中国電力島根原発2号機(中央)、左は1号機、手前は3号機=松江市鹿島町片句
中国電力島根原発2号機(中央)、左は1号機、手前は3号機=松江市鹿島町片句

 全国で唯一、県庁所在地に立地する中国電力島根原発2号機(松江市)の再稼働の是非を巡り、衆院選島根1区で与野党候補の主張が真っ向から対立している。争点は明確だが、それぞれ支持者離れを招きかねないジレンマも抱え、有権者や支援組織の反応を見極めながら舌戦を展開する。 (取材班)

 「住民投票」
 公示2日目の20日、立憲民主党前職の亀井亜紀子候補がJR松江駅前で「再稼働の可否判断を一部の人で決めてはいけない」と声を張り上げた。

 2号機は9月に原子力規制委員会の審査に合格。中電が再稼働に向けた手続きを進めるが、住民の避難計画は課題が山積し、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の処分先も決まっていない。

 再稼働に反対する亀井候補は、温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」は原発に頼らなくても実現できると強調。「再稼働を急ぐ相手候補に待ったをかける」と訴える。

 その手法として掲げるのが、民意に判断を委ねる住民投票の実施だ。公示前に一部労働組合の反発を受けて「再稼働反対」のフレーズを封印。選対事務局長の角智子県議は「原発に慎重な考えの有権者の支持を幅広く取り込める」と前向きにとらえ、野党共闘を組む共産、社民両党の関係者も「(難しい)立場は理解する」と容認する。

 しかし、主張が後退したと受け止められかねず、街頭で演説を聞いた70代の男性支持者は「原発は駄目だともっと強く言ってほしい」と注文。候補自身が反原発を断言しないことに不満をあらわにした。

 住民投票を行うには県議会や市議会が条例制定案を可決する必要があるが、いずれも原発に肯定的な自民党系議員が多く、実現性が乏しい主張にも映る。

 環境と経済
 対する自民党前職の細田博之候補は明快だ。衆院解散翌日の15日には早速、島根原発を訪れ、集まった約300人の幹部や社員を激励。原発推進派の筆頭格で、カーボンニュートラルの実現や電力の安定供給のために島根2号機を一日も早く再稼働させる必要があると主張する。

 街頭演説では、3号機の建設費や安全対策費を含め、中電は島根原発に1兆円以上の投資を行ってきたと力説。公約にも2号機の早期再稼働を書き込み、立ち位置を鮮明にする。

 公示日には松江市内の中電島根支社前でマイクを握り、「福島の原発事故で大きな反原発の流れができたが、とらわれ過ぎてはいけない。誇りを持って取り組もう」とアクセルを踏み込んだ。

 懸念は有権者の原発に対する意識の変化だ。細田候補は2011年3月の東京電力福島第1原発事故後も一貫して原発の必要性を説くが、2号機の審査合格後、支持者の間でさえ、事故リスクに対する不安を口にする人が増加。陣営内には前のめりな発言が支持者離れを招きかねないとして懸念する声も出始めた。

 選対本部長の細田重雄県議は「相手にけんかを吹っ掛けては印象を悪くする。淡々と訴えるべきだ」と話すが、訴えの内容は環境対策と経済効果が中心。避難計画の実効性や核のごみの処理問題といった課題への言及はほとんどなく、有権者の不安を拭い去れているとは言い難い。

 無所属新人の亀井彰子候補は21日時点で街頭演説をしていない。

<島根1区立候補者>(届け出順、敬称略)
亀井亜紀子56 立民前(1)
細田 博之77 自民前(10)
​亀井 彰子64 無所属