施設に配備。一方、迎撃ミサイルの発射装置は海上に置く人工浮島(メガフロート)や艦艇に配備する。(2)レーダーと発射機の両方を人工浮島などに設置。(3)イージス艦の数を増やす。
小野寺:イージス・アショアに代わるミサイル防衛システムを重視していますが、どのような代替案を選ぶかは防衛省・自衛隊の専門家に任せるべきだ、と考えています。彼らが最も詳しく、必要な情報を持ち、米国と協議してきたのですから。まずその提案を受けた上で、政治の場でしっかり議論したいと思います。
衆院議員。1983年に東京水産大学を卒業、1993年に東京大学大学院法学政治学研究科を修了。宮城県庁、松下政経塾、東北福祉大学助教授などを経て、1997年、衆院議員に初当選。以降、外務大臣政務官、外務副大臣、防衛大臣などを歴任。現在は自民党安全保障調査会長を務める(写真:新関雅士)
イージス艦には「海の守りの要」の役割を
我々が提言で重きを置いたのは、次の2つです。1つは、代替機能を「確保すべく、早急に検討を行い、具体案を示すべき」こと。北朝鮮はミサイルの能力を着々と高めています。今の状況を放置してすむ時間的余裕はありません。
ただし、代替案を考えるに当たっての絶対条件があります。イージス艦に負担をかけないことです。イージス艦は南西諸島を含む海の守りの要です。しかし現在の体制では、北朝鮮がミサイルを撃つ兆候が表れると、日本海方面に移動しこれに対処しなければなりません。すると、南西諸島防衛など本来の役目がおろそかになりかねません。今も、海の脅威に変わりはないのです。中国もロシアも日本の近海でさまざまな活動をしています。
そうだとすると、代替案はやはり何らかの陸上設備になりますね。
小野寺:それは一案です。もしくは海上に専門の装備、専門の部隊の設置を考える。いずれにしろ、イージス艦が本来の役目を果たせる体制をつくる必要があります。
防衛省の地元説明員の責任は重い
イージス・アショア停止に関する提言の第2は、なぜ今回の停止に至ったのか、国民にしっかり説明することです。イージス・アショアの配備候補地で地元の住民に説明する部署が機能していませんでした。
米国と十分な協議をしないまま、山口県むつみ演習場の地元の皆さまに、迎撃ミサイルの「ブースターは演習場の中に確実に落下させる」と説明していました。「最大限、安全に配慮する」とお願いすべきだったのです。どんな問題であれ100%ということはあり得ないのですから。地元説明に当たった職員の罪は重いと考えます。秋田での説明会では、居眠りする職員もいましたし。
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8件のコメント
janky
わが国土に対し誘導弾などによる攻撃が行われた場合に敵地攻撃が可能になるという条件だと、法的にブースト段階や発射前にミサイルを攻撃することができないことになると思うけど。
初発の誘導弾(核誘導弾もあり得る)の攻撃を受けてからしか敵ミサイル基地
やTELを攻撃できないということでしょう?
...続きを読む核保有すれば盾と矛による金食いの不平衡競争に落ちいることなく安全保障を確立できると思うけどね。
ジョウモンジン
”相手の領域内に盾を置く” という意味が分かりかねるが、防衛機密だろうから深くは追及しないでおこう。
いずれにしても、世界情勢は波乱含みでキナ臭さも増しており、早急に対応策を進めて欲しい。
MAD_DEMON
機械器具設置工事業社長
ブーストフェーズでの撃破は一番望ましいけど、基本的には無理。TEL狩りも無理。
ICBMの衛星監視網からの通報でレーダーの指向、迎撃体制の確保、となると結局SM-3bだよりで米国からの装備調達にたよることになる。BMDは時間との闘いだから、
近距離連携のとれるアショアは本来良い選択だったはずだ。EoRなどで負荷分散はできるのだから、ブースターの部品が落ちる状況は既に緊急事態だから、受忍限度を超えるとは思わないし、今からでもアショアの設置を進めてほしい。何なら中央防波堤あたりに新基地作ってもいい。...続きを読む翻ってイージス増勢というのも悪い選択肢ではないと思うが、海保を含めて要員が充足しているとは寡聞にして知らない。待遇改善や資格取得、給付型奨学金などで十分優遇して、自衛隊という職業に魅力を感じてもらう必要があるのではないかと思う。
石田修治
定年退職
国防というのは、アメリカの戦略や押し付けよりも、仮想敵国である中国や北朝鮮などの嫌がる方法でしかも安上がりに出来るのが一番良い。その意味で「日本の技術で対応できます。しかもイージス・システムよりずっと安く実現が可能。」というのは日本にとって
は理想的。しかし、過去の実績でも分かるように、政治家はある出費を行う計画時点では如何にも易そうに宣伝して計画を認めさせ、計画が承認されたら段階的に費用をふくらませるやり方を常套手段としてきた。巨大土木事業もそうだし、他の事業でも根本的な手法は同じ。この様な大きな過ちを繰り返さないための仕組みを作り運営しないと日本の国家予算は嘘付きに食い尽くされてしまう。予算段階で1億円を超える項目は国会外部の第三者機関の査定を必須にするのと、計画段階での計画作成者や責任者を明確に記録する。予算が付いて実行段階になったら全ての出費の監査権限を持たせ、差異の大きなもの(例えば予算を20%以上超えたもの)は発注を含む実行責任者と費用が膨れた理由を明らかにし、妥当な理由がない場合は、計画と実行の両責任者の「嘘付き」ポイントを正式に記録し、「嘘付き」ポイントが一定の限度を超えたら、名前と地位を公表し計画及び実行の責任者にはなり得ない仕組みが必要。国防は同じ金額を使うなら米国によるあらゆる制限を受けずに独自に日本に最適な武器を作れる国産が良いに決まっている。上記の様な仕組みによって、「費用は過小に、効果は過大に」という古臭い誤魔化しの手法を許さず、国のために無駄なく使って欲しいと思う。...続きを読む谷守
自営
・政府は、9条解釈において、かつて、自衛戦争もしない、と答弁したのではないか?それに縛られて、法的に、自衛軍を持てない。これを、安倍9条改憲によって、政府として、自衛権がある、及び自衛軍を持てる、と言えるように成らなければ成らない、と言う事
だと理解しています。...続きを読む・9条を字句通りに読めば、自衛権を否定していない。つまり、国会は、日本が自衛権を保持し、自衛軍を保持出来る、と言う9条解釈をするべきだ。衆議院・法務委員会35名、及び参議院・法務委員会21名は、日本の自衛権、自衛軍について、日本としての共通認識を確定しなければ成らない者だ。
・小野寺元防衛相「敵からずっと離れた場所からスタンド・オフ・ミサイル*で目標を攻撃する。終わるや否や撤収する。これが主流です。」と言う戦闘スタイルが、万万一、自衛戦争に成った場合も、人命損失無しの戦争への方向性だ。
・小野寺元防衛相“三菱重工は実証機もつくって努力を重ねてきました。政府は「日本企業にやらせてみたい」と考えているのでしょう。私はそれを支持する考えです。”と言う考え方が、日本の自衛力保持の為には必須の考え方です。
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