■■<TRIZからUSITへ(1)>■■D-007
ホーム設計方法論 2009-4-23記述

■企業の技術活動は毎日が問題解決活動そのものである。それぞれ高い専門性を持つ技術者達がこれに取り組んでいる。基本的に問題は精通した専門家が現場に密着し、執念を持ってことに当たって初めて解決できるものである。そこに現れる困難な問題は、ちょっとした「おもいつき」や第三者のアドバイスによって何とかなるようなものではない。
 しかし自分自身の成功・失敗体験に基づく問題へのアプローチに限界を感じることがある。自分自身が既成概念の穴に落ちて出られなくなっているのではないかという不安感である。そんなとき、USIT(ユーシット)の方法を試みることを勧めたい。シカフスらがTRIZ(トゥリーズ)のエッセンスを取り入れて開発したこの「統合的構造化発明思考法」は、その名のように厳密な概念定義に基づく方法論であって、これを使えば即座に多数のアイデアが湧いてくることを期待する人は失望することになりかねない程、回りくどく感じるかもしれない。

■USITは教科書で学ぶより、「自分自身が困っている現場の問題」に直接適用しながら学ぶ方がはるかに理解が容易で、何より「役に立つ」という実感によって、その方法に馴染むことができる。教科書的な分かりにくい用語表現も事例のなかでは自分の親しんだイメージとして比較的容易に理解でき、そのプロセスは極めてシンプルであることに気付くであろう。そしてこのUSITのプロセスが身に着くと、どのような課題に対しても、自然にUSITによるモレのない分析と発想を使うようになる。USITを使っているという感じがなくなるのが理想かもしれない。
 2007年末に長年勤務した企業を定年となって、企業の設計や製造のお手伝いを行っているが、多くの問題は従来の技術的経験の延長では支援できないことに気がついた。短時間に問題を把握し、それを整理する方法として自然にUSITのプロセスで問題を記述するクセがついた。USITでは問題をシステムとして記述し、多面的に眺めることによって、非専門領域の問題に対しても解決のアイデアを導出するきっかけが得られるようになった。

■「USIT」(ユーシット)はアルトシューラの「TRIZ」(トゥリーズ)から派生的に発生した「問題解決方法」である。「統合的構造化発明思考法」という言葉から、発明的発想を誘導できる方法論として理解されているが、むしろ前段階の「問題定義」と「問題分析」のステップが明快であり、設計や製造の現場での「問題解決方法」として気軽に活用できるものである。大阪学院大学中川教授(以下、中川と略記させていただく)はTRIZのエッセンスを短い言葉で表現している。
     
     ■技術システムは、矛盾を克服しつつ、大抵リソースの最小限の導入によって
      理想性の増大に向かって進化する。
     ■TRIZはそこで創造的問題解決のために、「問題をシステムとして理解し」、
      「理想解を最初にイメージし」、「矛盾を解決することで」弁証法的な思考
      を提供する。

しかしTRIZは巨大すぎる。理解して使いこなすまでに、多くの研修時間が必要で、さらに高価なソフトウエアも必要とする。大企業においても社外のTRIZコンサルタントの直接指導を受けたり、社内のTRIZリーダの支援なしに、自律的にTRIZに継続的に取り組んでいる現場は多くない。末端部門や小規模な企業では、TRIZに興味を持ったとしても、いきなり取り組むには障害が大きすぎる。筆者自身も、部門でTRIZソフトを購入するための資料を作る段階で挫折してしまった。「投資効果」を定量的に説明できなかったからである。予算の余ったある部門でソフトを購入したので、使わせてもらったが、その部門は結局ほとんど使わなかった。

■USITでは膨大なTRIZの技法群のエッセンスを汲み取り、比較的簡単な手順で問題を分析していくなかで、自然に解決策が着想されるように誘導されるようになっている。何よりソフトが不要である。これなら、試しても無駄はない。TRIZが百科辞典であるとすれば、USITは毎日使える「ハンドブック」である。 私がTRIZでなく、USITを学びたいと感じたのは、まさにこの点である。どんなことでも、百科事典には書いてある。TRIZ万能論の根拠はここにある。しかし、百科事典を隅々まで読んではいられない。
 シカフスのUSITと、それを改良した中川のそれでは若干プロセスの組立て方が異なっているが、本稿では原則的に中川の方法に準拠するようにしている。



■TRIZの問題取込みの基本的な考え方は、当事者固有の問題を一旦一般化した問題とすることによって、過去の一般的な技術知識を活用して、当事者の問題に適用しようとするものである。これをTRIZの4箱モデルと呼ぶ。例えば「コピー用紙」に関する技術問題に取組んでいて壁にぶつかったら、その問題を「柔軟物」と一般化することによって紙に類似した他の物体(フィルムなど)に関する知識を導入することができる。またその問題が紙のしなやかさに起因しているとすれば、よりしなやかな「ティッシュペーパ」に関する技術知識を参照しようと思うべきなのである。しかし、TRIZが構築したその知識ベースは膨大で、それぞれその問題に合った解法を用いなければならない。どの解法を選択するかで得られる解決策が異なることがある。




■その中で「40の発明原理」は、技術的矛盾を解決する方法として、設計や製造の問題解決に特に有効である。特許や発明の多くは、従来実現困難であったものを、あるアイデアによって解決したものである。アルトシューラは膨大な特許を精査し、それぞれの従来の問題を、「矛盾」の観点で整理した。すると、それぞれの矛盾の組合せによって、類似のアイデアが用いられていた。組合わせるべき「矛盾」は39×39のマトリクスで示され、アイデアは40に整理され、40の発明原理と呼んだ。矛盾する2つの性質を縦軸と横軸から選択すると、その交点に、その矛盾を解決させるに有効な複数の「発明原理」が得られるものである。






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