鈴木 人の心を読むと言ったって、何かを買うのは全部、人間心理のなせるわざでしょ? 人間心理を先んじて数字で捉えることがおかしい。例えば消費増税。8%から10%に2%上がったときに、過去に5%から8%に3%上がったときよりも景気は悪くなった。これはどういうことか。今はモノが余っている豊かな時代、そして先行きは不透明だと言われているときだから、じゃあモノを買わなくていいや、となる。心理で落ち込む。理屈じゃない。

価値は時代とともに変わるのに、多くの人は数字だけを読んでしまう。「数字じゃなくて、変化を読みなさい」と、いつも社内で言っていたね。要するに「変化対応」。変化があればあるほど、仕事がある。

やりたいことが変わるのは「成長」

鈴木 ところで山田さんは将来どんな仕事をしたいんですか。

山田 私は毎日やりたいことが変わっちゃうんです。

鈴木 どんどん変わっていいんじゃない? 僕は学生のとき、政治家になろうと思ったの。でも実際に政治家の秘書の仕事を見てみると大変そうだったから、とても僕にはできないなと思って就職した。トーハン時代にテレビの番組制作の会社を作ろうと思ってスポンサーを探しているうちにイトーヨーカ堂に転職した。そんな風に僕自身、考えはどんどん変わってきた。

山田 情報を聞けば聞くほど、選択肢が増えてしまって。

鈴木 それは成長なの。絵が特別好きとか得意なことややりたいことが決まっている人はそれでいい。でも普通の人だったら、常にキャンバスを白にしておいて、その時その時に自分で絵を描いて、これがいいなと思ったらそれに進めばいい。

山田 それを聞いて安心しました。将来の夢は何かと聞かれても、ないことが悩みだったんです。

鈴木 今はまだ決めてないと言えばいいの。それから、人間というのは何となしに備わっている運命というものがあると思う。番組制作の会社を作るためにイトーヨーカ堂に入社したから、流通なんて興味はなかった。でも僕はそこに仕事があったら、それをきちんとやらないと気が済まない性格でね。何でもいいんだよ、真剣にやることが大事。

山田 コンビニを始めるときなど新しい試みはどれも最初は反対されたという話を読んで、やり抜く力のすごさを感じました。その力はどこから来ているんですか。

鈴木 自分で何かを始めたら、ものにしないと。中途半端が嫌いなの。すごく気が大きいとかじゃないんだよ。

山田 反対されても、これはいけると勝算があったんですか。

鈴木 皆に反対されることの方が、逆にすごくやりがいがあるんだよ。皆が賛成するということは、他人も同じことを考えるでしょ? それは競争相手が多いということ。銀行をやろうとしたときも皆反対で、メインバンクの頭取が「小売企業に銀行なんてできませんよ」とわざわざ忠告に来られた。でも僕は別に都市銀行を作ろうなんて思ってない。例えば銭湯へ行くついでにお金を下ろしたり入れたりすることができたら便利だろうなって、それだけ。

山田 そういうときは誰か相談できる人や味方がいらっしゃったんでしょうか。

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多数決で決めるのはリーダーじゃない
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