■■<「アイデアのつくり方」という名著>■■D-005
ホーム設計方法論 2008-11-23記述

■今日、ひさびさに取り出してみると1988年発行とあるから、今から20年前もっとも多忙な設計開発をしていたころに出会ったことが分かる。それがジェームス・W・ヤング「アイデアのつくり方」TBSブリタニカ(1988)という小冊子である。タイトルも軽いし、文字も大きく、ページ数も少ないので、簡便な「アイデア本」のたぐいと見まごう。当時は年間数十件の特許を書いていた時代で、いつも特許にするネタを探していた。そんなヒントになればということで購入した。ところが、内容は非常に簡潔でかつ、的確な表現で、発想のプロセスを説明していた。結論は、「つねにそれを考えることによってです(ニュートン)」であり、「そんなにお手軽な発想法などない」ということではあるが、発想のプロセスが経時的に示されている。
 実は、本書は発想法の古典とすべき内容を持っている。著者James.Webb.Youngは1886年ケンタッキーで生まれたとある。1883年、カール・マルクスが亡命の地ロンドンで死んだその年、20世紀を代表する二 人の経済学者ケインズとシュンペータが生まれた。そんな同時代の人である。ヤングは広告代理店のコピーライターとして才能を発揮し、広告代理店の経営者、さらには米国広告審議会(AC)の創立者となるなど、米国広告業界の重鎮であった。1973年に死去したが、その活躍時期は第二次世界大戦前である。本書の書かれた時期は明示されていないが、シカゴ大学のビジネス・スクールでの講義がベースとなっている。ヤングがシカゴ大学教授であったのは1930年代のことである。原著の発行は1940年。

■近年の「発想本」の多くは…、と書いて、ふと思い直した。本屋で何度が手に取ったことがあるだけで、熟読した訳ではないので批判してはいけない。本書の特徴は、自説を押し付けないこと、さらにアイデアを生み出すことに関連する書籍を上げて説明していることである。私もこれで、ポアンカレの「科学と方法」に出会うことができた。
 さらに竹内均による解説が充実しており、そこでも、過去の科学者の発想について考察し、さらに読むべき書籍を紹介している。要するに発想のメカニズムを考えるための原点と言ってもよい名著だ。何より、平明な文章がよい。まず、同書が取り上げた書籍等をリストアップしておく。
紹介者 書  名 概要など 翻訳
ヤング パレート「心理と社会」(1935) 人間を「スペキュラトゥール」(投機的タイプ)と「ランチエ」(金利生活者)の二類型に分類。スペキュラトゥールは、新しい組み合わせの可能性につねに夢中になっている。ランチエには、「アイデアを作りだすいかなる技術も役に立たない」。アイデアは、全ての人に潜在的にあるという前提を否定する。 ×
ヴェブレン「有閑階級」岩波文庫(1961) 事実と事実の間の関連性を探ろうとする心の習性がアイデア作成には最も大切なものとなる。広告マンがこの習性を修練する最も良い方法は、これらの社会科学の勉強をすることである。(業界内で必要な)特種な断片的知識はまったく役に立たない。それは「急速に古ぼけていく事実」である。
リースマン「孤独な群衆」みすず書房(1964) 既読
ハヤカワ「思考と行動における言語」岩波現代叢書(1965) 言語意味論(セマンティックス)を知るために読む本。言葉はアイデアのシンボルである。言葉を集めることによってアイデアを集めることができる。辞書が短編小説である点を見落としている。
グラハム・ワラス「思考の技術」 ×
ポアンカレ「科学と方法」岩波文庫(1953) 数学者がフックス関数に関して自分自身に訪れたひらめきを記述している。  既読
ビーバリッチ「科学的研究の技術」 ×
竹内 ウェゲナー「大陸移動説」 奇想天外といってよいアイデア。
ヴェゲナー:大陸と海洋の起源(上)(下),岩波文庫(1981)
既読
ダーウィン「生物進化論」 すぐれたアイデア。
ダーウィン:種の起源(上)(下),岩波文庫(1990)
未読了
竹内「私の知的鍛練法」徳間書店(1980)
竹内「哲学的思考のすすめ」PHP(1984)
竹内「科学的思考とは何か」PHP(1987)
竹内「頭をよくする私の方法」三笠書房(1987)
私は「アイデアのつくり方」を読んでびっくりした。著者と私の考えがあまりにもぴったりと一致していたからである。広告業界と自然科学といった全く違った方面での「アイデアのつくり方」がこれほどぴったりと一致するとは考えていなかった。…この本の中で述べられている「アイデアのつくり方」が、より広い分野で適用可能であることを暗示するものである。
デカルト「方法序説」岩波文庫 竹内「哲学的思考とは何か」はこの「方法序説」への彼自身の賛歌であるとある。 既読
川喜田二郎「発想法」「続発想法」中公新書 ヤングの第3ステップ「データの組み合わせ」をカードで行う有用性。メンデレーフは各元素の特徴をカードに書き、これを並べなおして周期律を発見した。 既読
■最後に竹内の解説の文末を引用しておく。
……最後に一つ、重要な注意事項がある。それは方法論や道具に凝ることなく、直ちに仕事を始めよということである。方法論についての議論の最後にこういうことを言うのは、ややぶち壊しの感じがする。世の中には方法論や道具だけに凝って、結局何らの仕事もしないでしまった人が大部分である。

まったく、その通りだ。「さあ仕事をしよう」。




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