【10月19日 AFP】ご飯を食べ、コーヒーを飲む──。今は当たり前に存在していると思われている食べ物や飲み物も、気候変動への耐性を高めなければ希少なものになってしまう恐れがあると専門家は警鐘を鳴らしている。

 人類は1万年以上にわたり果実や野菜の品種改良を続け、特定の生育条件に適合させてきたが、今、そうした条件が驚くべき速さで変化しつつある。

 品種改良によって収益性が上がった作物が、気温上昇や干ばつ、豪雨、新たな病害、昆虫の大発生などには弱くなっている場合がある。

「(収穫高などの)特長を伸ばすようにすると、一部の遺伝子が失われてしまうのです」とベンジャミン・キリアン(Benjamin Kilian)氏はAFPに説明した。同氏は、食用作物の多様性を守る国際NGO「クロップトラスト(Crop Trust、正式名:グローバル作物多様性トラスト、Global Crop Diversity Trust)」で、食用作物の近縁種に当たる野生植物を世界規模で調査する「作物の野生近縁種プロジェクト(Crop Wild Relatives Project)」を率いている。

 野生植物を栽培化する過程で遺伝子の多様性が失われてしまったため、品種改良されたエリート種の作物がこれからの環境の変化、気候変動などの問題に適応する潜在能力も失われてしまったとキリアン氏は指摘する。

 解決策は、野生の祖先種に戻って、遺伝子の多様性を再導入することかもしれないという意見が研究者からは出ている。

 5月に発表された調査結果によると、地球温暖化の影響で作物の3分の1近くは栽培に最適な気候条件を確保できなくなるおそれがある。

 国際ポテトセンター(International Potato Center)の予測では、気候変動によりジャガイモとサツマイモの収穫量は2060年までに32%減少する。コーヒー栽培に適した土地は2050年までに半減するという見通しもある。

 主食作物として世界で最も重要なコメは、栽培過程でメタンガスが発生し、温暖化の大きな要因となっているが、その一方で、海面上昇により、水田に塩分が過剰に流入する危険にもさらされている。

■特定の主食に頼らない方法も

 イモやコメ、コーヒーなどの作物は、品種改良される前は、高温や塩水への耐性が遺伝子に組み込まれていたのかもしれない。その遺伝子を取り戻すため、専門家は野生の祖先種を探し求めている。

「生物多様性をできる限り活用する必要があります」と、生物多様性の研究開発機関「バイオダイバーシティーインターナショナル(Biodiversity International)」の農業専門家マーレニー・ラミレス(Marleni Ramirez)氏は言う。「生物多様性はリスクを減らし、選択肢を生みますから」

 祖先種が入手できそうなのは遺伝子銀行だ。例えば、英国のキュー王立植物園(Royal Botanical Gardens, Kew)にある「ミレニアムシードバンク(Millennium Seed Bank)」には、4万種近い野生植物の種子が保存されている。

「それでも、すべての野生近縁種が遺伝子銀行にあるわけではありません」とクロップトラストのキリアン氏は言う。

 そうなると、時間をかけて自然の中で祖先種を探し回るのは植物学者の仕事になるが、成功するかどうかは運だとキリアン氏は話した。

 野生植物は大規模農業には適さないかもしれない。新しい品種の開発には数年、あるいは数十年かかる可能性もある。それでは、差し迫った食料危機への対処には間に合わない。

 代わりに、特定の主食に頼らない方法を見つけ出す必要があるかもしれないと専門家は述べている。

 国連食糧農業機関(FAO)によると、地球には約5万種類の食用植物が存在するが、そのうちのわずか3種類、コメとトウモロコシと小麦が世界の食料エネルギー摂取量の60%を占めている。

 この3種類が栽培できなくなったら、数十億人は何を食べればいいのか途方に暮れ、多数の農家は別の生計手段を探さなければならなくなるかもしれない。(c)AFP/Amelie BOTTOLLIER-DEPOIS