坂口:菅波とモネの関係性って、恋愛を表す言葉では収まらない感じがするよね。「付き合っている」みたいな言葉も明確に言ったことがないし。個人的には、とっても美しい二人だなと思います。
2021.09.24もう言葉じゃないんです。だから、無言で抱きしめます!
宮城県・気仙沼の島で生まれ育った永浦百音(清原果耶)が、登米で林業の仕事をしながら気象の世界に心ひかれ、やがて気象予報士としてさまざまな人の人生に関わっていく、連続テレビ小説『おかえりモネ』。今回は特別企画として、清原さんと菅波光太朗 役・坂口健太郎さんの対談をお届けします。取材日は、クランクアップを数日後に控えた、第16週放送中の某日。坂口さんは、清原さんから誕生日プレゼントでもらったという、やまぶき色の開襟シャツ姿で現れました。
清原:(坂口さんのシャツを見て)あー! 似合う!
坂口:そうでしょ~? このシャツ、果耶ちゃんがくれたんです。この7月、僕の誕生日に。
清原:私、古着が好きなんですけど、古着屋さんに行ったらこのシャツを見つけて。坂口さんに似合いそうだなと思ったので買いました。
坂口:うれしいな。改めて、ありがとう!
清原:坂口さん、私の誕生日(1月30日)には金ピカのコップをくれたんです。
坂口:純金のやつね。
清原:ええ!?
坂口:ウソです。
清原:(笑)
――誕生日といえば第19週、菅波がモネの誕生日前日にプロポーズしましたね。
坂口:切り出す前からバレバレで、しかも菅波が一人でしゃべって勝手にテンパっていくという……。モネに対して、そして自分の気持ちに対して菅波なりに真剣に向き合った結果、勉強会で「なぜ空気より先に地面が温まるのか」を説明したときみたいなテンションになりました。
清原:あのテンションは、菅波先生の真面目さ、誠実さゆえなんですよね。もちろんモネには伝わるので、私も真面目に受けとめようと思いました。はたから見るとおもしろいシーンですけど(笑)。
坂口:やっと落ち着いて「結婚したいと思ってる」と言うんだけど、その場で答えを聞かないのもいいよね。宮田さん(石井正則)のホルンを聴いた後に改めて話して“保留”ということになったけど、「…一緒にいるってどういうことでしょう」「一緒に、二人の未来を考えるってことじゃないですか」というやりとりがすてきでした。
清原:あのシーンは私も大好きです。
――第16週での告白のセリフも「あなたの痛みは僕には分かりません。でも、分かりたいと思っています」でしたね。
坂口:菅波がモネをハグして、離したときにずんだ餅が潰れてしまっている――というオチがつくシーンでしたけど、あの場で食べればよかったなー! 食べて、コインランドリーを出る。これ、よくない?
清原:いいですけど絶対に笑っちゃう(笑)。
――その場合、モネはどんなリアクションをするんでしょう?
清原:菅波先生が食べ始めたら……うーん。モネも食べ始める、ですかね。
坂口:いいね! それだ!
清原:え、撮り直します?(笑)
――菅波とモネの関係が進展するにつれて、Twitterでは「#俺たちの菅波」というハッシュタグを付けて感想をつぶやく視聴者の方が増えていったのですが、ご存じですか?
坂口:少し前に、監督から教えてもらいました。検索してみたら、「きょうも俺たちの菅波はマジで俺たちの菅波だった」みたいなツイートが出てきて、「どういうこと!?」と思ったのが最初です(笑)。
おもしろいツイートがたくさんあるんですよ。りょーちん(永瀬 廉)が失踪して大変なときに、「一方そのころ、俺たちの菅波はサメ展デートの計画を練っていた」とか(笑)。うれしいなぁと思いました。
清原:第1週から第4週くらいまでの菅波先生ってツンツンしていて、ただただ正論を投げてくるようなキャラだったから、「視聴者の方にどう受けとめられるんだろう?」と思っていたんです。でも、いまやこんなに……。受けとめを通り越して“愛”ですよね(笑)。
坂口:「#うちのモネ」っていうハッシュタグもあるよ!
清原:ありますね! 愛着をもって見てくださってうれしいです。SNSに感想とか考察とか載せてくださるのは本当にありがたいですよね。
――登米での「見せつけますか?」から始まった第17週は、特に反響が大きかったと思います。
坂口:あのシーンはめっちゃ恥ずかしかったですよ! 最初に台本を読んだとき、「菅波どうした!?」って思いました(笑)。
清原:私も「え!?どゆこと!?」ってなりました(笑)。
坂口:たまーに“男”を出してくるんだよね。第17週は大変だった。
清原:割と悩んだ週でしたね。“恋するモネ”を掘り下げるにはどうしたらいいのか、ということばかり考えていました。終わってやっと「なるほど!これが恋するモネか」と受けとめられた気がします。
坂口:第17週で鍵を投げるときの「会いたかったんです。ちょっとでもいいから。先生だってそう言ったじゃないですか」って言うモネ、新鮮でよかったなぁ。モネってあんまりわがままを言うイメージがないので、なんだかうれしくなりました。
――菅波はいつもモネのためを思っているんだなぁと感じます。
坂口:果耶ちゃんも言っていたけど、菅波はだいぶ変わりましたよね。当初は自分の中の正義ばかりが強くて、「甘えてますよ」とか、モネの気持ちを顧みないセリフも多かった。でも、今ではちゃんと感情を解釈するようになったし、モネを支えたいと思うようになりました。最近だと、モネの周りで起きていることを一歩引いて見て、いいアドバイスをしているシーンも多いです。菅波は、「人を支えたい」という思いが強くなりましたね。
清原:台本上の変化に加えて、坂口さんが演じることで生まれたものも大きいと思います。坂口さんが柔らかく優しく演じてくださるから、“包容力”がキャラクターに付いてきたようなイメージがありますね。
坂口:ありがとう。菅波が出てくることでモネの心がほっとする――そんな人物でありたいとは思っています。
清原:実際、ほっとします。先生の言葉は、モネにとっていちばんスッと入ってくる言葉。ヒントになるだけじゃなくて、受けとるたびに親近感が湧くのを感じます。モネと菅波先生の関係性が、ちゃんと形となってきていますよね。この二人いいなぁ、平和だなぁって思います。二人でのシーンを久しぶりに撮影しても、久しぶりだと感じなくなりました。
――演じるお二人の信頼関係も出来上がっているんですね。
坂口:果耶ちゃんとのお芝居では、「久しぶりだからちゃんとやんなきゃ」みたいに硬くならないんですよね。「このシーンはこうやってみようか」という考えの方向性もすごく近いと思うし、「このシーンどうする……?」みたいな迷いもまったくなかったよね。たとえば、菅波の「見せつけますか?」にちょっと構える部分があっても、二人でお芝居するうえでは全然問題がなくて、すんなりいくんです。
清原:そうですね。いつも二人でスッと波に乗っているような感覚があります(笑)。
坂口:好きなシーンとか好きなセリフとかも結構合うよね。一緒に一つの作品を撮っていくうえで、こういう部分が合うのはすごくよかったなぁと思います。
――ちなみに、坂口さんはリハーサルで、ボツになる前提で菅波っぽくない演技をして現場を盛り上げることがあると聞きました。どんなことをされているのですか?
清原:登米編のときに、よくやっていましたよね。いきなり菅波から坂口さんに切り替わってボケる……みたいな(笑)。
坂口:異常にハイテンションな菅波とか、川久保さん(でんでん)の話にいきなり前のめりに乗っかる菅波とかやったなー。森林組合での撮影は人も多くてわちゃわちゃしているので、何かやりたくなっちゃうんです。もちろん、セリフが終わってカットがかかるまでの時間だけですよ?(笑)
清原:私とのシーンの後、モネ抜きで森林組合のみなさんとのシーンがあったとき、「ちょっとみんなの前で腹話術してくる!」と出ていって、「してきた~」と帰ってきた日もありました(笑)。いっこく堂さんのまねをしたんですよね?
坂口:うん。監督によってまちまちですけど、カットがかかるまでが結構長いんです。だからちょっと遊んでいました(笑)。
清原:最近は全然、いたって真面目にやっています(笑)。
坂口:でも、カットまで長いのはそのままで。果耶ちゃんとのシーンは特に長いんですよ!
清原:本当にカットがかからないですよね。
坂口:だからセリフが終わった後、ただただ二人で目を合わせているのもあれなので、菅波とモネとしてそのまましゃべっています。ようやくカットがかかると、監督が笑いながら来て「いやーカットかけなくてもいいわー」って言うんですよ。「いや、かけてよ!」って(笑)。
清原:監督、すっごくいい笑顔で来ますよね(笑)。
坂口:そうそう。でも、「カットかけなくてもいい」は褒め言葉でもあるので、ありがたいですけどね。
――そんな和やかな雰囲気の現場も、もうすぐクランクアップとなります。実感などはありますか?
清原:私、まだ全然ないんですよ。もうセットでの撮影が終わるんですって! 「…どういうこと?」という感じです。
坂口:本当だよねぇ。
清原:この1年間、モネのことしか考えてこなかったので、自分の体にとけ込んでしまっていて。まだ大事なシーンが残っているからなのかもしれないですけど、「終わる……とは?」という感じなんです。
――坂口さんは、「菅波と離れがたい」などありますか?
坂口:やっぱり、菅波おもろいんですよね。最初は「なんだこいつ」と思っていましたけど。今では本当に愛くるしいと思いますし……あ、自分でやっていて「愛くるしい」とか言うの気持ち悪い?
清原:そんなことないです。
坂口:よかった(笑)。まぁ、でも僕より果耶ちゃんだよね。モネがいちばん大変だったと思う。撮影が始まったとき果耶ちゃんに話したんですけど、朝ドラってすごく長丁場で、いろいろなキャストの人が出てくるじゃないですか。そのたび現場にパワーが注入されて、ずっといるヒロインは逆にすり減っていくんじゃないかって。
しかも、モネって自分の身の回りで起きたことすべてを受けとめるような子だから……。演じる人間にも受けとめる器がないと、あふれてしまう。最初に台本を読んだとき、これは大変だろうなと思ったんです。でも、果耶ちゃんはそこに真正面から取り組んで、やりきろうとしている。そんな姿を間近で見ていて……あぁ、なんか恥ずかしくなってきちゃった!(笑)
清原:聞きます……(笑)。
坂口:何が言いたいかというと、本当にすばらしいなと。すばらしいという言葉では軽いですけど。いつも「すばらしいね果耶ちゃん」と思いながらお芝居をしています。
――この機会に、清原さんも坂口さんに言っておきたいことがあればぜひ!
清原:あの、今もそうですけど、坂口さんっていつもすごく言葉を選んで、ちゃんと届くかたちでお話をしてくださるんですね。クランクインしたとき相談に乗ってくださったことも、撮影の間にするちょっとしたお話も、全部がすごく支えになっていて。モネとしても私自身としても、いつも助けてもらっているなと感じています。そんな実感のそばでお芝居をできていることに……(坂口さんを見ながら手を合わせて)感謝……。
坂口:(清原さんと同じポーズで)僕も感謝……。クランクアップした後、果耶ちゃんにどんな言葉をかけようかと考えていたんですけど、ここまで来るともう分からないですね。もうね、言葉じゃないんだ!
清原:ええ!?
坂口:もう言葉じゃないんです。だから、無言で抱きしめます!
清原:(笑)
坂口:どんないいことを言っても、心を込めて「お疲れ様」と言っても、そういうのはもう伝わっているし、それじゃ足りない。だからアップしたとき、その場で無言のハグ。(ドヤ顔で)これですね。
清原:……らしいです。待ってまーす(笑)。