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今から2年前、オーストラリア北東部のミッション・ビーチで泳いでいた少年が突然、悲鳴を上げた。少年は祖父に救助されたが、1時間もしないうちに心臓が止まり、死亡した。猛毒クラゲに刺されて、犠牲になったのである。
ケアンズにあるジェームズ・クック大学のジェイミー・シーモアは、猛毒クラゲの犠牲者を出さないようにするため、発信器を使ってその行動を追跡している。強力接着剤を用いて、長さ40ミリ、直径12ミリの小型超音波発信器をクラゲの傘に付けたのだ。彼は、この方法で追跡調査に初めて成功した。
しかし、この方法も完璧には程遠い。1999年以来、成功したのは7回だけ。おまけに発信器は2日もたたないうちに外れてしまう。
それでも彼はあきらめず、クラゲの傘の内側へ発信器を装着しようと試みている。
シーモアの研究対象は、28種ほどいる立方クラゲ類のうちで、最大のキロネックス(学名Chironex fleckeri)。大きさはバスケットボールほど。最多で60本の触手をもち、その長さは4.5メートルにも達する。触手には約50億個の刺胞(中から毒針が飛び出す細胞)がある。
このクラゲは自ら人間を攻撃することはないが、人間がその触手に触れると数分で死ぬことがある。命をとりとめても、体には紫色の傷跡が一生残る。シーモア自身もそうだ。
彼はある夜、埠頭近くで大きなクラゲに遭遇した。「気がついたら、両手と両足にクラゲの長い触手が絡み付いていた。海から上がると、まっすぐ歩けず、涙がぽろぽろ流れてきた」。彼はポリウレタン製のウェットスーツを着ていたため、命は助かった。クラゲの毒を抑える酢をすぐに付けたのも良かったようだ。
このクラゲとの接触を避ける一番の方法は、出現する時期や場所を知ることだ。ほとんどのクラゲは目がなく漂うだけだが、キロネックスは24個の目があり、秒速1.5メートルで泳げる。この目と遊泳力で魚を捕まえるのだ。さらにシーモアが追跡した数匹は、昼間は活発に動き、夜は海底でじっとしていた。この習性は、ほかのクラゲにはない。
シーモアの同僚テレサ・キャレットは、このクラゲは成長するにつれて毒性が強くなることを突き止めた。幼いクラゲは刺胞の5%にしか毒がなく、小エビを捕らえるだけだが、成長すると刺胞の50%に毒をもつようになり、大きな獲物を襲う。
一般の人々が危険性を知るようになったため、このクラゲによる死者は減っている。また、多くの遊泳区域では「スティンガー・ネット」と呼ばれる防護網を張っている。このクラゲは通常11月から6月に発生するが、シーモアはコンピューター・モデルを作製し、毎年どの時期にクラゲがいなくなるか予測している。
「このモデルを使って、市はスティンガー・ネットを外す時期を決めている」とシーモア。「これが私たちの研究で一番うれしい成果です」
――ジョン・L・エリオット
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